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主人公の隣、都合のいいクラスメイトが私です




私の隣の席の、來海(きまち)瑠唯(るい)くん。彼はこの世界の主人公である。


はじめまして、物語の始まり方がこんなものでいいのか――そういった言葉は受け付けていません、営業時間は終了いたしました。またのご来店をお待ちしております。

さてさて、そんなおふざけはまぁおいておきましょう。私が始めたんですけどね。そうですね、何から話せばいいのか…まず、この世界は能力とかいうのがあって、それをこの世界の住人は生まれ持っています。そして、その能力は人によって少々異なるのですが…異なるからこそ格差が生まれるわけでして。私達、産まれてからすぐと、それから12歳になったとき、そして20歳になったときの計3回の能力検査を経てランク付けされているのです。嫌な世界ですね、まったく。



ランクは検査を受けるたびに変動するのですが、20歳前後で能力は安定していくことが最も多いので、大抵の場合この検査以降ランクは変動いたしません。それでも稀に、力が強くなるもの、ランクの見直しをされるものがいるのですが、これは今は関係ないのでいいですよね。


それでまー、この世界の主人公、瑠唯くんはそれはそれは素晴らしい能力をお持ちでして、ランクはSS。クラス…いえ、学園一の能力者でしょうねぇ。そんな彼の隣の席の私、米山(よねやま)(じゅん)。ランクはBで可もなく不可もなく、へーきんてきな感じ。そんな私のここでの役割は特にない。

瑠唯くんはSSランクの異能力者"海月"だってことを隠して、B+ランクの一般能力者なんだって偽っている。で、私がそれを知っている理由は、普通の生活をしてみたくて偽り、逃げてきた彼がこの学園でありとあらゆる事件に遭遇しては解決して、心強い仲間と出会い成長し、そうしてもとの地位に戻る――そんな話を描いた小説のなかに出てくる、クラスメイトだってわかってしまう、前の人生の記憶があるから。推しは敵対組織に囚われていた能力者の少年だったかな?


今の私は事件に必ず遭遇し、彼の能力によって眠らされ、事件のおおかたの内容と事件解決後の話を隣の彼に語ってきかせる、クラスメイトなんだけど。小説では語り部さん的なのをしてたっぽい。語り部、だれかわかんなかったんだけどまさかクラスメイトだったとは。はじめてしりました!なんで死なないんだろう、このキャラって昔は思ってたけどさ、いざなってみるとそりゃ死なないというか、死ねないよなぁ。


あ、どうしてなのかって?いやそれがね、ただのクラスメイトだって言ったのに何なん?って思われちゃうかもなんだけど、どうやら私はその、主人公と敵対してるなにか?の誰かさんによって意図的に事件の"被害者"という枠から外されてるみたいなんだよ。ただ、傍観者であれ。それが私に対しての誰かさんの望みなの。誰かはしらんけどな。でもほんと、よくわかんないなーこのこ。この体。この人生。

隣の席にはうつらうつらしながらも授業を聴く、真面目な主人公くん。眠そう。そういや昨日の夜中も事件あったもんね、おつかれー。私もそこにいたから眠いよ…まぁたっぷり寝てるんだけど!君に眠らされたからね!!


「米山さん、どうかした?」

「來海くんねむそーだねーだいじょぶ?」

「え?あー、いや…先生の声が子守唄に聴こえる、かな」

「あらら…昨日の異能力者同士の諍いって來海くん家の近くなんだったっけ。保健室行く?」

「……いや、いいよ。ありがとう」

「そう?それならいいけど…ダメそうなら行ったほーがいいよー」


今すぐにでもね。どうせ5限目すぐに能力者の争いがおきて避難警報出されるしさ。そんで学校に、このクラスの教室にガラガッシャーン!!ってヤベー奴が入ってきちゃって、そのヤベー奴が君の知り合いでさ、君に襲いかかってきて、逃げるクラスメイト、対峙する君、逃げ遅れた私、という構図になるわけですよ。嫌だねぇ、帰りたいねぇ…私が保健室に行きたいよ。


























「米山さん危ないっ!!」



その声と同時に、私は床に転がっていた。

いたく……は、ない。なにせ主人公自ら庇ってくれたのだから。はいは〜い、侵入者さんいらっしゃ〜い!

小説では5限目すぐだったと思うんだけど、なんで37分も遅刻してるんですかねぇ。予定通りに来てくれないとこわいじゃん。やだやだ、ほんと、やだなぁ。


「…、だいじょうぶ?けがとか…」

「う、うん……あの、きまち、くん、きまちくんこそだいじょうぶ?」

「俺は平気。ごめん米山さん、巻き込んじゃったみたいだ。ここから動かないで俺の後ろにいて。巻き込んだ責任はとる、絶対米山さんには手出しさせないから」


そう言って立ち上がった彼は、窓から差し込む光と合わせてほんとに神々しい。クラスメイトはいつの間にか避難してるし、教室に残されているのはどうやら私と彼だけ。あ、いや、国語教師で担任の仲山先生がいるな。先生って來海くんが何者なのか知ってるんだっけ?いつ仲間になったのか覚えてないな。もとから知り合い名乗ってたのは誰だっけねぇ。

ぶっちゃけそんな鮮明に覚えてない。推しのこともあやふやな時点で察しろ、と思ってしまいます。


あとはねーなんだろ、あっそうあれ、「責任取る」っていうの、簡単に言っちゃだめだよねぇ。來海くん顔がいいからさー、勘違いされちゃって粘着系ヒロインが次から次へと現れそう。ヒロイン製造機みたいな?私も実はそういう展開のために用意されてたりしてー!!…………さいあくじゃん……。そんなことにはならんだろ、私勘違いできるほど自分に期待してないし…自惚れたくはないね。




 「あはっ♡そんな焦った顔してるの、エレナはじめてみたぁ♡とぉってもすてき!!」


 おおっとぉ!?さっそくやべーかんじじゃない?これ。絶対今回のお相手さん來海くんのこと好きでしょ、これは。うわーやだやだやだやだ、私はモブなんだよ…!


 「でも………るいお兄様が見ていいのはエレナだけなんだよ??まぁ、お兄様はとってもすてきだから有象無象が勝手に惹き寄せられてきちゃうんだよねぇ?エレナわかってるよ♡」


 ………………そっと來海くんをみてみる。と、さっと視線をそらされた。



 「來海くん、」


 なんて言えばいいのか。少し迷う。ご愁傷様です、とか?


 「俺今から米山さんに失礼なこと言うから…ごめん」


  迷う間に來海くんがすっごく嫌そうな顔で、申し訳無さそうにそう謝ってきた。


 ん?うん。怒らないと約束はできないけどこの状況なら理由があるのは明白だしね、どうぞどうぞ。




 「ねぇおにいさま、ないしょばなしなんていけないわ」


  「エレナ」

 「おにいさま、こちらにいらして?その羽虫を排除しなきゃ。優しいのはお兄様のいいところよ?だけど虫に優しくするなんてかわいそう。自分が虫だって忘れて夢をみてしまうでしょう?エレナがちゃーんと終わらせてあげるの」


 うっわぁ…。これは、もう手遅れだね來海くん。

 酸素が薄いなぁ…楽に意識を手放せればなと思うのだけどそうもいかないみたい。

 私は転がった机を壁にゆっくりと窓から離れる。あとやばめな女の子の視界にもなるべく入らないように。ちょっと息荒くなってるかも…酸欠だねぇ、これ…どうしよ…來海くんから心配されてる感じがする。でも振り返らないでねーそのまま意識をそらしておいてねー??



 「エレナがそんなことする必要ないよ。ほら、もう十分でしょ?あんなに怯えて…かわいそうに…。やりすぎだよエレナ。遊びたいときは普通に言ってくれればいいのに」

 「だめよるい兄様!もう!もう!やさしくするから羽虫がよってきちゃうんだわ!寄り付かないようにちゃんと終わらせてあげなきゃ」


 「エレナ」


 「……」


 「そんなことしなくても、優先すべきがエレナなのは変わらないよ。俺は小さい命もかわいいと思うからつい愛でてしまうけど、だからって優先順位が変わるわけじゃない。虫を一番にするなんてありえないだろ」


 


  來海くん、やべーやつだな……まぁ主人公だもんね…。

 私もここで下手に「米山さんは関係ないだろ!」「米山さんに手出しはさせない!」とか言われてたら受け入れられなかったよ、逸脱するもん。いやでもこれは……なかなか…、なかなかだね…。



 「はぁ…」

 「…ぁぅ」

 


 「また散らかして、悪い子だね」


 顔はみえないけど、來海くんが今、すっごく怒っていて、多分女の子を冷ややかな目でみているのだろうなと想像がつく。


 「ご、ごめんなさ…」


 びくびくと女の子は身を小さくしておずおずと絞り出した。でも、來海くんはさらに冷たくあしらう。「疑うなんて、そんなに信用ないのかな」とか「甘やかしてきたのが悪かったね」とか、なんかそんな感じ。

 うるうると瞳を濡らす涙があどけなさを強調していて、だんだんかわいそうになってきた。私が知ってる物語はこんな展開じゃなかった気がするんだけど。なんかもっとこう、スラッとした男の人が現れてバトル!!って感じだったように思うのは気のせいかな?覚えてない〜〜〜〜!

 

 來海くんに叱られて女の子は泣きながら一生懸命來海くんに「だって」「でも…」「うたがったことなんて」って訴えている。が、意味はなさそう。そのうちぎゃんぎゃん泣き出してしまって、來海くんの「顔もみたくない(意訳)」を受けて窓からいなくなってしまった。


 つまりどういうだったんだこのイベント。




 


 「はぁーーー」


 「安堵のためいきしてるところもうしわけ、ないん、」


 待ってだめだこれ喋れない息やば待って、私も安堵のためいきしていい?するね??


 「……すぅ……はぁー…あっいけそう、申し訳ないんだけど」

 「だいじょうぶ?ていうかつづけるんだ?」


 慌てて駆け寄ってきた來海くんの服の袖をしっかり掴んで私は落ちていきそうな足とか腰をどうにか支えて立ち上がる。來海くんの驚く顔?そんなん知らないよ。


 「ええと、あの…米山さん…?」

 「…いったいなんだったの、さっきのは」


 わかってるよ、君が能力者だけで構成される国の機関の“能力犯罪防止課”っていうなんか小難しいお名前のやつに入ってて、通称”国の牙“っていうその中でも特殊なあれの上位者なんだよね?でもききたいのはそういうことじゃない。さっきのイベントが何だったのかってこと。


 あれ必要だったかな?ねえ?ていうかこわいんだよ來海くん。さっきの來海くん絶対人ひとりやらかしてる感じしたじゃん!ねぇ!?私どうなんだ……必要なんか…??



 「……………ええと、その、」

 「言えない、こと?」

 「ごめん、米山さんのこと巻き込めない」


 うんうんそうだね、そうなるよね。さんざん巻き込まれてるんだけどね。

  

 ここで求められるのって、「もう巻き込んでるでしょ!」みたいな、荷物私も持つよ的な、そういうアレだって思うのだけども……やだやだやだ、ぜったいむり。


 「そっかー。じゃあ、きかないでおくね」


 物わかりのいい子ですよー私は。何もきかない知らない見ないなんにもなーい。けど、そんなうるうるした目でみないでよ來海くん。突き放しづらいじゃんか。


 「來海くんが私にお話してもいいかなってなったとしたら、話してほしいかな。いつでもいいし、そうならなくてもいいんだよ」


 できれば聴きたくないし巻き込まれたくなんてないけれど。

 同じクラスで家も近くて、席も隣。これじゃ気にしないとかできるわけないもんね。


さくっと話題をそらすためにも転がりまくった机と椅子に教科書、粉々なガラス片と破れたカーテンをさして先生に話をふる。



 「はぁーこれ、どうするべきですか、先生」

 「えっ!」


 ばっと私から先生へ視線の矛先を変えると來海くんは「なんで黙ってるんですか」と先生を睨みつけていました。


ああ、先生いるの忘れてたんだね…避難誘導てきなのやってたよ先生。それでみんないないわけだし。

 

 「君が彼女といちゃいちゃしはじめたんだろう」

 「い……いちゃ、いちゃ…?」


さっぱり私の問を無視されましたがまぁいいです。話しそらしたかっただけでこの惨状どうにもならんってわかってるもんね。


 「仲山先生、私達いちゃいちゃする関係じゃないですよー?來海くんみたいなモテモテ男子を狙うのってきついでしょうし、私あんまりそういうのは……」


でもこれだけはいっとかないと。


 「來海…」

 「やめてください」


 とんとんと先生が來海くんの肩を叩く。それをパシリと払い除け、カーテンをまとめる私の手伝いをしながら「そういうのって?」と來海くんがきいてくる。

 

 「大変そうじゃない?あの人が好き、この人と好きな人が同じ、考えること全部その人でいっぱい、そういうのって私にはできないな」

 「あー、まぁ、たしかに…」

 「私じゃちゃんと受け取るのも難しいよ。だから來海くんはすごいなーって思う。いつも受け取って、ちゃんと重さを知ろうとしてるから」

 「……そんなこと、ないよ」



 本当の意味でその重みをわかることは多分できないから、と続けるその表情には申し訳無さが浮かんでいる。それだけでもう、君は真面目だし重みを知っている人間だと思うよ、と答えたくなった。だけどね、それを君に言うべきは私じゃない気がするんだ。




 私達はこれからも隣の席、同じクラス、家が近い、ただそれだけ。

 ただそれだけの関係性でいよう。








 それがきっといい。それがきっと、望まれている役割で、私が望む役割だから。

 



 

別タイトルの別世界と混ぜるかもしれない、とある主人公と語り部(脇役…?)の女の子の話。



*來海瑠唯 (きまち るい)


厄介な女の子に好かれがち、本命はかけらも自分を意識してくれず、かつ本命を危険に晒すことはしたくないためアピールもなかなかできないでいる。好きな子が自分の魅力に気がつかずあらゆることに無頓着であることがとても心配。




*米山純  (よねやま じゅん)


來海くんって大変だなぁ……。としか基本思っていない。同情もしないし尊敬もしないし、思うことは「大変だね」ぐらいなもの。無関心ではないものの、あくまでもクラスメイト、隣の席の人間として気にする程度。あんまり巻き込まれたくない。でも自分を巻き込まないように気をつけて行動するあたりはかなりいいほうだなと思っている(主人公という生き物にしてはまともだな、と)



*仲山先生 (なかやませんせい)


国語教師。

來海と同じ組織の人。もとはエレナが誘拐した一般市民、または能力者を助け出すために潜入していた。來海が学園に潜り込み育てられそうな者を勧誘する任務についたためそちらのサポートにもまわされた。お仕事が苦しい。

ただ來海のサポートついでにエレナとも関わりをもたせ自身の任務を手伝わせた結果、來海に対してエレナが異常に執着してしまったため責任を感じている。


エレナを早く捕まえてもっと気楽に生きていきたい。




*エレナ (エレナ・ノールシュガー)


 能力犯罪者。


主に気にいった人間を収集しペットにしている。なかなかのやべー女。女というか少女。

思考はだいぶ幼いため見た目と同じように扱うと会話が成り立たない。



*葵真澄 (あおい ますみ) 


おそらく米山純の推しだったキャラクター(人物)

ところどころぶっとんではいるものの、常識は持ち合わせている。能力犯罪者であり、それしか生きる道を知らない。


*高崎幸也 (たかさき こうや)


おそらく窓ガラスを割って教室に来るはずだった能力者。エレナが來海に執着したことによって出番を奪われた。

なんか危ないおくすりとか売ってる人。

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