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それはこっちのセリフ

 一週間ぶりに会った兄さんは、どこまでも変わらず兄さんだった。多くの同性をたらし込んでいるのを除けば。


 この一週間の間に何があったと訊きたくなる。


 白髪の人なんてあからさまに関係を匂わせていたし、兄さんが男に好かれてるなんて一目瞭然。でも兄さんはこの世界の常識学んでたんだよね? この世界では同性愛も常識なの?


 それとも兄さんの愛され体質がここでも発揮したとか……そっちの方が可能性高いな。

 まあぶっちゃけ兄さんが誰の恋人になろうが私には関係ないけど……いつまでも私を睨むのはやめてほしい。というかなぜ睨む?


「瑠璃〜。お兄ちゃん寂しかったよぉ」


 そう言いながら抱きついてくる兄さんの顔を鷲掴み、無理矢理引き剥がす。


「兄さんさぁ、この一週間何してたわけ?」


 小声で訊ねると兄さんが不思議そうに私を見る。どうしてそんな事を訊くのか解らない、という顔だった。そりゃ私と兄さんは意識を繋げる事が出来るから互いの行動は把握済みだ。

 ただし、それはあくまでお互いがどこに居てどんな感情なのか解るだけで、兄さんが誰と何をして話しているのかまでは解らない。


 故に彼らと兄さんの関係性が見えてこず、兄さんに訊いた。


「あの男の人達だよ。白髪のお兄さんなんか兄さんと熱い夜を過ごしたって──」


「それは! ほんとに! 誤解だから!!」


 必死に否定する兄さんは男色趣味なんて無いから本当に違うんだろうけど……弄りがいのあるネタだからなぁ。


 そう思ってると白髪のお兄さんとは違う長躯のある人が進み出た。


(で、デカッ……!)


 首がもげそうなくらい見上げれなければいけない身長差に冷や汗をかく。この人人間? 巨人って言われた方がまだ納得できる。


 長身の男の人は不機嫌そうに口を開く。


「ねぇ、兄妹の感動の再会が終わったんならそろそろ妹君様に挨拶していい? 俺飽きてきたんだけど」


「なっ、ルーカス、お前また……!」


「オレ待つのってちょ〜嫌いなんだよねぇ。どうも、ルーカス・ブロウでぇす。よろしく妹君様」


 燃えるような赤髪を揺らしながらそう言ったルーカスさんには、背後で怒っている紫髪の人は見えていないらしい。ルーカスさんは私に自己紹介出来て満足したのか、上機嫌になった。


「はぁ、どうも」


 挨拶されたら条件反射で返してしまう日本人の気質でつい返事してしまい、更にルーカスさんの表情に笑顔が広がる。


「あはっ、これから仲良くしてね」


 ルーカスさんが無遠慮に私の手を握った。さっきのジェフリー様と言い、ルーカスさんと言い、この世界の人って皆馴れ馴れしいのかな。テオドール様はそんな感じじゃなかったのに。


「妹に触るな!」


 またも兄さんが手をはたき落とそうとする。その前にルーカスさんは手を引いて兄さんの攻撃を避けた。見た目に反してかなり素早い。


 私が感心しているとルーカスさんの不満たらたらな視線が兄さんに向けられる。


「手ぇ握るくらいいーじゃん。神子様過保護過ぎぃ」


 それは私も常々思っていた。村の悪しき風習の所為か、兄さんは私に何かある度にセコムか? と言いたくなるほど過剰に反応する。


「手でもダメ! というか半径百メートル以内に近づくの禁止!!」


「それはやりすぎ」


 ぱこん、と丸めた新聞紙で兄さんの頭を叩く。新聞紙なんかどこから出したかって? 企業秘密です。


「てか他の人と話せなくなると私が困る」


 もう一週間も部屋に軟禁状態なんて嫌だよ私。本ばっかり読んでると誰かと話したくなる。というかなぜ私は部屋に軟禁されてるのか。


「ダメだよ瑠璃、男は皆ケダモノなんだよ? 油断してるとぱっくり食われちゃうんだぞ」


 真面目な顔で私の肩を掴みながら説得する兄さん。ていうかさぁ……


「それはこっちのセリフなんだけど」


「え?」


 え? じゃないし。何で自覚ないの? どっちかって言うと私より兄さんの方が食べられちゃうでしょうが。兄さんも危機感持った方が良いと思う。


 そもそもあの白髪のお兄さんが熱い夜だなんだの言った時点で彼らが兄さんにどういう感情を抱いてるかなんて明白だろうに。我が兄は何でそこに気付かないのか。


 私を守ってる暇があるなら自分の貞操を守る気になってほしい。切実に。


「神子様ってそーんなに妹君様が大事なんだぁ? じゃ奪われたりしたらブチ切れる?」


「? そんなの決まって──」


 ルーカスさんの不穏な物言いに警戒心が募った瞬間、私の身体は浮き上がった。みるみるうちに地面と離れて空中に浮かぶ。


「これが空中浮遊……」


 真顔で自分が魔法にかかっていると分析していると、兄さんの怒鳴り声が辺りに響き渡る。

 見れば兄さんがルーカスさんに掴みかかっていた。


「今すぐ瑠璃を下ろせっ!」


「あはっ、神子様の怒った顔かーわい♡」


「どうでもいーわっ! それより早く……」


「分かったって〜」


 ふわふわ浮いた感覚のまま空中を漂っていると突然その感覚が無くなり地面に引き寄せられる。あ、ヤバい。受け身が間に合わない。


 このまま地面に叩きつけられたら痛いよねぇ。と考えているとドサッと誰かに受け止められた。


 誰かの腕の中だと気付いて顔を上げれば蜂蜜色の瞳が印象的な線の細い男の人だった。その細さでよく私を受け止められたなと思ってしまう。


「妹君様、大丈夫ですか?」


「え、あ、はい……ありがとうございます……」


 お礼を伝えると彼はニコリと微笑んだ。その表情がどうにも胡散臭く感じてしまって、助けてもらったのに失礼な事を考える。


「私はユーリ・アストリアです。以後お見知り置きを」


 腕から下ろしてもらった際にそう言われ、手を取られる。

 やっぱり異世界の人達は馴れ馴れしいに違いない。そう思っていると妹君様ー!! と呼ぶ声が聞こえたので振り返るとリアムさんがそこに居た。


「「げっ」」


 何故か兄さんと声が重なり顔を見合わせる。よく見るときっちりとした服を着ている人達も居て、兄さんはあの人達に反応したらしい。


「妹君様、探しましたよ! どうして勝手に部屋を抜け出したんですか?」


「神子様、まだ授業の途中ですよ? なぜ抜け出したりしたのです」


 近づいて来るリアムさんから距離を取ろうとしたのに、ユーリさんに手を握られたままで逃げられない。離してほしいと視線で訴えてもユーリさんは微笑んだだけで意に介さなかった。このままじゃまた軟禁生活が続く……と心の中でボヤいていると騒ぎを聞きつけたのかアサド様もやって来た。


「神子様も、妹君様も……何で逃げたりしたんだ?」


 アサド様が困惑したように私と兄さんを見るので堪らず叫んだ。


「「逃げたくもなるわっ!!」」


 私と兄さんが同時に叫ぶと皆が驚いた顔をする。が、そんな事に構ってられない私と兄さんは交互に言い放つ。


「一週間も妹と離れ離れになったんだぞ!? 会いたいって言っても取り合ってくれないし!」


「毎日毎日部屋と書庫室を行き来するだけの軟禁生活! 退屈すぎて死にそうなんですよっ!」


「俺と瑠璃は双子で、生まれた頃からずっと一緒だったのに」


「私は兄さんを護るのが役目なのに」


「「何で一緒に居られないわけっ?!」」


 もう一度そう叫ぶとアサド様達は唖然としていて、アサド様は放心状態に。

 ……あれ、言い過ぎた? と兄さんと顔を見合わせていると、ぶっと誰かが吹き出した。見ればユーリさんが大笑いしている。


「さすが双子ですねぇ、息もぴったりです」


 心底楽しそうに言うユーリさんは意味ありげな視線をアサド様に送る。途端にアサド様の顔が強張った。


「まあ神子様は兎も角、妹君様が軟禁生活してたなんて僕たちは知らなかったよ。アサド、説明してくれる? どうして神子様には会わせてくれたのに、妹君様には会わせてくれなかったのか」


 ずっと見守っていたジェフリー様が間に割って入った。非常に友好的な態度で、口元はしっかり笑ってるのに目が笑っていない。

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