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魔力ゼロの最強魔術師〜やはりお前らの魔術理論は間違っているんだが?〜【書籍化決定】  作者: 北川ニキタ
第二部

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97/97

―97― 本当の本当のエピローグ

「アベル兄、起きなさいよ!!」


 ドタン、バタン! と騒々しい足音が響いていた。

 俺の安眠は強制的に終了させられた。

 意識の海から引きずり出された俺は、まだ夢うつつのままぼんやりと天井を見上げる。


「……むにゃ……そこは、電子のスピンが……」


 夢の中で俺は、新たな科学論文の執筆に没頭していた。

 いかにしてエネルギー効率を上げるか、というその画期的な理論があと少しで完成するところだったのに。


「いつまで寝ぼけてんのよ! 今日は大事な約束の日があるって言ってたでしょ!」


 ドカッ!

 容赦ない蹴りが脇腹に突き刺さる。


「ぐふっ……!」


 俺は呻きながらベッドから転げ落ちた。

 目の前には、腰に手を当てて仁王立ちする妹、プロセルの姿があった。


「おはよう、プロセル。朝から元気だな」

「お兄ちゃんがだらしないからでしょ! ほら、早く着替えて!」


 せっつかれながらリビングへ降りると、父さんが新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。


「おはよう、アベル。またプロセルに叩き起こされたのか」

「まあな。毎朝の日課みたいなもんだ」

「ははは。まさか、あの引きこもりのアベルが、毎朝こうして外に出るようになるとはな」


 父さんは感慨深げに目を細めてる。

 いや、俺は元から学院に通っていただろ。引きこもりってのは語弊があるだろ。


 そんなことを思いつつ、俺は欠伸を噛み殺しながら、食卓についた。


「アベル兄、早く食べなよ! 遅刻しちゃうってば!」

「そう焦るなよ。いつもそうやってセカセカしてると、いつまでたっても成長しないぞ」

「うるさい! そうやってデリカシーがないところ、早く直しなさいよ! そんなんだから、いつまでたっても彼女ができないのよ!」


 そんなこと言われても。彼女とか微塵も興味ないしな。


「ほら、行くわよ!」


 プロセルに腕を引っ張られ、俺は家の外へと連れ出された。

 しばらくすると、そこには、一人の少女が待っていた。


「おはようございます、アベルくん、プロセルちゃん」


 銀色の髪を朝日に輝かせ、ミレイアが微笑んでいる。


「ごめんねー、ミレイア。アベル兄がいつもの調子だから、ギリギリになっちゃって」

「いえ、慣れてますから。それに、そういうアベルくんらしいところ、私は嫌いじゃないですし」


 ミレイアはクスクスと笑う。


「ミレイアなら、少しくらい待たせても怒らないだろ?」

「アベル兄、そういうとこだよ。本当、いっつもみうなんだから」

「プロセルちゃん、落ち着いてください。わたしは気にしてませんから」


 それから俺たちは並んで歩き出す。

 目的地は、街の中心広場だ。


「おーい! こっちよー!」


 広場に着くと、すでにいつものメンバーが集まっていた。

 手を振っているのはアウニャだ。その隣には、どこか気だるげな様子のシエナ、そして優雅に日傘を差したユーディット会長の姿もある。


「遅いわよ! 待ちくたびれたわ」

「まあまあ、アウニャさん。役者は遅れて登場するものですから」


 文句を言いたげなアウニャに対して、会長が穏やかに諌める。

 そして、その中心で一番はしゃいでいる小さな影が一つ。


「遅いぞ、アベル! 我を待たせるとは何事だ」


 アントローポスだ。

 見た目は幼女のままだが、その態度は相変わらず尊大そのもの。


「結局、いつものメンツになっちゃってごめんね、ミレイア」


 プロセルがこっそりとミレイアに耳打ちするのが聞こえた。


「本当はアベル兄と二人きりにしたかったんだけど……」

「いいえ、気にしませんよ。賑やかな方が楽しいですし」


 そう言って、ミレイアは俺の方をちらりと見て、はにかんだ。

 いったいなんの会話をしているのやら。


 皆がどこへ遊びに行くか、わいわいと相談している中、俺は少し離れたベンチに腰掛けた。

 やっぱり眠い。昨夜、遅くまで研究していたツケが回ってきている。


「いいじゃないか、平和で」


 ふと、隣に気配を感じた。

 アントローポスが、俺の隣にちょこんと座り、足をぶらつかせていた。


「まあな。こんな未来を思い描いたわけではないが……悪くはない」


 あの日。

 俺が選んだのは、第三の選択肢だった。


 ――物質界とイデア界の完全な分離。


 アゾット剣を破壊するだけではない。俺の科学魔術とパラケルススの知識、そして偽神たちの力を総動員して、二つの世界の繋がりを完全に断ち切ったのだ。

 その結果、世界から魔術は消え失せた。

 魔導列車を始めとした便利な魔道具はただのガラクタになり、人々は大混乱に陥った。

 だが、同時に偽神の脅威も消滅した。

 プロセルの呪いも解け、彼女はただの健康な妹に戻った。


「それにしても、よくやったものだ。魔術を捨て、科学を選ぶとはな」


 アントローポスは空を見上げる。


「おかげで世界は不便になった。だが、人々は自らの手で火を熾し、車輪を回し、新たな文明を築こうとしている。……案外、悪くない見世物だ」


 魔術という借り物の力ではなく、自分たちの知恵と努力で進む道。

 それが、俺が選んだ『科学』による未来だ。


「それにしても、なんでお前はこっちにいるんだよ。イデア界に帰ったんじゃなかったのか?」


 世界が分離した際、偽神たちは本来の居場所であるイデア界へと帰還したはずだ。

 ゾーエーも、ヌースも、そしてデミウルゴスも。もちろん、帰っていったやつは二度とこっちには戻れない。

 だが、こいつだけはなぜかここに残っている。


「いいじゃないか。我はこの不完全な世界が、少し気に入ってしまったのだよ」


 アントローポスは不満げに頬を膨らませ、それからニヤリと笑った。


「それに、貴様の行く末を見届ける義務があるからな」


「……勝手にしろ」


 俺は苦笑し、目を閉じた。

 騒がしくも心地よい声が近づいてくる。


「アベル兄! 置いてくよ!」

「アベルくん、行きましょうよ!」


 目を開けると、プロセルとミレイアが俺の方へ手を差し伸べていた。

 その向こうには、仲間たちの笑顔がある。


 魔術のない、ありふれた、けれど愛おしい日常。

 俺たちの新しい人生は、ここから始まるのだ。


 俺は二人の手を取り、力強く立ち上がった。



こちらにて完結です。

ありがどうございました。

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― 新着の感想 ―
お疲れ様でした。
完結お疲れ様でした。 個人的にはこのエピローグは責任取らされた結果の走馬灯なのかなと感じました。
お疲れさまでした
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