~たけしジャイロのこぼれない話~
今より数年前のアメリカ州。当時全くの無名であったジャイロたけしが、この広大な大地に降り立って居た。彼がハルウッドでも認められるお笑い芸人となる、少しだけ前の話である。
日本のとあるバラエティ番組で、南北アメリカ大陸をヒッチハイクで縦断すると言う企画が立ち上がり、そこでスケジュールが白紙のジャイロたけしに、白羽の矢が立った訳だ。
斯くして、初期の所持金はたったの十万円、同行するのはカメラマンが一名のみと言う無謀なロングロケが、南アメリカ大陸チリ共和国からスタートした。
当の然、ジャイロたけしには次から次へと試練が訪れるのだが、持ち前の図々しさ&プレイボーイっぷり&暴虐等々で困難を乗り越える。その破天荒さが視聴者に大受けし、日本でのジャイロたけしの知名度は爆上げ&一躍お茶の間の人気者となったのである。
因みに、道中にこました女性は優に四桁を越えるとされており、こいつは断じて許し難い鬼畜の所業であろうかと。羨ま死刑にて死ねい。死して尚死ぬるべし。
尚、この旅の途中にちょっとした手違いから進路を間違えた二人が、カナダ・トロント方面へと赴いてしまう事があった。この際に少しだけ立ち寄ったレストランにて、欲望に忠実なジャイロたけしは、通例に従いここで働くウェイトレスを口説こうとするのである。女人をナンパする事に関しては、連戦連勝の負け知らずだったジャイロたけし。ところがどっこい、そんな彼が唯一白旗を掲げる羽目に陥ったのが、この地で出会った前述の給仕嬢なのだが、それは又、別のお話。
さて、先に述べた日付より過去に遡るのではあるが、ジャイロたけし一行は紆余曲折を経ながらも、ちょうど折り返し地点である中央アメリカに到達する。そこで、「目標地点まで、もう一踏ん張りだ記念日」と称し、ある一軒の酒場にて細やかな飲み会を開くのだった。
時を同じくして、現地の売れないコメディアンの一団も、そこの同じ店舗で飲み食いをしていた。彼らこそ、後のハルウッド売れっ子俳優となるハリセン・ドォーツクド、ユリアン・マクレィバァー、サムネイル・Ero・ハックション、マッタリー・ポテトナンの四人組であった。
やれやれ、お笑いの神様って奴は何時だって気まぐれで、稀にこう言った偶然の巡り合わせを演出するので困りものである。
そして、そいつはここへ来て、なおも加速する。
そう、唯単に機嫌良く飲んでいたジャイロたけしなのであったが、柄が悪い十人組の客が絡んで来たのだ。並びに、よせば良いのに、彼らは開口一番、ジャイロたけしへの罵り言葉を捲し立てたのである。
「いよう、ジャパニーズマイナーコメディアン、ジャイ何とかだよなオメー?」
「こいつ、ヒッチハイクでアメリカを制覇する旅に挑戦中だってよ。臭っさ!!」
「けっ、ヒヨっ子ジャップが下らねぇ事をやってやがる。とっとと日本に帰れよ」
「てか、それ以前にテメーのネタってのをミーチューブで観たが、超退屈だったわー」
「はぁ? まさかとは思うが、アメリカン・ドリームとか夢見ちゃってる系ボーイ?」
「止めとけ止めとけ。お前のイエローモンキー丸出し顔じゃ無理だっつーの」
「カッカッカ、それ処か全世界レヴェルで、お笑い自体が下火だろ」
「キャハハー、芸人やってる奴なんて糞ー。キャッハー、ニップ底辺おつー」
「底辺(の長さ)×高さ÷2=三角形の面積」
「(お好きな言葉を入れてお楽しみ下さい)」
以上の様な暴言が続いた訳である。
ジャイロたけしは「ウンウン」と頷きながら、ゴロツキ共の意見を黙って聞いた後、持っていたグラスを握り潰し、「ガッハッハ、アメ公の下層階級集団が喧しいんだよ。ぶっ壊して廃品にし、文字通りテメェ等大好きジャンクフードにしてやっからよ。とりま、ちょっと何を言っているのか分からねーが、ファッキンジャップくらい分かるよ、バッキャロー、コンニャロー! 表へ出ろや、コンニャロー、バッキャロー!」からの武力抗争勃発である。あっ、カメラマンの人は戦力外なので、見ーてーるーだーけー。
しかして、絶賛店外大乱闘ス○ッシュブラザーズ真っ最中に、颯爽と既出の亜米利加芸人カルテットが乱入するのである。
「ハッハッハ、ヘイ、日本人! いや、ジャイロたけし! 集団的自衛権発動により、我ら四名、ユーに助太刀するぜ! ハッハッハ、ミーの日本語は、たけしの御国の漫画やアニメで覚えたんだぜ! 上手いもんだろ!」
「ガッハッハ、誰だか知らんが、中々良いパンチしてんなメリケン四天王! つーか、こんな雑魚共なんぞ俺様一人で楽勝だけどよ、一応礼は言っておくぜ。このクソッタレの愚鈍方が、バッキャロー、コンニャロー!」
「ハッハッハ、それ全く謝辞じゃねーじゃん! ハハッ、マイ・ネーム・イズ・ハリセン・ドォーツクドだ! 他のメンバー自己紹介は、ディス・ファイトの後でゆっくりな! よろしく!」
「ガッハッハ、言わずと知れた俺様はジャイロたけしな! ジャパニーズ・ナンバーワン・コメディアン……いや、ベスト・イン・ザ・ワールド・コメディアンになる男だ、バッキャロー、コンニャロー!」
「ハッハッハ、ユーの事は存知上げているぜ! 実は俺ら四人もお笑い芸人なんだ! 日本のコメディアンが頑張っていると言う噂は耳に入っていた! ハッハッハ、この国の芸人界隈じゃ、たけしはそこそこ有名人なんだぜ!」
「ガッハッハ、そりゃ良い傾向じゃねーのよ。やっぱ米国に目を付けて正解だったな。ガッハッハ、ジャイロたけし様伝説の幕開けだぜ、バッキャロー、コンニャロー!」
「ハッハッハ、それにな、コメディアンを全否定される発言を聞いちまったら、我々も黙ってはいられないって話よ!」
「ガッハッハ、それにしてもテメェ等とは大分席が離れていた筈だが、良くこっちの方の会話が聞き取れたな、バッキャロー、コンニャロー!」
『ハッハッハ、アメリカ合衆国は土地が広いもんでね! 自然と大声になる&耳が良くなっちまうのさ!』
「ガッハッハ、唐突に大音量で喋り出して何なんだよテメェは! うるせぇし、「USA」だけに、「うっさ!」とでもツッコんで欲しいんか、バッキャロー、コンニャロー!」
この様な歓談を交えながらの大立ち回りである。これは両名共に、相当の喧嘩慣れをしている事を伺わせる。
言うに及ばず、ハリセン・ドォーツクド以外の三名も、幾多の修羅場を潜り抜けた剛の者達だ。
故に5対10であっても、「即席ジャイロたけしと愉快な仲間達チーム」の敗北は有り得る筈が無いのである。
就きましては、ジャイロたけし達がDQN全員を伸すのに二分強。カップ麺を調理するよりも早く完了してしまった訳である。
しかし、ここでジャイロたけし達が勝利したと思った矢先に、煽り組リーダー格の男が、懐より拳銃を取り出して見せたのだ。十人だから銃人とか洒落にもならん。
だが、負けじとジャイロたけしの方も、間髪入れず自分の携帯電話を、剛速球でその男の顔面目掛けて投げつけたのだ。
そいつは見事に短銃男のおでこへとスマッシュヒットし、この者はピストルをぶっ放す間も無く気を失ってしまった。
そうして、余裕綽々でゆっくりと昏倒した彼に近付き、投じた自分の携帯を拾ってのジャイロたけしの第一声がこれである。
「ガッハッハ、俺様のケータイがズタボロにぶっ壊れちまっってんじゃねーかよ。弁償と詫び代として、テメェの財布は丸ごと頂戴しておくかんな、バッキャロー、コンニャロー!」
「ハッハッハ、いやはやしかし、銃口を向けている野郎に対し、一切怯む事なく投擲で応戦するとはな。ハッハッハ、たけしは是非共にメジャーリーグも目指すべきだぜ」
「ガッハッハ、俺様ってば殴り合いの最中に気が付いちまったんだよ。こいつらってば、てんで大した事ねーし、されば間違い無くチャカも偽物だろうってな。ガッハッハ、弾きなんぞ日本じゃ早々手に入らねぇ代物だし、銃刀法違反でポリ公にしょっぴかれちまうわ、バッキャロー、コンニャロー!」
「ハッハッハ、……てか、ここはアメリカだぞ、たけし。一般人でも比較的簡単にガン(Gun)を所持出来る銃社会の国だぜ?」
「ガッハッハ、……それマジかよ、ハリセン、バッキャロー、コンニャロー!」
「ハッハッハ、……いや、それはこっちの台詞だぞ、たけし、ばっきゃろう、こんにゃろう!」
一同大笑いとなる。
その後、何故か相手方の十人も頭数に入れまして、皆でこのあと滅茶苦茶飲み直した。
このエピソードはマスメディアでセンセーショナルに取り上げられ、更には後日に、本人達の出演でハルウッド実写映画化までされる。驚くべきは矢張りジャイロたけしで、何とこの旅先途中にハルウッドデビューを果たす快挙を成し遂げ、剰え同キネマトグラフも大ヒットさせてしまったからだ。
これにより、五人の絆は確固たるものとなり、一人一人もハルウッドを代表するドル箱スターとなって行くのである。
最終的にジャイロたけしは一年と二ヶ月を費やし、無事にゴールである北アメリカ大陸アラスカ州に辿り着いたのだった。
日本に帰国した後も、その人気は衰える事無く大ブレイク。それ以降も出世街道を驀地で、世界的人気を不動のものにして行くのだ、バッキャロー、コンニャロー!




