~凹×凸《ボッコーデッコー》のこぼれない話~
その日、中学三年生の太鯛豪は、何とは無しに学校をさぼり、何とは無しに海が見たくなり、何とは無しに海岸へと向かった。
小学校から数えてみても、学生生活に不満は無い。自身の巨体から虐められた事も無かったし、勉強もスポーツも人並みか、或いはそれよりは少し上位なので、決して劣っている訳では無いのだ。
多分、このまま何とは無しに高校へと進学するのだろう。
うん。普通過ぎる。
それが何とは無しに嫌になって、今日は何とは無しに日常から逸脱してみたのだ。
海の砂場を何とは無しに歩いていると、そこには見覚えのある、小柄なスキンヘッドの後ろ姿があった。
何とは無しに浜辺に体育座りで佇んで、何とは無しに波打ち際を眺め続ける細木数夫である。
この二人は幼馴染みだ。
何とは無しに家も隣近所で、何とは無しに友達で、取った行動が何とは無しに偶然重なってしまうような二人である。
何とは無しに蹲む細木数夫の隣に太鯛豪が近寄り、何とは無しに聞いてみた。
「何で数夫くんがここに居るんだよ? サボリかい?」
「だね。何とは無しに」
「何とは無しにかぁ。オラも何とは無しにサボタージュだよ。奇遇だね」
そう言い終えると、太鯛豪も何とは無しに腰を下ろした。
暫く無言で水平線を眺め続ける両名。
そうして10分ほど経った当たりだろうか。細木数夫が口を開く。
「なぁ、豪くん。お笑い芸人目指さへん?」
「何で関西弁なの?」
「まあ、何とは無しに」
「何とは無しにかぁ」
「考えたんだけどさ、オイラってチビでこの若さでハゲじゃん? もうじき高校生だし、もうお笑いで人気者になるしか、モテる方法が思い付かないんだよね」
「……モテたいの?」
「バッキバキにモテたい」
「あーね。オラも願わくばモテたいかなぁ」
「何とは無しにモテたい」
「だねぇ。何とは無しに、そうだよねぇ」
それ以降、何とは無しに二人は口を開く事も無く、何とは無しに海辺を眺め続けていたのである。
この日から間も無くして、何とは無しに凸×凹と言う名前でコンビを結成し、高校生となってからは、何とは無しにKAGUYA-HIMEとS.O.B.をする事になり、何とは無しにダダンダウンやその仲間達と絡む人生を歩む事となる。
後年、凸×凹もプロのお笑い芸人となる訳であるが、芸能プロダクションに所属する際のオーディションにて、この時の海での遣り取りを、そのまんまシュール系コントとして披露したのである。
すると、この時の審査員をしていた、お笑い界の大御所である女師匠に、「阿呆!」と一喝されたのは言うまでも無い。
何とは無しに、そんな話。