~水曜日のダダンダウン~
次なるR1-M1のセカンド・ミッションは、「美人女子高校生コンビの金色マカロンと、ピンの女子高校生ものまね芸人の目立綯とのS.O.B.を観覧すべし」であった。
ふん。人気の高校生芸人ともなると、今回みたく事前に対戦告知をし、S.O.B.を行う事が当たり前になってきている現状だな。
「なはは、お笑い史上主義のこの御時世、誰しもが名を上げようと企んどる。その手っ取り早い方法の一つに、既に有名になっとる芸人とのS.O.B.で勝利するっちゅうやり方がありますわな。今回の金色マカロンの対抗馬である目立綯っちゅう子も、ほぼ無名の高校生芸人やからね」
「ふん。特に今や人気の高校生芸人で、しかも金色マカロンクラスとなれば、S.O.B.の申し込みも引っ切り無しで予約が必要らしいな。何処ぞの行列のできる人気店かよ。ふん。それにも関わらず大手を振って遅刻をぶっかまし、依然として不在の目立綯とは、中々良い度胸をしている奴だな」
「なはは、案外そう言う子が大物になる逸材やったりするんよね。対する時間きっちりに到着しとる金色マカロンは、両者共に、「聖ホリプロ女学院高等部」出身で、今回はその学園内の広う開けた芝生広場でS.O.B.が行われるっちゅう事でんな。なはは、っちゅう事で俺らも早速出向いて来た訳やけども、ようけ清掃の行き届いとる綺麗な学校ですわ」
「ふん。それにつけてもR1-M1は凄いな。S.O.B.の場所や時間の詳細等々、全ての情報が此奴めから届けられたものばかりじゃないか。ふむ。本格的に圭助がいらない子になりつつあるな」
「なはは、そないな事言わんといてえな。俺かてネットを駆使したんやったら、この程度のインフォメーションは提供出来るっちゅうねん。こっちは人の心が通うとる分、人間様の方があったかいんだからぁ♪やで」
「ふん。そう遠くない未来に、バーチャル・リアリティの技術的大躍進が、それさえも補い凌駕する兆しがあるけどな。それよりも見てみろよ圭助。流石は日本有数のお嬢様学校出身コンビ・金色マカロンだとは思わんかね。ふん。西園寺亜矢華の奴め。相方も偉いべっぴんさんを連れていやがるぜ」
「なはは、西園寺亜矢華さんがブリリアントなんは周知の事実やけども、片割れの方は微妙とちゃいます? あの子の名前は新堂麻琴言いましてな、「聖ホリプロ女学院高等部」の一年生ですねん。コンビが揃うて金髪やさかいに、金色マカロンですわ。こう言った分かり易いネーミングっちゅうのんも、一周回って逆に新鮮やね」
「ふん。なるほどな。しかし、西園寺亜矢華は見た目からして、ザ・御令嬢と言った風貌なのだが、相方の娘さんは真逆を行っているな。ここの校風には到底似付かわしくない、金髪ショートヘアとバチバチのメイクが似合っているギャルだからな」
「なはは、「ギャルがギャグとか超面白くね?」ってなノリで始めたんやで。なはは、超おもんな」
「ふん。しかも健康的な小麦肌に日焼けをした褐色黒ギャルときている。ふひ。如何わしい妄想が捗るぜ」
「なはは、やめときやめとき。きっと性格も腹黒いんちゃうますのん。知らんけど」
「ふん。どうした圭助。矢鱈と言葉に棘があるな。それと少し引っ掛かったのだが、新堂麻琴と言えば貴様と苗字が一緒ではないか。もしや彼女は隠し子か何かの類か?」
「なはは、せやねん。一つしか歳が変わらんさかい、俺が一歳の時に拵えたガキでっせ……って、どあほ! んな訳あるかいな! ……んまあ、家族って所は正解やで」
「ふん。そうだな。普通に考えれば、貴様の妹か従妹辺りが妥当よの」
「なはは、それがちゃうねんな。えっとな、昨日ファミレスで賭け事云々の話をした時に、何でペナルティが女装やねんみたいな話になったやん?」
「ふん。そして時期が来たのならば、如何にしてそういった発想になったのかの理由を話すとも言っておったな」
「なはは、さいでっせ。んまあ、こないに早うカミングアウトする羽目になるとは思わへんかったけど、それを今此処で言うわな。まあ、とてもじゃないが一言では説明でけへんけども、新堂麻琴は俺の弟で、あれは女装をしてまんねや」
「ふん。見事に一言で説示が完了した様に感じるが、さしずめアブノーマルな弟の影響により、罰ゲームと言えば娘姿だろうってな考えに至ったと言った所か」
「なはは、煜は察しが良うて助かるわ。どうか安易な野郎と罵らんとって下さいや」
「ふん。安易な野郎だ。しかしまあ、僕が見る限りでも、麻琴君はどう見ても乙女子にしか見えないな。とは言え、この学園は女子校ぞなもし。よくぞまあ、入学を許可してくれたものよ」
「なはは、それやねん。近年LGBT問題やらで何かと五月蠅いやろ? そこん所の隙を掻い潜って、特例としてまんまと転がり込みおってな。卑劣なんは、あいつのおにゃのこ姿は単なる趣味で、ファッション女装やねんよ。ここに通学する決定打も、「制服がカワイイから」やしね。精神的に如何の斯うのちゅうのんは一切あらへんねや」
「ふん。それは色々と危ぶまれるな。その辺のデリケートな部分に踏み込むと、ややこしい事になること請け合いだぞ。更にはその麻琴君の真実が白日の下に晒されたとしたらば、多方面からフルボッコ案件必至だからな」
「なはは、そうやねん。しかも麻琴の奴ってば精神面だけやのうて、肉体面でもごっさ強うてな。切れたら暴力で訴えるみたいな事も厭わへん、狂犬みたいな面も持ち合わせとんねん。手に負えまへんわ」
「ふん。いくら強いと言えども、その辺の若女より娘子らしい見た目よ。「兄よりすぐれた弟なぞ存在しねえ!!」と、一発はたいて屈服させてやれよ」
「なはは、それが出来たら苦労はせえへんって。実は俺ら兄弟、小さい頃から空手道場に通っとってん。そいでもって二人共に黒帯やけど、妹は……やのうて、弟は俺よりも遥かに強いんでっせ」
「ふん。すんばらしいな。キュートでパワフルとか、「人気沸騰の宝石箱や~」、かよ」
「なはは、なんや煜? うちの妹の……やのうて、弟の事が気に入ったんか? 三百六十度、どっからどう見ても女の子やけど、男の子やさかいな。いや、男の娘やけども」
「ふん。圭助よ。さっきから貴様、何度も弟を妹と言いかけているぞ。大事無いか? 主に脳的に」
「なはは、せやねんね。妹の……やのうて、弟の性別に関しては、俺も時々訳が分からんくなってきとるんよ。麻琴の奴、偶に巫山戯て、確信犯的にラッキースケベとか仕掛けてきよんねん。例えばベタやけど、お風呂場で遭遇し、「キャー! お兄ちゃんのエッチー!」とかやね」
「ふん。何だその安っぽいラブコメ漫画みたいな日常は。それって一部の特殊な人々にしてみれば、喉から手が出る程に欲しい夢のような生活だぞ」
「なはは、そないええもんとちゃいまっせ。何せ妹の……やのうて、弟のセクシャリティーが……あれれ? ホンマにどっちやったっけか? ……なはは、ほらな? これもんの醜体ですわ」
「ふん。こりゃ早急に対処せねばな……と思ったのだが、次に披露するフリートークのネタにも使えそうだし、何より面白そうである。なので、どうか圭助にはこのまま突っ走ってもらいましょうぞ」
「なはは、アホなこと言いなさんなや。だって弟やぞ? 男やぞ? いや、例え麻琴が妹やったとしても家族やからな? そんなんめっさ近親愛やんかいさ? ったく、姉やら妹に過度な幻想を抱いとる奴らとか、かなりこと頭わいとるって。なはは、ずば抜けて気持ち悪いわ~……ホンマ気色悪っ! ……うわぁーっ! マジに助けてくれやぁーーーっ!!!」
「ふん。この話を軽く身構えておったのだが、どうやら本人にとったら気が狂いそうになる深刻さだったらしいな。おや? どうやら渦中の麻琴君が我々の存在に気が付き、こっちに向かって精一杯の笑顔で手を振ってくれているじゃないか」
「にはは、おーい、お兄ちゃーん! あーし頑張るッスよー! もし今日勝つ事が出来たならー、今夜はいつも以上にぎゅっと優しく抱きしめて欲しいかもッスー♥」
「ふん。だそうだぞお兄ちゃん。そんなうらやまけしからん事をしていたのかよ、お兄ちゃん。僕と代われお兄ちゃん」
「なはは、そげな抱擁とか一回もした記憶がありまへんが。……いいや、もしかしたらあったのかもしれまへんけど……もう俺かて頭の中がごちゃごちゃしとって、何が何やらわけわかめですわ……」
「ふん。最早真偽の程はこの際どっちでも良いわ。そんな事よりも麻琴君は何とも微笑ましく、愛らしい立居振る舞いをしやがるではないか。ふふ。もうあの子は男女の区別とか関係無しに、「麻琴君」と言う新たな概念でよろしいと僕は思うのだよ」
「なはは、煜の言わはる通り、ありのままの麻琴を受け入れて、次のステップへの弾みとせねばアカンのかもしれまへんね。そんなの関係ねぇし、オッペケペーのオッパッピー。……オロロロロロロロ!!!」
ふん。笑顔のまま嘔吐するほどに、本格的に圭助の頭がバグっちまったみたいだ。更にはこのタイミングにおいて、金色マカロンの対戦相手が現れやがったんだぞい。
「ふん。おい、データベース。挑戦者の小娘が出くわしたぞ。早いとこ復活し、貴様のやるべき仕事をしやがれませ。目立綯の説明をば早よ」
「なはは、くぁwせdrftgyふじこlp……ゲロロロロロロロロ!!!」
「ふん。吐瀉物が留まる所を知らないと来たか。こいつはもう駄目だな。圭助は見限り、急遽次の相方を考えなければならん度合いやもしれぬ。ふむ。取り敢えずR1-M1を解して、目立綯の情報を引き出してみるか」
すると、遅れて到着した目立綯と思しきその彼女だが、「~♪そこな自我が崩壊した男子よ~、正気を取り戻したまえ~♪」と仰せになりながら、いきなりミュージカル風に歌を歌い始めたのである。
「~♪目立綯は同人作家でもありまして~、本日入稿日だった為~、つい先程まで執筆中だったのである~。遅れて申し訳なかった諸君~♪」
ふむ。そうやってお笑い芸人に二足の草鞋を履かすパターンって随分と増えたよな。しかもクオリティの高い功績を挙げると来たもんだ。その逆も然りで、異業種がお笑い業界にちょっかいを出す機会も多くなった気がするぞ。一例を挙げると、ヒップホップ・ミュージシャンや漫画家や声優が、M-1グラ○プリにチャレンジをするとかだな。
「ふん。しかしまあ、そんな事はどうでもよくなる位のベルベットボイスを奏でやがるお嬢さんじゃねえの。ふう。周囲のギャラリーも一斉に頬を染め、一頻り見入り、聞き惚れてしまっていやがるぜ」
それによって奇跡が起きた。何とパラレルワールドへとトリップしていた圭助までもが、神速で元の世界へと舞い戻って来たのである(笑)。彼女の鈴を転がすような発声は、それ程までの効果が有ると言う証明なのだね。
「ふん。御陰で圭助の精神崩壊は免れたみたいだな。お帰りなさいませ、お兄様」
「なはは、恥ずかしながら黄泉の国に有りました、「冥土」喫茶より帰って参りました。なはは、お笑い的においしくなーれ♡」
「ふん。はいはい、喪兄喪兄キューン♡これで満足したかね、この死に損ないが。ふむ。しかし何と言うか圭助よ。今まさに、この空間が宝○大劇場と化したな。と言う事は誰ぞの男役の物真似を御披露目しておる、あそこの彼女こそが目立綯なのですかな?」
「なはは、それがちゃいますねんな。あの男装の麗人さながらの演出で現れた彼女は、常に芝居がかった○塚歌劇団員口調で喋るんが特徴の篠塚恵実て言いますねん。役職は目立綯のマネージャーっちゅう立ち位置で、残念ながら芸人とちゃいますねや」
「ふん。そうなのだな。ふむ。よくよく目を凝らしてみると、篠塚恵美から少し離れた後ろで、恥ずかしそうにおずおずと隠れている女子がいるみたいだぜ。あれが噂に聞くペ○ソナ能力と言うやつか」
「なはは、我は汝、汝は我やで……って、なんじやねん(なんでやねんの亜種)ワレ! ……ったく、ちゃうがな。あのツインテールな髪型で、目元を前髪で隠しとるあの子こそが目立綯でっせ。二人共、「ワタナベエンターテインメント学芸大学附属高等学校」出身やね」
「ふん。なるほどな。だが、あれだと初出は驚きがあるが、次回からは微妙な反応にならざるを得ない。ふむ。喩えて言えば、初見は厳つい顔でおっとろしいが、実はソプラノボイスで怖くないと言う安○大サーカス・ク○ちゃん感が半端無いな。そうなると、前説的役割のタカ○ジェンヌマネージャー・篠塚恵美に比べれば、当人である目立綯は大幅に地味だな」
「なはは、せやねん。しやけど目立綯の声帯模写の技術はホンマもんで、丸で声色を準えられた本人が、実際そこに現れたのかと錯覚させてまう程の仕上がり具合らしいで」
「ふん。ものまね番組における伝統のサプライズ、「ご本人登場」要らずと言う訳か」
「なはは、せやけど目立綯は長めな額髪のせいで顔がよう分からんときとる。ホンマはめっちゃ可愛いっちゅう噂もあんねんけど、俺は騙されへんで。なはは、そないなもん風俗のパネル写真で目の周辺か口元を隠すやり口やん。あないなん写真詐欺も同罪やで。あいつ絶対ブスやって」
「ふん。おなご共はプリクラや自撮り写真でも、兎角顔の一部を隠すよな。そう言った意味合いではマスク女子も同類か……って、いやいや! ついつい乗っかってしまったが、根拠も無しにそんな風に言ってやるなよ可哀想に!! これには滅多に動揺しない僕が、貴様の無神経な発言にドン引きだぞ!!!」
「なはは、……チッ、これで煜の女性ファンを離れさせよう思ての発言やったんやけど、おいそれとは引っ掛かりよらんかったか」
「ふん。そんな危険なトラップを仕掛けてあったのかよ。ふう。危ねぇ危ねぇ。と言うか、貴様ぼて食り転かすぞ(博多弁でぶっ飛ばすの意)! 今一度、心と体を引っ剥がして蝋人形にしてやろうかー!!」
そんなで、両雄が揃った所でS.O.B.が開始となり、ジャンケンで勝った金色マカロンが先攻を選択する。
圭助曰く、コントを得意とする金色マカロンなので、勿論今回も初公開の新作コントで臨む模様だ。でもってネタの内容だが、前半はSっ気満々の新堂麻琴が西園寺亜矢華を凌辱するのであるが、後半は西園寺亜矢華が鞭を携えた女王様キャラに豹変し、形勢逆転してしまうと言った、ちょいエロスパイスの効いた官能コントなのだ。ふん。目立綯さんや。貴様が同人作家と自負するならば、とっとと金色マカロンを題材にした薄い本プリーズ。
その対する目立綯はと言えば、先程の金色マカロンのコントを一人で二役、完璧にまで再現して見せたのである。ふむ。確かに凄い芸なのだが、同じネタを二回も見せられる事に、観客は今一笑えず終いなのであった。加えて声が似過ぎているが故に、却って不気味と言う印象も与えてしまい、結果は金色マカロンの勝利となったのである。
ふむ。だがしかし、今回は惜しくも敗北した目立綯ではあるのだが、このまま彼女の物真似レパートリーが増え続け、コントや漫才、或いはフリートークのスキルが上がったと考えれば、恐るべき強者となるポテンシャルを秘めているのである。ふん。何れはダダンダウンのライバルの一人となるのは間違いないであろうな。
「~♪どうやら~、うちの目立の負けな様だね~。さぁ~、綯よ~、敗者は潔く立ち去ろうではないか~♪」
俯き加減でふるふると震え、もの凄く悔しそうな目立綯は、帰り際に西園寺亜矢華の物真似で捨て台詞を吐くのである。
「オーッホッホッホ! モブキャラがちょいと目立ってみた所でこの体たらくですわ! ですけれども、必ずやリベンジをかまして差し上げますから、首を洗って待っていなさいなですわよ! 金色マカロンのご両名!! オーッホッホッホ!」
「ふん。目立綯の奴めが。やはり彼女の芸は神がかり的だな。西園寺亜矢華と全く同じ声なので、活字だけだと見分けが付かぬ、迷惑極まり無いキャラなのだぜ」
「なはは、ホンマに声だけは瓜二つやな。例え目立はんが不細工やったとしても、俺は声の補正だけでお付き合い出来ると確信したで。もう完全に西園寺亜矢華さんが脈無しやと判明しよったら、その時点で目立はんに乗り換えて口説き落としたんねん。ほいで晴れて恋人同士となった暁には、西園寺亜矢華さんの声でめっさ助平な事言わしたろっと」
「ふん。外道の極みだな貴様は。……と言いたい所だがな、その時は僕にもお声掛け下さいませ。僕とてKAGUYA-HIMEのボイスで濫りがわしい事を言わせてみたいしな。ふむ。そして最近ふと思うのだがね、圭助と会話をすればするほど、女性陣の好感度がだだ下がりの様な気がしてならぬのだよ」
「なはは、そらなんぼなんでも思い過ごしやって! もしそうやったとしても、そいつは遮二無二、「ざまぁ&メシウマ」な話やさかいに、むっちゃ気のせいでっせ!!!」
*
――今般のS.O.B.の際、金色マカロンに対して向けられる粘りつくような視線を、鋭き野生の勘を持ちたる西園寺亜矢華のみが感じ取っていた。
「にはは、あー、強敵だったけれど今回のS.O.B.にも勝てたしー、さくっとお兄ちゃんの事もおちょくれて気分は最高ッスよー。つーか、どーかしたッスか亜矢華先輩ー? にはは、亜矢華先輩ったら、すっげぇ怖い顔しちゃってからにッスー。あーしら金色マカロンの勝利なんスからー、もっと笑顔笑顔ッスよー。お笑い芸人は常に笑っとけって、亜矢華先輩いつもあーしに言ってるじゃないッスかー」
「……麻琴さん? もしかして、アナタは何も感じておりませんの?」
「にはは、何の事ッスかー? あっ、「感じる」って、ひょっとしてエッチ的な方向の感じるって意味ッスかー? にはは、亜矢華先輩ったらマジでどエロッスねー」
「そうですわね。わたくし、見られる事に興奮する異常性癖の持ち主な、変態どすけべ色情女ですもの。目線にはとても敏感なのですわ」
「にはは、涼しい顔で亜矢華先輩、マジかっけーッス! よっ、性欲のカタマリ!」
「馬鹿も休み休み言いなさいな。わたくしは真面目な話をしていますのよ。先のS.O.B.の間中、芸を披露しているわたくし達の事を、じっと見詰める気配がありましたのよ」
「にはは、そりゃギャラリーもいっぱい居ましたッスしー、見ている人の数もそれ相応になっちゃいますッスよー」
「いいえ、そうではありませんの。何と言いましょうか、邪悪で怨みのこもった思いの様な……ともあれ、とても嫌な感じの人を見る目が、たった一つだけ御座いましたのよ……何だか嫌な予感が致しますわ……」
「にはは、多分思い過ごしッスよー。んもう、亜矢華先輩ってば真面目過ぎなんスからー。でもそんな所がー、ギャップで超愛くるしかったりするんスけどねー」
「……わたくしの思い過ごしならよいのですけれど……」
「にはは、それかその熱い眼差しって、あーしのお兄ちゃんの物の疑いが濃厚ッスよー。お兄ちゃんってば亜矢華先輩の事マジで好きッスからねー。あっ、やっちまったッスー。にはは、お兄ちゃんには内緒にしとけよって言われてたんスけど、ついつい口走っちゃったッスー」
「オーッホッホッホ! それは当然ですわね! わたくしは地球上の生きとし生けるものから愛される存在ですもの! そんな事はとっくに承知しておりますわよ!」
「にはは、あんれまあ。この恋は実りそうもないので、うちのお兄ちゃんが不憫でならないッスー。にはは、ご愁傷様ッスなー」
――だが、この時の西園寺亜矢華の認識は正しかったのである。校舎の方から彼女達の一挙一動を、苦々しい顔で見つめる影が、確かにそこに存在していたのであった。
*
ふん。まずは驚くこと勿れだ。何と万能ボットR1-M1は、本日「聖ホリプロ女学院」に放水犯が現れる事までも予見していたのである。ふん。何だかこう言った場面を目の当たりにすると、満更タ○ミネーターの世界も絵空事じゃない気がしてきて、夜しか眠れないぜ。
ふん。なので聡明な僕に抜かりなしだ。実は先程の金色マカロン対目立綯のS.O.B.中、志國三のメンバーに学園内を巡回してくれる様に頼んでおいたのだ。しかも、母乳酸卍糧をお付きに引き連れてな。
ふん。何故に卍糧と共になのかって? そいつは圭助曰く、「卍糧の特技はおもろい人間を嗅ぎ分ける事や。おもろいやつをみつけれんねんから、わるいやつもみつけられるやろ」との事だったのでな。ふん。いや、皆まで言うな。その理屈も圭助の思考回路もおかしいのは承知の上で、僕も一抹の希望に賭けてみたのだよ。
だがその予想に反し、卍糧は首尾よく期待に応えてくれたご様子。何故ならば数分前、優輝誾から僕の携帯に、「フッ、卍糧さんの導きにより、無事実行犯を捕縛しましたよ」との連絡メールが届いたからである。
それから間もなくして、卍糧の奴めだけが僕らの元へと戻って来た訳なのだ。
……ふん。そう言えば少しだけ不可解な事があるのだよ。僕は志國三の誰かしら共、連絡先を交換した記憶は無いのだが、何時の間にやら僕の携帯に、奴ら三人の電話番号とメールアドレスが登録されていたのだ。こんな芸当、一体どうやって遣って退けたのだろうね? ……ま、いっか(良くは無い)。……それに、この事に深く思いを巡らせておりますと、どうにも薄気味悪う御座いますので、「きっとこれも奴原の業前の一つなのだろう」と無理矢理自分を納得させまして、――そのうち僕は考えるのをやめた。
「なはは、ほら見てみい、どないやねん。うちの卍糧ってば予想を上回る優秀さやろがいや」
「ふん。微塵も期待していなかったのだが、疑ってごめんね。そして、どうやら体育館裏にて容疑者を拘束しているのだとよ。さぁ卍糧よ。その場所まで案内を頼むぞ」
「なはは、まあ待ちや。折角の卍糧再登板でっせ。何の為にわざわざこの場所に戻ってこらした思てんねん。ちょいと彼女をこねくり回したくはないんけ?」
「ふん。凄いしたい! だがな、今はそんな事をしている場合ではないのだ。急ぎ現場に急行せねば」
「なはは、ちょっとくらいええやないか。取り敢えず卍糧出しといたら、皆が幸せになれんねん。この子の無敵なサモエド・スマイルを見たら、色んな事が全部どうでも良くなんねんから」
「ふん。今のこの状況は、全然どうでも良くなって良い案件じゃ無いんだけどな」
「なはは、ほれほれ卍糧ったら。こうやって全身を撫でたると、完全にうっとりした乙女の顔になりよりますわ。嬉しさのあまり尻尾が左右に高速フリフリで、殆ど発情した雌やんかいさ」
「ふん。まあ、テレビ界の三大視聴率は、「ラーメン」・「子供」・「動物」らしいからな。正しく猫や犬と言った獣は鉄板で数字を持っているのだから、これも有りなのかもしれんよな」
「なはは、これは別にTVショーとちゃうけども、人気あるんは正解や思いまっせ。実際ミーチューブやインスタの世界でも、ただ単にワンとニャンコを映しとるだけの動画が、桁外れの再生回数を記録したりもしよんねや」
「ふん。ちゃちなもんを上げるよりも、よっぽど効率が良いと言う訳だな。ふむ。僕とてこのままずっと卍糧をモフりたい気持ちは山々なのだが、あからさまな読者サービスで彼女を投入した茶番劇もここまでとしようぜ。さっさと行くぞ圭助!」
「なはは、いやぁ、ワンコって本当にいいもんですね。それでは又、ご一緒に楽しみましょう」
ふん。こうして僕と圭助は卍糧の後を付いて行き、志國三の元へと駆け付けた訳だ。ふむ。賊らしき人物の周囲を、志國三の三人がガッチリと取り囲んでいやがる形だぜ。
「フッ、到着しましたか、ダダンダウンのお二人。安心して下さい。こうして既にホシは身動きが取れない様、ロープにてがっぷり捕らえておりますから。フッ、非常に才気煥発な卍糧さんの大手柄ですよ」
「オー、全く誉れ高いワンちゃんネ。そして、ワタシ達も大変な闘いだったんヨ。ガチで暫く振りの大立ち回りをぶっかましちゃったんネ」
ふん。志國三の話を端的に纏めるとこうだ。
この束縛している嫌疑者だが、目出し帽で覆面をし、その手に握りしめるのは水ヨーヨーと言う、水を見るよりも明らかなり放水犯然とした怪しいスタイルで、体育館周辺をふらふらとうろつき回っていたらしい。
その怪人に、何時もは大人しいサモエドである卍糧が、尋常じゃないくらいに吠え罹ったので、これは志國三の三人も只事ではないと悟ったのだ。
そこで初めに獰猛な愛瑠璃が、「咎人なら死なしても正当防衛ネ! あいつ殺すヨ!」と咆哮しつつ、竜に乗っていきなり青竜刀で斬り掛かって行ったそうな。ふん。そりゃ悪手だろ、瑠璃んコ。裁判沙汰になった場合、先制攻撃且つ命を奪ったとなれば、圧倒的にこっちが不利になっちまうぞ。最悪、人違いかもしれんしな。
だが、これに放水魔は自分のキャリーケースの中に隠し持っていた、バズーカみたいな超巨大水鉄砲の猛水で応戦。されど咄嗟に反応した愛瑠璃の方も、負けじと竜の吐く業火で水勢を相殺するのであった。ふん。これであちらさん側は、ほぼほぼクロ確定した訳なのであるが、愛瑠璃の側も軽々しく本丸へとは近づけず、お互いに膠着状態となる。
そんな中、リーダーの山田漢だけは何もせず、お菓子を食べ続けていた。
しかし、そこは流石の優輝誾がアビリティを発揮。「目には目を、水には水を」って事で、彼は何処からとも無く大量の水を現出させるイリュージョンを発動。そいつを忽ち容疑者に打ちまけて動きを止め、首尾良く件の者を引っ捕らえたのだと主張している。
そんな中、リーダーの山田漢だけは何もせず、お菓子を食べ続けていた。
ふん。山田漢よ。いいや、この贅肉メタボ野郎! 貴様いい加減にしろ!!
「フッ、こちら側の世界へ飛ばされて以来、本格的な武力衝突は初めてでしたね」
「オー、その通りネ。だけど元の世界の化け物共と比べたら、温過ぎる戦闘だったヨ」
ふん。漫画好きのこいつらの事だ。話を針小棒大に語りたい気持ちは分かるよ。なので、この世迷い言は話半分に聞いていた方が吉である。ふむ。実際は精々、駄菓子屋で売っている様な小さき水鉄砲を持った犯人を、三人掛かりで取り押さえたと言った所かな。ずぶ濡れの事情だって、バケツに入っていた水を打っ掛けただけであろうよ。
ふん。哀れな奴らだ。狂信的に漫画を敬愛する余り、現実と虚構の区別がつかなくなっているのであろう。ふふ。だが僕は気が触れた輩にも寛容であるぞ。妄想の世界を喜々として語る志國三の気持ちを踏みにじるのは野暮と言うものだからな。僕は此奴等が話をしている間中、「うんうん」と優しく頷き続けて差し上げたのだよ。ふむ。最も単細胞の圭助だけは、ずっと馬鹿の一つ覚えみたいに、「志國三マジですごっ! マジでかっけぇ!」を反覆していたのだがね。ふう。やれやれだぜ。
「ふん。取り敢えずこの下手人の御尊顔を拝見してやろうぜ。ほれ、圭助さんや。その顔面覆を勢い良く取り去っておしまいなさいよ」
「なはは、後でこのフェイスマスク被って、みんなでGTA ○nlineの強盗ミッションごっこやって遊ぼうで! ほな、一気に引っ剥がしまっせよ! よいしょー! ……って、ああ! この顔ってばどこぞで見た事があるなて思たら、俺らが小学生の頃にブレイクしとったオネェ系お笑い芸人さんやん。最近はめっきり見ん様になっとったけども」
「イヤーン、そうでありんす! わちきは「オカマだけにお構いなく」の一発ギャグで人気を博した、あの人は今的ピン芸人こと、佐藤春菜でありんすよ!」
「ふん。ブレイク後間もなくして、彼女は性別適合手術を受けて、戸籍上も本物の女性となったよな。それからは美人だけが取り柄となってしまい、お笑い芸人としては詰まらなくなってしまったからな。人気低迷は当然だったと僕は思う」
「イヤーン、こんな眉目秀麗の年下男子に、美しいなんて言われたら照れるでありんす。でもそれとこれとは話が別でありんすよ。わちきはこれ以上は何も喋らないでありんす。弁護士を呼んで頂戴でありんすよ!」
「フッ、ここはこの稀代の奇術師、優輝誾にお任せあれ。ボクの代表芸の一つである催眠術にて、全てを吐き出す様にしてご覧に入れましょう。フフッ、さぁ、佐藤春菜さん。ボクの瞳をジッと見詰めて下さい。然すれば貴女は我々の質問に、何もかも素直に答えたくなる身体となるでしょう」
「オー、誾の幻術に掛かればイチコロネ。どんな相手であろうが、立ち所に言いなりにさせる事が可能なのヨ」
「ふん。最早何でもありだな。その内ひみつ道具的な物もバンバン出してくる勢いを感じやがるぜ。ふん。もしや貴様らだけで大長編と題して、劇場版でも制作する腹づもりではあるまいな?」
「なはは、それって多分俺らが映画版補正って事でごっさ格好良うなったり、ジャイロたけしやらがめっさええ奴になったりするストーリー展開までは見えたで」
「ふん。その回限りのゲストキャラクターが、使い捨てるには中中に勿体なかったりとかな」
「オー、そこでワタシなんぞはヒロイン属性が割り増しだったりするんよネ。と言うか、お前らちょっと静かちゃんにしろヨ。誾が仕掛ける暗示に支障が出たらどうするネ」
「ふん。所で物は相談だが愛瑠璃さんや。次は姫乃麗と言う生娘に、ちょっくら優輝誾の術を施して貰いたいのだが宜しいかい? ふん。無論猥褻目的全開だとか、口が裂けても言えまいがね」
「なはは、言うとる言うとる、めっちゃ言うてもうてるて。内なる煩悩の声が垂れ流しやがな。ほなら、俺も西園寺亜矢華さ(略)」
「オー、お前ら清々しい位に女の敵ネ。何でこんなのが女性に支持されているのか、ワタシには甚だ疑問ヨ」
「フッ、長らくお待たせ致しました皆さん。術式完了ですよ。では瑠璃さん。佐藤春菜さんの証言記録役をば、宜しくお願い致しますね」
「オー、既にワタシの携帯にて、動画撮影がスタンバイ済ネ。バッチリンコですだヨ」
「フッ、さぁ、佐藤春菜さん。犯行の動機などを、洗いざらい話してもらいましょうか」
「イヤーン、それはでありんすな、芸人人生が水の泡で→背水の陣からの→向こう見ず(水)な行動を取ってしまったみいなー? イヤーン、どんだけーのどんびきーでありんすよー」
「ふん。駄洒落とかそこいらに居る素人の所業かよ。一体全体どうしてくれるんだ、この空気をよ。よもやその様な軽薄ギャグが、犯行理由ではあるまいて」
「なはは、すべっとるなぁ~。しかも芸風かて、昔のまんま変わってへんのが辛いわ~。懐かしさはあれど、そら売れんくなるて」
「オー、やっぱり誾の技が失敗しているんじゃないかネ? これはダダンダウンとワタシが調子乗っちゃって、喧しくしていた所為かもヨ? 差し当たり小○館に詫び入れしとくネ」
「フッ、あのさぁ、佐藤春菜さん。お笑い芸人としての血が騒ぐ気持ちは分かりますが、その手の御粗末な小ネタは不要ですので。ボク自身の沽券に関わりますもので、早い所、真相を話して頂きたい」
「イヤーン、ごめんちゃいでありんす。いえね、わちきってばお笑いのお仕事が全く無くなってからは、華々しいお笑いの現場を見ると憎々しく思っちゃってねでありんすよ。そいでむしゃくしゃしちゃって、ついつい放水何て事をやらかしちまったのでありんす」
「なはは、んまあそらね、仕事が激減してもうて大変やったやろうけども、悪事に手ぇ染めたらあきまへんわ」
「イヤーン、そうなのでありんす。でもね、初めは小型のアクアリウム程度に止めていたのでありんすよ。何だか水の揺らぎや音を見ていると落ち着いたのでありんす」
「ふん。せせらぎの音や波の音、静かな雨音など、水の音には脳のリラックス効果があるらしいからな。それは原始の記憶とも繋がっていて、遺伝子レベルでそう言う風に組み込まれているのだとよ」
「イヤーン、そうしたらわちきの水への欲求は上昇し、結局は水辺のキャンプ場での、アウトドアレジャーにまでエスカレートしたのでありんす。その様に骨の髄まで水に魅せられ続けている只中に、とある殿御から声を掛けられたのでありんすよ。その時に彼は、「クックック、どうせなら貴女をこんな惨めな状態へと追いやった、このお笑い至上主義の世界に復讐してみませんか? そうですね。まずは手始めに、忌々しいS.O.B.の会場を冠水させると言うのは如何でしょう? フッフッフ、大層ぐっしょりと濡れて、瑞々《みずみず》しき光景が見られると思いますよ」って、仰ったのでありんす。イヤーン、彼の声も真似て再現してみたでありんすが、クリソツだったでありんしょ?」
「なはは、不意に「どや? 似とったやろ?」て聞かれましても、俺らその奴さんの事をこれっぽっちも知らんし、似てるか似てへんかは分かりかねますわ」
「ふん。そんな事よりも、今事件には黒幕が居やがった様だな。一体誰なのだ、その男は?」
「なはは、住所、氏名、年齢、職業、電話番号、メールアドレス、生年月日、血液型、最終学歴、食べもんの好き嫌い、その他公知にされてへん個人情報やプライバシーも余さんとの。なはは、最低この位は知っときたい所やで。……モチのロン、西園寺亜矢華さんのな!」
「ふん。どーどー圭助。目が血走っており、どう見ても危ない人だぞ。ふん。ぽかんとしておる佐藤春菜よ。この様に圭助は家庭の事情(弟)で、ちょっぴり心気症を煩った不憫な子なのだ。気にせず続けてくれたまえよ」
「イヤーン、はいなでありんす。ええと、信じられないかもしれないけどでありんすが、その方とお会いしたのはそれっきりでありんしたし、本名は疎か詳しい事は何一つとして知らないのでありんすよ。けれどもその殿方ってば、何せわちき好みの眼鏡が似合う知的イケメンでありんしたし、「ま、いっか、やっちゃお」てな感じで、二つ返事で引き受けちゃったのでありんす。☆(ゝω・)vキャピ」
「なはは、いや、キャピやあらへんねん。そないな軽いノリでやってええ事とちゃいますやんか。放水罪って結構重い罪に問われるんでっせ。場合によっちゃ死刑もあり得る罪状ですわ」
「イヤーン、そこまでの大罪だったなんて、わちきの認識が甘かったのでありんすな。これは言い訳となりんすが、その時彼に、出し抜けに唇を奪われちゃったのでありんすよ。しかも舌を絡めまくる濃厚なディープ・キスでありんしたし、頭がぼーっとして、トロトロになっちゃったのでありんす。わちきもこんなに煽情的なのは久方振りでありんしたし、そのまま彼のテントにてワンナイトラブを致す事になっちゃったのでありんすよ。って、イヤーン、ここから先は十八歳未満お断り系でありんすから、この話はこれにて終了でありんす」
「ふん。その野郎のアソコはテントを張り、そして貴様のアソコは水だけにウォータージャグだったのよんってか? ふん。ゆ○キャン△ならぬ、えろ○ャン△かよ」
「なはは、嫌やわ、煜さんったら。人気アニメ・ゲーム作品をモチーフにしたコスプレ・パロディアダルトビデオを多数制作しとるAVメーカー、T○tal Media Agencyみたいな事を言うてんちゃうわ」
「ふひ。とても応援していましゅよ、T○Aさん。頑張って下しゃい」
ふん。「あだるとびでおってなぁに?」ってな良い子のみんなは、誰か大人の男衆に聞いてみようね。ふふ。お兄さんとの約束だよ。
「なはは、ちゅうか接吻って人の思考をねじ曲げるほどなんやな! チェリーボーイの俺には分かりまへん! せやさかい尚の事、ここで猥談閉幕の生殺して、そんな殺生な! 活字表現において年齢制限なんて無いんやし、もっと詳しゅう聞かせろ下さいや!」
「ふん。口付けに関してだが、その者が媚薬の類を使った可能性もあるかもな。だが、そんな事よりもエロ話を途中で止める事の方が大問題だよ。僕達未経験男子の知的好奇心を舐めるなと声高に叫びたい。ふん。ふん。ふんす。正直興奮が止まらんぜ」
「なはは、せやせや。俺、気になります! こうなったらその男に是が非でも会うしかあらへんな! そいで続きを話してもらうんや!」
「イヤーン、思い出すだけで体が火照ってしまうのでありんす。彼の見た目は二十代後半でありんしたが、落ち着き方が半端なかったのでありんすよ。イヤーン、実年齢は幾つだったのでありんしょか?」
「フッ、盛り上がっている所に腰を折る様で大変恐縮ですが、ここまで話を聞かせてもらったボクなりの見解です。そのアドバイザー男ですが、もしやしてボク達が持つ様な、特殊能力が開眼しかけている可能性があります。それだと佐藤春菜さんの意識を操れる程のベーゼも納得が行きますし」
「オー、折しも焔煜が今しがたほざいた様な、心を動かすレベルの神変不思議な薬物を、独力で生成していたとすれば尚更ネ。これはワタシ達の元居た世界の余波が、刻一刻とこちらの世界に干渉してきている裏付けヨ。その眼鏡の首魁野郎ってのが、何の器具も使わずに、自力で手から水のエネルギー波を捻り出す日も近いだろうネ」
「フッ、そうなると、ちょっとばかり厄介な事になりますもので、早急に対策を講じなければなりませんね。……ですがそれと同時に、ボクの武人としての血がたぎってしまっているのにも、何ともはや、困ったものですよ、フフッ」
ふん。イカれる志國三の約二体よ。話がややこしくなりますで、ちと黙っててくんろ。ふん。夢想もほどほどにね。てか、あるわきゃねぇだろ、んな事が。ふむ。今後、国はこう言った中二病重症患者を、精神病院の閉鎖病棟に隔離すべきだと強く願うのん。
「イヤーン、だからわちきってば、もう一度あのお方に再会出来るかもって期待感で、不道徳を重ねていた面もあったのでありんす。よくよく考えると、わちきの恋心はピークを迎えていたのでありんすな」
「ふん。そりゃ完全にサイコパスの思考だぞ。しかし、その助言者の外貌だが、優輝誾に引き続き、又しても男前枠が被るのが気に食わないぜ」
「なはは、このタイミングで、今更それ気にするぅ? 別にええやん。お笑いのやる気を向上させる、女子人気を獲得する為には、色男が多いに越した事はありまへんわ」
「フッ、ですが手掛かりも多いに越した事はありませんからね。さぁ、佐藤春菜はん。もっと核心的に重要な何かがあるのであれば、細大漏らさず吐露すべしです」
「イヤーン、そう言えば、あのお方は別れ際にこうも言っていたのでありんす。「クックック、某が直接手を下す時があるとすれば、それは彼のダダンダウンがS.O.B.を執り行う会場のみですね。より人気者のステージである方が、話題性を得ますから。フッフッフ、テロリズムの定義は、「広く市民に恐怖を抱かせる事」ですからね」と、仰っていたのでありんすよ」
「ふん。僕らを諸にご指名じゃないか。良いだろう。受けて立とうではないか。ふん。しかしその二枚目も迂闊だったな。ここまで自分の事をべらべらと喋られてしまうとは、夢にも思わなかっただろうよ」
「なはは、こっちには超弩級高校生芸人の志國三が居る事に気付けへんかったのが敗因やね。その野郎も逮捕待った無しやで」
「イヤーン、でもそれって、又再びあのお方に会える可能性が高いって事でありんす。イヤーン、これって運命の赤い糸で結ばれているって証拠でありんすよね。イヤーン、レッツ仲睦まじく、刑務所にレッツラゴーゴーでありんすな」
「なはは、春菜はんって、そう言うポジティブキャラクターで売ってましたよな。今回の場合は褒められた事と全然ちゃいますけども、何事も前向きに捉えるそないな所が、お茶の間の皆さんも好きでしたんやで」
「ふん。しかし、どんなに自身の人生が上手くいっていないからと言っても、罪を犯してしまえば全てお終いって事さ。ふん。佐藤春菜よ。大人しく牢獄にて臭い飯を喰らいながら不徳義を悔いな」
「イヤーン、シビアなー。……けれども君の言う通りで、ぐうの音も出ないのでありんす……そうでありんすな……わちきは自首するでありんすよ……イヤーン、オカマだけに、つカマっちゃうわーん、何てねーでありんす……」
「フッ、皆様お疲れ様でした。佐藤春菜さんから引き出せる情報はこんな所でしょう」
そう言いながら優輝誾が指を鳴らして術を解いた後は、佐藤春菜も自分の仕出かした事の重大さを理解したのか、作り笑いをしつつ、力無く項垂れてしまった。
「フッ、それでは佐藤春菜さん。このまま警察署まで、ご同行願いましょうか」
「オー、この元オトコ芸人パイセンの供述も、全て動画で録画させてもらったからネ。ワタシの仕事はパーペキヨ」
ふん。僕は国家権力の犬と絡むよりも、愛らしい犬である卍糧と戯れたいので、後は志國三に丸投げして見送る事にした。……と言うのは冗談で、本音は寂しそうな佐藤春菜の後ろ姿を見た時に、何とも言えぬ居た堪れない気持ちが押し寄せてしまったものでね。
「なはは、めっちゃおもろいか言うたら微妙やったけども、居るだけで場が華やぐキャラクター性で、あんなけ明るい人やったのにのう。なんやら残念な末路やで」
「ふん。折角一度はお笑い道の軌道に乗ったにも関わらず、彼女は不覚にも外道に落ちてしまった。ふん。人生とは何が起こるか分からないものだな」
「なはは、悲しい話やけど、ごもっともやで。せやけどな、世間では一発屋芸人て野次る輩が多い春菜はんやけど、世の中の殆どの奴が一発屋にもなれへん不発芸人だらけなんや。言うてもいっぺんは時の人となった訳やし、これには胸を張ってええ価値があると思うねんよ」
「ふん。それには僕も文句なしに全面的に同意する。掛け替えのない一生分に相当する誇るべき宝さ。そして圭助よ。これにて、めでたしめでたしではないからな。その佐藤春菜に最後の一線を飛び越えさせた真犯人が存在する事実だ。許すまじき蛮行ぞ」
「せやな。しかもそいつは今のお笑い大国日本に横槍を入れるテロリスト気取りやしな。幾らお笑い至上主義に不満があるっちゅうても、犯罪が許されてええっちゅう理由にはなれへんさかいな」
「ふん。しかも其奴は僕らをターゲットにしているみたいだぜ。ダダンダウンがS.O.B.に出場する事を心待ちにしているのだ。ふん。大歓迎して、きついカウンターをブチ込んでやるとしようかい」
「なはは、ついに俺らの出番っちゅう訳やな! 必ず次で解決したろやないかい!」
「ふん。そうだな。頑張れよ圭助。骨だけは拾ってやるから、心置きなく貴様だけでやってこい。危なっかしいのはおっかないし、僕はお家でぬくぬくゲームでもしてるね」
「なはは、なんでやねん! 煜も来るんです! 何故なら俺とお前でダダンダウンですからね! ええ加減にしなさい!」
「ブヒヒ、何だかこちらの話が本筋の様になってしまい、ジャイロたけしとの対決なぞ、忘却の彼方に消えてしまいそうではあるブヒが、水だけに水面下で動いていた裏話にも刮目して見よだブヒブッヒー」
「なはは、ナレーション風の締め台詞、ご苦労さんです山田はん。ちゅうかあんさんまだ居ったんかいな。一人だけ残って何しとんねん」
「ブヒヒ、基本的に難しい事は誾と瑠璃に任せっきりブヒ。甘露を摂取し過ぎて脳まで糖質と化し、頭の働きが鈍い自分が一緒に付いて行っても、足手纏いなのブヒブッヒー」
「なはは、そないな切ない事を言わんといて下さいよ。もうええわ。俺らと此処に居てもええんやで」
「ふん。掛値無しに涙が溢れて止まらんぜ。僕らがそばにいてやんよ。ずっとずっと、そばにいてやんよ!」
「ブヒヒ、そんなもん別に良いブヒ。この程度じゃまだまだ食べ足りないし、同情するなら菓子をくれブヒ。二人して自分にお菓子を奢って下ちゃいブヒブッヒー」
「なはは、関心あんのは食欲オンリーかーい。もうええわ」