僕が君を守るから
少し表現を変更しました
赤を基調にして所々に白地のラインが入った浴衣姿が幼さの残る
↓
赤いべべ着た可愛い
に変更しました
ヒューーードンッ!!ヒューーードンッ!!
夜空に浮かび上がる大輪の花が一瞬の煌めきと共に儚げに散っていく姿を横目に僕は必死に君を守っていた。
この町で行われる夏祭り。
何千発もの花火が打ち上げられることで有名らしく毎年、多くの観光客で賑わう町で一番のイベント。
そんな祭りの人混みの中で夜空を彩る花火にも目もくれず僕は君を守るのに必死だった。
一目惚れなんて信じていなかったけれど僕は君に初めて出会った瞬間--恋に落ちたんだ。
プックリとしたふくよかな唇とキラキラと輝く大きな瞳、赤いべべ着た可愛い君に似合っていて僕は目が離せなくなっていた。
声をかけようか…どうしようか…。
なかなか勇気が踏み出せないでいたけれど今、声をかけないときっと後悔してしまう。だって僕には時間が残されていないから…。
この夏祭りが終わるまでに君と会話ができなければもしかしたら永遠の別れになるかもしれない。
「あぁ~、またダメだったぁ」
近くで残念そうにがっくりと肩を落としながら項垂れる男の人の声に可哀想だけど正直に言って僕はほっとしていた。
もし男の人が上手くいっていたら僕は想いを伝えることすら出来ずに君と別れることになったかもしれないから。
男の人が去ってから僕は覚悟を決めた。
勇気を振り絞って声をかけることにした。
君と別れるのはやっぱり嫌だったから。
僕は小さな声で君に優しく声をかけた。
--ねぇ、大丈夫?
僕の声に一瞬だけビクッと体を震わせると君は少し怯えた様子で僕を見つめてきた。
その姿に僕の心は罪悪感で一杯だった。
もっと早く声をかけていれば君を不安にさせずに済んだかもしれないし力になれることもあったかもしれない。
ぼくだってさっきみたいな目に遭ったら怖いんだから君にしてみたら本当に生きた心地がしなかっただろうし。君の側に近づくとやっぱり少し震えていた。
--えっ?ええ…大丈夫。
僕に害がないのが分かったのか微かに震える声だけれど僕に頷き返してくれた。
--ねぇよかったら僕と一緒にいない?さっきみたいな事が起きても二人ならきっと大丈夫だと思うから
自分で言っておいて何だかナンパみたいだなと心の中で苦笑しつつも君がなんて答えてくれるのか不安で仕方ない。
そんな僕の不安をよそに君は品定めをするかのように僕をじいっと見つめてくる。
--あなたは悪い人じゃなさそう…お願いしてもいい?
--もちろんだよ!僕が君を守る!
安心させようとニカッと笑うと一瞬だけキョトンとした表情を浮かべた君はすぐに笑顔を見せてくれた。
この笑顔を守るんだって覚悟を決めて僕はキッと上空を見上げると幾つもの白い輪の形をした例のアレが今にも僕らに迫ってきていた。
--あっ、危ない!
迫り来るアレが君に向けられた瞬間、僕は君の背中を押す。
けれど、すぐに別のが迫ってきて僕らは縦横無尽に逃げ回って何とか生き残ることができていた。
花火の音が連続して夜空を彩り始める。
それは夏祭りが終わりに近づいている証拠。
あと少しでこの夏祭りも終わる。
人混みが少なくなってきて僕は君の傍らに近づくと夜空を彩る花火を見上げながら勇気を振り絞って--。
--ねぇ、生き延びたら僕と……
最後まで言うことが出来ずに君に言葉を遮られた。
--だめよ、その言葉は死亡フラグだから
僕の言葉を遮る君。死亡フラグってなに?
「夏祭りもあと少しに迫って参りました。ご来賓の皆様、楽しんでいただけてますでしょうか?夜店の屋台もあと一時間ほどで撤収作業に入りますのでまだ夜店を堪能されていない方は楽しんで帰ってくださいね」
祭りの実行委員会が夜店の売り上げアップのために宣伝アナウンスを流すと花火を堪能していた観光客の一部が最後の夜店を楽しむために舞い戻ってきた。
--くっ、余計なことを…
思わず悪態をついてしまう。
できればこのまま祭りが終わってほしかったのに。
--大丈夫、あと一時間じゃない。きっと私たちなら大丈夫よ。だって、あなたが守ってくれるんでしょ?
--もちろんだよ!
動きすぎて少し疲労感はあったけれど君の笑顔を守るためなら、このぐらいなんでもないさ!
周囲を見渡すと徐々に人だかりが増えてきていた。真剣な表情で僕らを見つめる一人の女の子が持つアレがゆっくりと近づいて来るのが分かった。
--あぶない!
--えっ?あっ…!
君を守るために僕は自ら飛び出して………。
「わぁ~ぃ、金魚さんとれたぁ♪」
嬉しそうな女の子の声が間近で聞こえる。僕は狭いお椀の中で泳ぎ回りながら君が無事かどうかだけが気がかりでしょうがなかったけど、どれだけ泳いでも彼女のいる水槽は見えない。
そう僕らは金魚で必死に逃げ回っていた場所は縁日での定番、金魚すくいの大きめの水槽で僕は女の子の持つお椀の中にいる。
--きっと、無事だよね…。
僕はそう信じてお椀の中で俯いていると僕らを育ててくれた的屋の親父さんが女の子に話しかけてるのが聞こえて何とはなしに僕は会話に耳を傾けた。
「お嬢ちゃん、その子一匹だけだと可哀想だからこの子も連れていってあげてくれないかな?その子といつも一緒にいたから」
親父さんの言葉に僕はピクリと反応してしまった。いつも一緒にいたって……まさかだよね?
「おじちゃん、いいの?」
女の子が親父さんに尋ねる。
「おじちゃ…お兄さんね。もう、お店を閉める予定だったからお嬢ちゃんにだけサービスだよ」
「うわぁ~♪おじちゃ--お兄さんありがとう!」
うん、良くできたお嬢ちゃんだ。
確か親父さんはまだ二十代半ばだからね。
これなら僕も大事にしてくれそう。
…あとは、誰が来るかだけど?
期待と不安の表情で水面を見上げていると--。
ポチャンッ。
水面に小さな波紋を浮かべながら僕の傍らに舞い降りた天使は夜店の明かりが反射して輝いて見える。
--きちゃった…
そう、僕にとっての天使…君が現れたんだ。
はにかんだ笑みで照れ臭そうに視線を逸らしながらチラチラと僕を見つめる君の姿に愛らしさを感じる。
「じゃあ、大事に育ててあげてね」
「うん!」
元気に頷く女の子の手には僕と君が入った水袋。
二人だとちょっと狭くて少し動いただけでも互いが触れ合ってしまってドギマギとしてしまう。
なにか会話をしなくちゃ…なんて思っていたら。
ヒューーーードンッ!
一際、大きな花火が夜空を彩った。
祭りの終わりを告げるその花火を二人で見つめながら僕はそっと君に寄り添って--。
--これから宜しくね
その言葉にはにかみながら頷く君。
大丈夫、僕が君を守るから。
~~fin~~
その後---
夏祭りも終わり小さな金魚鉢で泳ぐ僕らを楽しげに見つめる女の子にお母さんが声をかける。
「名前は決めたの?」
「うん!この子は祭りちゃんでぇ、こっちの子はちょっと黄色いからキミーにしたの♪」
「そう、祭りとキミー……夏祭りと君」
お後が宜しいようで(笑)