ゾンビハンター誕生
俺と斎藤さんはアナセの案内でネクロマンサーに支配されたゾンビのビゾン村に向かった。他の町からかなり遠く、隔離されている事が幸いして被害は少ない方だという。ゾンビの感染は防ぎたい。海外ドラマのような世界になるのは嫌だ。
「そろそろ到着します。この道をこのまま真っ直ぐです。それでは、私は足を引っ張るので戻りますね。報酬は後日改めてお渡しします」
アナセと別れ、俺達は道を進んでいく。既にちらほらとゾンビが現れる。大抵は村人のゾンビだが、冒険者や騎士のゾンビも混ざっている。
「剣よ伸びろ」
俺はシールドソードを3メートルまで伸ばしてゾンビの脳を狙って斬りつける。まさか異世界でゾンビの海外ドラマの体験が出来るとは思わなかった。
もしも生きていればいい人だっただろうなとか、可愛かっただろうかとか、無念だったろうなとか、悲しかっただろうなとか、色々考えたら腕が震えた。
考えたら負けだ。感染を広げる訳にはいかないし、死んでも獲物を求めて動き回る地獄から解放すると思って行動しよう。俺は決意を新たにゾンビと向き合った。ゾンビの動きは遅く、走り出すまでにタイムラグがある。その歩きから走りに変わる瞬間に脳を狙って突いたり斬ったりを繰り返す。
「マモルさんさすがね15体撃破」
「斎藤さんも凄いよ10体撃破」
斎藤さんは木の棒を華麗に操りゾンビを倒していった。この棒さばきは海外ドラマを見た後で丸めたポスターを振って練習した事があるなと思った。
「斎藤さん、ウォーキングゾンビ見て棒術の練習したでしょ」
「うん。そうよ。よくわかったね!」
「いい棒術だ。一応シールドで硬度を増しておくね。先端は尖らせておく」
「マモルさんありがとう」
俺達は体に全身を守るシールドで保護し、ゾンビを斬って斬って斬りまくった。日が落ちるとゾンビの動きが素早くなり、何度か噛まれそうになったり、掴みかかられた。
「マモルさん危ない」
俺の危機に斎藤さんが気がつき、背後のゾンビを倒してくれた。恩返しという訳ではないが、斎藤さんの後ろのゾンビも眉間を貫いて倒した。
「マモルさんありがとう。そろそろ、背中をくっつけて回転しながら倒してみようか。これ憧れだったんだ」
俺と斎藤さんは背中をくっつけて回転しながらゾンビを斬りまくった。50体は倒した。もう、襲ってくるゾンビがいなくなった頃、本命のネクロマンサーが姿を現した。
「あーあ、僕の大切なおもちゃの兵隊壊さないでよ。集めるの大変だったんだから」
「お前は危険だよ。何故ゾンビを生み出すんだ。この感染が世界に広がったらどうするつもりだ」
「ん? 何を言ってるんだいお兄さん。全世界をゾンビで埋め尽くして支配するのが僕の夢だよ。この村はほんの手始めさ」
ネクロマンサーは少年のような話し方をするが、シワだらけで、声は若いけど顔は初老というアンバランスでいびつな感じがした。こいつは社会の毒となる。俺は直感した。能力10倍で一気に勝負を賭けてやる。最初から飛ばして行くぞ!
「ふーん、なかなか早いじゃないか」
俺の攻撃がことごとく避けられる。何故、世の中悪人はこうも強いのだろうか。25回の攻撃が全て避けられた。だが、背後は隙だらけで斎藤さんの背後からの強打に頭から血を流した。
「このブスアマがー! 犯すぞカスがー!」
「誰がブスだ。斎藤さんは世界一可愛いんだよ。俺の中ではな!」
俺は斎藤さんの攻撃でネクロマンサーの意識が一瞬飛んだ隙を捉えて5回突き刺した。ネクロマンサーは口から大量の血を吐き出した。
「ちくしょう、俺の夢が……世界中に僕のペットを広げる計画が……お師匠さま。どうか、このクソ虫達に血の制裁を!」
「世界は破滅させない。終わりだ!」
俺はネクロマンサーの首を切り落とした。こんなにも醜い顔があるのかという不快な顔で絶命している。気になるのはこいつは単独犯ではない。より強力な師匠という敵がいる。
「斎藤さん、アナセさんにこいつの師匠の事を聞いてみよう! 何か知ってる風だった」
「うん。そうしましょう」
「いえ、その必要はありませんよ。一部始終を木の上から拝見致しておりました。あなた方のテストは合格です。今度はゾンビに支配された町を解放して頂きましょう。と、その前に報酬をお支払しますね。350ゴールドです。さて、次の報酬の話は目的地に向かう時に歩きながら話ましょうか」
こうして俺達はゾンビがはびこる町に出向く事になってしまった。いくら対ゾンビにほぼ無敵とは言え、町単位となれば数千はいるだろう。正直足が恐怖で震えてしまう。決して武者震い等ではない。俺と斎藤さんの能力が無ければ絶対に引き受けてはいけない任務だ。