ギルドの設立は隣の国!?
斎藤さんにまた朝早く起こされた。まだ暗い。鳥も眠っている。朝食は適当に食べてと書き置きを残し、俺はどこかに連れて行かれる。ハリド村に到着すると、貧民街にいた人達の一部が建物の掃除と整理をしていた。
「マスター、サブマスターおはようございます」
全員が一時作業を止めて挨拶してくれた。
「おはようございますレビルさん、ヘンケルさん」
「サブマスターが名前を覚えてくれているとは光栄であります」
「レビル村長これはどこに置けばいいですか」
「忙しい所お邪魔してごめんなさい。それでは、私達はもう行きますね。村の復興頑張って下さい」
斎藤さんに腕を引かれるまま村を出た。ゴブリンに占領されていた所から村を出るのは始めてでドキドキした。ここの道を通るのは久しぶりだという人達が多いだろう。今まで通れなかったのだから。
「マモルさん、毎日私があなたの体を拭くのも今日で最後かもね。ふたりで冒険してお金が儲かったら風呂でも作っちゃう?」
「今日は今から冒険するのかい?」
「うん。ギルドを設立して来るついでにね。隣の国でギルドを立ち上げれば報酬は9割貰えるし、昨日のような悔しい思いはしなくて済むと思うの。昨日の依頼は受けただけ。今日からは積極的に依頼を探しに行くわよ」
長い林道を越えると国境があり、さらに数分歩くと大きな町が見えた。町に入ると斎藤さんが屋台で沢山両手食べ物を抱えて沢山買ってきてくれた。
「そこのベンチに座って食べましょう」
「うん。ありがとう斎藤さん」
ゆっくりと朝食を食べて、異世界のお茶を飲んだ。異世界の料理は味はともかくボリュームが凄くてお腹いっぱいになった。
「さあ、稼ぎに行きますか」
「いらっしゃいませ」
隣の国のギルドに入ると、かなり豪華な作りだった。ギルド設立の話を進めると、ギルド組合に参加する事を勧められたが、儲けの10%を納める事に抵抗あるので単独で立てる事にした。このギルドから仕事を受けると手数料20%と国に税金10%取られるので、ギルド組合に10%も支払うのは痛い。ましてや、隣の国のギルド組合だ。特に深い付き合いになるとは思えない。
「それではギルド設立の手続きは完了しました。今日からはライバルですね。お互い、より沢山の仕事を受けられるよう頑張りましょう」
「はい。頑張って依頼を探してきます」
斎藤さんが美人の受け付けのお姉さんと固く握手をした。そして、ギルドを出て斎藤さんは勢い良く歩きだす。それにただ付いていくだけの俺。斎藤さんの行動力には脱帽だ。町で一番大きな家に到着した。
「あのー今日ギルドを設立した者です。何か依頼はございませんか。能力と腕には自信があります」
斎藤さんは勇気がある。大声で見知らぬ金持ちの家に飛び込み営業を仕掛けてしまった。
「旦那さまが会ってもよいとの事です。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
俺達は貴族の屋敷っぽい所に入ってしまった。緊張感する。だが、斎藤さんは堂々としている。俺の手を繋ぐ力は凄まじいが。
「お初にお目にかかる。私はこの近隣すべてを納める領主バトラーである。して、そなた達の能力を聞こうか」
「初めまして。私は斎藤侑希隣の方はギルドマスターの横井護さんです。私は大した事ない能力ですが、隣の彼の能力は素晴らしく、100人に防御の幕を展開し、剣を弾く事が可能で、更にその守る力は形を自由に操れ、爆弾とすることも、固くて鋭く長い剣にする事も可能です。更に身体強化の力もあわせ持っております。そこで私の出番でありまして、その疲労した肉体も特殊能力も回復させる事が出来ます。私達が合わさることで、永久に力を発揮し続ける事が可能になるのです」
斎藤さんの熱い演説が終わると貴族は拍手した。
「これはこれは。是非とも仲良くすべきという事ですな。わかりました。仕事を割り振りしましょう。所でその剣を作れると言いましたが、木よりも長い剣は作れるのですか?」
「はい! やってみます」
俺はシールドで作った剣を伸ばしてみた。すると、天井にある宝石で飾られたシャンデリアを揺らす事ができた。
「おお、これは素晴らしい。森の巨人達の討伐を依頼したい。1匹に250ゴールド出しましょう」
「はい。喜んで! あの、国への税金はどうなりますか」
「こちらから支払っておきましょう」
「ありがとうございます!」
こうして、俺達は依頼を受けることに成功した。直接受けたので100%の利益が入ってくる。斎藤さんには毎日驚かされる事ばかりだ。貴族の館を出て、そのまま奥の広大な森の中に入ると、トリフっぽい匂いのキノコや、マツタケっぽい大きなキノコが生えている。さすが貴族の持っている森だ。採って帰りたいが、断腸の思いで我慢した。俺達は森の中を進み、大きな洞窟を探す。
「いやーさっきは緊張しちゃった。マモルさん手を握っててくれてありがとうね」
「あれで緊張してたの? 凄い勇気だと感心してきたよ」
「もう心臓バクバクよ。マモルさんと手を繋いでないと絶対無理だった」
そんな話をしていると、目の前に大きな影が出来た。
「危ない。シールド全開!」
俺はふたりぶんのシールドを全開で展開した。俺達は地面にめり込んだ。シールドの丸い形が地面にくっきりと残った。シールドは一撃で破壊された。振り向くと巨人が1匹いた。身長は8メートルはあるだろうか。俺はシールドの剣を10メートルにまで伸ばし、身体強化5倍くらいにして斬った。すると巨人は真っ二つ。大きな断末魔の叫びを上げた。一瞬だったので体の負担は少ないが、筋肉が重い。
「斎藤さん少し回復をお願いできるかい」
「もちろんよ。マモルさんお疲れ様」
斎藤さんの回復能力で筋肉痛と精神の疲労が消えてくい。そして、更に肉体と精神の上限が増した気がした。これがレベルアップの感覚なのだろうか。とても気持ちがいい。先程の巨人の断末魔の叫びを聞きつけて巨人達が4匹集まってきた。俺は15メートルのシールドの剣を作り、10倍の身体強化を行う。先制攻撃で前方の2匹を倒し、残りは2匹。攻撃を超高速移動で避ける。斎藤さんには高密度のシールドを貼ってガードした。そして、回避した瞬間に腕を切り落とし、返す力で首を叩き落とす。
最後に残った1匹は大きな岩を削った棍棒を持っていて苦戦は目に見えていた。凄まじい速度で棍棒を振り下ろす。回避するのがやっとだ。それと言うのも、岩の棍棒が地面を叩くと地震が起きる。それで身動きがとれずに俺は反撃が出来ず、回避ばかり連続でする事になっている。このままでは俺のターンはいつまでもやってこない。そこで俺は相手の攻撃が来た瞬間、攻撃の着地地点を読んで、地面にめり込むギリギリの瞬間で俺は大きく飛んだ。そのまま15メートルに伸ばした剣で斬りつける。が、硬い鉄のように硬い。俺は身体強化を15倍に高める。
「行け! 切れろー!」
俺はもう一度空高く剣を振り上げ、力の限り振り抜いた。強敵だった巨人は倒れた。戦利品の大きな岩で作られた棍棒を俺は引きずりながら歩き、力尽きて立ち止まると、斎藤さんの回復能力で筋肉痛を癒してもらい、再び歩くの繰り返しだ。身体強化を使えば持ち上げる事も可能だが、5分しか継続して使えないので物を運ぶのには向かない。やっとの思いで貴族の館に到着した頃には筋肉がかなり強化されて、両手で抱える事が出来るようになっていた。
「あの、依頼は終わりました。巨人5匹討伐完了しました」
「はい。しっかり見てましたよ。ご苦労様でした。それでは報酬の1000ゴールドです。税金の100ゴールドはこちらで負担しますね」
「ありがとうございます。ご依頼はギルドシールドの方にお願い致します。それでは、今度ともご贔屓に!」
「宜しくお願いします」
俺と斎藤さんは深々と何度も貴族に頭を下げて館を後にした。それから交代で岩で作られた棍棒を持ってハリド村に帰ってきた。時刻は昼だった。山道の途中で採ってきたキノコを使って料理をした。舌が痺れるキノコは捨てた。毒味は俺の役目でひどい目にあった。けれど、毒も斎藤さんの回復能力で治ったのが驚きだった。
「マスター食べられるキノコはきっちり覚えました。これからはハリド村名物にしますね。このキノコ鍋」
「はい。レシピ渡しておきますね」
斎藤さんは常に笑顔だ。村人達には女神に見えたに違いない。昼食後、ハリド村を後にした俺達は、建築ギルドに寄って、風呂製作の依頼をした。銭湯のような大きな風呂だ。洋館の敷地はかなり広く、隣に風呂を付けても余裕なのだ。斎藤さんは賃貸なのに強気だな。いざとなったら買い取ってもいいくらいの勢いなのだろう。今日の順調な稼ぎを見ればそれも納得だけど。洋館に職人達と一緒に戻る。邪魔な木があったのでそれを倒し、斧で割って薪にした。
「あら、ふたりとも遅かったね。お帰り。何してたの?」
安川さんが質問すると斎藤さんが笑顔でこう言った。
「デートよ。あー楽しかった」
俺達のデートはふたりで金稼ぐ事のようだ。そりゃ、楽しかったけどさ、何か違うよ。斎藤さん!