女性の為のギルド
沢田と沢木が城に行ってしまった。ショックの中、よく見た顔が城の方向からやってきた。
「ちょっと安川聞いてよ。沢田と沢木の仲間なのに超能力に目覚めてないからって理由で追い出されたんだけど」
「これからどうしよう……私達だけじゃモンスターになんか勝てないし」
岡本と浮橋が城を追い出されたいう。安川はふたりに向かって何を言うのだろうか。
「じゃあ、家に来るといいよ。部屋もまだ残ってるし。幽霊出るけどね。しかもエロいやつ」
「ええ……幽霊は嫌だな。しかもエロいやつでしょ?」
「ん、怖いのよりいいじゃない。殺される事もないし」
「確かにそれもそうね。でも、幽霊はね……能力にもあと少しで目覚めそうなのよ」
なんか話がまとまらないらしい。岡本と浮橋か。可愛いくらいしか知らない。ほぼ全く関わりがない。新しい人が入ると緊張するな。斎藤さんもそうらしく、俺達の口数が減っていく。
「じゃあ、私達と行動しなさいよ」
淀川恵美が浮橋と岡本に話しかける。確か現代社会では3人は友達だった筈だ。淀川恵美は体格が良く美人で気さくだった気がする。クラスのリーダー的な存在で、小学校の頃は6年生の頃は一番目立っていた。
「私達今さ、女性だけのギルドを作ってて入ってくれたら嬉いなって思ってね。男って信用出来ないやついるじゃん? 急に襲ってきたり。関川にやられてパーティー抜けた人とかもう3人くらい受け入れたし、私達に力を貸してくれない? 能力に目覚めてしまえば男の力を借りなくても大丈夫よ?」
岡本と浮橋は迷った末に、淀川に合流する事にしたらしい。自分達を必要としてくれている所に行くのが一番素晴らしい事だ。
「マモル、ギルドプリティジャスティスを宜しくね。何かあったら共同で戦おう」
「ああ、何かあったら東の町外れの洋館に来てくれ」
俺達は前向きで明るく元気な淀川と別れ、洋館に戻っていった。関川の悪い噂をここでも聞くとは。俺達はもう、関川の名前を聞くのも嫌になった。俺は奴のせいで1回死んでいる。そのせいというのか、お陰というのか新しい能力を女神に貰ったのだ。その能力はまだ、頭の中で何かが絡まったような状態でこんがらがって思い出せないが、何か凄い能力だった気がする。あと少しで思い出せそうなのに。
思い出せないのは悔しいが、焦っていても仕方ない。とりあえず、洋館に戻ろう。関川に妨害されたが、商人の護衛も成功したし、報酬も斎藤さんが受け取ってくれた。だが、気になるのが斎藤さんが口を聞いてくれない事だ。さっきから話しかけるが無視される。
「あのー斎藤さん?」
「……」
「侑希さん?」
「……」
何か怒らせる事をしただろうか。困ったな。安川さんと益子くんも心配している。
「関川許せない。マモルさん負けないでよね」
どうやら斎藤さんは関川に腹を立てているらしい。俺にじゃなくてよかった。洋館の前に到着すると、洋館から煙が出ている。
「な! 私達の家が!」
沢木がいれば一瞬で火が消せるのに。何ということだ。斎藤さんが井戸から水をくみ上げる。バケツリレーの要領で斎藤さんから木のおけを受けとる。それを益子くんに渡す。最後は安川さんだ。幸いにも火をつけられた直後のようで、ボヤで終わった。
「ち、運のいい奴だ」
俺の地獄耳が声を捉えた。全速力でその声の主を追いかけた。逃げ足が速く、見失いそうだ。すると突然、俺の足が光り始めた。猛烈な速さで瞬間的に犯人に追い付く。案の定、関川だった。だが、数人の男に囲まれる。
「マモルか。悪いな。関川を何度も止めたが聞かなくて」
「謝る事なんてねえよ。こいつなんかによー」
同級生の大川君が関川の仲間のひとりにいた。ショックだった。
「関川の能力は素早さ強化。よく追いついたなマモル」
「おい大川勝手に人の能力をバラしてるんじゃねえよ!」
関川の能力が知れたのは大きい。予想より大したことない。それよりも驚きなのが、その素早さ強化よりも速く走れた事だ。
「大川くん、またな。関川の暴走を出来るだけ止めてくれよな。大変だろうけど」
「ああ、任せてくれ。俺の能力は相手の動きを束縛する能力なんだ。いざと言うときは止めてみせる」
大川くんの他の面子は知らない奴ばかりだった。どうやら異世界の盗賊まがいの連中と組んでいるようだ。
「俺達さ、盗賊ギルドに入ったんだ。能力にピッタリだろ。だからさ、俺達は闇の道でしか生きられないと関川に言い聞かしているのに聞かなくてな。斎藤さんにまだ執着してるんだ。女や奴隷を買った時も、斎藤さんの名前を呼びながらやってるんだ。本当に申し訳ない。こんな奴でも友達だからさ、見捨てられないんだ。俺以外の同級生は見捨てて行ってしまった」
「てめえ! ベラベラと話やがって!」
関川は大川くんを殴った。何度も何度も。
「関川ー! 言われて恥ずかしいことなら初めからやるな! 自分の行動と人生に責任持てよ! そんな生き方で綺麗な心の斎藤さんを手に入れられると思うなよ! 光と闇だ。混ざり会う事は絶対にない。諦めろ!」
俺は関川の腕を持って力を込める。腕が輝いた。
「くそ……なんてバカ力だ離しやがれ!」
俺は関川の腕を離した。プリンのように軽く握り潰せそうだった。
「誰が何と言おうと俺は侑希が好きだ。あいつの白い肌をめちゃくちゃに汚してやるぜ!」
「私はあんたが大嫌い! 絶対に好きになる事なんかない! 変なことされたら舌を噛んで死んだ方がマシよ!」
斎藤さんが凄く大声で叫んでいた。空気がビリビリと震えた。斎藤さんは普段は無口で大人しいが、本気を出せば大声チャンピオンになれそうだ。
「ちくしょう何でだよ! 何でいつもマモルばかりなんだ!」
関川が斎藤さんに襲いかかる。
「スネークバインド!」
大野くんが蛇を呼び出し、関川を拘束した。
「さ、話も終わったし帰ろうか。悪かったねマモル、斎藤さん。俺からも言っておくから今日の所は帰って休もう」
俺達は無言で洋館に向かって歩く。関川に目をつけられてしまった斎藤さんが可哀想でたまらない。
「おい、大川ふたりで斎藤をやる話はどうなったんだよ」
「それはマモルが死んだ時の話だろ。あいつは強い。俺達じゃ殺される」
俺の地獄耳が奴等の会話を捉えてしまった。悲しいかな大川も敵だったらしい。それにしても、何かがおかしい。さっきの地獄耳も、関川に追いついた時も、関川の腕を握った時も。俺の体に大きな変化が起こった気がした。