ひとりでできるもん3
視線が痛い。
今日は清々しいほどにいい天気だ。
ちょっとした軽食でも携えて、野原でお弁当にしてもいいほどに、ポカポカと気持ちのいい陽光が降り注いでいる。
フィーに助けられて一緒に旅をすることになって、まずは腹ごしらえをしようと言う提案に、オススメだという大衆食堂に連れられて来た。
ここへ拠点を置こうとやってきた時、賑やかなこのお店に入ることに憧れて、いつかぼくも1人でなんでもできるようになれば、1番に来ようと決めていたお店。ひょんなことから願いは叶ってしまったけれども、各席に座っている人達の視線は、じっと僕を見ている。
これは興味とかそんなじゃない。
獲物を見つけた獣の視線だ。
「遠慮しないで! 決起大会なんだし、次いつ食べられるかわかんないし、しっかり食べなよー」
そんな僕の怯えた心に気づかないフィーは、口いっぱいに麺を頬張り、空いた手はいつでも飲み物を飲めるようにグラスを握りしめている。
僕の前には大きな肉の塊。『男はガツンと肉を食え』なんてフィーが注文した “野獣の海賊焼き” とかいうもの。
ゆらゆらと立ち昇る湯気は香ばしく、熱しられた鉄板にはジュージューと肉汁が弾けている。
「こんなに食べられるかな……」
「食べられるかな? じゃなくて、食べるのよ!」
自分の分をすっかり食べ切った彼女の前には、冷たいデザートが既に並んでおり、その細い身体のどこに収まっていくのか不思議で仕方ない。
「あの……」
「なぁに?」
甘そうなそれを心底嬉しそうに頬張る彼女へ、どうにも落ち着かない周りの視線を見ないように、コソコソ耳打ちしてみる。
彼女の耳へ顔を近づけると、ふわりと果実のような甘い香りがして、ついうっかり惹き込まれて話せなくなりそうだった。けれどぐっとそこは気を引き締め、しっかりと言葉を紡ぎ出すことに成功した。
「興味だけでぼくの旅について来てくださるのですか?」
「そうだよ」
「でも貴女はぼくとは比べ物にならないくらい強そうだし、もっとちゃんとした勇者とか」
「ちゃんとした? そんなの無いもん、私は私の楽しめそうなところに、興味のあるところについて行きたいだけ」
鼻が触れそうなほど近くにある彼女の顔がぱっと笑顔になって、それ以上何も言えなくなった。
フィーがそうしたいと言うのなら、僕みたいなモブキャラはすぐやられるのだから、願ったり叶ったりじゃないか。素直に受け止めて次へ進めばいいじゃないか。
減らない “野獣の海賊焼き” を前に、それでもぼくは彼女に迷惑をかけてしまうのでは……なんてモヤモヤしていた時、遠巻きに見ていた幾人ものお客さんが、1人、また1人と僕達を囲み始めた。