ひとりでできるもん 2
ある日お母さんが言ったんだ。
『お前の勇気は大したものだよ、すごく偉い。でも私たちの使命は今いる上級の方々の力になる事、無理してそんな大役目指さなくても良いじゃないか』
普段優しいお母さんの瞳が潤んでいたのを今でも忘れない。
ぼくたちは確かに、名のある勇者の経験値だったりレベルだったりを上げるためだけに生まれてきた強化キャラ。そんな奴が勇者になろうだなんて、普通に考えても馬鹿みたいな話だ。
馬鹿みたいな話だけれど、だからと言ってそういう運命というレールに敷かれた人生を送るのは、ぼくからは止めてしまいたいんだ!
モブキャラだってやれば出来るということを、この身をもって証明してやるんだ!
そうして意気込んで旅に出たわけであって。
「もう諦めてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
再び白い部屋の扉を開け、まだ知らない未開の地へ1歩踏み出してみれば、今度は黄色い髪をした男に追いかけ回されているのである。
モブキャラと呼ばれるだけあって、ぼくはとても小さい。彼の1歩でぼくは5歩は歩けるだろう。その上、手足も短くてまるでマスコットという風体だ。
どんなに強い心を持って胸を張っていたとしても、見た目がこんなだから結果的に……追いかけ回されるのである。
「モブキャラ、俺の経験値のために殺られなさい」
「嫌だァァァァァ!」
またしても振り上げられる杖、もう終わりだと両手で顔を覆って諦めた。
また眩い光が炸裂して、僕の力が彼らの経験値アップに、もしくはレベルアップに削がれて、1からやり直さなければならないんだ。
痛くはない、痒くもない、ただただ体力が削られてベースと決めた家に戻されて、また初めから旅をやり直さなければいけないんだ。
はぁ。
無謀だったのかな……。
そうやって目を開けると、真っ白な空間にぼくはいなかった。
「それは俺の獲物だ、横取りなんて許さない」
「嫌がってるじゃない、やめてあげなよ」
僕の目の前に、ひらひらした短いスカートを履いた人が、剣を片手に対峙していた。
「ずっとあなたのことを見てたよ! 旅してるんじゃないの?」
「えっとあのはい、旅してます」
振り向いた拍子に頭上高くに結われたオレンジの髪が揺れる。太陽に負けないくらいの笑顔が眩しい。
「あなたみたいな人が旅をするなんて理由があるんでしょ? 興味があるから守ってあげる!」
「え?」
「笑かさないでくださいよ、モブキャラのあなたが旅ですか? あぁ、旅先で苦労している勇者たちに、自分の経験値を差し上げる優しさですね? それなら納得です」
「いえ、そうじゃなくて……」
爛々と輝かせて期待しているらしいオレンジ髪の女性は、鼻で笑う黄色い髪の男を一瞥し、深くため息をついて見せた。
「あなた魔法使いならこんな子にイタズラせずに、自分の力でレベルなり上げなさいよ」
「うるさい小娘ですね、私が誰かわかってないのかな?」
「笑止!」
細くてか弱そうな彼女へ、黄色い髪の男は手加減してくれるだろうか。
ぼくのために戦ってくれるという彼女へ、逃げるように伝えて、自分の身を魔法使いへ捧げるべきだろうか。
あれやこれやと考え込んでしまって、1歩も動けないでいる間に、黄色い髪の男が振り上げた杖の先に光が集まる。
「本当に凄い人は、爪を隠すのよ」
そう言って懐から取り出した細長い剣を振ったオレンジ髪の女性。
ふわりと風圧がこちらまで届いた時には、その杖は音を立てて地面に落ちていた。
「あなたはアーロン……だっかしら? 杖がなくちゃただの男。まだこの子に何かする?」
「くっそ! 覚えとけよ!」
そうして男は2本に別れたそれを拾い、その場から走って逃げ出した。
「大体、男が女に手を上げるなんて最低よねー」
「えっとあの」
「私の名前はフィリア。フィーって呼んでいいよ!」
「えっとえっと……ぼくはミミル。って知ってますよね」
「うん知ってる! でも今日からは旅仲間だからね、親しみを込めてみぃーちゃんって呼ぶよ!」
足が長くて手も長くて、スラリとした体は必要最低限の布で覆われている。ふくよかな胸も細い腰周りも、白い肌も気をつけなきゃ丸見えになってしまいそうなのに、器用に腰につけた鞘が違和感を感じてしまう。
だけどそんなものも忘れさせてくれるほどに明るい笑顔と声が、気を張りつめていたボクの心を和ませてくれたことに間違いはなかった。
「一緒に旅に出てくれるの?」
「もちろん! 私じゃ役不足?」
困ったように首を傾げるその仕草も、えくぼのできる笑顔のせいで、ものすごく困らせてしまっている気になってしまう。
「ぜんっぜん! なぜぼくみたいなモブキャラにそんな親切なのかなって思って」
「興味があるからだよ!」