ひとりでできるもん
「こーなーいーでーくださぁぁぁぁぁい!」
ぼくは今全速力で、いや、生きてきた中で1番早く走っている。
野山を駆け抜け草原も抜け、木々の生い茂る小山なんて、何度枝に引っかかって足が浮いたかもう覚えていない。
お気に入りの服だったのに、すっかりボロになってしまって今日でお別れだろう。
その前に、明日があればの話だけれども。
「来ないでっていってるのにぃぃぃぃぃ!」
大きな杖を持った紫の女が、ニヤリと笑って振り下ろした途端、今まで走りまくって疲れていたはずなのに、ふわりと体が軽くなって楽になった。
あぁ……また1からやり直しかぁ。
眩いほどの光に包まれて、ぎゅっと目を閉じる。
次に開いたときに、そこはもう何度見たかわからない冷たい床の広がる真っ白な世界だった。
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自慢じゃないけれど、ぼくはものすごく本を読んだ。それこそ1日最低1冊は読むようにして、たくさんの知識をものにしてきた。
そのお陰で学校ではいつも1番だったし、学年代表にだって選ばれたことがある。
卒業式で生徒代表になったんだ、凄いだろ、えっへん。
ただ唯一の欠点といえば、泣き虫なところだろうか、良く言えば情に脆い。お友達が努力を実らせれば一緒に泣いたし、ちょっとイタズラされれば泣いたし、ハンカチが土の上に落ちただけでも泣いた。
そんな泣き虫だからいつまで経っても『モブキャラだから仕方ない』なんて言われてしまうんだと気付いて、まずは泣くのを我慢するところから始めた。
そしたら気持ちも強くなってきて、何事にも前向きで、明るくなって強くなって。
1番が取れるようになって、胸を張って主役になるという夢を掲げ、みんなの反対を押し切り、勇者になる為に旅に出た。