表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/58

シャルパンティエ公爵の晩餐

途中稚拙な擬音で表現された描写がありますが作中全く重要な箇所ではありませんのでご容赦ください。<(_ _)>

 王国北方を支配するシャルパンティエ公爵家は、120年前に渡界してきたフランス貴族の末裔と当時の王家の娘が結ばれて興された3番目の公爵家である。ルネッタリア王国では新興の貴族であるが、地球由来のやんごとなき血筋を受け継いでおり、また地球からもたらされた地下資源の知識によって莫大な資金を得たそのの勢力は、同じ公爵家であるロゼット家、クララベル家を遥かに凌ぐとされる。

 また、フリックス・フリントを長とする警邏庁北方本部と、カイロスが設立した国立マイヅル学園も領内に有し、軍事(ただしこの国に軍隊という概念はない。警邏庁はあくまで治安維持のための警備隊)、文化面でも他の追随を許さない。そんなシャルパンティエ家を王国の黒幕と呼ぶものも少なくなかった。


 学園長室に入ると、カイロス、フリックス。そして教頭のフリージン。そしてその人物も彩兼が来るのを待っていた。つるつるに禿げ上がった頭に白い髭を蓄えた初老の男だ。


 彩兼と一緒に学園長に入ったセレスティスが嫋やかに頭を下げる。その様子から彩兼はその人物が誰なのかを察して彩兼も一礼する。

 カイロスが彩兼に近づきそっと耳打ちでその正体を明かすと、それは彩兼の想像通りだった。


 その人物こそ、シャルパンティエ家当主、シモン・シャルパンティエ。御歳58歳。

 初老とも言える年齢だが、フリックスにも負けないくらいの鍛えられた体躯を持ち、身のこなしにも隙がない。

 その横には30歳くらいの背が高い女性の姿がある。上等な衣服や手の込んだ髪型から貴族であることは間違いないが、背筋の伸びた立ち姿と騎士のような雰囲気はドレスよりも男物の服が似合いそうだ。


(あれが噂の公爵家の行かず後家……おもったより奇麗な方だけど)


 彩兼は予めカイロスから公爵家には今年39歳になる娘がいることを聞いていた。


「貴公がニッポンから来たという者か。わしはこの地の領主でシモン・シャルパンティエ。これは娘のラファエラである」


 彩兼は丁寧にお辞儀をする。貴族が相手でも基本的な礼儀が出来ていれば失礼にはならないそうだ。


「日本から参りました鳴海彩兼と申します。シャルパンティエ公とラファエラ様に置かれましては、この度はわざわざ足をお運びいただき真に恐縮でございます」

「なに、わしが貴公の顔を早く見たかったのだ。頭をあげなさい。……ふむ。中々の男前じゃのう」


 シモン・シャルパンティエは彩鐘を鋭い視線で彩鐘をじっくりと眺める。そして……


「気に入った。我が娘ラファエラをやろう」

「申し訳ありませんが、お断りいたします」

「むぅ……」


 間髪入れずに断る彩兼。実は予めカイロスから縁談を持ちかけられる可能性を聞いており、多少無礼でもはっきりその場ではっきりと断るようにアドバイスを受けていたのだ。

 すぐにカイロスの助言があったと見抜いたシモンがちくりとカイロスを睨むが彼は平然とそれを受け流す。周りの者も彩兼の態度やカイロスを咎めようとはしなかった。何より当のラファエラ本人も気にする様子はなさそうだ。


「父上、私のような年増を勧めては流石に失礼であろう。アヤカネ殿、父の言うことは気にしないでくれ」


 シモンの娘、ラファエラ・シャルパンティエ。幼少の頃から父を支え、領内の発展に尽力するシャルパンティエ家の女傑である。

 飛ぶ鳥を落とす勢いのシャルパンティエ公爵家の令嬢ともなれば本来引く手あまたで相手は選び放題のはずだ。当然その中には王族も含まれる。だが真面目な彼女の男顔負けの仕事ぶりが広まっていくにつれて縁談の話も薄れていった。

 国内の貴族達は恐れたのだ。この娘が王家に嫁いだらシャルパンティエ家に国を乗っ取られてしまうと。ラファエラ・シャルパンティエは国を乗っ取るために公爵家が用意した最終兵器だ! やがてそんな噂が流れるようになり……現在に至る。


 そんな話は知らず、婚期を逃した公爵令嬢ということもあり、どんなぶっ飛んだ性格をしているかと内心冷や汗ものだった彩兼は、ラファエラが思いの外常識人だったことに逆に驚いた。何故これで結婚できないのだろうと。

 

 その原因は横でぶつぶつ言っている父親にあったようだ。


「ラファエラちゃん可愛いのに……ぶつぶつ」

「父上、いい加減にしてください。アヤカネ殿。本当に気を使わなくていいからな? 私が婚期を逃したのは父上が王家に嫁がせようと強引に手を回したのが悪いのだ」

「だってそこらの貧乏貴族に嫁いだらラファエラちゃんが苦労すると思ったんじゃもん」

「普段金儲けと女のことしか興味無いくせに下手なからめ手を使おうとするからです!」

「あの頃はわしもまだ若かったのじゃ! 今ならもっと上手くやるわい」


 話を聞いているうちにラファエラが気の毒になってくる彩兼。勿論結婚する気は無いのだが。


「いえ、自分はいずれ旅立つ身ですから、この世界で所帯を持つつもりは無いのです」

「そうか。それはなんとも……学園に通う娘達にとっては残酷な話だな」


この日、彩兼は無事領主との対面をはたしたのである。



***



 夕刻。


「これはまた豪勢な……」


 パーティー会場として飾り付けられた大講堂を覗いた彩兼の口から感嘆の声が出る。

 地球に持っていけばそのまま文化財に登録されそうな木と石造りの立派な大講堂を会場に、燭台の柔らかな光の下には見慣れない巨大な肉を使った豪華な料理が並ぶ。それはフィクションの中でしか見ないようなファンタジーな晩餐会だ。


学生や職員達も集まってきている。学生の多くは制服での参加だが、魔族の生徒の中には種族に伝わる伝統的な正装で参加している者も少なくなかった。


「何もここまで……」

「僕もここまでするつもりはなかったんですけどね」


 頭を抱える彩兼に同情するように声をかけたのはカイロスだ。


 最初カイロスは職員だけを集めて内輪だけの小さな歓迎会を計画していた。だがそこへ領主であるシャルパンティエ公爵自ら料理のための食材から料理人、会場整備のための人員まで全て揃えた上で学園に乗り込んできた。


「領主であるシャルパンティエ公のおせっか……いえ、ご厚意です。流石に断れませんでした」


 そう苦笑するカイロス。彼としてはシャルパンティエ公爵の行動は国王の認知を受けてから正式にお披露目を行いたかった。それならば国主である王の目を気にして、貴族達もそう強引に彩兼に近づいたりはしないだろう。

 大貴族であるシャルパンティエ公爵の認知は周囲の貴族や有力者への牽制になるためありがたいのだが、先んじて唾を付けるような真似は控えてほしかった。

 公爵とはいえ一貴族が率先して彩兼を囲いこもうとすれば、我も我もと彩兼とお友達になりたい貴族達が押しかけかねない。

 光の速さで情報が拡散する地球と違い、この世界での情報の伝達速度は人の足の速度だ。彩兼が旅の支度を整えるまでの1年間くらいは穏便に過ごせるだろうと踏んでいたが、考えを改める必要があるとカイロスは考えていた。


(やれやれ、これから忙しくなりそうです……)


 当の主催者は学生達との交流を楽しんでいるようだ。カイロスはやや恨みの籠もった視線を禿頭に送る。


「ほほう、トバリ君も大きくなったの。どれどれ」


 もみ。


「きゃっ! な、何するんですか!」


 ばしーーん! すたすたすた……


「クスン……わし、公爵で偉いのに。わし悲しい……おや? あの娘は?」


 会場の片隅で、一心不乱に料理を食べている女生徒に近づき声をかける。


「メロウの姫よ。久しぶりじゃな? ほほう……これは中々立派に育……」

「あん?」


 げしっ!


「ぎゃふん!!」


 学生達との交流を楽しんでいた。




 正面には大きく『歓迎ミスター・アヤカネ! ようこそルネッタリア王国へ!』と書かれた横断幕が掲げられ、彩兼は逃げ出したくなる。このパーティーの主役は彩兼なのだ。


「すみません。遅くなりました」


 申し訳無さそうに現れたのはドレスアップしたセレスティスだった。制服姿のハツもいる。どうやら着付けを手伝ってもらっていたようだ。

 この国ではパーティーの主賓は異性を伴うのが様式美とされている。そこでパートナーにセレスティスが一緒に入場することになっているのだ。

 セレスティスの淡い蒼のドレスは同伴者ということでやや抑えたデザインではあったが、白い肌と抜群のスタイルを引き立たせている。


「とてもよくお似合いです。セッテ先生」

「ええ、本当に。ハツ君も大変だったようですね」

「あはは、それはもう。セッテ先生またお胸が……」

「ほうほうやはり……」


 苦笑するハツの腕をセレスティスが肘で小さく小突く。

 胸がきつくて急いで手直しをする羽目になったのはふたりだけの秘密だったからだ。尤もカイロスはお見通しのようだが……


「アヤカネ先生の衣装も素敵ですね。それは地球の?」

「ええ。こういった堅苦しいのは苦手なんですけどね」


 当然彩兼も正装だった。アリスリット号から持ってきたタキシードをぱりっと着こなしている。


「生地も仕立ても素晴らしいですわ。それにアヤカネ先生も随分着慣れている感じで様になっていますし」

「はい。とても素敵です」

「まあ、セレブとの付き合いも冒険者の嗜みのうちですからね」


 セレスティスとハツのふたりに褒められて照れくさそうにする彩兼。


「ではハツ君と僕はこれで。ふたりは呼ばれたら入場してください。これも演出、様式美ですから」

「あはは。わかりました」


 やがて会場から呼ばれると、彩兼はぎこちない笑みを浮かべながらセレスティスを伴って入場する。

 だが拍手の中で彩兼を睨みつける少女がいた。長いシャンパンゴールドの髪をポニーテールに結わえて学園の制服に身を包んだ、それはそれは綺麗な少女である。

 その少女、ファルカは彩兼の愛想笑いにそっぽを向き、ひとり料理をがっつき始めた。

読んで頂きましてありがとうございます<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ