2日目・深夜 人間なんて皆モンスターのようなもの
日付変わって1回目です。
※微妙にR15な会話があります。苦手な人はご注意ください。
俺とアヤメの関係は、妙なものだった。
何につけても面倒くさがりで適当な俺。
天才すぎて、バカなアヤメ。
気づいたら、なんとなく側にいた。
あいつはいつも小難しそうな本を読んでは、よくわからないことを言っていた。
ゆえに浮いていた。
「お前に話しておきたいことがある」
思い出すのは、あいつが改まった様子で俺をマンションに呼び出した日のこと。
あいつは小学生にして、一人でマンションの一室を借りて住んでいた。
俺はいい場所があるなとばかりに、そこに入り浸っていたのだ。
「人類はな、皆元々モンスターなんだ。だがそれを忘れ、人間という共通の概念で生きている」
「そうだなー人間なんて皆モンスターだよ」
俺は、いつものように適当なノリで返事した。
「まぁ、そうそう信じてもらえると思ってない。ただ、君には知っておいてほしかった。私には、人間が元のモンスターの姿で見えているんだ」
「それじゃあ、俺はどんなモンスターに見えてんの?」
「雄仁は、触手に分類されるモンスターだな。スライムにもにて柔軟な体を持ち、何でも受け入れ、色んな手を持っている」
真顔で答えられて、当時の俺は爆笑した。
皆が奇妙な奴だとアヤメのことを言うが、俺はこいつのこういうとこが好きだった。
笑ったのも予想外だったからで、バカにしたわけじゃない。
平凡でしかない俺に見えない世界を、アヤメと一緒にいると見ることができる。
やりとりを含めて新鮮で、楽しかったのだ。
「他の奴らは?」
「不良の西島はオークだな。だから気性が荒い。女子の女王様である一宮は、女王バチに似たモンスターだ。だから、女王扱いされないと怒る。ちなみに彼女の友人である杉山は、蜘蛛型のモンスターだ」
クラスの奴らが、次々とモンスターに例えられていく。
それはちょっと面白かった。
「それじゃ、お前はどんなモンスターなんだよ?」
「私も雄仁と似た不定形モンスターだ。色んなものに姿を変えることができる。人や物、動物にもな」
「なんかお前のだけズルいな。自分だけいい特殊能力じゃないか」
「そうでもないさ。自分の形を持たないから、ずっと自分とは何かを考え続ける」
アヤメによるモンスター診断は、心理テストや前世占いにも似た面白さがあった。
俺はそれが気に入って、ときどき「あいつはアヤメから見て何のモンスターなんだ?」とか、そんなことを聞いてすごしていた。
あの会話の数々が、まさか前振りだったとは思わなかった。
◆◇◆
《つまり、この世界の人間は元々全部モンスターだったと。お前はそう言いたいわけだな》
『そうだ』
夜、仁葉が眠った後。
俺はアヤメから、どうして世界がモンスターだらけになっているのかという説明を受けた。
要約するとこうだ。
宇宙にはモンスターがいっぱいいた。
けれど、それぞれ概念が違うから喧嘩して、滅ぼし合っていた。
種族は細かく多く、自分と同じ種族に出会うのも一苦労だ。
どのモンスターも子供ができないという問題を抱えており、争いにより数は減る一方だった。
なら、全員『人間』という同じ概念の生き物になってしまおうよ!
皆平等だし同じ種族なら、仲良く出来るし、子供もできるよね!
そうして宇宙人達は、地球にやってきて人間になった。
つまりは、そういう話だった。
《なんか自己啓発本が、気づいたらスピリチュアルなお話になっていた気分だな》
『いつもながら君の例えは、変わっているな。だが真実なのだから、仕方ない』
それを前提に話を進めるぞと、アヤメは言う。
もうすでに、頭パンクしそうなんだけど。
『人間として生活するうちに、自分がモンスターだと忘れる者も多くでてきた。それが今の人間だ。しかし、中にはモンスターだった頃を覚えている者もいた。そいつらは人間として暮らすことに飽き飽きしていた』
そいつらは、モンスターだった頃に戻りたかった。
だから、人間達が人間でいられる『人間の概念』を壊す隕石を、地球に落としたのだという。
《よくわからんが、わかった。つまり隕石が墜ちて、本来のモンスターの姿に戻ったってことだな》
『ざっくりまとめられたな。まぁ、そんなとこだ』
やだなぁ、元がモンスターなんて。
俺、自分が人間だって思っていたかったんだけど。
でも認めようが認めまいが、現実が触手モンスターだからな……。
《皆がモンスターだってことはわかったけど、どうして仁葉は人間のままなんだ? お前も俺もモンスターなら、仁葉もモンスターのはずだろ?》
『仁葉達一部の子供は、隕石の影響をうけなかったんだ。中身は私達と同じだよ』
俺の疑問に、アヤメが答える。
『まぁ、ぶっちゃけると人間の姿を保っているのは、私のいた研究施設の研究者の子供達だ。この街で皆、集団生活を送らせている』
アヤメが働いている研究機関は、人間とモンスターについて研究しているようだ。
事前に隕石の情報がわかっていたため、研究者達は自分の子供達に『隕石が墜ちてもモンスター化しない』術を施したらしい。
《それができるなら、自分達にも使えばよかったんじゃないの?》
『隕石の影響は、大人の方が大きいんだ。モンスターの本性は子供のうちは出ないものだ。だから、子供だけなら隕石の影響から守ることが可能だった』
つまり、人間の姿をしている子供は。
皆、アヤメと同じ機関に所属している、研究者の子供ということらしい。
そうなると、ウララちゃんも研究者の子供か。
パパって言われてたあの触手が、アヤメの同僚だったりするのかな?
気になって尋ねてみる。
『あぁ、察しの通りだ。多くの人間だった者は、モンスターになって自我を失っているが、私達研究者はそうじゃない。そもそも、モンスターだったことを覚えていて集まった者達だからな。普通の人間だった奴らと違って、凶暴性を抑えることに長けているんだ』
モンスターだったことを覚えていても、理性的な者達。
それが機関の研究者達だと、アヤメは言う。
『ちなみに機関にいた研究者達は、8割触手系だ。研究者じゃなく街でモンスター化してる者も、触手系なら会話が成り立つ可能性が高い』
ちなみに何故そうなのかは、よく分かっていないらしい。
『他にはスライムや、エルフとオークに会話が出来る者を確認している。そもそもマンガや小説に、本来の姿を描いている者がいて、固有名詞がある事実が素晴らしいと思わないか!? そして、マンガに出てくる頻度が高いものほど、理性を持っている気がするんだ!!』
アヤメは興奮気味だ。
お前が読んでるマンガと小説、いったいどんなものなんだよ!!
と俺は心底ツッコミたい。
『だが、話が通じると言ってもこちらに協力的でない者もいる。その最たるものがオークで、エルフとは物凄く仲が悪いんだ! これはよくマンガでエルフがオークに捕まり、「くっ、殺せ!」と叫ぶような関係性をリアルに表していると思う』
《というか、その説で言うとさ。マンガに出てくるモンスターの8割触手になるぞ? そんなに触手メジャーじゃないだろ》
黙って聞いていたが、さすがにツッコミを入れてしまう。
少年マンガをよく読んでいたが、触手なんてそうそう見ない。
『そうでもないぞ。お前と子作りするために見た雑誌のモンスターは、触手が一番多かった。その筋のマンガでは恐ろしいほどの登場率で、びっくりするほどに女に絡む。私が頑張る必要もそうなさそうだと、安心したぞ!』
《絶対成人指定のエロい奴だよな、それ!!》
何故得意げなんだよ、こいつ!!
というか、そんなところから知識持ってきてたのか。
通りでちょっとアレがアレだったわけだよ!!
『あっ、つい夢中になって語りすぎてしまったな。もう時間だ。おやすみ』
《ちょっと待て!! まだ仁葉のこと聞いてないぞ!!》
俺の叫びも虚しく、途中で電話は切れてしまった。
★2017/02/05
「モンスター同士言葉が通じない」という設定を間違って書き込んでいたので、削除しました。すみません。