2日目・昼 昨日は節分だったようです
「パパ、お昼ごはんですよ!」
起きれば、水のようだった体がちゃんと半固体だった。
仁葉が俺をコップから出して、テーブルに置く
目の前に置かれたのは、豆だ。
成人男性の拳1つ分くらいしかない俺に、丁度いいサイズの食べ物だった。
「2月3日は節分で、豆をまいて鬼を外に出すんだって。給食のときに先生から昨日もらったやつなの。栄養たっぷりだって!」
そうか、昨日は節分だったのか。
鬼っていうか、外にはモンスターいっぱいだもんね。
妙に納得しながら、豆に触手を伸ばす。
感覚的には口っぽい部分に、豆を押し込んでみた。
あっ、ちゃんと味覚あるのか味する!
よかったぁ。
でも、歯がないのか砕けないぞ。
体内で溶かしている感じがわかる……妙な気分だ。
「あれ? パパの色変わった!!」
言われて触手を見れば、香ばしい豆と同じ色になっていた。
「豆食べたからかな? それじゃあ、これもどうぞ!!」
仁葉がくれたのは、赤いあめ玉だった。
お言葉に甘えて食べてみる。
「パパ、いちご色になった! 香りもいちごだ!!」
仁葉、嬉しそうだな。
愛娘が喜んでくれるなら、触手になったかいもあるというものだ。
……とか、自分を誤魔化すのはやめよう。
やっぱり早く元の体に戻りたいよ!!
なんで食べ物で体の色変わるの!!
おかしいだろ!!
暴れたい衝動を抑えていたら、仁葉が何を思ったか俺を手のひらにのせた。
顔が近いな。
目はくりくりしてて、どっちかっていうと俺似な気がする。
自分でいうのもなんだが、犬っぽい感じが。
でもつやつやの黒髪は、アヤメ譲りかな。
そんなことを考えていたら、仁葉がぱくりと触手を食んだ。
《ちょっと何してるの!! そんなの食べちゃダメでしょ!!》
慌てて、触手を引っ込める。
仁葉の手のひらから、テーブルへと逃げた。
「パパ、今しゃべった!! 声が聞こえたよ!! もっとおしゃべりして!!」
仁葉は興奮気味だ。
俺の声が聞こえたって、叱ったのがわかったのか?
《じゃあ、仁葉。聞こえてるなら、右手あげて》
「はい!」
仁葉が右手をあげる。
何故か本当に、俺の声が聞こえているらしい。
しかし、しばらくするとすぐに聞こえなくなった。
また触手をしゃぶらせてみる。
そしたら、また会話できるようになった。
しかも俺の触手、いちご味らしい。
どう考えても、あのあめ玉のせいだ。
実験をした結果、俺の触手をしゃぶると10分くらいおしゃべりができるみたいだ。
あと俺の体は、直前に食べたものと同じ味と色になる。
食べ物を食べてしばらくしたら、元の緑にもどった。
「それにしても、パパ食べても元の大きさにならないね」
《そうだな》
会話ができる状態で、仁葉に頷く。
食べることには食べたんだが、全く腹がふくれた気がしない。
あの後、カロリー●イトとかグミとかもらって食べてみたんだが、同じだった。
「やっぱり、お友達に聞いてみよう! パパ、おでかけするよ!!」
仁葉がランドセルを用意して、そこに俺とスマホを入れる。
蓋をしめられると真っ暗……と思いきや、意外と目が見えるんだよな。
モンスターだからだろうけど。
《外、危ないと思うんだが》
「大丈夫だよ。家の近くは、先生達が守ってくれてるから!」
先生というのは、学校の先生でいいんだよな。
信頼してるのが、仁葉の言葉からわかる。
《先生といえば、今日は学校ないのか?》
「パパ、土曜日と日曜日は学校お休みだよ」
質問すれば、まだ寝ぼけてるんだねと笑われてしまう。
今日は土曜日で、明日もお休みだった。
◆◇◆
《お友達ってどんな子だ?》
そもそも、触手見せて大丈夫?
そんな疑問を飲み込みながら、仁葉に尋ねる。
「ウララちゃんはね、強くてかっこいい子なんだ! 今指定範囲の外にいるから、迎えにきてくれるって言ってる。公園で待ち合わせだよ!」
ちなみに指定範囲とは、先生達が守ってくれている場所のことらしい。
公園に行けば、そこには幼女がいた。
ゆるやかなウェーブのかかった茶色の髪を、ツインテールにしている。
つり上がった目が生意気そうな子だ。
公園の入り口にある石に腰掛けて、足をぶらぶらさせている。
背中には仁葉と同じくランドセルがあった。
仁葉は、学校休みって言ってたよな。
何故、彼女も仁葉と同じくランドセルを背負っているんだろう。
「あっ、仁葉! メールみたわよ! パパついに見つかったんだって!?」
「そうなの!! これが私のパパだよ!!」
疑問に思っていたら、仁葉が俺をランドセルから取り出した。
《待って仁葉、心の準備が!!》
叫んだけど、すでに声が届く時間は終わったらしい。
にこにこと笑いながら、仁葉は惜しげもなく俺を見せてしまった。
「へぇ、ちっさいのね。あたしのパパとは大違い!」
ウララちゃんはそういった。
その背後、ランドセルからにゅるりと何かが飛び出してくる。
柔らかそうな、棒状のなにか。
太さにすると料理に使う麺棒くらいだろうか。
それぞれ先の形状が違う。
桃色の触手が3本。
ウララちゃんのランドセルから飛び出していた。