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1日目・夜 幼馴染みの秘密

本日4話目です

「パパ、ずっと待ってたんだよ!」

 幼女が俺を大事そうに抱えて、ドアの鍵を閉める。


 久々だから部屋間違ったのか?

 いや、そもそもこの幼女は、何故触手の俺を怖がらない?

 外モンスターいっぱいだし慣れてるとしても、どうしてパパと呼んでくるんだ? 


 頭の中はハテナがいっぱいだが、とりあえずここはあいつの部屋で間違いないみたいだな。

 細い廊下の先にはキッチン、その向こうには畳のあるリビング。


 殺風景だった内装が暖かみのあるものに変わっていたが、テレビの上に幼馴染みと幼女が写った写真を見つけた。

 何枚もフォトフレームに入れて飾ってある。


 子供いたのか。

 なんだろ、ショックだな。


 幼馴染みのアヤメは、小学校の頃からの腐れ縁だった。

 大分変わり者だったけど、不思議と仲がよくていつも一緒にいた。

 中学に上がる頃に、あいつは外国に行ってしまったけれど、こまめに連絡も取り合って会ってた。


 あいつは男女を感じさせないというか、一緒にいると楽というか。

 俺が一番、仲いいと思ってたんだけどな……。


 まぁ、仲がよくてもわざわざ言わないものなのかな。

 でも子供ができたことくらい、教えてくれたっていいんじゃないか?


 もやもやしていたら、幼女が俺をテーブルの上に置いた。

 テーブルのふちに頭を置いて、キラキラとした目で見つめてくる。


「あのね、パパ! ずっとパパがくるまで待ってたの!」

 そう言って、幼女は黙った。

 何か期待されてる気がする。

 

 もしかして、頭を撫でて欲しかったり?

 近づいて触手を伸ばす。

 おそるおそる頭に触手を伸ばし、撫でるように動かした。


 幼女は満足そう。

 これで正解だったみたいだ。


《なんで俺のことを、パパって呼ぶんだ?》

 声はでなかったけど、尋ねてみる。

 答えが返ってくることは期待してない。

 幼女はただ、俺を見つめているだけだった。


 どうやらあいつ、留守みたいなんだよな。

 帰ってくるまで待つか?

 何か意思表示ができれば、色々聞けるんだけどな……そうだ!


 紙とペンさえあれば、文字が書けるじゃないか。

 テーブルの上からもぞもぞと移動する。


「どうしたの? どこ行くのパパ?」

 紙とペンを探してるんだよ。

 この子の机の引き出しとかにありそうだよな……そうなると、隣の部屋か。


 ちょっと待てよ。

 いいところにランドセルが転がってる。

 中に筆箱とかありそうだ。


 触手は細いが、結構器用だ。

 ランドセルの蓋を開けて、中に入り込む。

 やっぱり筆箱があった。ノートもある。


 これで幼女と会話ができるぞ!!

 そう思ったら、いきなりランドセルが傾いた。


「パパ、ランドセル気に入った? ちゃんとパパのお部屋になりそう?」

 幼女がランドセルを立てて、好奇心旺盛な目でこちらをのぞき込んでる。


 お部屋って、俺をランドセルの中で飼うつもりなのか。

 さすがにそれは……と思ったんだが、ランドセルの中って結構快適だ。

 俺の体が床に染みこまないし、この素材張り付きやすい。


 移動するとき、背負ってもらえると楽かもな。

 そんなことを一瞬思ってしまった。


 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃなかったな。

 ランドセルの上まで移動して、見つけたえんぴつとノートへと触手を伸ばして引き上げる。

 バランスを崩しそうになれば、幼女が取ってくれた。


「パパ、お絵かきするの? いいよー」

 なかなかに聡い子だ。

 テーブルにノートを広げ、俺を移動させて鉛筆を持たせてくれた。


 “はじめまして”


「はじめましてー!」


 俺の書いた字に、幼女が反応する。

 どうやらひらがなは読めるみたいだな。よかった!


 “きみの おなまえは?”


「ヒトハだよ!」

 元気よく答えながら、ヒトハが俺の書いた文字の横に文字を書く。


 仁葉。

 これでヒトハと読むらしい。


「自分の名前は漢字で書けるんだよ!」

 仁葉は得意げだ。

 とりあえず触手を伸ばして、いい子と頭を撫でておいた。

 俺が触手を伸ばすと、嬉しそうに頭を差し出してくるのが可愛いな。


 しかし、変わった名前だな。

 仁って男につけそうな漢字だけど。

 ちなみに俺も名前に『仁』の一字があって、雄仁ゆうじという。



「そうだ、パパ! ママがね、パパがきたらこれ渡してねって言ってた!」

 仁葉が走って隣の部屋へ行き、白い箱をとってきた。

 そこに入っていたのは、新品のスマホだ。


 スマホを取り出してみる。

 ボタンに触れてみれば、電源が入った。


 それからすぐ、画面に電話のマーク。

 そこには『アヤメ』と書かれていた。


『やぁ、この電話が繋がるということは、私の娘にあったんだね。我が友よ』

 相変わらずのアヤメの声が、電話口から聞こえる。


 スピーカーモードになっているのか、通話口に耳を当てなくてもいいみたいだ。

 この体だとどこが耳か、そもそも謎だけどな。


「ママ! ママの声だ!!」

『やぁ、仁葉。元気にしてたかい? ママの言いつけはちゃんと守っている?』

「うん、もちろんだよママ!! いつ帰ってくるの? パパ、ちゃんと帰ってきたよ!!」


 仁葉は思いっきり身を乗り出している。

 アヤメのやつ、こんな小さい子を一人にして長らく家を空けてるんだろうか。


『まだ帰れないよ。仁葉がパパと一緒にママを探してくれるまでね。ちゃんとお話はしただろう?』

「うん……私、頑張ってパパと一緒にママを探すね!」


 謎の会話が、アヤメと仁葉の間で繰り広げられる。

 俺、置いてきぼりなんだけど。


《おいアヤメ。お前、どこにいるんだよ!! こっちは今大変なんだぞ!! っていうか娘がいるってどういうことだ!!》

 思いっきり叫ぶが、触手の体は声がでない。

 本当に不便だ。


『まぁ、落ち着け勇仁。ちゃんとお前の声は聞こえているとも。私は天才だからな』

《どういう理屈だよ!! てか、本当に俺の声聞こえてるんだろうな!?》

 ツッコミを入れれば、くくっと喉の奥で笑う声が電話口から聞こえる。


『もちろんだ。私の娘は人間だから聞き取れないが、私は君と同じくモンスターだからな。1年ぶりだというのに、久々にあった友人に挨拶もなくそれか』

《ごたくはいいんだよ! それよりも聞こえるなら、色々と説明してもらおうか!!》


『説明したいのは山々なんだが、通話できる時間が限られている。とりあえず私に言えるのは、それが君の娘の仁葉だってことだけだな』

《俺の……娘?》


 今、こいつ何て言った?

 俺の娘? このツインテールの幼女が?


『覚えはないか?』

 至って冷静に、アヤメが問いかけてくる。


 いや、まぁ。

 子供ができるようなことをした覚えは……ある。


 けどアレは、若気のいたりというか酒の勢いというか。

 そもそもアヤメに、俺が襲われたというか。

 時期的には、ぴったり合致するような気はする。


『くくっ、覚えはあるようだな。名前はお前の名前から一字取らせてもらった』

《女の子に「仁」って漢字珍しいと思ったら、俺の子だったからか。なるほど納得……って納得できるか!! なんで言わなかったんだよ!!》


『相変わらずのノリツッコミだな。そういうところが好きだぞ』

 混乱する俺の様子を、アヤメは楽しんでいるようだ。

 電話の向こうでニヤニヤ笑っていることくらい、見てなくてもわかる。


『それは仁葉のいないときにでもな。ちゃんと可愛がってやれよ? お前の子なんだからな。じゃあな、仁葉。パパと仲良くするんだぞ。また、明日電話する』

「うん、また明日ねママ!!」

 早口になるアヤメに、仁葉が答える。

 せわしなく、通話は切れてしまった。


「わわっ、パパ!? 溶けちゃってる!! 水みたいになってるよ!? ど、どうしたらいいのっ!?」

 衝撃がでかすぎる。

 いつの間にか、俺……パパになってたの?


「パパ、とりあえずコップ持ってくるね!! パパをコップに入れなきゃ!!」

 慌てたように、アヤメがキッチンへ走って行くのが見えた。

 しかし俺は、衝撃がでかすぎてそれどころじゃない。


 街中にモンスターが溢れていた光景を見たときよりも、ずっと。

 俺はパニックに陥っていた。

2017/02/03 微修正しました。内容に変更はありません。

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