1日目・夕方 幼馴染の家に到着
【1日目 夕方】
しかし、移動が辛いな……駅に着いたとき壁時計を見たら午後3時くらいだった。
ここまで来るのに普段なら電車を使って30分のところを、3時間もかかっている。
動くの全身使うし、どうにも慣れないんだよな。
一旦液体のように全身を伸ばして、それから移動方向に伸縮する。
こう、足を一歩一歩よちよち歩いてるみたいな、そんな感じでじれったい。
階段とか、特に上がるときに時間がかかって仕方なかった。
人間の足なら、さっと一跨ぎなのに。
モンスターとかいて壊されてる場所も多い中、あいつの住むマンションの一角は綺麗に形が残っていた。
セキュリティも生きてるようだったから、暗証番号を入力し、俺が来ることを想定してあいつがポストに入れっぱなしにしている鍵を取った。
ふう、ようやく到着だ。
高級マンションの7階があいつの部屋。
外国から帰ってきてるって、直前に言ってたからいるといいけど。
そうは言っても、俺1年くらい気を失ってた(?)からあいついるかな?
そもそも、俺以外の人間この世界にいるの?
まぁ、とりあえずエレベーターの電源が生きてててよかった。
さすがにこの体で、7階まで階段で上がるのはきつい。
部屋の前まできたら、床と同じ要領で直角の壁を登る。
液体のようになって、ゆっくりと上へ上へ。
ちょっとこれ辛いんだよなぁ。
触手をチャイムまで伸ばせたらいいけど、15センチくらいしか伸びないし。
どうにかこうにか、チャイムを押す。
音が鳴ったのが聞こえた。
しかし、耳もないのにどうやって聞こえてるんだろうなぁ。
聞くっていうより、音を捉えて頭で感じてるみたいな感覚はあるんだけど。
これもまぁ、ない脳みそで考えても仕方ないことだ。
本当に今脳みそないしな!
考えられてるから、いいってことにしよう。
「はぁい!!」
ガチャリ。
高い声がして、扉が開いた。
「あれ? 誰もいない!」
黒髪をツインテールにした、幼い女の子。
キョロキョロとあたりを見回してる。
ここ、あいつの家だよな?
俺の幼馴染に兄妹はいなかったはずだし、歳が離れすぎている。
かといって、子供にしてはでかいような。
人間を観察対象としか見てないような変人だったし、あいつに男はいないはずだ。
しかし、どうしたものか。
ドアが開いてる今のうちに、潜り込もうかな。
中にあいつがいるかもしれないし。
そう決めて、壁を伝って降りようとしたところで、幼女と目があった。
マズイ。
動いてたら妙に思われてしまう。
ただの壁の汚れだと思ってくれ!!
コケにしては、超派手な緑だしぬめってるけど、そういうことにしといてくれ!!
「パパ!!」
幼女が嬉しそうに声をあげた。
他に人間がいたのか?
俺がきた廊下の方向に意識を向けた。
誰もいない。
幼女の視線は、俺に釘付けだった。
「パパ、ずっと待ってたんだよ!!」
幼女が俺を壁からはがす。
昔遊んだスライムのおもちゃみたいに、ぺろりと簡単に俺の体は壁からはがれた。
ぷるんと元の半球上に戻った俺を、幼女が腕に抱きかかえる。
そのまま俺は、幼女によって部屋へと招き入れられた。