14日目・朝~夜 この触手が届く範囲
14日目は空飛ぶひよこ様よりツイッターにて、触手ランドセル幼女のイラストをいただきました!
ありがとうごさいます!!
「どうして私が端末に化けているとわかった?」
《最初はお前のことだから、周囲にいる人に化けてるのかなとか思ってた。でも、お前はひねくれもので、寂しがり屋だからな。ずっと側にいられるものに化けていると思ったんだ》
アヤメからの連絡は、いつもタイミングがよかった。
先生が側にいるときや、誰かが一緒にいるときは絶対にかかってこない。
俺の端末から情報を引き出せたのも、アヤメ自身が端末だったからだ。
まぁ、半分以上は勘のようなものなんだけどな。
伊達に長年一緒にいたわけじゃない。
「あっ、ママ!? ママ帰ってきたんだね!!」
仁葉がこっちに気づいて走ってくる。
アヤメに抱きついて、お腹に顔を埋めた。
「おかえりなさいっ! ママ、おかえりなさいっ!!」
「……ただいま」
アヤメは涙声の仁葉を抱きしめ、その頭を撫でる。
こんなに優しいアヤメの表情は、はじめて見たかもしれない。
こいつも母親なんだな。
そんなことを思った。
◆◇◆
仁葉がアヤメにくっついて離れなかったので、寝かしつけてからふたりっきりになる。
倉庫の外は海風が強かった。
そのあたりに転がっていた木箱に、アヤメが座る。
俺もアヤメの横に木箱をひっぱってきて、その上に乗った。
《見た目昔と変わらないけど、一応お前もモンスターなんだよな》
「あぁ。アヤメという人間の姿をとってるだけだからな。お望みなら、好きな形になってみせるぞ?」
《いや、いい。お前はお前のままのほうが落ち着く》
「君ならそういうと思った」
ふっとアヤメは笑う。
久しぶりにその顔を見た。
《俺、お前に会ったら絶対言うって決めてたことがあるんだ》
「なんだ。何でも言え。説教される覚悟はできてる」
そう言うわりに、アヤメは怯えているように見えた。
アヤメが犬なら耳も尻尾も垂れ下がっていることだろう。
《俺はお前が好きだ。結婚してくれ》
「……」
予想外だったんだろう。
アヤメは大きく目を見開いて、黙ってしまった。
《こんなことになって、後悔してたんだ。柄にもなくな》
触手で頭部分をかきながら、ゆっくりと自分の気持ちを口にする。
ずっと前から、たぶん俺はアヤメのことが好きだった。
でも、幼馴染みの距離が居心地よかった。
だから、それでいいと思っていたのだ。
アヤメが1人で悩んでいることも、何も知らなかった。
俺の子供さえいればいいと、アヤメが斜め上の行動に走ってしまったのも。
きっと俺が煮え切らなかったせいもあると思う。
そういう関係になって、責任をとるじゃなくて。
好きって自覚を持って告白していれば、何か変わったかもしれない。
アヤメに「そんなつもりは一切ない」とか言われて傷ついて。
幼馴染みのままでいいなんて、自分を納得させて。
そうやって嘘をついて、誤魔化してきたからややこしくなってしまった。
《俺はお前が好きだ。お前も俺が好きなんだろ?》
「傲慢なセリフだな」
《誤魔化すのはもう無しだぞ。前にお前が「そんなつもりない」って言ったとき、凄い傷ついたんだからな。触手のままで格好付かないし、指輪だってないけどさ》
アヤメの手に、シュルシュルと触手を絡める。
もう逃がすつもりもなかった。
《俺はアヤメと仁葉がいれば、それでいい。元の世界に未練がないって言ったら嘘になるけどさ。お前のいない世界とか、考えられないし》
ずっと当たり前にそこにあったものが、いなくなる。
想像しようと思っても、できなかった。
「君は本当に……バカだな」
《まぁな。自分でもそう思う》
アヤメの目から、ぽろぽろと涙がこぼれていた。
その滴を触手でぬぐってやる。
《それで? まだ俺、告白の返事聞いてないんだが》
これでノーって言ったりしたら、許さないからな。
そういう意味を込めて、強く触手に力を込める。
「私も……君が好きだ。ずっとずっと好きだった。いつまでも一緒にいたくて……こんなことをしてしまった」
嗚咽混じりに、アヤメは言う。
今まで我慢してきたものがこみ上げたように、好きだと繰り返す。
弱々しいアヤメの姿。
いつだって堂々としているアヤメが、他の人には見せない顔。
《最初から、そうやって素直になっておけばよかったんだ。俺もお前もな。そしたら、もうちょっと何か変わってたかもしれないのに》
「怖かったんだ……幸せになって、手放せなくなるのがわかってたから。君はいつだって、ダメな私を許してしまう」
精一杯触手を伸ばして、アヤメの背中をさする。
触手だけじゃなく、体も引き延ばして。
アヤメを包み込んだ。
「私は、君に迷惑をかけたくなかった」
《結局かけてるだろうが。どうせ最初から、我慢できる気持ちじゃなかったんだ。本当、アヤメはバカだな》
「そうだな。私はバカだった」
《そうだ。大馬鹿だ。お前が意地張るから、仁葉の一番可愛いときを見逃したんだぞ?》
認めたアヤメの頬を、触手でむにっとひっぱる。
反省しろよという意味をこめて。
俺の触手に手を添えて、アヤメは小さくごめんと謝った。
言いたいことは山ほどあったけれど。
今はそれで許してやることにする。
《今はムリだけど、そのうち結婚指輪とかも手に入れて、式もあげるから》
「モンスターの姿でか」
真剣に言ったのに、アヤメが少し笑いながらツッコミを入れてくる。
《そうだよ。モンスターの姿で、だ。仁葉と一緒に遊園地にも行く。約束だからな》
「そもそも電源が入ってないから、動かないと思うぞ?」
わかっているくせに、アヤメはそんなことをいう。
本当にひねくれた奴だった。
《あーもう! 行くったら行くんだよ! お前や仁葉と一緒にいられればそれでいいんだ! この先もずっと一緒だ! 仁葉が大きくなって、結婚して。子供産んで孫ができるまでだからな!!》
俺がそう決めたんだから、文句は言わせない。
宣言すれば、アヤメは泣き笑いのような表情を見せる。
「あぁ、ずっと一緒だ」
俺の体を引き寄せ、本体にキスをして。
アヤメは嬉しそうにそう言った。
◆◇◆
互いの気持ちを確かめ合った後、俺とアヤメはたくさん話をした。
今までのこと、これからのこと。
不安は尽きなかったけど、前向きに生きることを考えた。
こんな世界になって、気づいたのは。
後悔しないように生きた方がいいってこと。
だから、やりたいことや行きたい場所をリストアップして。
それを全部、制覇することに決めた。
悪戯の計画を立てるみたいに、それは楽しかった。
結婚式もどうせやるなら、南国の綺麗な教会がいい。
人がいないから、貸し切りだ。
観光地をめぐるのもいいなとか。
そんなことを話し合っているうちに朝がきて、昼がすぎて。
そして、また夜がきた。
「パパとママと、一緒に眠るの嬉しい!」
「僕まで一緒でいいんでしょうか……」
仁葉だけでなく、少年も俺とアヤメの間に挟んで横になる。
少年はこういう状況になれてないらしく、戸惑っているようだった。
“一緒に行動するんだから、これからは家族かなって思ったんだけど。嫌?”
「嫌じゃないですけど、その……いいんですか?」
端末で尋ねれば、少年がおずおずと尋ねてくる。
“真くんがいいなら、仁葉のお兄ちゃんになってあげてほしい”
少年の名前を書いて、お願いしてみる。
喜んでと真は言ってくれた。
母親は不定形のモンスターで、父親は触手のモンスター。
しかも父親である俺は、この間まで自分に娘がいると知らなかったし、真ともそんなにつきあいが長いわけじゃない。
かなりいびつな家族かもしれないけれど。
それでも。
触手を精一杯伸ばして、アヤメと仁葉、真を抱きしめる。
この触手の届く範囲くらい、俺が守りたいと思った。




