7日目 運び屋の少年
7日目は日向るな様よりツイッターにて、触手ランドセル幼女のイラストをいただきました!
ありがとうごさいます!!
「パパ、今日の朝ご飯豪華だね!!」
《だろう?》
仁葉に褒められて、触手を丸めて体を反る。
えっへんと胸を張るようなポーズをとれば、仁葉が笑った。
蜘蛛の頑張りのおかげで、昨日は大収穫だった。
なので、夜は白菜と豚肉を購入して、夜はミルフィーユを作った。
白菜と豚肉を交互に重ねて、出しを入れて。
蓋をして煮込むだけの簡単料理だが、これがポン酢と合わせるとうまい。
仁葉も気に入ってくれたようだった。
ちなみに今日は、目玉焼きとパン。
それにレタスとスープ。
このご時世では手に入りにくい果物、いちごを用意していた。
仁葉を学校まで送り届けて、それから一旦学校の外へ出る。
今日は少し、やることがあった。
昨日の夜も、俺はアヤメと電話をした。
暗い話は避けて、仁葉のことや俺のことを話した。
俺のことをパパだと慕ってくれること。
ミルフィーユを美味しいと食べてくれたこと。
この間は公園へ行って、遊んだということも話した。
正直、アヤメを見つけるべきかどうか、俺にはよくわからない。
あいつには会いたいと思う。
会って直接言いたいこともいっぱいある。
でも、それは同時に。
別れのカウントダウンだった。
この生活は不自由だし、元の体には戻りたい。
でも、アヤメがいなくなると思うと、すぐに答えが出せなかった。
つまり、問題の先延ばしだ。
ちょっと考えをまとめたくて、ひとりになる時間がほしかった。
いい場所はないかなと考えて、前に桃山さんと行った喫茶店を思い出す。
学校からすぐ近い、雰囲気のある喫茶店。
力のないお客さんようか、猫のためなのか、ドアの下に入り口が存在している。
くぐるとすぐに、いらっしゃいませと店員が声をかけてくれた。
「お席までお運びしましょうか」
ダークエルフの男性店員は、20歳くらい。
男前で、金髪に赤い瞳。
それでいて、俺と視線を合わせてくれている。
店員というより、店主なのかもしれない。
この間も、彼しか店に店員がいなかった。
お願いすれば、テーブル席に案内される。
シリコン製の皿のようなものを、俺の下に置いてくれた。
前も同じだったが、触手モンスター向けのサービスらしい。
これが結構温かいし、体にくっつかないのだ。
コーヒーを注文して飲む。
少し体の力が抜けて、緩んだ。
他のメニューも何か頼もうかな。
そう思って、メニュー表を見る。
ちなみに、キューブはちゃんと持ってきている。
昨日桃山さんから、キューブと端末を持ち歩く方法を教えてもらった。
要は、体の中にしまって、消化しなければいいのだ。
体の中に空白部分をつくり、そこにしまう。
思ったより簡単にできた。
だんだん人間離れしていくなと思うのは、こんなときだ。
メニューを物色していて、食べ物以外のページがあることに気づく。
どうやらここでは、人手(というかモンスター手?)を貸し出しているらしい。
頼む相手や内容にもよるけど、最低でも1時間で黄色キューブ1個から請け負っているみたいだ。
護衛にお使い。
触手専門の運び屋もあるようだ。
これは便利だな。
さっそく、お試しとして触手専門の運び屋を1時間雇ってみた。
やってきたのは、モンスターじゃなくて小学校高学年の男の子だ。
男の子、珍しいな。
学校なぜか、女子率が高いんだよな。
おとなしそうというか、クールな印象を受ける子だ。
「どこに行くんですか?」
“ただ、散歩したいだけ。おまかせ”
端末で答えたら、男の子が眉を寄せた。
怒っているというより、困った顔だ。
「別にいいですけど。じゃあ、勝手に好きなところいきますよ」
それでいいと答えてから、彼のランドセルに入れてもらう。
“触手運ぶの、ランドセルって決まってるの?”
「そうではないですが、楽なんですよ。背負い慣れてますし、触手の皆さんもそうでしょう? あと、この形状だと触手が出しやすいですし」
確かにランドセルって、触手向けなんだよな。
最初から触手のために作られたんじゃないか?
そう思うほど、触手にとっては素晴らしい構造をしていた。
男の子は自転車を使うらしい。
乗り心地はとてもよかった。
20分くらい経ったところで、男の子が自転車から降りる。
ランドセルから出されたと思えば、男の子が俺を腕に抱いた。
「ここ、街がよく見えてお薦めです」
高台になった場所は、風が心地よく吹いている。
その下には街が見下ろせた。
「時間になったら、迎えにきますね。落ちないようにしてください」
男の子は手すりの上に俺を置く。
「お客さん、多分ひとりになりたいんですよね。ここ、俺もよく行く場所なんです。違ってたらごめんなさい」
どうやら気遣われていたらしい。
なんだか、情けなくなってくる。
「家族、いますか?」
唐突な質問だった。
いるよと示すように、触手で頷く。
「どんな方です?」
“小学校1年生の女の子と、奥さんみたいな人”
答えれば、男の子はそうですかと頷く。
見上げてみたけれど、何を考えているのか読み取れなかった。
「じゃあ、帰り道におみやげに喜ばれそうな柑橘がなっている場所を教えますね」
男の子は微かに笑う。
「次ご利用の際は、女性が喜びそうなところを案内します。お2人を連れていけば、喜ばれると思いますよ」
なかなかの商売人みたいだ。
何故か、少し心が軽くなったのを感じた。




