5日目・夜 告白
夜になって一息つく。
仁葉は眠ってしまっていて、まだアヤメからの電話はきてなかった。
ここのところ、ドタバタしていた。
触手になってから、もう5日が経過しようとしている。
アヤメは世界を元に戻せる力を持ちながら、戻したくないと言っていた。
その理由がわからずにいた俺だけど、今はなんとなくわかっていた。
モンスターだという自覚がある人間は、30歳までに死ぬ。
桃山さんからもたらされた情報が真実なら、それがきっと理由だ。
彼を信じてないわけじゃないけれど、沢村くんにもそのことを尋ねてみた。
《そうなんですよね。困ったものです》
沢村くんもこのことを知っていたらしい。
機関に所属する者なら、誰でも知ってる常識だとのことだった。
つい最近それを知った俺も、人間に戻ったら30歳までに死ぬんだろうか。
疑問に思って尋ねたら、それは違うと言われた。
《だって、小野さんは自分がモンスターだって、わかってはいますけど自覚はしてませんよね。根本から違うんですよ。僕達と同じではありません》
俺にはよくわからなかったが、決定的な違いがあるらしい。
はっきりと線引きされた気がした。
『やぁ、雄仁。生活には慣れたかい?』
考え事をしていたら、電話がかかってきた。
昨日電話をしていなかっただけで、大分久しぶりな気がする。
《おかげさまで。昨日は電話取れなくて悪かったな》
『いや、構わないよ。モンスターと戦っていたんだろう?』
何も言ってないのに、どうしてわかったのか。
驚いていたら、さらにアヤメが続けた。
『北地区のC―10。戦った相手は大型の蜘蛛のモンスターで、君と桃山君の下僕として登録しただろう?』
《どうしてそこまで知ってるんだ?》
簡単なことだよと、アヤメは笑った。
昨日、蜘蛛を手下として登録する際、手続きに端末を使った。
俺の端末の使用状況は、全てアヤメに筒抜けとのことだった。
《ストーカか》
《私に報告する手間が省けていいだろう? 昔は君、逐一私に今日何したとか、教えてくれたじゃないか》
ツッコミを入れれば、そんな言葉が返ってくる。
思い返せば、その通りかもしれなかった。
別に知られて困るものでもないので、いいかと思う。
『なぁ、アヤメ。お前がこの世界を元に戻したくないのは、寿命が原因なのか』
《いきなり核心を突いてくるね、雄仁は。そうだよ》
あっさりと、アヤメはそれを認めた。
『どうにかしようと頑張ったんだが、ムリだった。だからせめて、君との子供がほしいと思ったんだ』
《それならそれで、ちゃんと言えよ!》
自分でもわかるくらいに、声には怒りが滲んでいた。
アヤメに対して、こんなに怒りを覚えたのははじめてかもしれない。
《お前が悩んでたのに、俺何もできなかっただろうが。仁葉にだって、今まで何もしてやれなかった》
『……本当に君は、私にもったいないな。嫌われて当然のことをしたのに。そんな君だから、好きになったんだが』
電話の向こうのアヤメは、多分今泣いているのかもしれない。
声が震えていた。
《好きとかそういうことは、面と向かって言えよ。いつもお前はずるい》
『そうだな。私はズルい。そのうち死ぬ私に、君を付き合わせてはいけないと思った。だから、君の代わりとして仁葉がほしかった。結論からいえば、大きな間違いだったが』
責めれば、アヤメはごめんと謝る。
あいつらしくない、今にも消えそうな声だった。
『私はな、もう余命が3カ月もないんだ。これは変えられないことなんだよ』
言葉を失う。
そんなの、聞きたくはなかった。
『仁葉は君の代わりになんてならなかった。君と同じくらい尊いが、別だ。死ぬ運命を受け入れて、仁葉をもうけたのに。余計に死にたくなくなってしまった』
モンスターだらけでも、この世界ならずっと生きていける。
追われている身だから姿を現せはしないけれど、見守ることはできる。
アヤメは、そう考えているようだ。
『だが、このままじゃいけないともわかっているんだ。仁葉のためにも、君のためにもよくないことだ。だから……君が私を見つけ出してくれ。お願いだ』
すがるような、苦しそうな声。
痛いほどに気持ちが伝わってくるようで、俺は何も言えなかった。




