4日目・昼 寿命
本日2回目です
モンスターになったから、仕事しなくていいんじゃないか。
そんなことを思ってた。
働かずして、楽して生きたい。
会社で毎日働きながら、思ってたんだが。
たとえモンスターになろうと。
誰かと関わって生きるなら、仕事は自然と必要になるものなんだな。
お隣さんの触手は、あわい桃色。
触手がいくつもあって、下半身を犬のように変形させていた。
背中に乗っけてくれたので、移動が楽だ。
彼の名前は、桃山さんというらしい。
年齢は俺と同じ27歳だということだ。
《朝に子供達の護衛を終えたら、この部屋に集まってミーティングだ》
なるほど、一緒に登校するのって護衛も兼ねてるのか。
登下校に親が送り迎えするのと同じだったんだな。
異様な光景すぎて、そこに思い当たらなかった。
指定区域内はモンスターがいない。
でも、時々外から入り込んでくるらしい。
できるだけ、外に出るときは一緒にいてくださいね。
昨日、帰り際に先生からも言われていた。
空き教室に入れば、ミーティングがはじまる。
お持ちの端末を見てくださいと言われた。
どうやら、他のモンスター達も皆端末を持っているらしい。
俺も桃山さんに言われて、スマホを持ってきていた。
指定区域の確認や、今の状況など情報交換がされていく。
なるほど、これは重要そうだ。
《現在、まだ『人間化復活装置』は見つかっていません。今日は北のエリアまで、捜索範囲を拡大する予定です!!》
皆の前に立つリーダーっぽい奴が、触手を振り上げる。
この装置が、アヤメの持っているやつなんだろうな。
やっぱりみんな探しているわけか。
《聞くの忘れてたけど、小野さんはモンスター派?それとも、人間派?》
桃山さんが小声で聞いてくる。
《なんですか、その派閥》
《人間に戻りたくないって人もいるからさ。自分がモンスターだって自覚があると、30歳になる前に病気で死んじゃうし》
何それ、はじめて聞いたんだけど。
ぽかんとしていたら、知らなかったんだねと肩を叩かれた。
《研究者の間では有名な話だけど、君もしかして一般の人か。親族に機関の人間がいるのかな?》
《あっ、はい》
なるほどねと桃山さんは頷く。
ミーティングは終わったようで、それぞれが解散していくのが見えた。
折角だから、話をしようかと桃山さんが俺を背中にのっける。
つれて行かれたのは、学校から近い喫茶店だった。
店員さんはどうやら、男のダークエルフのようだ。
人間の世界をうまく回すため、自分がモンスターだと知るものは不要。
だから自覚があるものは、30歳になる前に死ぬ。
そういうプログラムが『人間』には組み込まれている。
桃山さんは、そんなことを教えてくれた。
《元々自覚がある機関の人間は、全員短命なんだよね》
全く悲壮感のない、さらりとした説明。
わざわざ嘘を言うメリットもないし、これは本当のことなんだろう。
《俺の場合、ありがたいことにこの歳まで生きてるけどさ。うまく生きられても後3年なんだ》
桃山さんは注文したコーヒーを飲む。
俺のように、色が変わったりはしなかった。
《でも、モンスターの姿なら、殺されない限り寿命はないんだよ。こんな世界でも生きていたい奴や、人間の世界に飽き飽きした奴がモンスター派って感じかな》
《桃山さんは、どっち派なんです?》
気になって尋ねてみる。
桃山さんは、人間派だよと即答した。
《機関では、研究者の人間としての寿命を延ばそうって頑張ってたんだけど。ムリだったんだよね。でも俺はやっぱり、人間が好きだから。モンスターとして生きるくらいなら、人間として死にたいんだ》
それにと、桃山さんは付け加える。
《俺には超可愛い娘がいるからね。あの子の未来は、ここにないよ》
桃山さんは同じ歳なのに、悟った雰囲気がある。
大人というよりも、親といった感じがした。
《俺を含め研究者には子持ちが多いんだ。短命だからこそ、次に繋げたくなるのかもしれない。だから子供達を守るために、本拠地が学校にあるんだよ》
そろそろ仕事に戻らなきゃねと、桃山さんがお会計をする。
どうやら代金は、あのキューブで払うらしい。
桃山さんは、俺の分まで払ってくれた。




