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クインテット!  作者: 日生
1章 合成獣
6/25

6

 その日の午後、ゼノンはある部屋の扉をノックした。

 即座に中から「入れ」と声がし、入室する。


 正面奥の執務机には黒い長髪の美女がいた。小柄で、ともすればゼノンよりも年下に見えるが、実際の年齢は誰も知らない。この美女こそ、闇夜を見張る梟の群れを統べる者。


 その名もアレシア。


「うまくいったようだな」


 口の端を片方だけ吊り上げ、アレシアは言った。もともと目付きが刃物のように鋭いため、そういう表情をするとかなり人相が悪く見えるのだが、本人は好んでそのような笑い方をする。


「お前の髪が乱れていない。今日は問題児たちへの説教がなかったということだろう?」


 当たっている。しかしゼノンは喜んでいいものかわからず、曖昧な表情で上司に報告書を提出した。さっそくアレシアは書類をめくる。

 同時に、口頭でも報告を行った。


「初めて、あの連中に感謝の言葉が寄せられましたよ」

「結構じゃないか」

「とはいえ感謝の内容はすべて彼女についてでしたが」

 すると上司の華奢な肩が、鼻笑いとともにかすかに揺れた。


「とびきり優秀というのは本当だったらしいな」

「大司教らの得意顔が目に浮かびます」

「老い先短いジジイどもだ、せいぜい余生を楽しませてやれ」

「このまま彼女を採用していいのですか?」

「愚問だな。シュトラールがコーリスターの有用性を示したいのであれば勝手に示してもらう。こちらは使える者を使うまでだ」

 ふと、アレシアは書類をめくる手を止め、顔を上げた。


「ところでメルは連中に馴染めたのか?」

「ええ、意外にも。特にあのザンに懐きました」

「意外だな。一番とっつきにくい相手かと思ったが」

 くつくつとアレシアは喉の奥で笑っている。


「シュトラールで《天使》と称されているあの子には、連中の異質さ・・・がちょうどいいのかもしれんな」

「余計な問題が起きなければいいのですが」

「問題といえば、拘留していた魔術師がさっき脱走した」

「は!?」

 上司がさらりと漏らしたことにゼノンは目を瞠る。


「そんな、なぜ!?」

「予想以上の力を持っていたようでな、特級拘束具が無残に破壊され、気づいた時には姿がなく追跡も不可能だったそうだ」

「はあ・・・これでまた議会に叩かれますね」

「口ばかりの連中の追及なぞ屁でもないさ」


(だろうな。この人は)

 しかしフォローのために駆け回る羽目になるのは幹部であるゼノンらだ。

 問題の多い部下と上司に挟まれる、中間管理職の男は先を憂いてこっそり頭を抱えていた。



1章終了。

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