金の要らないコラムニスト
平凡な一般市民の俺の唯一の趣味はコラムを書くことだ。
今回のテーマは「蕎麦」。この夏のブームらしく壁掛けテレビをつけてもネット新聞を読んでもここ一週間は蕎麦の話題だらけ。ざるそばがいいとか夏でも温そばが一番だ、蕎麦は栄養価が高くて疲労回復にいいからこの猛暑にオススメだとか道行けば蕎麦の話題が絶えない。おかげで通販の蕎麦関連の商品は全部売り切れ、蕎麦屋も大行列だ。
普通のコラムニストやフリーライターが蕎麦について書くなら蕎麦の良さを前面に出すべきだ。そうしないと出版社は原稿を買ってくれない。
誰のどういった思惑で蕎麦がブームになったのかは知らないが、時代の流行を何かしらの反社会的な形で世に出すといったことはその業界だけでなく社会的に干されてしまいその会社は潰れてしまう。そんな時代になっちまったのさ。
しかし俺は捻くれた自称コラムニスト。好きなだけ批判的な事を書くだけ書く。ここ数年会社では大した業績は上げていないし定時帰りだが何故か給料が著しく上がっているし、原稿料はもらえなくとも夢だった自分のコラムを書いているだけで満足だ。
今日も昨日書きかけで寝てしまったコラムの続きを書くとしよう。えーっと「蕎麦ブームがもたらす他業界への悪影響は、」か。まあ思いつくのはうどんだろうな、ラーメンなら麺に蕎麦を使えばいい話だしむしろ蕎麦ラーメンといった新しい蕎麦料理への開拓になりかねない。批判、そう批判が俺の執筆精神なのだから。
よしうどん業界にターゲットを絞って今日中に書きあげるとしよう。
気が付いたら日が暮れていた。休日の朝から書きはじめていたから半日を無駄にしたがなんとか書きあげることが出来た。内容的にも我ながら中々良い。早速フォルダに完成したコラムを保存し、俺は早めに寝ることにした。コラムに題名はつけない。どうせどこかの出版社に持っていく訳でもないしただの日記のような自己満足だからな。
2週間位経っただろうか、最近のブームが蕎麦からうどんに変わったようだ。うどんブームとはくだらない…蕎麦に比べて栄養なんぞないし何かの食べ物に組み合わせる事くらいしかバリエーションもない。こりゃ批判を書きやすいな。俺は早速コラムを書こうとパソコンを開いた。
こんな簡単な批判なら半日と掛からずに書けるだろう。俺は日記を読み返す気分で適当に以前どんなコラムを書いていたのか読んでみることにした。どれどれ、「近年の猛暑による社会人の体調不良による欠勤は自己管理が怠っているからなのではないか…」、か確かにそんな事を前に書いた気がするな。まあどうでもいい、早速うどんへの批判を書かねばなるまい。
だがキーボードを打とうとした俺の手は止まった。そのコラムの最後に「暑さ対策にはそうめんよりも蕎麦を食べた方が栄養価が高く手軽に食べられる食事での自己管理の方法なのではないだろうか」という一文を見つけてしまったからだ。
俺はコラムを書くことをやめようと思ったが出来なかった。給料が上がっていたのも誰かがこの俺の批判的なコラムをどこかからハッキングしてその内容を利用してブームを作っていた、その報酬としてのものだったのではないか。多分コラムを書くのをやめれば会社をクビになるだろう。もしかしたらこのコラムが流行に使われている事に気付いてしまった事がバレて人生自体が終わってしまうかもしれない。
誰が自称「批判が執筆精神の金の要らないコラムニスト」だ。
結局男も誰かの思惑に利用されているただのコラムニストに過ぎなかったのだ。どれだけ待遇が良いとしても。自分の書きたい事が書けていたとしても。優秀なコラムニストだとしても。
読んでいただきありがとうございました!
「蕎麦」をテーマにしていたのですが書いていたらこんなことに…