18歳の誕生日
開いていただき、ありがとうございました!
起きると頭がやたらとクリアに澄み渡っているのを感じた。
『誕生日おめ! カミカ』
『おめでとー! ゼウス』
ごちゃん端末に並ぶ誕生日を祝う言葉。
そうか、やたらと頭がすっきりしているのは絶対記憶能力か……。
ありがとう、と返事をする気力もなく、俺は頭を振る。
ついに誕生日がやってきてしまったのだ。主人公としてのエロゲの世界の始まりだ。
大丈夫だ、危なそうなフラグは潰して来た。
こっちの希望のフラグも立ててきた。
掲示板に書き込みつつ奇跡を使いながらロードを繰り返した結果、クレアは半攻略状態だ。
昨日、押しに押してクレアと恋人になる所まできたんだ。
大丈夫だ、うん。俺はきっと理想の世界にいるはずだ。
「ネトアお嬢様、クレア様がお迎えに来ましたよ」
マリエが俺を呼びに来る。俺は頷き、制服を着て降りる。
「おはよう、ネトア!」
クレアは癒しの笑顔で俺とそっと手をつなぎ学園へ向けて歩き始める。
「クレアの手暖かいね」
「ネトアの手も暖かいよ」
『苦労した甲斐があったわ。これで俺は最高の人生を歩けるんだ 悪役令嬢』
『何だかつまらんな。
リア充を眺めるだけのエロゲに何の価値があろうか。
CGがどれだけ綺麗でも、ノーマルな純愛物って苦手なんだよね ミスリル』
『恋人になっていちゃいちゃして主人公が喜ぶようなエロゲに価値があるの?
こう捻りみたいなのが欲しいよね カミカ』
捻りなんていらない。俺はクレアと一緒に普通の人生を……。
「あ、クレア。そっちは車道だからあぶな」
「ん?どうしたのネトア……」
キキーーー!!
バンッ
クレアは急に現れたトラックにはねられ……
バウンドしながら転がり……
「ちょっ!?」
壁にぶちあたりぐったりと倒れた。
身体からはドクドクと赤い血が流れ出ている。
『へえ、この世界なかなかやるじゃん! ゼウス』
『ぶち殺すぞ? 悪役令嬢』
『ボクのせいじゃないからねっ!? カミカ』
『そんな事よりも病院に連れていけば? カラス』
……。
「ふう、残念ですが、昏睡状態です。三年間経過しないと目覚めませんな」
「クレア、クレア!」
医学の限界だ、と悔しそうな医者。
動かないクレアに抱き着いて泣き叫ぶラレア。
『誰が望む永遠? カミカ』
『ワロタwww ゼウス』
不謹慎すぎる……。
俺はすぐに目が覚める怪しい薬を物質具現化で作りだし、クレアへと飲ませる。
「あ、おはよう。ネトア、学校へ行こう!」
口に含んだ瞬間目が覚めた。
『ラレアと恋人になった後目覚めさせればいいのに カミカ』
『そんな三角関係はいらない 悪役令嬢』
俺が居る世界は、強引に変わり始めていた。
「ねえクレア。このAV撮影科って何?」
「え?それ学園開校当時からあったAV撮影科じゃない」
嘘だ!?そんな物があったら絶対に潰してるはずだ!
ピンク髪の奴隷を連れた冒険者が戻ってきたり、
学園に怪しい顔をした用務員が何人も居たり、
学園裏の森はオークの森と名前が変わっており。
スライムは……うん、逃がしたからそれは仕方が無いけど。
『強引すぎだろ!?潰したフラグが全部復活してるじゃねえか!? 悪役令嬢』
『まあ、今までのはプロローグみたいな物だし。本編フラグには関係なかったのかもねっ カミカ』
嘘だろ……。今までの俺の苦労は何だったんだ……。
orzと項垂れてる俺に、クレアが俺の手を握って元気付けてくれる。
まあ、もう一度フラグを全部潰せばいいだけだ。うん、そうだよ。
立ち上がると……奇妙な虹色の扉が現れて、光に飲み込まれた。
「まだフラグ増えるのかよ、勘弁してくれよ」
光が消えると、そこは今までいた学園とは全く異なった中世のような世界に居た。
「おお、勇者様。やった召喚に成功した!こんなにも美しい勇者様が来るとは!」
金髪碧眼のイケメン王子が俺の手を握り……。
「ぐふっ!?」
とっさに顔面を殴りつけて気絶させる。
「……転生者を召喚すんな、ボケが!」
奇跡を使い元の世界のゲートを開きなおし、戻る。
『この世界はちゃんとデバッグしたんだろうな? 悪役令嬢』
『発売してからパッチを当てればいいだけだって偉い人が言ってたよっ カミカ』
それは炎上するパターンだ。さっさとパッチを当てろ!
本編がバグだらけのエロゲって……。
詰め込みすぎな内容バラバラでごった煮な初日。俺は残った奇跡と物質具現化で何とか乗り越える事が出来た。
読んで頂きありがとうございました!