第六話 到着
俺は途中、野宿しながら五日間歩き続けている。魔王城から最寄りの町とはいえ、そう簡単には着かない。もっとも、すぐ着いてしまうようだったら、魔族領になっていただろうが。いや、一度占領されたか。
「おお!」
俺は、喜びの声を上げた。パーレスの町が少しづつ見えてきたのだ。町民に見つかる前に変装しよう、そう考えた俺は、小さな杖を服の中から取り出した。所持品の持ち運び用にといくらでも物の入る魔法の袋もあの屑王から渡されていたのだが、あの裏切り者どもが持ち去って行ってしまった。この杖は、戦闘中にでもすぐ取り出せるようにと忍ばせておいたのだが、それが幸いだった。
変装の魔法は、魔術書を読んで習得したものだ。この世界では、戦闘や治療の経験を積むと、レベルが上がり、いろいろとパワーアップするのだ。さすが、ファンタジーの世界、なんでもあるんだな!と最初興奮していた記憶がある。
さあ、変身しようと杖を振り上げたが、ふと、腕が止まった。どういう姿になるのか、全く考えていなかったあああああ、少し焦る俺。考えてみれば、今まで変装する機会なんかなかったので当然なのだが。
まあ、この魔法を唱えれば、ばあさんにでもじいさんにでも少年にでもなれるのだが……あんまし、本当の俺と違う人になっちゃうと、どっかでボロが出る可能性がある……まあ、三十代前半の青年冒険家にでもなるか。
俺は考えをまとめ、杖を振り上げながら、魔法を唱えた。ボンッという音と煙とともに、俺の姿が変わった……はずだ。手を見ると少し見た目が違う。どうやら成功したようだ。
俺は、再び歩き始めた。だんだん、パーレスの町が近づいてくる。俺が救った町……町民は、俺が、逆賊だの凶漢だの極悪人だのと王から知らされて、信じたのだろうか。もしかしたら、俺のことを信じてくれているやつもいるかもしれない。
必死の思いで大将の魔物を倒し、町に自由を取り戻した俺はとても感謝された。とてもという副詞だけでは言い表せないほどの感謝感激といった感じだった。
「勇者様方、この街を救ってくださり、本当にありがとうございました!!! この恩は必ず返します」
あのとき町民たちは、口々にこう言っていた。あの町民たちなら……。俺が、淡い期待を抱きながら歩き続けているとパーレスの町の入り口の門が見えてきた。簡単な石垣を張り巡らしたちょっとした城塞都市でもある。石垣は、俺が立ち去った後に急造したようだ。
(町の中に入ったら、まず酒場に行ってみよう。俺がどういう扱いになっているかぐらいわかるはずだ)
俺はこう思いながら、門へ歩みを進めた。