第一話 プロローグ
「ススム、いくんだ!」
「よっしゃ!」
「ぬう、貴様ら……これでも喰らえ!」
魔王が放った魔法をひらりと避ける。戦いはだいぶ長く続いていた。四年も冒険を続け、仲間とともに、ようやく魔王城についた。城内でこれ以上進ませまいと向かってきた幹部らもなんとか倒し、魔王のいる玉座の間にたどり着いたのだ。
「おりゃあああ!」
「ぐぬ……もはや、これまでか。勇者……たちよ……よく……やっ……た」
魔王が倒れる。やった、やった、ようやく、魔王を倒したんだ!
仲間と喜びを分かち合うために、後ろを振り返る。しかし、そこで見えたのは剣を構え、こちらに走ってくる戦士アランの姿だった。剣が自分に向かってくる。俺は、避けようとしたが、体が動かなかった。
剣が俺の体を切り裂く。俺には、状況が理解できなかった。
「アラン、何を……するんだ……お前は、仲間……」
「なあんだ、お前、俺をそこまで信頼していたのかあ、ハハハ、そんなに演技がうまかったか?」
「みんな、トーマス、エミリア、助けて……」
俺は、二人の仲間に助けを求めた。アランはどうかしたんだ。二人が、トーマスとエミリアが、いままで冒険を共にしてきた友達が、助けてくれるはずだ。
「はあ? 私たちが、なんであんたを助けるの?」
「え……」
「僕たちは、君の仲間なんかじゃないんだよ」
世界が崩れていく。俺が友達、仲間だと思っていたものは、なんだったのだろう。
「魔王を倒した勇者、それだけで君は、国王陛下に対する反乱の種になるだろう。もう君は、用済みなんだよ」
初めて会った時のような、屈託のない顔で、微笑むトーマス。
「私もそんな勇者と心中する気なんてさらさらないしー。ここであんたには死んでもらって、報酬と魔王を倒したという名誉を頂くわ。楽しみー」
満面の笑みを浮かべながら話す、エミリア。
「そんな……」
「おい、こんな無駄な話やめて、早くこいつ殺そうぜ」
アランが言う。
「そうだな、じゃあ早く始末して、国王陛下に報告しよう。さぞお喜びになるだろう」
「じゃあ、私がとどめを刺すね」
エミリアが、倒れている俺のもとに近づいてくる。呪文を唱えているようだが
俺にはもう、よく聞き取れなかった。
なんで、こんな奴らのために必死に戦っていたのだろうか。笑顔を浮かべながら、平然と裏切るこんな奴らのために。
あいつらを絶対に許さない。国王も、王妃も、トーマスも、エミリアも、アランも、俺を騙した奴ら全員を皆殺しにしてやる。絶対に、復讐してやる。
大きな衝撃を感じた。そして、俺の意識は、急激になくなっていった。