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同居生活とは……自宅

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

    ◆

新しい家族が増えた。


僕たちの同居生活一日目。


巡るめくジェットコースターハプニングの数々。


全力疾走で走り抜けた僕の残りのミッションは眠るだけだ。


姉貴は「むむむーっ。おっぱい爆弾、ゆだんできない牛乳星人さんー」など

言いながら新品の牛柄パジャマをひなたに進呈してご満悦。


そのまま、姉貴はひなたの首根っこを引っ捕まえて姉貴の部屋に連行していった。


姉貴はもともと百合属性なので……ドキドキするぞーっ!


もう一人の新家族ちびっ子のゆーなの寝床はリビングのソファがベッドだ。


ややゆったり感のあるソファなので130センチも満たない華奢なゆーなは

毛布にくるまってネンネしている。


僕は自室。


六畳間の畳部屋。


すこし大きめの低反発ベッドに羽毛布団。


この部屋の家具といえばベッド一つ。


壁に姉貴のパイロットスーツ姿の古ぼけたポスターが一枚。


このポスターは僕の学生時代から唯一の物理的な財産で宝物。


僕はこのポスターを見るたびに『全てが嘘ならば』と感傷的になってしまう。


嘘を突き通すことも嘘によって救われることも。


そこから真実がうまれることも。


不毛な戦争で生きのこる知恵として戦場が僕に教えてくれた。


僕はベッドに潜り込んだ。


耳をすませば、時折、跳ねるような声。


姉貴の部屋から聞こえてくる「んあぁぁ、あふぅぅ」など甘酸っぱいひなたの嬌声が。


――も、もしかして姉貴の部屋は百合の時間なのですかーっ!?――


羽毛布団を頭まですっぽりとかぶり聞こえないふりをして眠りにつこうとしていた。


ガラガラ――


遠慮がちに物静かに開けられた立て付けの悪い自室のスライド式ふすま。


廊下からひんやりとした空気が流れ込んでくる。


薄暗い室内の灯りといえばカーテンで遮光されたガラス窓の僅かな光の差し込み。


ベッドの傍らまでくると。


羽毛布団の左下端をゆっくりめくり上げる。


ごそごそ。


何だか冷たく小さな生き物が僕のベッドに侵入した。

あったまっていた羽毛布団のなかにかすかな冷気が混入。


もそもそ……ぽん。


小さな物体の小さな冒険は目的地に到着した。


爬虫類や猛禽類の類ではなく霊長類。


「家の中で迷子にでもなったか」


プルプルプルーっとゆーなは遠慮しがちに小さく首を横にふる。

そしてとんぼ玉のような綺麗な瞳をキラキラさせてじーっと僕を見つめてきた。


『捨てられた子猫の哀れみを叶えてくれると信じていますよーっ、旦那さま』みたいな期待感が頭のてっぺんから足の先までみてとれるぞーっ!


「ベッドで寝るの夢だったの。それに……」


くんくんと鼻をならしたゆーなはとても楽しそうに僕の臭いを嗅ぐ。

子犬みたいに可愛らしい。


「お風呂場の続き。隠しごとなしにしたくて」


 ゆーなの全身が僕にぴったりとくっつく。


ツルツルぺったんのスリーサイズに抱きつかれても僕はどうじることはない。


むしろどうじてしまったりしたらあぶない世界の仲間入り。


間近で、あどけないゆーなの顔をまじまじと見て気がついた。


 将来は想像も絶する美人になるであろう保証書をつけたくなる美幼女と美少女の合間だ。


「ところで、あたしは須藤さんのこと何て呼べばいいの? 旦那さま、ご主人様、先生、お兄ちゃん? それに苗字しかしらないし」


「そうだな、一応、須藤アスナだからアスナお兄ちゃんが妥当かな」


「アスナ……須藤アスナ!? それって、めっちゃくちゃ聞いたことある名前だよーっ」


うーんといったようすでゆーなは思案を巡らせたようだが「まっいっか」と軽快な思考フットワークで割愛したもよう。


「うんうん。あたしの番」


 僕の顔と同じ位置までゆーなはベッドの中をもそもそとイモムシのように這い上がってくる。


大きめの枕にぽんと顔を乗せると僕に向かって「てへへぇ」とあどけない笑みを提供してくれた。


「あたしはゆーな。今日から須藤ゆーな。年齢はぴっちぴちの18歳」

 吹き出しそうになった。


どこの世界にこんなちんちくりんな18歳がいるというのだ。 

知りもしないことは怖いことだが『無知は罪』などとソクラテスの言葉が脳裏をよぎった。


どこから見てもガキンチョ。


小柄すぎる小柄は栄養不足を考慮しても10歳ていどにしかみえない。


僕と同じ歳とは……なんだか別のベクトルで心臓がドキドキしてきた。


「えっとね……生まれは地球低空圏内の空船の第一住居区コロニーの第一セクター。押しも押されぬ戦争孤児どえーす。元気いっぱい避難キャンプで盗みとドラックですくすくと育って。気がついたときには人としての尊厳がない独房で落ちるところまで落ちてしまいました、アスナお兄ちゃん隊長」


 ピシッとおでこに手を当てて敬礼をするゆーな。


僕は綺麗に沈黙していた。


押し黙って聴く。


それが礼儀だとおもうし。


他人に真実の過去を、忌まわしくて醜くて軽蔑される過去をさらけ出すゆーなの強さに僕は感心していたから。


「いやーっ、二年間は毎日独房でロリコン囚人や変態監視員に犯されたよ。

かわるがわるいっぱい。推測するにあれは神様からあたしへの素敵な罪の清

算期間。贖罪。そりゃもう、あたし毎日アヘってたから。気持ち悪いぐらい

下半身がベトベトで嫌だったなぁ。刑期を終えて無一文で釈放……うーん、

放り出された後は小銭なんかを窃盗しながら偽造パスポートで密航して第三

コロニー居住区に流れて、あとはずっと売春婦かな。こんなちっこいカラダでも、もの好きや金持ちの変態がいっぱいいるから。頑張って生活費かせいだんだー」


 快活で清々しいほどの饒舌なのに、かすかに聞こえるゆーなの小さな溜息。


ぞくぞくするような話だ。


こんな身近にリアル悲劇っ子がいたなんて。


僕にぴったりと寄り添っているゆーなの体温や心拍数があがる。

だから『おちつけ』という意味合いで僕はゆーなの肩までかかった繊細な緑の髪を愛でる。


 だって、本物の孤独は家族を失った苦しみよりも深みがある闇だから。


「えっと、そんな仕事していたからって誤解はしないで梅毒やエイズみたいな変な性病はもってないから。あたしの病気は発作。ほらっ、お兄ちゃんが引き取ってくれたとき震えていたでしょ。ドラックが欲しくて欲しくてたまらなくなるの。ドラックの副作用。震えがとまらなくなって。だけどもう二度と絶対にドラックはしないのだ」


きっぱりと断言する言葉に嘘偽りはない。


だって、落ちるところまで落ちた人間は、嘘や偽りからも嫌われるから。

そんなゴミみたいなものすら相手にしてくれないそれが本当の孤独(、、)だから。


――ゆーな。だから僕が愛してあげる。神様から見捨てられたこんな腐りきった世界の人間は僕が全て愛してあげる――


「ざっくりとそんなところであります。アスナお兄ちゃん隊長」


 何故かゆーなは僕に可愛らしく敬礼をする。


 妙にさまになっていた。


「了解しました。ゆーな隊員は僕に希望することはありますか」

 

 おどけてみせた僕の対応が嬉しかったのだろう。


 思いっきり本音をぶちまけてきた。


「大きな愛情と寝床があればあたしは満足」


 ゆーなは僕に抱きついた。


 震えながら小さな体で懸命に抱きついてきた。

 

 僕の顔を虚ろな瞳で覗いてくる苦しそうだが満たされた表情。


 だから僕も抱きしめてあげる。

 

 ゆーなの発作が止まるまで永遠に。


 永遠に……。


いかがでしたか?

キャラクターが可愛く描けていたら嬉しいです。

拝読していただきましてありがとうございます。

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