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家族……心の絆

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

   ◆

「……先生。質問です」


僕は自室でうっそりとした声に呼びかけられた。


このダークな声のトーンは間違いなくひなただ。


質問などという崇高な言葉、パイロット学生なので勉強のことかな?

真面目な生徒だなぁーっ!


湯あたりのため自室でグロッキーしつつ、ぼんやりと考えごとをしていた僕の肩をひなたはポンポンと軽く叩いた。


そのままその手を僕の首元に絡めて後ろからギュッと抱きついてくる。


しかもリアルすぎる肌の感触だ。


「こらこら、冬野さん」


「……冬野さん、間違え。ひなた。今は先生の家族だから須藤ひなた」


スレンダーな体格に不釣り合いな丸々した胸の膨らみが二つ。


豊潤さと柔らかさ、そして若さあふれる弾力を遺憾なく発揮するように生々しく押し付けてくる。


首に絡み付いた腕や肩に乗せられた美顔から甘い柑橘系の香り。


「……先生は……生徒である……家族のわたしを抱きたいのですか」

 

 ――はにゃーっ、抱きたいだってーっ!――


しがみついている腕の力がぐいっと強くなる。


その声音は期待と諦観のあわさった複雑な心境を交えた声音。


「ふゆ、いや、ひなた。子供が年上を誘惑する不純異性行為は感心しないな」


「……わたし……シスコンすぎる先生の存在が不純と認識」


「あははっ、なかなか鋭いな。それって、家族のバーバルコミュニケーションだよね」


シスコン(、、、、)。


その伝統的で神秘的な言葉の響き。


姉を愛することは人類共通の課題ではないか。


まぁ、家族歴数時間のひなたがやんごとなき事情でもなければ疑ってかかることも当たり前だろう。  


僕は誤解をまねくような(自分基準(、、、、))軽率な言葉でひなたに真実の愛とはどのようなものかなど語りたくない。


「愛の形は色々だからね。ほらっ、ひなたも僕の大切な家族なのだから理解の色を示してほしいな」


「……家族」


小さく吹き出す『家族(、、)』のキーワード。


ひなたは大切にとても大切にその言葉を扱う。


「……ゴミだめからわたしを拾ってくれた。家族っていってくれた……先生……本気ですか」


 ひなたは静かに興奮しているようだ。


ドクリドクリと跳ね上がる心拍。


背中から体温と拍動が合わさって僕の肉体に伝わる。


 困惑しつつも何処かすがりたくて頼りたくて、そんな不器用な想いがひしひしと伝播してくる。


「……先生、目的、何ですか。わたしの肉体? それとも欲望のはけ口? それともピー?」


心地よい吐息と呟きが僕の耳に吹きかけられた。


ひなたは全て知っている。


もしそんな疑いを持っているなら僕にこんなにも魅力的な性的欲求をかきた

てる仕草はとらないはずだ。


ただ、僕から言わせれば『目的(、、)』などはない。


「なぜ、ひなたはついてきたの」


「………………」


 ひなたが口を閉ざしてしまう。 


僕は何気なしに右手をひなたのインペリアルトパーズのような澄んだピンク

色の髪を手ぐしですくうように優しく撫ぜる。


ふわりっとひろがるシャンプーの香り。


なぜ、女性は同じ香りのシャンプーを使用しても魅惑的な芳香をまとえるのだろう。


僕たち男性には永遠の謎かもしれない。


「人の心ってさぁ、強がっていても簡単に壊れるくせに二度と同じ形にもどらない。怖くて戻ろうとしない。だったら違うものになればいい、だからひなたも違う自分になればいい」


 饒舌だな。


絶望の声が僕の海馬で大合唱していく。


鮮血で染まった世界。


くりぬいた眼球。


泣き叫ぶ声。


命の儚さ。


死神の囁き。


苦しくて苦しくて、僕の意識が殺戮の世界を生き抜いた記憶が閉まってある

脳内ライブラリーからに記憶を掘り出していく。


「……わたし……生きることから逃げたい。誰かに救って欲しい」

ひなたは僕の肩に顎をのせて小さくぽそりっと本音の言葉と記憶を紡いだ。


「……畳の上でした。義理の父と知り合いのおじさんたちが私の服を剥ぎ取って、すぐ終わるからそこで寝て天井見てろって」


 喉の奥から小さな嗚咽が聞こえる。


「……ギシ、ギシ、ギシ……畳がきしんで……わたしずっと天井を見ていた。痛くて……いっぱい血が出で……ベトベトになって……気持ち悪くて……ギシ、ギシ、ギシ……」


 僕の手はひなたの頬をぬぐう。


泣いて、泣いて、泣いて。


「……先生になら……本当に先生の家族にしてくれるなら……どんな酷いことも我慢する……だから……だから、そばにおいてほしい」


 ひなたの苦しみは想像を絶するものだったのだろう。


おそるおそるという、不慣れな口調で僕にすがりつくように訴えてくる。


身を守るべき手段を持たず、弱者として生きることしかできない者の懇願。


僕にはひなたの消えてしまいそうな、小さなささやきが明瞭にきこえた。


 助けて……わたしを助けて……と訴える本心の慟哭が。


「ひなたはもう大丈夫だから。怯えることはない。ひなたが居たいだけいっぱいいっぱい居ていいから」


 無論、嫁になってくれなどの永久就職を推奨しているわけではない。

家族って、その絆ってとてもあやふやな線引きだけど牢固たるものだと想う。


「………………」


戸惑いから朝霧がはれたようにひなたは安心感と信頼感を宿した微笑んでくれた。


ひなたにとってはとても心外なことかもしれないが僕は出逢ってからはじめてひなたの純粋な笑顔を見たような気がする。


無垢で純朴な笑顔……いつものうっそりひっそりした富士の樹海や密林のジャングルのうっそうとしたイメージが嘘みたい。

有り体にいうと艷やかな美少女。


ひなたは恋人のように僕の胸に手をまわす。


「……先生、わたしのことまた救ってくれた……ダメでクズで生きている資格なんてないわたしを……二度も」


「ひなたを二度も」


僕は小さくつぶやく。


『忘れてしまったの』みたいな切ない表情でひなたは覗き込んでくるのだが。


僕の色恋沙汰は姉貴一筋。


ひなたのエピソードと言えば、学校の飼育小屋に持っていくはずだったエサ用のキューリをひなたに食べられて動物たちにヒモジイおもいをさせたことぐらいしか浮かんでこない。


「……先生。わたしで……わたしでよければ……ずっと、あの日からずっとお慕いしておりました。抱いて……くれませんか」


 ひなたの想いが向かう先、いくら見返しても着地点はきまっている。


僕は抱きついていた腕をゆっくりと剥離させる。


緊張を残した穏やかな面差しでひなたが正面になるように僕は振り向いた。


僕の眼中に一糸まとわぬひなたの豊満な肢体。


一歩動くたびにたわわな二つの生巨乳がぷるんぷるんと派手に揺れる。


若さあるハリも形のよさも一級品だ。


もはや爆乳と呼んでもいいのではないか。


引き締まった腰もとは強制食事節制の賜物。


むっちりとして丸みをおびた健康脂肪のヒップ。


だから僕はしんみり言った、とても現実感の欠落した言葉を。


「ひなたは家族だよ。抱っこならいっぱいしてあげる。愛してるよひなた」


僕の言葉の意味がわからないひなたはパチパチとまばたきをして人差し指をくちびるに添えて小さく首を傾げた。


ピキーン!


う、うあぁぁぁーっ! こ、この気配……絶望的な殺気にとらえられたぞーっ!!


その刹那、何か異様な気配と空気が自室を包み込む。


そう、大変な不信感が散りばめられた殺戮者の気配。


その気配の原因が腕を組んでドドーンと仁王立ちしている。


「あーちゃん。ミンチとぶつ切り、どっちが好きーっ」


 ――あれれ――っ、も、もしや、そのお言葉は死の宣告ではありませんかーっ?――

 

あ、姉貴。


目がマジですよ。


ミンチやぶつ切り、それって、スーパーの精肉コーナーにある百グラム売り

している商品のことですよね。


姉貴の瞳を見たとたん僕は動けなくなった。


メデューサも真っ青の威力だ。


石化していないだけ恩情を感じてしまうが全身の自由が奪われてまったく身じろぎできない。ザ・金縛りというやつだな。


僕は喉の奥から声にならない悲鳴じみた声を絞り出す。


「姉貴。ご、誤解です。エロは一ミクロンもないです。僕は姉貴オンリーなわけで」


「ひなたたん、素肌におっきーいおっぱいボンだよ。あーちゃんのミニモニがマンモスさんになっているーっ。アクロバティック月面着陸風ドッキングするの?」 


――はうぅーっ、アクロバティック月面着陸風ドッキングって、姉貴ーっ、それって繁殖をおこなう✖✖✖的な行為ですよねーっ!――



あふーん、ピーな部分を踏みつけないでぇぇぇ。


姉貴にそんなことされたらMが目覚めて感じてしまうかもぉぉぉ。


もはや笑顔をつくる余裕すら僕にはなかった。


このお怒りオーラの伝わり方からして今晩、僕のお通夜が開かれそうな気配

がする。


「うち、わるくないもん」


姉貴の口調はいつもと変わらないがさめている。


氷点下までさめきっていて僕の命まで凍りつきそうな勢いだ。


「ご、ごめんなさい。僕は姉貴だけです。僕がエッチしたい衝動にかられるのは姉貴だけです。今すぐにでも抱きたいです。今晩エッチしたいです。姉貴のことを考えるだけで欲情するほどです」

 

――生徒の前で性癖をつらつらとカミングアウトしたよーっ!(涙)――


淡い希望に真実をすり込んで懸命に訴えかける。


「ほんとう、嘘ついたらぶつ切りにして甘辛いタレで焼いちゃうぞーっ」

 

 ――姉貴ーっ、お願いだから焼かないでーっ!――


ふぁっと柔らかな雰囲気がひろがると僕の金縛りがとける。


焼き鳥という死刑台から解き放たれた鳩の気分だ。


姉貴は妙に嬉しそうな目で僕の顔を見る。


「あーちゃんはうちだけのあーちゃんなの。浮気はめっ! だよ」


 姉貴はそう言って僕のほっぺを鷲掴みしてぐっと引き寄せた。


ああっ、や、柔らかい。


姉貴の血色のよいくちびるが僕のくちびるとぴったんこ。


このダイレクトな接吻。


僕の背後でぽかーんと傍観しているひなたの頬もさぞかし桃色に染まっただろう。

 

――姉貴、殺してあげたいほど愛しているよ――


僕はそっと心のなかで呟いた。


華のように笑ってくれる姉貴。


大好き姉貴。


壊れた僕を大切に育ててくれた姉貴。


だから今度は僕が姉貴を大切にする。


人間らしさなんて少しもいらない。


骨の破片までいっぱい愛してあげるから。


いかがでしたか?

家族愛……狂喜にかけていましたら嬉しいです。

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