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公園の貧困キャンプ……ホームレスパイロットを連れて帰り&ちっこい子供を買いました

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

   ◆

強化人間には主に二つのパターンがあると言われている。


一つ目のパターンは遺伝子操作によって生まれた禁忌の存在。


才能は汎用にして万能。


知能指数も高く現在戦争中である『空船』と『地船』に主力部隊として投入されているエースパイロット級の九割以上はこのつくられた人種(、、、、、、、)で占められている。


ただし、この万能的な存在にも大きな問題となっている欠陥部分が三つある。


一つ目は一歳までの生存確率が六%と極めて低い。


九十四%の赤子はDNAの末端・テロメアが極端に磨り減った状態で産まれてくるために短命、すぐに天に召されてしまう。


これは一部の偽善的なヒューマン団体が人道的尊厳の視点から非難しており世論としてもマスコミを二分するほど問題視されている。


二つ目は興奮状態で右瞳の色が変色。


これらの虹彩異色症状は強化人間特有のものであり、遺伝子操作の反動ともいわれている。


三つ目が一番やっかいな問題だ。


産まれもっての染色体異常により子孫が残せないことだ。


一代限りのエリートであり稀覯種。


そして男性・女性の両性器をもつ両性具有者となることが極めて多い。


二つ目のパターンは僕や姉貴に当てはまる。


こちらは極めて説明が簡単。


無駄に増えた戦災孤児や難民などに予防接種の名目でのウィルス性殺人注射が発端となった突然変異。


生命活動の停止を迎えるものと人の尊厳が終わる新しい生き方になるもの。


こちらのパターンの生存確率一%未満。大半の者はウイルス兵器の実験台となりほぼ即死といった感じだった。


生き残っても少なからず後遺症に悩まされる。


僕の後遺症は肉体変化。


一定の体温変化による男性から女性、女性から男性へ。


お気楽な簡易性転換というものだ。


そんな僕は友情あふれるティアのお願いごとを実行するべく紺色のニットソーアンサンブルの上にワイン色のダッフルコートジャンバーにビンテージ加工のジーンズといったラフな男性の姿で冬野ひなたが生息している地域にやってきた。


真っ白い雪にまみれた公園。


体温を奪い去る冷え切ったコンクリートの階段は昼間だというのに仕事にあぶれたホームレスがダンボールに包まり震えながら雪空を見上げてポカーンと座っている。


昨今の戦争で失業率も高く若者のホームレスも多くなったとテレビなどが連日伝えていたが実際に老若男女問わずビニールシートやダンボールでつくったハリボテの家が公園内を所狭しと埋め尽くして貧しい生活を余儀なくされている。


このあたりは素行の悪い流れ者もおおく治安も日に日に悪化していた。

昨日もこの地域で理性を失ったホームレスの男性達によっていたいけな少女強姦されるなど危険な事件がおきたばかりだ。


これが戦争が引き起こした現実なのだ。


はっきりしないモヤモヤとした気持ちを抱えて僕は目を細めて嘆息した。


生きる温もりが忘却のかなたに消えた雰囲気。


権力主張する動乱や戦争は一般人の生活と心を食い漁る万能の魔物。


このスラム化した公園は家や職を失って戦争難民となった者たちの最後の住

処だろう。


そんな生活に尊厳などはない。


嫌でも飲食店のゴミ箱を必死にあさって食べ残しを食べたり、裕福な家庭の

子供が捨てた飲みかけの缶ジュースを舐めるようにのんだり。


最低限の人間の矜持を保つべく、そして清潔感を保つためにこの公園の水飲み場の蛇口をひねって湧き出す僅かな冷水で頭を洗っている人もいる……生きるために必死な姿。


 ひなたは正義なんて発言が意味をもたないこの殺伐とした公園で身も心も震えている。


肉を削ぎ落とされたような痛みが慚愧の念という想いが僕の心に反芻している。


とにかく探さなきゃ。


僕は解読が終わったティアのメモ用紙を手がかりに公園内を探索していた。


「にーちゃん、何でもいい、この子のために食べるものめぐんでくれないか……」


くすんだ紺色のボロ切れを纏った惨めらしい白髪あごひげの老人が僕に訴えかけてきた。


この場合は『この子のための食べ物』は横流しされてこのじいさんが食べることになる。


そのとなりに、ぞんざいな扱いで捨てられている、煤ぼけた顔が痛々しい風邪気味の幼い少女が毛布の代わりに新聞紙とダンボールを体に巻いて震えながら眠っている。


その扱いからして少女はジャンク商品(、、、、、、)だろう。


「その女の子はいくら?」


 いくらといっても回転寿司でまわっているような鮭の卵ではない。

人身売買。


人をお金で売り買いすること、無論合法ではない。


欲望と悪意が散りばめられた無法というものが形になった姿が人身売買である。


姉貴一筋のシスコンの王道を闊歩する僕はぺったんこのロリコン趣味などはこれっぽっちもない。


なのでお気楽な顔でさらりと言ってのける。


「ほーっ。にーちゃん、そっちの趣味かい。こいつは戦災孤児の上玉だからな」


黒い瘴気が見えそうだ。


化学工場のどす黒い煙突からモクモクと垂れ流される黒煙のようだ。

熱のせいだろう、黒目も揺れて焦点もあわずに茫漠としている幼い少女を一瞥すると奥底が見えないほど闇を含んだ目を僕に向けてきた。

そして一考することもなくガタイの良い白髪あごひげの老人は汚らしい指を三本立ててくる。


金銭の要求だ。


浮浪者じみた風体のこの老人から犯罪者の匂いがプンプンする。


血でまみれた戦場で何度もおめにかかったきな臭い危険な匂いだ。


僕は懐から財布を取り出す。


「ほらっ」


僕がチャックを開くと可愛らしく『メーッ』と鳴き声が鳴り響き、ファンシーな羊の財布から取り出したお札はとても大金。


――ああっ……一ヶ月分の食費よさようならぁぁぁ――


老人が指定した金額をその場で払う。


薄っぺらい札束(大金)を数えて卑下な笑みを浮かべる老人。


反吐がでそうだ。


締め付けられるような居心地の悪さが僕の感情とその場を支配している。


僕の視線の先には華奢で酷く汚れた太ももが剥き出しになり苦しそうな息を吐く幼い少女。


膝をかがめて湿った新聞紙や朽ち果てたダンボールに包まる幼い少女にそっと手を差し伸べた。


ボサボサの緑色の髪。


煤こけて栄養失調気味の蒼白した顔。


貧弱な体つき。


半袖シャツと半パンはこの時期に痛々しい。


年の頃は10歳ぐらいかな。まるで昔の僕を見ているようだ。


ぐったりしている病気の少女の肢体をヒョイと持ち上げる。


僕はうらぶれすぎた薄汚い少女を肩に乗せて担ぎ上げた。


軽い、その体重は姉貴の体重の半分ほどしかないように思えた。


意識が朦朧としているのだろう時折何かを呟いているが反抗する素振りもない。


ただ、コホコホと咳をしながらお腹が可愛くキュルルルと鳴っている。


「さて、このただっ広い公園。ひなたを探すにしても……こいつ邪魔な荷物だな」


 辺りを見渡すかぎりダンボールとテントの山・山・山……コソボあたりの難民キャンプを彷彿させる。

うーむと頭を抱えて僕がうなっていると。


「……須藤先生?」


いきなり奇跡がおこった。


姉貴ーっ、やはり、今朝の動物占いは正解だったようですよーっ!


消えてなくなりそうな小さな声が僕の名を呼ぶ。


こんなありえないぐらい生気のない声は僕の知る限り彼女一人。


振り向いた僕の目の前にパイロット養成第三学校の学生服のまま生活必需品一式が入った大きな旅行カバンを両手で握りしめて、視界に穏やかではない光景が飛び込んできたような驚いた表情で僕をマジマジと見つめていた。


おや? 何だか冷たい視線だぞ……。


「……幼女誘拐現行犯。ロリロリ仮面」


 ――ひなたぁーっ、それは違いますよーっ!―― 


それって人間のクズを指すような言い回しだぁ。


とはいえうらぶれた幼女を抱える男性の構図は犯罪でもないかぎり滑稽としかいいようがない。


ひなたはとっても涼しい顔で忌憚なくぼそりと囁く。


その光を宿さないグリーンの瞳の奥に潜むねっとりとした闇。


もう、とりもちよりもねっとりとりとりしていますよねーっ。


この公園には殺伐とした不審な人間は吐いて捨てるほど溢れているが現実感がない虚無的に底冷えするような闇を宿した人間はこの子だけだろう。


「あの冬野さん……その変態チックな超ローカル的単語で僕を呼ばれても困るな」


「須藤先生……偏見は駄目です……ロリはメジャーで殿堂の王道であります……ちなみにロリはロドリゲス・リチャードさんの略語ではありません。その幼女、磨けばダイヤモンドっぽい……あずきとぎ的バシャバシャお風呂プレイで須藤先生の胸キュンどストライク」


「そんな訳ないだろーっ!」

なぜ、僕のクラスの生徒にはまともな良識ある生徒がいないのだろう。

それがストライクならピッチャー有利すぎる三百六十度全方面ストライクになってしまう。

牽制球で三振バッターアウト状態ではないですかーっ。


僕のラブラブストライクゾーンは狭い。


姉貴ただ一人なのだから。


シスコンをはっきりと断言できる。


僕はロリ嗜好ではないにしろ変態なのかもしれないな。


「誘拐ついでに冬野さんも連れて帰るから。たとえ冬野さんが成虫のセミのように木にしがみついて、抵抗しても連れて帰る」


 強気な姿勢。


僕はかなり強い口調でひなたに言った。


公園は凍死する危険性や治安悪化の問題など山積している場所。

そんな地域においていくなんて狼の群れに子羊を放すぐらい危険すぎる。


それにティアとの約束もある。


だからはっきりと僕の意思を伝えたのだが……アレ……? なぜだろう、廃屋病棟で幽霊に遭遇したようにひなたは栄養失調気味の顔をさらに真っ青にして申し訳なさそうにしょんぼりとうつむく。


「……わたし……お金にならない……身内がいないから……身代金とれない」


――ひなたぁーっ、その思考から離れてーっ!――


その声は会話が成立しそうもない小さくかすれた声だった。


虫の死骸を連想するうっそりとした瞳で僕を見つめながら申し訳なさいっぱ

いのオーラがドヨドヨまといはじめている。


若さゆえに引き起こしたあやまちのように。

この場合のあやまちレベルは破綻した恋愛が残していった傷跡『お子様孕んじゃった・てへ物語・家族言い訳編』ほどのねじくれた破壊力を垣間見ることが出来る。


「身内……? ああっ……そうだ、僕が冬野さんの家族になってあげる」


「……えっ!?」


おや……意外すぎる言葉だったのかな?


僕の発言の意味を真正面から誤解しがちに受け取りそうなひなたにとってその衝撃はよほど大きかったのだろう。


ぽふぅと音をたてて顔や首筋が真っ赤になり生気のないグリーンの瞳を大きく見開く。 


肉感満載! 突出して唸りたくなるようなたっぷりボリュームがありすぎる

おっぱいあたりで両手指先を合わせてもじもじ。


ヒモジイ捨て猫がまたたびを貰って『本当ですかーっ』と喉をならしているようなうねりくねった熱い視線をがっつりと向けてくる。


これってひなたにとって人生で一番熱い視線かもしれないなぁ。


そのうえ、腹話術のお人形のような俯きかげんの小さな声でなにやらブツブ

ツと聞き取りにくい言葉をつぶやいている。


まぁ、ひなたにぴったりな人形は腹話術の人形より丑三つどきの藁人形なの

で、もし呟きが怪しい呪禁なら連れて帰る自信が萎えてしまうぞーっ。


そんな僕の思考に反比例するようにひなたは。


「……は、はい……貧血と金欠もちの疫病神の不束者ですが宜しくお願いします」


などと家族ベクトルが僕と違う方向に向いているようなお茶目な返事としっ

かりとしたお辞儀してくれた。


つ、連れて帰っても大丈夫だろうか!?


少しばかり釈然としていないようだが結果オーライ。


まだまだ思案顔ながらも比較的すんなり受け入れてくれたことに僕は一瞬だ

け運命を感じる。


おもわず購入してしまった幼い少女を右肩に担ぎながら、もう片方の左手で

ひなたの冷え切った手を固く握って公園から我が家への道のりを歩み始める。


少し、ほんの少しだけ……ほっとした。


殺伐とした僕の心に何だか生暖かい風が吹いたような感じだった。


いかがでしたか?

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

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