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総力戦 神との対峙……全滅

こんばんわ。

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

    ◆

僕は気がついていたのかもしれない。


記憶の中を覗いてみるといつも幸せが満ちあふれた小さくても胸を張って自慢できる家族とその絆に憧れていたことを。


誰よりも寂しがり屋で誰よりも臆病で誰よりも愛がほしかった。


十字架を背負った姉貴に愛されることを願って、姉貴と僕の心の隙間を埋め

るためにゆーなやひなたを家族に迎え入れて。


打ち捨てられていた泥水を飲んで飢えをしのいでいた戦災孤児だった僕が神様に願っていた両手のひらですくえるほどの小さな幸せ。


その幸せに包まれてみると凄く心地がよくて。


中央都市を有する惑星型コロニーの人々は無責任な期待と痛みを伴わない興奮に酔いしれて……そしてそんな崇拝じみた熱狂を一身に浴びながら僕たち

パイロットは宇宙(そら)へ飛び立つことになった。


残酷と傲慢が満ち溢れる宇宙(そら)へ。


『空船』がこのように守勢から攻勢に転じることには理由があった。


一つ目の理由は宇宙怪獣たち確認できる全軍が地球に降下した。


二つ目の理由は急な人工増加による物資の不足と極端なインフレが発生したからだ。


中央都市が鎮座する惑星型コロニーとはいえ、備蓄はいずれ底をつく。


食物の収穫時期があっても需要と供給のバランスが完全に崩れてしまったのだ。


このままでは持って二ヶ月。


各コロニーからの避難民の受け入れは自発的な兵糧攻めに『空船』を追い込んでしまったのだ。


宇宙怪獣たちの地球降下。


それはあたかも宇宙という肉体に生息する白血球が地球に巣食う汚濁を極めた人類を細菌やウイルスであると断定したのだろうか!?


この地球周回軌道上には、もう一匹も宇宙怪獣はいない。


ただ、無残に破壊された機体の残骸が宇宙ゴミとして漂っている。


『マスター。特定ルートチャンネルのアクセスがはいっています。キャッチしますか?』


月影の音声が僕に伝わると返事のかわりに僕は正面立体モニターをボーっと見つめた。


 深い信頼で結びついている僕と月影に冗談以外のコミュニケーションは形骸したものになりつつある。


「ア・ス・ナさまぁぁ。むひょひょー♪ とっても、とっても宇宙とアスナさまが綺麗ですよーっ。あなたの心のエンジェル白銀アスカです」


耳をつんざくほどの大声量だ。


月影が音声ボリュームを調整してくれなければ臨場感溢れる声音に鼓膜が破裂していただろう。


しかし、まったく危機感を感じないアスカの声に僕は安心感と呆れてしまった要素が微妙に絡み合った気持ちになる。


なのでしれっとおすまし顔で反応してみた。


「アスカさん。今回の第十一食物プラントコロニー奪還作戦は理解している? もし、わからないことがあったら今、説明するよ」


 僕の何気ない言葉はアスカのハートに火を注いだらしい。


立体モニターをかいしてもはっきりわかる反応。


僕は乙女心を理解できずにまた地雷を踏んでしまったのだろうか!?


「もうぅぅぅぅ、アスナさま。手とり足とり説明だなんて、そんな言葉のニャンニャンアダルトプレイでわたくしを確かめようなんて……ちょっとくらっとくるラブラブです」

 

 ――うあぁーっ! 昔の優等生アスナに戻ってくれーっ!――


やはり乙女変態スイッチと言う名の地雷を踏んだようだ。


僕は月影にキャッチを切るようにシグナルを送るが無視される。


自称引っ込み思案のナイーブ人工知能月影さん、ボケよりツッコミ的反応でお願いします。


「アスカ」


「はいはーい。わたくしを愛することに目覚めたのですか!? もうもう、わたくし的には両親のあいさつよりわたくしを抱くことを先にしたいのでしたら……ぽっ」


「学級委員のアスカがそれだけ能天気だと僕も安心できるよ」


 戦場での自分の言葉に無責任じゃないかと思ったが僕は少しだけ根っこの部分を吐露する。


だけどアスカは困ったように黙ってしまった。


とても先ほどまでの変態さんと同じ人物とはおもえない神秘的な蒼色の潤んだ大きな瞳で僕を見つめる。


アスカの感じている重圧……そう蒼い瞳がその重圧を雄弁に吐露していた。


「安心……ですか。機体が損壊したティアは来なくて正解です。とても怖いよ、怖いに決まっているじゃないですか。ティナが陵辱されて……できるならわたくし行きたくない。女の子で怖くないやつなんていないですよ。だから進むしかない。立ち止まったらもう一歩も動けなくなるから」


 ほとんど表情を歪ませることはない。


その表情だけは気丈に振舞っているがアスカは押しつぶされたような小さな声と震える口調は本心を雄弁に語っていた。


密着したパイロットスーツの細い肩も微かに震えている。


「アスナさまを……好きっ……てことだけが。今のわたくしの支え……」


――えっ?……つ、通信がきれた!?――


突然通信が途絶えアスカの声が途切れた。


不気味なまでの静寂がコックピット内を包む。


僕の肉体は真っ赤な液体に細胞のひとかけらの遺伝子情報まで融合しているため暴れることも出来ない。


360度の全方向の視界にはアスカの機体やエースパイロット・ガナックを中心とした20機の主力部隊など。


はっきりと確認できる。


『マスター。未知の粒子を確認。遠距離通信及び観測をジャミングされています』


「その根拠、及び確認方法は」


『はい、マスター。全機体にオープンルートチャンネルにて当機はシスコン帝王の変態機と通達しましたが返事がありません』


控え目なジョークなら勘弁してほしい。


真っ赤な液体にたゆたんでいる心の部分が凍りついたような気がした。


月影によって無残にばらまかれた失言。


僕に理解の色が走るわけもなく沈黙。


『マスター。過ぎたことは気にしないでください。女々しいですよ』


沈黙による僕の意図を悟った月影。


その口調と言葉、まったくフォローになっていないですよーっ!


「月影」


『マスター、心拍及び体温値上昇。何を照れているのですか? マスターとこれほど濃密な時間を過ごしている仲ではありませんか……言い方に不備あり。過ごしてあげているのだからねーっ』

 

 ――緊張感をもてよーっ! バーカ!!――


恥ずかしげな口調でツンデレっ……人間味溢れる人工知能。


ブラックボックス『ラビラスの石』に精神とエナジーを喰われている代償がこれだと考えてしまうと……。


『マスター。第十一植物プラントコロニーより熱エネルギー確認。人型……生体反応あり』


僕はハッと息をのんだ。


僕の常識と科学者たちが蓄積してきた真理を無視したような現状が……心に衝撃が入ったとでもいおうか。


実際は僕の目のかわりに月影の高性能感知システムにより最適化された状態がそう認識している。


「月影……何が見える」


息をすることも忘れたような沈黙のあと月影は。


『神』


 ただ一言。


人工ボイスのはずが不安と好奇がよみとれる月影の口調と声色。


僕も同感。


人類史上、生身で宇宙空間に……なんてアニメや映画の登場人物ていどしかありえない現実が。


この不可解な現象を一言で表現するには『神』のチョイスは正しい。


「死せるものたちに優しいキスを……」

『祈りのコード確認。『セラフ』リミッター解除』


わかりたくないがぞくぞくする感覚。


戦場で死神を目の前にしたことがあるパイロットなら僕と同じ行動をとるだろう。


 クリアーな意識のなかで未知の粒子に阻まれていた視界の解像度が一気に上がる。


僕の機体と同じようにガナックやエースクラスのベテランパイロットは戦闘形態に。


新人パイロットたちの機動性と安定性の高い汎用量産型機体もつられるように戦闘形態に切り替わっていく。


――輝くことをやめるときがおわり――


感情のこもらない声が心の内側や魂に響く。


ただ、言霊に宿った死と破壊の色合い。


音もなく忍び寄る死の予感。


僕はセラフの『イブの翼』が悲鳴をあげていることを感じる。


やはりというべきか。熱さも寒さもない恐ろしいまでの圧倒的な光が全ての視界をおおう。


――何のために、ただひとりなのに――


もう一度、感情のこもらない声が魂に響くと僕の脆弱な意識はかきけされた。


いかがでしたか?

もう最後のときが近づいてきました。

少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです(☆∀☆)

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