守るものと背負うもの……別れと分かれ
おはようございます。
楽しんでいただけましたら嬉しいです。
◆
僕がまだまだ駆け出しのひよっこだった昔、若い軍医と姉貴が密会をしたときに僕は一日中不安な顔をしていた。
それは嫉妬だった。
大好きな姉貴を奪われたような感情。
それに気がついた姉貴は僕をなだめるように笑ってくれた。
とても気楽そうに、眉間に深い皺を寄せて肯定的なそぶりを全く見せない僕にいつまでも微笑んでくれた。
だけど、今は立場が逆になった。
「やーなのー。あーちゃんと離れるのやぁーなの、ふえ、ふえぇぇぇぇぇん」
びぇぇぇぇんと大粒の涙ポロポロ。
仮設住宅を出てすぐの玄関先でペタンっと座り込む。
僕は慌てて姉貴の頭をなぜなぜ。
心の奥底から湧き上がる姉貴への愛情をちょっと想ってしまっただけで離れられなくなりそう。
おそらく月影に心拍や体温、バイタルチェックをしてもらえば異常数値の大判振る舞いが計測されるだろう。
「うにうにーっ。もう、愛されちゃっているなーお兄ちゃんたらぁ」
「……愛し愛され……ムフフ……」
ゆーなとひなたからからかったような言葉が聞こえると僕は仄かに安堵した。
不思議な安堵感。
信頼とも愛情とも……家族としてだろう絆に僕も瞳を潤ませて少しだけホロッとした。
「ふええぇん……あーちゃん……やくそくしてほしーの」
「姉貴……何でも言って。僕は姉貴だけのものだから」
泥で汚れた姉貴の手を両手でギュッと包んで僕は愛情あふれる熱い想いを視線にのせた。
「あーちゃん、うちピーマンきらいなのぉー。たべたくないのおー」
人一倍したたかなのか……姉貴、こんなときに好き嫌いだなんて。
姉貴は真剣な眼差しを僕に向けていた。
切なさと苦しさ、そして一瞬だけ柔和な笑みのなかに見えた懇願の影。
真っ直ぐな瞳は僕の心を呑み込んでいく。
「あのねー、ふくしゅーめーっなの。うちのことは気にせんでいいのぉ。あーちゃんといっしょやったら幸せやから……こんないっぱい辛いこと……うちで終わりなのぉ」
僕のお腹に顔をくっつけて背中に腕をまわしながらすがりつく姉貴。
――どうしてなの!?――
僕は……僕の心は揺れてしまう。
なぜ、あんなにひどい目にあったのに。
人権も尊厳も肉体も精神もゴミのように扱われて、あんな映像まで流されて。
なのに姉貴は『地船』の奴らに情けをかけるのですか。
「だから……もどってきて……うちを一人にしたらめーっなの。お腹のあかちゃんをいっしょにそだてるの」
姉貴の切なる想い。
その矛先を慎重に受け止める。
僕には姉貴が全て。
僕はためらいつつも姉貴に柔和な微笑みをむけた。
もう、言葉にならない。
そんな僕の背中をゆーなとひなたがしっかりと抱きしめる。
男の僕一人に美人が一人に美少女二人。
仮設住宅の住人たちも何事かと見てくる視線などどこ吹く風。
「ぜったいに、ぜったいに戻って来てよ。お兄ちゃんはあたしと結ばれるのだからね。スレンダー系ロリぐるいのお兄ちゃんのお嫁さんはあ・た・しだから」
「……わたしは愛人でいいです……先生と生徒、危険なアバンチュール……ムフフ、既成事実さえつくれば……一発逆転……せ・い・さ・い……ムフフ」
そっとダーク系桃色吐息を吹きかけて耳打ちしてくる二人。
そのエロに特化した妄想内容が残念すぎます。
あからさまの艶かしい誘惑。
この少し異常なシチュエーションも家族……そう、家族の愛や絆がもたらしたもの。
僕はそっとそんな風に想ってしまう。
「約束するっ。絶対に帰ってくる。帰ってきたいんだ。僕の居場所はここだけだから。僕も家族と一緒にいたいから」
瞳を潤ませ嗚咽する僕。
姉貴の鎖骨や豊かな胸の谷間に吸い込まれると甘い香りと心地よさに包まれて僕はただただ姉貴を、そして新しい家族を愛おしくて愛おしくてたまらなくなった。
薄暗い見えない世界。
僕は宇宙を駆ける。
心の沈黙と憎しみを不思議とあたたかな奇異の念に包まれながら。
いかがでしたか?
もう少しお付き合いくださいね(☆∀☆)




