絶望の戦線……若き命が百合と散りゆく
こんばんわ、楽しんでいただけましたら嬉しいです。
地平線の源。
運命に背くことも許されない闇。
すべてが混沌と存在する宇宙に舞い戻ってきた。
「各小隊、これより第五・第八の両コロニーの起動兵器に合流して第一コロニーに展開する『地船』の主力起動兵器を叩く。いいか、兵器は男の性器みたいなものだ。興奮したら調子にのるし萎縮させれば使い物にならない」
下品な発言に下品な声。
ガナックがオープンルートチャンネルで新参者たちにレクチャーしている。
まぁ、第三コロニーの防衛軍の機動兵器の七割は新参パイロットや学生で構成されているひ弱な部隊だ。
『空船』ベテランパイロットなんてとっくの昔に地球の海に融解している。
数こそ揃えているが戦力としては張子の虎。
そんな張子の虎が二機、僕の機体の背後にやってくる。
『マスター。特定ルートチャンネルの同時アクセスがはいっています。キャッチしますか』
月影が僕に判断を求めてくる。
これは相手の機体のパイロットが女性であり月影が安全と判断した結果。
男なら毛嫌いして速攻拒絶の月影。
兎に角我が儘な人工知能なのだ!
月影の人工知能に嫉妬機能が標準搭載されているのかもしれない。
僕はキャッチの指示を月影に出す。
「「須藤先生ぇぇぇ!」」
……プツリ。
僕はすぐにキャッチを切った。
一瞬だけシンクロした声が僕の静寂な空間に響いたが……イレギュラー、イレギュラー。
『マスター。再び特定ルートチャンネルの同時アクセスが入っています。マスターが嫌がりそうなのでキャッチします』
こらぁーっ、勝手にキャッチするなぁーっ!
瞬時に音声と映像が。
僕は月影の小姑のような嫌がらせにもめげずに不肖の生徒・真面目な百合、白銀アスカ&変態百合、長谷川ティアたちと向かい合うことにした。
「先生! わたくし相手にいきなり切るなんて、だ・い・た・ん。Sなんだから」
「せんせー。テレテレ照れちゃって。照り焼きチキンですよーっ。そんなせんせーに萌え萌えなのですぅ」
学級委員アスカと劣等生ティア……二人の真逆なポジションの同一反応。
「持病の癪が」などと言いつつ再び通信を切ってやろうとおもったが。
月影が空ボケながら高性能な反応スピードを駆使した自己判断で回線をロックしている。
「おほん、先生。わたくしとティアで相談した結果だけお伝えします」
「お伝えするますですのらぁ」
「二人共伝えなくて良いから」
「「せんせー(先生)ってドSなのです(ですぅ)」」
やけに二人がシンクロしている。
とても嫌な予感。
この予感はマヤの予言よりも正確にあたりそうだ。
嫌なだけではなく、ある意味とんでもなく危険な予感でもありそうだ。
予感度数は新年元旦神社へ初詣に行って、お参りのための行列にならんでみれば隣の簡易トイレの行列だったほどの危険度だ。
「これより、わたくしとティアさん連合と先生で勝負をします。炭酸たっぷりシュワワーコーラの一気飲みよりも厳しい戦いになりそう。しかし、これは壮大な百合の華連合の野望に基づく願望的決定事項。言うなれば一点の穴もない完全無欠の決定事項です。先生がどんなに優秀な弁護士を立ててもひっくり返すことは許されない完封勝利の決定事項です」
「そうなのらぁーっ。せんせー、大腸から小腸までノーストップの浣腸勝利の決定事項なのらぁ」
「こらーっ、二人共冷静になれ!」
もう、蓋をしてしまいたい心境だ。
ぜえぜえと息継ぎをしているアスカとポヤンポヤンしているティア。
まだ『地船』と遭遇がなく余裕があることをいいことにとんでもないことを言ってくる。
二人のモンスター的言論はダーウィンの進化論よりも早いスピードで進化したようだ。
僕は立体モニターに投影されている二人に譲渡した嘆きの苦笑を浮かべた。
「それで勝負って」
投げやり気味で迷子の子犬のように幼気な僕。
もう幼気すぎてドナドナの曲がテーマソングとして流れてきそうである。
「「それはですねー」」
またまたふたり揃ってシンクロ。
仲が良いやら悪いやら。
遠吠えする狼のようにうなりをあげながらアスカとティアが興奮しきり。
反比例して僕はげっそりだ。
これを継続すれば短期ダイエット効果がありそう。
「敵機の撃墜数が二人合わせて先生を上回っていたらですね」
「うわうわですねー」
すごく乗り気な二人のコンビネーションは僕にたっふりと不安材料を提供してくれる。
どうやら平穏にすみそうな気配はまったくない、無論、犠牲者は僕一人。
「第三居住区コロニー支部の須藤アスナをこっそりと愛でる百合友の会のメンバーで先生の筆おろしを……いえいえ三Pを……。いいえ、禁断のグランドラインに出航していただこうと」
「そうそう出奔してもらもらですぅ」
「………………」
無論だが僕は百合も坊主もなるつもりはない。
この身軽すぎる発想に反駁しようと頭頂部の先っぽからほとばしる言葉を発しようとした刹那。
「ですので……先生。必ず生き残ってください」
「のこのこのこぎりってください」
その言葉を聞いて僕は冷静さを取り戻した。
反駁しようとした感情を鞘にもどす。
親しげに振舞う二人の結託した優しさ、それを理解して自分の浅慮を恥じる。
アスカとティアの辛そうな表情と熱心な口調。
だから僕は妙に可愛らしい微笑みを浮かべながら柄になく二人の想いに応えるために圧搾された思考から溢れ出た気持ちをはっきりと伝えた。
「もし『地船』に生身で捕まったら……」
僕の言葉を聞き逃さないためにアスカとティアの二人は息をのんで耳を傾ける。
先生である僕の言葉は普通の人間として歩んできた二人にはとても理解できる範囲ではないかもしれない。
だけど伝えなきゃ。
「人として尊厳を守りたいなら自分の手で死ぬしかない」
二人は黙ってコクリと頷いてくれた。
さて、もう少しで姉貴の無念をこの手で。
『地船』の奴ら……殺してやる殺してやる殺してやる。
――ボ・ク・ノ・テ・デ・ス・ベ・テ・コ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル――
いかがでしたか?
宇宙戦争開始の時間になりそうですね(☆∀☆)




