侵略者……コロニー戦争再び
こんにちは、楽しんでいただきましたら嬉しいです(☆∀☆)
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田舎のアパート103号室、僕と姉貴と巨乳とちびによる同居生活から一週間。
結論から言うとなんとかなりそうである。
擬似家族というか……そんな家族生活が姉貴に更なる張りと悦びを与えていた。
我が家の状況を再確認すると世話焼き姉貴の世話焼き対象が二人も増えたおかげで姦しい。
ただ、微笑ましい生活も今日までの予感。
残酷な現実が微笑ましくもすぐそこまで迫ってきた。
なので今日は朝からダイニングキッチンが騒がしい。
「あーちゃん、荷物いっぱいいれたよーっ」
避難用リュックサックにあめ・あめ・ミルクあめ……。
飴ばかりが詰められて。
何だか飴詰め放題のビニール袋みたい。
「……先生、第一居住区コロニーと第二居住区コロニーは壊滅したって」
テレビから七三横分けの髪型がお似合いのアナウンサーが切羽詰まった慌ただしい声で伝える臨時ニュースをひなたはくいいるように見ていた。
アナウンサーの口調は深刻なのだ。
となりのイスに座るゆーなは甘ったるいムラサキ色のお気に入りのいちじく
ジャムをたっぷりぬったトーストを大きくお口を開いてほくほく顔でかじっている。
こちらは世間のことなどいまさら我関せずといった肝っ玉がすわっている。
『地船』のコロニー攻略戦は思ったよりも侵攻が早かった。
むしろ、『空船』の防衛隊が弱体化しすぎたのか。
ぼんやりアンティークな臭いがプンプンする我が家のテレビ画面を占拠する
話題は中央本部緊急ニュースばかり。
内容も繰り返してばかりのオウム状態。
昨日未明、大規模な『地船』の軍隊による侵攻が始まった。
空中要塞都市国家『空船』は12のコロニーと中央都市の連合体を指している。
中央都市は空船の中枢部がおかれる流体金属の外壁シールドをもつ惑星型コロニー。
『空船』はこの13コロニーの総称。
攻略された第一居住区・第二居住区の両コロニーは『空船』の最終防衛ラインを突破された時点ではじめの標的及び攻略ポイントになる地球よりのコロニーだった。
ここを足がかりに戦術をすすめることは戦略上のセオリーとして磐石の布石だ。
「ねーねーっ、テレビのおじさんつまんない。魔法少女のビューッてやるアニメみたーい」
床に寝転がってゴロゴロしている姉貴は臨時ニュースに飽きたらしく、ハリセンボンのようにぷっくり頬を膨らませてブーブーと攻撃的にひなたのジャージの裾をぷんぷんと光の速さで引っ張って抗議。
姉貴の不満の煽りをくらったひなたは「きゃぁぁぁーっ」と金切り声をあげながらふらふらしている。
「ひなた、ゆーな」
僕の呼びかけに「ふにゃ!?」と声をあげていちじくジャムの食パンをむさぼり喰うゆーなはキラリン☆ と正体不明の熱い視線を僕にむけ、理不尽姉貴の見たい見たい攻撃の的であるひなたはテレビがうけるはずの誅伐を一身に背負ってしまい生気のないオロオロした視線をこちらにむける。
「およよっ。何だかお兄ちゃんの瞳がギラギラしているよ。銀ギラ銀にウニャウニャニャー♪みたい」
――ゆーなーっ、そのツッコミは古いぞーっ!――
僕は臨時ニュースの現状から些細な偶然や奇跡にすがることが出来ないほど『空船』が追い詰められていることを認識した。
だから僕は言った。
「宇宙にいってくる」
「えーっ!? うーん。それだったらゆーな特製愛情たっぷり夕飯までに帰ってきてね」
ゆーなは僕の意思を悟り、空ぼけた言葉をかけてくれる。
ひょいと立ち上がりトトトッと僕の傍らにくると右腕に両腕を絡めてぎゅっと抱きついてきた。
『いかないで離さない』のテレビドラマ風の若奥様のいっちゃ駄目ぽい意思がビンビンと伝わってくる。
しかも、無邪気な笑顔で僕を仰ぎ見る。
そんな、僕とゆーなのやりとりを聞いていた姉貴が甚大な被害を被ったひなたを投げ捨ててスクリと立ち上がった。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてぇぇぇぇーっ!」
部屋中を突き抜ける姉貴の声音。
どしんっと姉貴の丸みをおびたヒップが僕の膝の上に気持ち良い感触とともに落ちてくる。
すらっとした姉貴の両手は狙いすましたように僕のほっぺをバシッ! と挟んでもぎゅー!
「ぐおぉぉぉぉぉぉ」
――痛い痛いいったーい、姉貴、やめてーっ!――
姉貴は『元エースパイロット』。
軍隊で鍛えられた膂力は半端な力ではない。
ヒグマの一撃と類似した攻撃力。
どう考慮しても殺人的な膂力なのだ。
「ふがぁぁぁぁぁ――っ」
僕の雄叫びもなんのその、見事に横一線、びろろーんとくちびるが変形するほどほっぺを鷲掴み。
――はうぅーっ、ゆーな&ひなた……ヘルプミーっ!――
「だめー。あーちゃんはうちのそばなのーっ」
敏感な本能が無意識のうちに不穏当な空気と会話を感じ取ったのだろう。
姉貴はマジで不機嫌オーラを全面に展開して僕に選挙公約を掲げる議員のように押し迫る。
はたからみれば浮気がバレた旦那に迫り来る新妻だ。
この一方的な攻撃に巻き込まれないようにゆーなとひなたは小さく手をあわせてこちらに『ご愁傷様です……ナムナム』などの雰囲気を送りつつ、一定のの距離をとっている。
「あーちゃんはあーちゃんであーちゃんとあーちゃんなのぉぉぉ」
姉貴ーっ、確かに僕は僕であり僕以外の存在ではないですよーっ!
姉貴の透けるような黒目がちの瞳で見つめられてようやく実感が湧き上がる。
心配そうに……とても心配そうに不安げに僕を凝視する姉貴。
穏やかでない姉貴の想いは僕のほっぺたと同様にゆっくりと崩壊しそう。
「ほらほら。姉貴さん手をはなしてあげましょうね」
妖怪にでも憑かれていそうな根暗な保母さん役に徹したうっそりとした優しさのひなたが「やーやー」と泣きわめく姉貴が僕のほっぺに繰り出しているりんごをひねり潰す握力ひっつかみ地獄から僕を開放してくれる。
――宇宙に行く前に天国に行きそうでしたーっ!――
普段どおりの表情で接してくれるひなたとゆーな。
不安な表情で泣く姉貴。
開放された僕は頬をすりすりしながら姉貴に妙なお願いをしてみた。
「姉貴」
「むーっ」
目が真っ赤だ。
可愛らしいくちびるは一文字に閉じ。
ウルウルした瞳に切ない表情で奥歯を噛み締めている。
大切な家族にむけての愛情。
そんな大切な家族だからこそ僕は守りたい。
もう、二度とあの悲劇を再現しないために。
「姉貴は僕のことをそばにおいてくれた。食事も住まいも着る服も。姉貴はどんな時も迷わずに手を差し伸べてくれた。僕を大切に拾って育ててくれた。だから」
姉貴の弧をえがいた艶やかな黒髪に僕はくちびるを添えて。
「僕が無事に復讐から帰ってきたら姉貴の手で僕を殺してほしい。愛しているよ。もうひとときも姉貴から離れたくないから」
姉貴を危険に晒すような奴は僕が抹殺する。
きょとんと目をまんまるにした姉貴。
ささやかな沈思をしたあと、姉貴は甘えるように僕の胸に可憐で柔らかい仕草で遠慮することなくどっぷりと頬を押し当てて。
「うん……あーちゃんいっしょに死のうね」
穏やかで。
すごく穏やかで狂気を宿した残酷な笑みを僕にくれた。
心地よい微笑み。
僕だけの姉貴。
だからいっぱい殺してくる。
人も機械も僕と姉貴の障害になるもの全て。
――ボ・ク・ノ・テ・デ・コ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル――
混乱と喧騒を色濃く叫ぶ避難民の慟哭が外から聞こえる。
小さな暴動をおこして自分の命を惜しむ者たちの叫びは緊張状態が加速した声に変わっていく。
網目がない完璧な蟻地獄のコロニーに『地船』からの逃げ場なんてないのに。
だから僕はやらなければならない。
――この手で地船の連中を一人でも多く殺す――
姉貴と二人。
安住の死に場所を確保するために。
いかがでしたか?
ついに戦争がはじまってしまいます。
どんな展開になるかはお楽しみに(☆∀☆)




