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プロローグ……姉弟

おはようございます。

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

戦争は十年目に突入していた。


僕、須藤アスナが八歳の頃に勃発した不毛な戦争だ。


昔、僕も軍属のパイロットとして宇宙(そら)を駆けていた。


地球の衛星軌道上の宇宙(そら)に浮かぶコロニー連合である『空船』の軍隊を除隊して、『空船』のコロニー郡の一つ、第三居住区コロニーに後天的精神障害と知的障害を患った姉貴を伴って移り住んでからは静かな日々をおくっていた。


突然の紹介だが僕にとってマイ・スイート・エンジェルである峯麗しい義理の姉貴はとても優秀な軍人だった。


 だったと言う言い回しをつかっているのは過去において(、、、、、、)と言う位置づけで理解してもらってかまわない。


僕にとって育ての親であり拾いの親。


彼女がいなければ僕は白黒映画の羅生門のくすんだ脇役のように路頭に迷い死んでいただろう。


とても感謝している。


姉弟のひいき目抜きで考えても姉貴は僕の女神。


愛してやまない存在。


そりゃ、もう変態をこえた超変態の域かもしれない。


 結論からして僕は大好きな姉貴に執着している。



今日も早朝の日差しが僕の部屋に柔らかに降りそそぐ。


不器用に取り付けられたヨレヨレのカーテン。


白く厚めの生地で作られたカーテンの隙間を縫うように陽光が射しこみ、窓辺にひだまりをつくっていた。


この早朝にふさわしい柔らかな陽射しは宇宙空間にて人工的につくられた建造物のなかに住んでいるとは到底おもえない。


 すっかりむかいなれた朝のひとときは今日も静かで平穏だ。

冬場に差し掛かる季節ということもあり、人肌程度にあたたまっているぬくぬくとした布団は極楽そのもの。


優しさがしみてくる人肌の温もり、赤ちゃんの飲むミルクの温度と一緒で心地良い。


そんな極楽な布団から出たくない! という強い自己主張とゆったりと惰眠を貪りたい本能の連合軍が起き上がろうとする決意に真っ向から勝負を挑んでくる。


ほんわかと幸せと心地よさを堪能できる微睡みの中、僕の鼻腔になにやら良い香りが届く。


類稀なる甘美な香りは僕の心臓を多方面でドキドキさせるほど愛してやまない香り。


その香りをふりまく物体は僕が頭を沈めているカボチャ柄がプリントされたクッションのとなり、枕元で静止したもよう。


 だれもが羨みそうなこの朝のひととき。


しかし、我が家では表裏一体の危険極まりないひとときでもある。


すなわち毎朝恒例の勇気と決断が求められる時間が訪れた。


「お・き・てよーっ、あーちゃん。お外の太陽さんがピカピカだよーっ。朝ごはんは食パンきらしちゃった♪ 紐パンでいいかなぁ? それともあ・た・し?」


『その紐パンは使用済みだよね!』思わず寝言がてらに口からこぼれてしまいそう。


しかし、食パンの代用品に紐パンや自分の肉体を勧めてくるチョイスあたり、マリーアントワネット風で相変わらず姉貴の絶望的なセンスを痛感してしまう。


毎朝恒例である、生の感情がぶつかり合う朝の儀式がはじまった。


悪戯っ子のように僕の頬をぷにぷにとつつきながら、甘える子犬のような姉貴の声が布団に籠城する僕の聴覚をくすぐる。


まだ、安眠の退路は絶たれていない。


僕は本能に従い、まだまだ狸寝入りを決め込む。


僕のほっぺをつつきまくっても、まったく反応がないことにしびれをきらしたのか、ふかふかの布団の端に歩み寄った姉貴は僕の頬をツンツンしていたその手でゆっくりと掛ふとんをめくり上げた。


――ひゃーっ、寒いですよーっ!――


人肌温度をキープしていた布団に鳥肌フラグがたちそうな爽やかすぎる冷気がドバァーッと侵入する。

凍えるような冷気に晒された僕はたまらず、ブルブルと身体を揺らしてうっすらと薄目をあけた。


「もうもう、あーちゃん根性ないよーっ。今から寝汗をクンクンして堪能しようとおもっていたのにーっ」


 寝汗の堪能? はてさて、とっても変わった嗜好だ。


僕には良くわからない未知なる行動。


体温を蝕んでいく引き締まるような冷え込みに僕の意識が覚醒していく。


「おはよーっ」


元気いっぱいのモーニングコール。


目尻をデレェ~と下げながら黒曜石のような瞳で僕を見つめくる姉貴は無邪気な微笑みを浮かべてくれる。


姉貴のキラキラした瞳には寝起きの僕の姿が映し出され、僕の瞳には姉貴の肌色比率がやたらと多いセクシーすぎる姿が映し出されていた。


姉貴の趣味は朝一番の寒風摩擦などではない。


姉貴はここ最近、男のロマンが渦巻く、ゆるゆるチックなファッションで僕を起こしてくれるのだ(どうも、先週の深夜番組の特集の影響らしい)。


今朝もいつもどおりの素敵なファッションだ。


滑らかで透き通るような可憐な裸体に白くほんわかとハートマークが可愛いシルクの下着と引き締まった

ウエストまわりで生地がバッサリと切られているピンクのエプロン。 


このモーニングエロシゲキックスな姿は深夜番組も含めた他の妖艶な姿の追随をゆるさない。


「あーちゃん。どう?」


うっとりと目を細めながら優しげな表情を浮かべて姉貴は尋ねてくる。


「え、えっと……」


別にやましい気持ちがなくても朝一番で色っぽい姉貴にやや興奮しつつ、思考と目線が泳いでしまった。


そんなしどろもどろ口調の僕に。


「あーちゃん眠いの。眠たそうなのーっ……あっ、良いこと思いついた。今日は朝から包丁を砥石でいっぱい研いだから永眠のお手伝いならできるよーっ」


そんなお手伝いはいりませーん!


『永眠』というキーワード。


元気いっぱい! 華いっぱい!! 快活すぎる冥府魔道世界への旅立ちの提案してくれる姉貴、そんなお

金のかからないエコロジーな提案は旅行代理店では体験できないぞ。


右手に握られた切っ先するどい刺身包丁はお手入れがバッチリといわんばかりに鋼の鈍重な輝きを示している。


左手には皮がペロンっとむかれた白色と黄緑色の配色が混ざり合った玉ねぎ……お味噌汁の具材だろうか?        

僕としては朝の味噌汁は玉ねぎよりもわかめと油揚げを所望します。


そんな思考や動揺をよそに姉貴はかなりアダルトすぎる姿を全面に押し出して、とろけてしまいそうな色を宿した妖艶な瞳で僕を見つめている。


そのとろけ具合は豚の角煮を凌駕しているぞ。


「お、お料理中なの……ですか……姉貴」


「うんうん。お料理だぞぉーっ。大好きなあーちゃんも一緒にお料理しちゃおうかなぁーっ。ムフフッ、あっ、そうだぁ、名案を思いついた。あーちゃんを殺してうちも一緒に死のうかなーって……ずっと二人っきりですごせるよ。てへへっ」


死ななくても二人っきりだよーっ!


その名案(めいあん)は僕の認識の範囲では冥暗(めいあん)冥闇(めいあん)のカテゴリーに属してしまう。


おっとりしている小柄の姉貴。


若々しい美貌とは裏腹にダークでデンジャラスな冥府の囁きが大好きなのだ。


だが、姉貴の好意? に報いることできなくて大変に申し訳ないのだが、なんだかんだ言っても僕の死に場所は寝起き、朝食前のベッドの上ではない。


ここで首をコクコクと縦にふってしまえば姉貴の希望と某有名新聞社の一面記事に滞りなく貢献できたかもしれない。


「でっ、どっちがいいの。紐パン……それともうち?」


 大人の色香が漂う笑顔で人差し指を顎に当ててキョトンと小首をかしげる姉貴。

甘ったるい声はカモフラージュなのか!?


その声音とは裏腹に僕の首筋には生殺与奪権を握るひんやりとした感触がつきつけられた。


 ――あ、姉貴ーっ、助けてーっ!――


研ぎ澄まされた刃が美しい。


そんな業物をぴったりと喉元の素肌に突き立てられている。


流石は元軍人だ! 相手に取捨選択を迫るにはとても合理的で無難な方法を選択してきやがりましたーっ。


ザザザーっと効果音を口ずさみたくなるほど僕の血の気が引いた。


喉元に突きつけられたひんやりとした感触の御蔭で僕の行動の自由は完全に制限されてしまった。

なので恐る恐るお伺いをたててみる。


「あ、あの……僕の意思は何一つ反映されないのでしょうか……」


「ええーっ! 反抗期なのぉ、お姉ちゃんの言うこときいてくれないのかなぁ」


――えーっ! それって反抗期にはいるのですかーっ!?――


姉貴のその声は少し威圧的で脅しと言うスパイスがふんだんにまぶされている。


艶めいた黒髪がさらりと僕の頬に触れると甘美な香りがほんわかとひろがって拝みたくなるほどの眉目秀

麗な顔がぐいっと近づく。


同時に僕の首筋に痛みが走る。


――はにゃーっ、い、いきなりですかーっ! とっても痛いぞーっ!!――


うっすらと朱に染まる刺身包丁の刃先。


「あ、姉貴……とても痛いのです」


「うんうん、大丈夫だよ。痛覚が反応していることから鑑みるに、今は生存している(、、、、、、)証拠だから」


「生存って!?」


 僕は戸惑いつつも反芻した。


我が家の姉弟スキンシップは超怖い。


寝起きの起動率が低い思考で取り繕った冷静さなんて、すぐに吹っ飛んでしまうほどの姉貴の予測不能な行動力はSっ子魂が満載だ。


僕が未熟で子供っぽい判断をすると衛生的な真っ白シーツがもれなく紅色に染まってしまうおそれがある。


これはどんなMっ子でもドン引きしてしまうだろう。    


恐ろしく滑稽なことだが姉貴の行動は殺戮や破壊衝動ではなく全て、僕に向けての過剰でいびつな愛情表現なのだ。


そう、その愛情表現はとっても隔たっている。


まだ、18歳の僕がこんなことをいうのも気がひけるが万が一、大人の思いやりがもてない答えをだしてしまうと霊柩車や救急車を体験してしまう『火葬場へゴー』や『病院へゴー』などいうハプニングイベントがもれなく体験できるチャンスが毎日ある。


 ふいーとひっそり溜息を吐いてしまう僕に一寸の選択権など残されていない。


「姉貴でお願いします」


「うへへーっ。よかった。たとえうちが死んで腐って液状化して白骨死体になっても添い寝してね」

ニンマリ顔の姉貴。


乙女心とはまったく理解できないものだなぁ。


自宅で死体に添い寝などしていたら死体遺棄で現行犯逮捕されるに間違いない。


大人の対応と心で念じつつ不問にふしておく。


こんなぶっ飛んだ性格破綻者の姉貴・須藤ミサトは年齢二十歳。


一流アイドルクラスの美貌とグラビア女優並みプロポーションを持つ、誰もが憧れる『エースパイロット』だった。


今は戦争後遺症による精神障害と軽度の知的障害に苦しむ、大切な家族。


――世界で一番大切な人――


あの日……そう、まだ現役で『空船』のエースパイロットだった姉貴が休暇中だった僕のもとを訪れて、パイロットスーツ姿で「帰ってきたらコラーゲンたっぷりの冷え性に効く生姜のお鍋たべたい」と僕に命令して『空船・最終防衛線』に出撃。


戦場で勇敢だった姉貴の戦闘機が撃墜されて、にっくき『地船』の捕虜となっていた姉貴を僕が監獄から救出してのは二ヶ月前の出来事。


『地船』の連中による姉貴への鬼畜あふれる陵辱映像が全コロニーに流れたあの日。


監獄で意識もなくボロ切れのように横たわる姉貴と再開した。


その日が境界線となって、僕たち姉弟の歯車や日常が全ておかしくなった。


姉貴は全てに怯えて……全てを拒絶して。


僕は捕虜だった姉貴に卑下な笑いを浮かべて欲望の赴くままに陵辱した奴らをみんな殺して……戦場で正義の旗のもと沢山殺して。


姉貴の変わりきった姿は見られるものではなかった。

英雄と担ぎ上げられた姉貴が『地船』の捕虜になって……人としての尊厳を剥奪されてあらゆる拷問と陵辱をうけて精神が耐えられなくなった姿を僕は真っ直ぐ見ることができなかった。


だから、僕は僕の手で救いだしたあの日、肌を切るような氷点下の寒さ、コンクリートの床一面に散蒔かれていた汚物の悪臭が漂う牢獄で路傍の石のようにボロボロになっていた姉貴の荒んで冷え切った肉体を抱きしめて告白した。


「姉貴……苦しくて死にたいなら。僕のものになって。ずっと愛してあげる。姉貴が背負った業も壊れた肉体も地獄の底まで愛してあげる」


ご大層な理屈や倫理などいらない。


ずっと想いを寄せていたから。


僕を拾って育ててくれた姉貴を僕は愛している。


陵辱のかぎりをつくされた肉体。


悪臭が漂う掃き溜めのような牢獄に犯され果てた肉体で捨てられた姉貴。


闇が僕の心を蝕んだ……精神が真っ暗闇になるような衝撃だった。


だが、皮肉なことにその出来事がきっかけで姉貴は僕一人のものになった。


悲嘆すべきことなのに。

僕は背徳のなかずっと望んでいた憧れの姉貴をやっと手に入れたのだ。


「むむむーっ。ぼーっとしてお姉ちゃんに見惚れたかな」


 はい、ずっと見惚れています、そんな僕の意識を読み取ったように姉貴のつぶらな瞳がすぅと細められた。

ひとり禁断の悦と回想世界にはいっていた僕の意識が現実世界に戻ってくる。


「ふふっ。あーちゃん。お姉ちゃんのつやつやな素肌はあーちゃんのために日々、丹精こめてケアしているの。はやく、うちを抱いてくれないかなぁーっ」


 溢れんばかりの愛情がこもった呑気な口調だ。


癖のないサラサラストレートの黒髪を揺らして姉貴は玉ねぎを持つ左手で僕の朝立ちしていたジュニアを布団の上からポンポンと叩く。


一瞬、仰向けの僕が「おうっ」と反応してしまった。


だってーっ、とっても敏感なんだぞーっ!


そんな僕を眺めててへへっと口元を緩めてニコっと微笑、「ごはんたべるのだぁーっ」と置き言葉を残すとピョコリンとスキップして台所に戻っていった。

 

――ふひーっ、姉貴は過激すぎるよーっ!――


やばかった。


僕はあぶなく腰が抜けそうになっていた。


たった一歩、僕がタガを踏み外してしまえば完全に姉貴と禁断の世界にいってしまっただろう。


日に日に妖艶な美をまとう姉貴の夢は僕との間に子供をつくること。


僕に公言してくださる。


当然やる気満々なのだが。


もう姉貴の下腹部には生命が宿っている。


無論、僕の遺伝子をもった生命ではない。


僕は妄想夢想と言うよりピュアな意味合いで姉貴を愛している。


姉貴のためなら、人を殺すことも厭わない。


姉貴を困らす人がいたならば……僕は命のかぎり。


――コ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル――


などと純粋かつ素朴な気持ちをもっている。

 


ふんわりと白い湯気があがる海苔巻きおにぎりや焼きそばやホクホクふっくら卵焼き風ロールケーキなどが並ぶ豪華な朝食。


――ひえーっ、おかずがないですよーっ!――


冬眠前の熊のように脂肪を蓄えることが可能な炭水化物&糖質オンリーの食べ物が食卓を彩る。

けっしてドラックなどの幻覚作用で見えているわけではない。


 我が家にとっては姉貴が作ってくれる当たり前の家庭の味なのだ。


一昔前の我が家の味は電子レンジが大活躍のスーパーの半額弁当だったので手料理という崇高なジャンルに属しただけでも素晴らしい進歩をとげたといえよう。


 僕と姉貴は台所の食卓に対面に座る。


姉貴のファッションも刺激的な衣装からラフな部屋着に変身。


少しだぼっとした裏地がぬくぬくしている黒ジャージ姿。


先週、スーパーの棚落ち品コーナーにならんでいた黒ジャージだ。


「えへ、これとっても甘いのぉ」


ロールケーキを口いっぱいにほおばる姉貴が、焼きそばを咀嚼している僕に小首をかしげて不思議そうな顔で見つめてきた。


――ううっ、嫌な予感がしますよーっ!――


膝下で広げている怪しげな本に視線を落として僕と本を交互にキョロキョロと、こらこら、ほっぺに生クリームがついていますよ。


下手にツッコミをいれるとどんな化学反応が生み出されるのかわからない。


それに無駄な言葉なんて僕と姉貴の間ではお邪魔虫でしかない。


姉貴……僕はそんな不思議の国を発見したアリスのような顔を向けられると色々な方面で心が落ち着かないよ。


内心そわそわしながらも、冷静を装ってシュガーたっぷり真っ黒バタートーストをつかむ。カリッと一口ほどかじると口腔内に煤の味がひろがる。


こりゃ咀嚼するのに勇気がいるぞーっ。

その時だった。


姉貴は好奇心たっぷりのクリクリとした上目遣いで僕を覗き込みながら銀幕デビューしたての大根役者が発する棒読みのセリフを彷彿させる口調で問いかけてきた。

「あーちゃん。きれーなバラとたくましいバラはどっちが好き?」


――? ? ? ……――


まったく意図が不明瞭で益体もない質問に思えた。


姉貴はじーっとクール宅急便よりもクールな面持ちで僕を凝視する。


おそらく、たっぷり時間をかけないで早く、瞬時に刹那に答えないとおしおきだぞーっと訴えているようなのだ。


その手元に握られた本……怪しすぎるその本。


おそらくその本はキーワードなのだ。


 答えがうっかり八兵衛さん的になってしまうと刺身包丁片手であらぬ方向のカミングアウトを引き起こしかねない。


「姉貴、質問です。姉貴が心を込めて丹念にガスバーナーで隅々まで真っ黒焦げにした煤くろパンを美味しく食べている僕が今すぐに答えないといけないことなの?」


 美辞麗句をならべるつもりはないがこれは牽制だ。


しかし、この期に及んで膨れ上がる好奇心全開の姉貴から逃げきれるはずもない。


「うんうーん」


 姉貴は腕組をしながらしばし黙考。


「ぽくぽくちーん」


 時代錯誤しそうなとんちアニメの音色を口走ると姉貴は超ご機嫌になる。 


 ――ふえぇ、姉貴のその笑顔、怖いですよーっ!――


「あーちゃんがこたえてくれないとうちは自暴自棄になってココロのキズをいやすためにやさしさをもとめて部屋いっぱいのバファリンかってくるかもしれへんよ」


ああっ、あの薬は成分の半分は優しさなどとCMでながれていたからなぁ。


部屋いっぱいなんて少し難易度が高い買い物だが……部屋いっぱいシリーズの前科がある姉貴なら実行してしまうだろう。


前回は部屋いっぱいのイベリコ豚を飼いたいといって実行。


あのときの姉貴の言葉「ごめんなさい。二匹だけ三元豚なの」は名言であり、常識的発想から何万光年もズレていた。


それに僕や姉貴が属していた『空船』からの毎月支給される軍人恩給(、、、、)の額ならそれも可能なの

だから現実性がありよけいに怖いですよーっ。


 想像するだけで僕はこめかみに人差指を当ててふか~く嘆息してしまいそうになる。


僕は内心苦笑しつつも姉貴の前でそんな仕草を見せてしまった日には……お医者さんと病人ごっこの的になってしまい、「お注射するのぉーっ」などと言ってお尻にきゅうりを刺されるだろう(涙)


 だから僕は素っ頓狂な答えを少し強い口調で言い切った。


「僕は薔薇なんかより姉貴が好きだよ。優しくて、柔らかくて、良い匂いがして、好きで好きすぎて僕の手で殺して、引き裂いた血肉を抱きしめてあげたいほど好きだよ」


 ねっとりとまとわりつくような殺人者な言葉。


好きで好きでしかたがないから。


姉貴と一緒にいられるだけで、もう一緒に死にたいよ。


一緒に死んでこんな狂気に彩られた悲しい世界から血にまみれた世界から誰もいない二人だけの世界へ行きたい。


「むふふっ。うれしいなぁーっ」


 キャッキャと黄色い声をあげて大喜びの姉貴。


そんなこぼれるような笑顔に僕も満悦だ。


オレンジジュースをゴクゴクと飲む僕に「てへへっ♪」と姉貴が上機嫌に微笑むと立ち上がると、黒のジャージで包んだその豊満な肉体を僕の身体に寄せるようにして隣のイスにペタンっと座った。


「うち……あーちゃんしかおらへんから」


何だか切ない。


少し俯きながら僕の肩にしなだれかかる。


姉貴の柔らかな唇が僕の顔に寄せられると少しだけざらついた舌でペロリっと頬を舐められる、子猫が寂しくなって、すがりつくような仕草だ。


毎朝、この時間になると姉貴の表情は怯えるように暗がさしはじめる。

それは本能が無意識に拒絶する近親姦インセストへの拒絶なのか……それとも、あの日、姉貴が『地船』に捕虜として捕まった一週間が原因なのか……。


――ダ・カ・ラ・コ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル――


僕は姉貴の柔らかな肩にそっと手をまわして怯える小柄な肢体を胸もとに引き寄せた。

小刻みに震えている振動が僕の心までしみわたってくる。


「あうあう……」


と口をパクパクさせて恐怖に魅入られて、悲しみを帯びた黒水晶のような瞳を僕にむける。


その瞳、とても悲哀と諦観が折重なり合う哀しみに満ち溢れた瞳だ。


 捕虜になり精神と肉体が欲望という名の醜いエゴイズムにさらされていた記憶が脳裏をかすめたのか?

押し黙った姉貴は形の良い唇をグッと強く噛む。


ただ、震えて……瞳から湧き出るポロポロと大粒の涙が頬をつたって僕のパジャマにポツリポツリと染み込んでいく。


怯えきった姉貴は僕の手をギュッと掴んだ。

冷たくしなやかな指が僕の手を掴むまでどれだけの苦しみを乗り越えたか……。


だから殺してやる。


姉貴を蹂躙した顔も名前も声もしらない『地船』の軍人をひとりでもおおく。


――ボ・ク・ノ・テ・デ・コ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル――


いかがでしたか?

改稿や校正作業などはしていませんのでアラがあると思います。

次話からコメディ要素も盛り込んでいきます(☆∀☆)

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