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とあるマニアの狩猟記  作者: 高空天麻
とある少年少女の邂逅
6/21

1-5

バトルの続きです。

今回は、基本的にレナードからの視点が多いです。

「へぇ……中々やるじゃない」


 レナードは、マークから少し離れた所で、彼の戦いを見ていた。

 彼女のノルマである三体はすでに狩り終わったので、マークが引き受けている二体の注意を惹かないようにしながら観察するためだ。

 一応、マークとギルドで合流する前に、彼の履歴書は見せてもらっていた。が、街のギルドへ加入するための最低条件を最速でこなしてきただけらしく、それだけを見れば経験量は大したことないように思える。

 だが、今目の前で戦っている彼の動きは、明らかに戦い慣れしていた。

 相手の攻撃を阻害し、一度の動きで相手の動きを遅らせながら自分の有利になるように動き、こちらの攻撃を着実に当てていく、なんて芸当は素人にはとても出来たものではない。

 多分、それなりに小さい頃から剣を取り、野を駆け回っていたのではないだろうか。


「あの観察力も、そこから来てるのかしらね?」


 そんな風に当たりを付けていると、ちょうどマークが一体を倒した。

 これで、勝負はついた。今は最後の一体と距離が開いているものの、それほど離れているわけではない。このまま距離を詰めてしまえば、終わりだ。

 そんな風に考えながら、最後の一体を見やる。

 途端、レナードの身体が硬直した。


 いつの間に取り出したのか、最後のゴブリンの手には小さな杖が握られていたのだ。


 杖は微かに光を放っていて、今すぐにでも魔法を放てる態勢になっている。マークの位置からではもちろん、レナードでさえもはや止められる状態ではない。


「新入り!」


 危ない、そう叫ぼうとした時、メイジゴブリンの杖から炎の球が放たれた。

 回避したとしても、あれだけの距離があれば次の魔法が間に合ってしまうだろう。さすがにこれは想定外だったので、助けてやろうかとレナードは走り出す。

 が、結論から言ってそれは必要なかった。

 ゴブリンを叩いた時と同じ要領で、マークは炎弾に向かって盾を突きだした。その表面は、先程のゴブリンの杖と同じように微かな光が灯っている。


 衝突。

 瞬間、弾けた炎と盾から発された光が、互いを喰らい合い、互いに反発し合って、消滅した。その光景を見て、レナードは信じられないといった様子で呟く。


「た、タウント……? そんな……」


 タウントとは、自分の持っている盾などに魔力を付与してそのまま敵に叩き付ける、モンスターと戦う上での基本技術だ。

 魔法などに変換することなく他人の魔力が流し込まれると、人間やモンスターの区別無く非常に不快な衝撃が走るため、相手がモンスターの場合はタウントを使ったものを徹底的に狙うようになる。

 モンスターのターゲットをとるために、強力な装備で身を固めた重戦士などが使うのを見た事はあったが、これまで一人で戦ってきたであろうマークが、それも相手の気を惹く以外の用途でタウントを使うなど、想像もしていなかったのだ。

 だが、考えてみれば、納得の方法でもある。

 魔法は、言ってみればわかりやすい手順を加える事で魔力を操作しやすくするための方法に過ぎない。

 タウントを見てもわかる通り、魔力をそのまま扱う方が、魔法を使うよりも発動に関しては圧倒的に早いのだ。


 ただし、それを万人がほいほいと使えるならば、魔法は発達していない。

 タウントも、そのほかの魔力をそのまま使う技に関してもそうなのだが、発動は確かに早い。が、制御がかなり難しいために発動していられるのはせいぜいが数秒、それも万全の態勢で使ってそれである。むろん、集中が乱れてしまえば技は発動しない。

 マークは、盾を振るえる体勢だったとは言え、秒にも満たない一瞬でタウントを発生させ、しかもそれをきちんと成功させている。それだけを見ても、充分に異常と言えた。


「……何なの、あの子」


 目の前で、何でもない事のようにとんでもない事をやってのけたルーキーに、思わずそんな言葉が零れる。

 だが、当の少年はそんな少女の困惑など意に介さず戦闘を続行していた。


 メイジゴブリンも、まさかノーダメージノーウェイトで突破されるとは思っていなかったのか、何事もなかったかのように突っ込んでくるマークを見て、その動きが一瞬だけ鈍る。

 そして、マークはその一瞬の間にゴブリンとの距離を詰め切っていた。


「でぇやああああああああああああ!」


 気合と共に、一閃。

 刃は的確に相手の首を刎ね飛ばし、胴体だけがその場に崩れ落ちた。


(……もういないよな?)


 息を吐きながら、周囲を見渡す。

 レナードには平然と倒したように見えていたかもしれないが、彼も魔法が使える敵がいた事にはかなり驚かされたのだ。

 正直、さっきと同じことをもう一回やれといわれても、再現できる気はしない。


(師匠に感謝しないと……)


 今は遠く離れた師に、心の中でお礼を言う。

 それなりに使えるとはいえ、彼にとって魔法はサブウェポン以上のものにはなりえない。さっきのようなとっさの場面では、どうしても魔法を使うという選択そのものが、思考から消えてしまう事が多い。

 さっきの技は、そんな弟子を見かねた師匠が伝授してくれた技だ。魔力を付与させる事自体は楽だが、狙って魔法にぶち当てる方が難しい。何百回、何千回と師匠が使う魔法相手に練習してようやっと習得できたものだ。

 これがなかったら、マークは一方的に狙い撃たれる事になっていただろう。

 とりあえず、周囲にもう敵はいないようだった。安堵と共に吐息をもう一度零すと、レナードがこちらをじっと見つめているのに気がつく。


「……えっと、何かまずい点ありました?」


 さっきの戦闘を思い返してみながら、尋ねる。

 とは言え、パッと思い当たる事はなかった。自分で言うのも何だが、さっきの戦闘はそれなりに良い感じで動けていたと思ったのだが、まさかギルドに所属するものは初陣でもこれ以上に動けるのが普通なのだろうか。

 そんな風に考えて嫌な汗を流していると、おもむろにレナードが口を開いた。


「あんたさ、何歳くらいから剣を握ったの?」

「八歳……九歳……その辺りが最初ですかね。病気になって、外の世界に興味を持つまで、一切触れませんでしたから」


 つまり、九年から十年といった所だろうか。それだけの時間があれば、確かにあれだけ動けるようになっていても、理解は出来る。

 ……理解できると言うだけで、納得はしていないけれど。

 ともあれ、そんな思考は表に一切出さず、レナードは告げた。


「初陣にしちゃ、かなり良い方よ。連携の方はまだまだっぽいけれど……まあ、その辺はこれからでしょ」

「よ、良かった……」


 思ったよりも悪くない評価に、マークはホッと胸をなで下ろす。その反応に、レナードは眉をひそめた。


「いやいや、あくまでも初陣にしちゃ、って話だからね? 一般のレベルに比べりゃ、まだまだお話にもなってないわよ。せいぜい、これから精進しなさいな」

「……そうですね。頑張ります」


 素直に肯定して頷いたマークに、レナードはフンと鼻を鳴らして背を向けながらも、内心で彼に対する評価を変えていた。

 今の発言を聞けば、大抵の人間は反発するなり、舞い上がるなりするだろうに、この少年はそのままフラットに受け入れてしまった。自身でも、今の実力で満足していないらしい。

 そんなひたすらに上を目指しているような姿勢には、個人的に非常に好感が持てる。

 そんな事を思って、彼には見えないような小さな笑みをレナードが浮かべたその時。


 場の空気が、変化した。


 それは、小さな音や肌の表面を撫でる微かな風と言った、ほんのわずかな違いに過ぎない。それでも、十八にしてこれまで何度も戦場を経験し、幾度も死線を乗り越えてきた彼女の勘が、如実に語っている。


 ……大物が、来る。


「ほら、新入り。早速精進できる機会が訪れたわよ。いっちょやってみなさいな」

「はい、死なない程度に頑張らせてもらいます」


 そんな軽口を叩きながら、二人は身構える。

 瞬間、一陣の風が場を吹き抜けた。



次回、ようやっとボスが登場します。

……最初のボスって、こちらが効率の良い戦闘法を理解してないせいか、やたらと苦戦するイメージあります。

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