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紫銀の精霊師  作者: 金指 龍希
潜竜の精霊師編
83/87

ルドベキアとウラジロ 5

「ティファリアさんの武器がハンマーなんて……」

 口がふさがらないエアを見つめながら、ティファリアはいたずらっ子のように、

「へへっ! 私は意外性のある女なのよ」

 と笑い返す。

「それにしても、ステラ家の兄妹は変わっているな。兄のロベルトは剣を極めようとしている。婚約者でもある妹は、魔石合成だけでなく、魔法の使い手としても一流。そして『とんでもない時代に来た』という言葉……。彼女は何者なんだ? 何処からやってきたんだ?」

 そう問いかけたユウの顔つきは険しい。

「やっぱり気になるかな~。アジーナがユウをこの国に『連れてきた』と言ったのを聞いて、なんとなくアカリのことが頭に浮かんだのよね~」

 ルテネスはちらりと視線をティファリアに送ると、その視線を受け止めた彼女は、

「ユウがこの国に流れ着いた時の話をルテネスに聞いたわ。その時、私はこのステラ家のアカリの事を、いつか話そうと二人で決めていたの。何か参考になると良いんだけど……」

「余計なおせっかいかなぁ、と思たんだけど。でもアジーナという神霊を目の前にした今、話しておいた方が良いかなと思ってさ~」

 ルテネスはのんびりとした口調とは裏腹に、ユウの顔色を窺っていた。

「すまん。いらん気を使わせたみたいだ……。だが、少しでも自分の身に何が起きたのか、知っておきたいというのは本音だ」

 アジーナが言い残した言葉は、ユウの心に突き刺さっていた。

「私は……。何かをする為にアジーナに時間を与えられた」

 目を伏せたエアは、少し俯く。

目覚める前、暗闇の中で響いてきた女性の声は、間違いなくアジーナであったと彼女は確信している。

自分は何かを得なければならない。

『人間が好きなのですね。でも返事としてはまだ不十分』

 何が不足しているんだろう……。

 彼女の中で、一向に結論が出せない問いであった。

 それは、威力の高い魔法を操る力を得る事なのか、それともアカリのように魔石を合成することなのか……。

「アカリさんは、ステラ家の人なんでしょ。なら、ひょっとして神霊ステラとあったことがあるのかな……」

 ふと浮かんだ疑問をエアは口にした。そしてティファリアとルテネスを交互に見つめる。

「いやぁ~。私たちは会えなかったけど、模擬戦の後にね~。二人から話を聞かされたんだよ~」

 ルテネスは再びティファリアに視線を送る。

「驚いたけどね。でも本当の話だと、今は思える」

 ティファリアは話を続けた。




 力技を見せつけたティファリアに変わり、今度はルテネスが攻撃に回る番であった。

「さぁ~て、今度はわたしね~」

「いいわよ」

 ティファリアは又構え直した。

「火炎の盾よ。我を守りたまえ。焔城」

 ティファリアの前に炎の盾ができあがる。その密度は高く簡単に突破は出来そうにない。

「さすが特化型。光突!」

 ルテネスは戦闘になると性格が変わる。普段ののんびりとした空気から一変して厳しい表情になる。

 槍からは光の魔法を纏った石突きを放って盾を消し飛ばした。

「叩きつける。烈震槍!」

 槍に地属性の魔法を纏わせてティファリアの目の地面を叩きつけた。叩きつけられた地面は爆発した様に砂と石を巻き上げた。

「炎よ、守って」

 焦った様に早口で盾を出した。

「大丈夫だった~」

「焦ったわよ。いきなり実戦を始めるから。それでなくても盾を消されたのに」

 抉れた地面を見て疲れた顔をして、ティファリアはすぐに地面を魔法で均しはじめた。

「地の精よ。地面に美しき均衡を取り戻せ」

 ルテネスが発した言葉に、地面にさざ波が立ち、あっという間に平らにならされた。

「さて、二人に交代しようか~」

「ええ」

 ティファリアたちは、見学していたアカリ達の傍に集まった。

 合流すると、まず口を開いたのはロベルトだった。

「精霊魔法を研究するとは聞いていたが、まさか魔法技も含まれるとは。取りあえず実戦で使うならルテネス先輩の技ですね。ティファリア先輩の攻撃は、力技すぎてどう評価すればいいのか……」

 次に口を開いたのはアカリだった。

「まずティファリア先輩は、ロベルトが行った通り力技です。工夫を加えるなら魔法を唱えてそれを打ち出す。又は打撃で相手を打ち上げて叩き落とすという連撃です。次にルテネス先輩ですが、工夫のしどころは地属性の魔法技の後です。例えばさっきの技は後ろに逃げるしかないから、その前に波動を伴う槍技を使うと相手に確実に当てる事ができます」

「なるほど~」

「参考にさせてもらうわ。ありがとう」

 二人は言われた意見を頭に入れた。

「さて、今度は二人がやってみて」

「わかりました」

「はい」

 二人は所定の位置につくと武器を構えた。

「さて、どうする?」

 アカリはロベルトに問いかけた。

「手の内を全部見せる事はしなくていい」

「じゃ、精霊師基準でいくね」

「そうしてくれ」

「では、ロベルトから」

 いわれたロベルトは刀を鞘に入れたまま構えた。

「さすが兄さん。抜刀術を選んだね。我を守るは聖なる大地、我を守りたまえ。深い霧に包まれる山の如く」

 するとアカリの身体は黄色っぽい、もやのようなものに包まれた。

「いくぞ! 風星の型壱、瞬閃」

 宣言と共に、ロベルトの姿がアカリの目の前から消えた。

「風属性の身体強化、速度上昇だね」

 アカリが呟くと、ロベルトが、

「遅い」

 わずか2秒足らずで距離を詰められ、抜刀されて切りつけた。

 しかしアカリは、

「甘いよ」

 盾が出現させ、斬撃を止めてみせた。

 その様子を見ていたティファリアが、驚いた様な声を出した。

「おお! あの盾は自動で攻撃を防ぐのか。参考になるね」

「そうね~。見た感じ、地属性の魔法を使っているから、私でも使えるわね~」

 早速、ルテネスがどう使えるか考え始めた。

「さて、反撃するか」

「くっ、どんな魔法を使ってくるやら」

 ロベルトは即座に距離をとった。

「揺れる木の葉は炎となりて、相手を呑み込む。紅葉円舞」

 ロベルトの頭上から緑色の木の葉が降って来て円状になると、葉が赤くなって炎の渦を作り始めた。さらに上から降って来た木の葉は次々と爆発した。

「なんてこった。光の盾よ。あらゆるものを反射せよ。六角の盾」

 周りに六角形の盾を形成して、魔法の無効空間を作ることで魔法を防いだ。

 そこに追撃の魔法が放たれた。

「万象一切を灰塵にせよ。必撃焼殺陣」

 アカリが唱えた祝詞は短く、単純なものだった。

 ロベルトの足元に魔法陣が出来上がると赤い光が立ち昇った。

「後述詠唱かよ。風属性強化 神速!」

 間一髪で魔法を避けると、アカリに抗議の声を上げた。

「俺を殺す気か!!」

 アカリは、チロリと舌を出し、

「ごめん」

「それで済んだら憲兵はいらん!!」

 確かにその通りだった。




 傍から見ていた二人は、強烈な連続魔法に呆れていた。

「あの火柱、相当な温度よね」

「人間が一瞬で灰になるんじゃないかしら~」

 ルテネスの額からは、珍しく冷汗が出ていた。同じく炎系統の魔法が得意なティファリアは、あまりの威力に驚いていた。

「あ、戻ってくるよ」

 二人が戻って来てティファリアが感想を述べた。

「もしかして、家でもこんなことやっていたの?」

 アカリはロベルトと顔を見合わせ、

「模擬戦でね。ボクは魔法を試し打ちできるのと魔石の出来をみるためでもあるけどね。今回もいい結果を得られたよ」

「おかげで俺は、何回か死にかけたがな。魔法を放った後に、即座に上位魔法の詠唱が出来るのはアカリぐらいなものだな。俺では出来ないから魔法技につなげるくらいだな」

 すると、ルテネスがうんうんと頷き、

「私でも無理だな~」

 ティファリアは呆れたように、

「それで、感想なんだけど。文句の付けようがないわね。的を中心とした円形魔法を放った後に地面から火を吹き上げる魔法を使うなんて、逃げ場を失くした後に一気に焼き殺すなんてえげつないわね」

「あっはは……」

 余りの評価にアカリは苦笑するしかなかった。

 さらにティファリアは続ける。

「ロベルトは、風魔法が得意なの?」

「いや、本当に得意なのは水だ。火以外は使える。だけど、魔法の詠唱は得意じゃないが、身体強化と盾魔法が使える。俺は魔法技が得意だ。だから戦闘では、主に魔法技を中心に組み立てている」

 ルテネスは感心したように、

「あの瞬閃は速かったわね~。あれで、連続攻撃が出来ればいうことがないわね~」

「それは師匠にも言われた。最高で5回の連撃が限界だ。それでも全部アカリには防がれるけどな」

 ロベルトは肩をすくめると、

「だってわかりやすいんだもん」

 アカリは当然とばかりに言い放ったが、しかしティファリアは、

「あれは止められないと思うよ。私でも対応できないと思うし」

「ん~。私でも一、二回は止められないと思うわ~」

「そうね。ルネだったら止められるわね。そう言えばアカリのあの盾魔法は、どのくらい効力があるの?」

 アカリは少し首をかしげながら、

「およそ、五分くらいかな。この効力は生まれ持った資質が関わってくると思います。兄さんだと二分が限界でしたから……。ボクは……。魔石や魔道機がなくても魔法が使えるのではないかと思っているのです」

 そのアカリの言葉に、ティファリアとルテネスは驚いた。今までの常識を覆す発言だったからだ。

「その根拠は?」

 ルテネスは先程とは打って変って真面目な態度で尋ねた。

「ボク達魔石師は、精霊石を加工して魔石を作っています。人間は精霊石や魔石を、魔道機を媒介にして魔法を使っています。一度、魔道機無しで魔石だけで魔法を使ったことがあります。その時は下級魔法といえど、体力をごっそり持っていかれましたけどね。でも、魔道機無しでも魔法を使うことが出来た事実には変わりません」

 ルテネスは大きなため息を吐き出し、

「は~。無謀な事をやるんだね」

 ティファリアは、

「貴方、気の毒ね。心配でしょうがないでしょ?」

 とロベルトに、ちらりと視線を送った。その視線の先で、

「こいつはいつもこうだ。その実験の後に三日は寝込んでいただろう。いつも突飛な考えで無謀な事をする。家で奉っている神霊に喧嘩売った時には焦ったよ」

 ロベルトの突然の発言に、

「えっ、神霊って!」

「はぁ~っ!」

 ティファリアとルテネスは、驚きの余り大声を上げてしまった。

「大声あげないでください。知られるとまずいので」

「あ、ごめん」

 ロベルトは慌てて、驚く二人の頭を両手で抑え込んだ。




 幸い、部活の真っ最中だった。皆が放つ魔法による騒音が酷く、他人に聞かれることはなかったようだ。

 ティファリアは声を潜め、

「ではグランドール家の神霊テレベラムと同様に、本当に実在するのね?」

 改めて尋ねた。

 神霊テレベラムは、地龍将軍の就任式に姿を現したと噂されている。ティファリアはその話を両親から聞かされていた。

「うかつ過ぎるよ。兄さん」

「すまん。だが、大丈夫だろう。先輩たちなら」

「そうだね。質問の答えだけど実在するよ。ボクはステラを呼び出すことができる」

 アカリの言葉に、ルテネスは、

「へぇ~。今呼び出すことは」

「やりたくない。というか呼びたくない」

 アカリははっきりと拒絶の意思を示した。かなりきっぱりとした返事に、ティファリアは怪訝そうな顔をロベルトに向けた。

「アカリとステラ様は犬猿の仲なんだ。いつも顔を合わせると、ののしり合いを繰り広げているんだ」

「衝撃の事実が発覚した時からね。あー腹が立つ!」

 アカリはその時のことを思い出したのか頬を膨らませて怒っている。その姿にルテネスが、少し可愛いと思ってしまったのは悪くないだろう。

「神霊が実在したのには驚いたが、さらに性格にも驚いた。よく言えばお茶目な方だな。悪く言えばいたずら好きだよ」

 ロベルトがアカリの頭をそっと撫でると、背伸びを繰り返しながら、

「だって、ステラはボクの魂をこの世界に呼び寄せる時、性別を変えちゃったんだ」

 両手の拳に力を込めて訴えている。

「それはまた……。ルネみたいに、とってもいたずら好きなのね」

 突拍子のない話に、ティファリアが言葉を詰まらせながらそう言うと、

「魂? まさか世界樹を通って来たのかな~」

 ルテネスは素直に疑問をぶつけた。

 アカリは黄玉の瞳を輝かせ、

「そうだよ。ボクは病気で死んだ。ベッドに長く寝たままだった。検査を受けるばかりの苦痛が続く日々。ボクは白い病室の窓からいつも眺めていた。空を飛ぶ鳥、そしてジョギングをしている人と犬。でも、ボクに出来たのは本を読み、知識を得て、そして空想する事。そして僕の身体が限界を迎えた時……」

 アカリは一度、唇を強くかんだ。そして、おもむろに語りだす。

「ボクの魂は身体を離れた……。そして暗闇を漂うボクに、ステラが話しかけたんだ。『新たなる人生を歩きださないか』なんてね。ボクは思わず頷いちゃったんだ。そうしたら、女の子になって目が覚めたんだ」

 はぁ~っ、と大きなため息をつき、

「ステラがさ。急な転生だから、記憶も意識もそのままになるけど、『娘が欲しかったから』という理由で、ボクを女の子にしたって。でもさ、急に女の子の生活をしろってのも無理があるよ。ボクは何だか悔しくってさ」

 アカリはその時のことを思い出したのか、悔し涙を浮かべながらルテネスを見上げる。ロベルトはアカリの頭を軽くなでながら、

「ま、ステラ家では彼女を養女とすることで落ち着いたんだよ」

「ボクの身分が安定したのはよかったけどね。ロベルトの両親もいい人で良かったよ」

「父上と母上はノリのいい人だからな。娘が増えて嬉しかったんだろう」

 ロベルトは、肩をすくめている。




「そうだろうね。さて、話を戻すけど。魔法を使う媒体を無くすとどうなるのかはボクの研究課題だね」

 アカリが目を輝かせて話しているが、ロベルトはさらに愚痴をこぼす。

「並行して色々な事を研究しているのにさらに増やす気か?」

「一つの疑問を解消するとまた増えるのは当たり前だよ。ボクが飽きるまではやるつもりさ」

「はぁ、つきあってやるよ」

 ロベルトは、最早諦めるしかないと腹を括った。

「ありがと」

 ロベルトは溜め息をつくと、アカリは嬉しそうに彼を見上げた。




「まぁ。どちらにしてもラブラブね」

 この辺りは年頃の少女ということだろうか。そう思ったティファリアが尋ねる。

 ところが二人は真顔で、

「兄妹だよ」

「兄妹だな」

「ブレないのね~」

 ルテネスが面白そうに二人を眺める。

「まぁ、いいわ。ところで魔石は?」

「造れます。もしよろしければ過程を見学しますか? たまに爆発することがありますが?」

 アカリの提案に二人は顔を見合わせると、

「さすが、三大爆発部。お邪魔じゃなければ、見学したいわ」

「私も~」

 天才と称えられる腕前は、ぜひ見てみたい。

 ティファリアとルテネスの好奇心が疼いた。

 アカリはにっこり笑いながら、

「では部長に見学許可をもらいます」

「その話は俺がしておこう。明日でいいか?」

 ロベルトが確認すると、彼女は頷いた。

「こちらも顧問と部長に話しておくわ。おっと、今日はこのくらいにしましょう。ルネ悪いけど送ってあげて。さっきみたいにナンパされると困るから。それに意外とあの男、粘着質だから」

「了解~」

 ルテネスは二人に帰寮を促した。

「帰ろうか~」

「はい」

「わかりました」

 三人を見送ったティファリアは、部長と顧問に明日の予定を告げると部室を後にした。

 その時、妙な違和感をティファリアは覚えた。

(確かにアカリたちと居る時から、チラチラと視線は感じていたけど……。 何だか、しつこく見られているような感じに変わった? あいつか?)

 ティファリアは周囲を見回す。だが、彼女が頭に思い描いた男子生徒の姿は見当たらない。

(変ねぇ……。てっきり、あいつだと思たんだけど)

 ティファリアは首をかしげながら、ドアを閉めた。



 次の日の学園で噂が流れた。


★作者後書き

 更新いたしました! ご迷惑をかけております。この短編も次回で終了です。

★次回出演者控室

エア 「私、頑張るから」

ユウ 「ああ、そうだな」

ティファリア「エアちゃんも、学校に行ってみれば面白いわよ」

ルテネス  「爆発部もまだ活動しているしね~」

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