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脚本家の彼女  作者: 午後 之風
4/4

そのよん

彼女の夫という人がやって来た

日曜日の朝に水羊羹を手土産にやって来た

僕はヤカンでお湯を沸かして彼にお茶を入れた


僕と彼女の前にやってきた彼

ちょっぴりだけ曇りはじめた僕と彼女の日常


彼女の夫という人がやって来た


よく晴れた日曜日の朝で

僕と彼女は何をするでもなく

朝の空気を楽しんでいた

仕事を辞めた僕には曜日感覚というものが無く

でも日曜日の朝だけはなんだか特別で

空気のにおいが優しくて

特別仕立ての光が窓に降り注ぐようで

時間がユックリと過ぎるようで


そんな朝に彼がやって来た


彼女の夫という人は

サラリーマン風で感じが良くて

少しだけ丸顔で滑舌が良くて

手土産に水羊羹を持ってやって来た


僕はいつもの様にヤカンでお湯を湧かして彼にお茶を入れた


麦茶を冷蔵庫で冷やしたりだとか

ミネラルウォーターを買い込んだりとかの習慣が僕にはない

牛乳とビールが冷えているだけの冷蔵庫で

水羊羹に合う物もなさそうで

結局暑いお茶を入れる事にした


お湯が沸くまでの沈黙を破るように彼が言った

「修学旅行でこの辺り通りましたよ」

「修学旅行ですか?」

僕は聞き返した

「私の学校は田舎のほうなので」

彼女の夫という人ははずかしそうに小さなタオルで汗を拭いた


水羊羹を食べながらお茶を飲んで

汗を拭いてから彼は立ちあがった

玄関の横に置いた紙袋を持ち上げると

中から何やら洋服の様な物を取り出した

「パジャマ持って来たよ」

彼女に向かってニッコリ笑って

ハンカチで汗を拭いてから

もう一度笑った

「これ着ないと眠れなかっただろ?」

彼女は頷いて受け取ると

パジャマを大事そうに胸に抱いた


彼は満足そうに笑って汗を拭いた

そして何か思い出したように慌て紙に書き始めた

「私の連絡先です

何か入り用な時は連絡下さい」

そう言って僕にメモを渡すと

すまなそうに何度も頭を下げた


彼が帰ってしまってから

僕はもう一度ヤカンでお湯を沸かした

残った水羊羹を食べて

お茶を飲みながら彼について考えた

そして彼の持って来たパジャマについて考えた


水羊羹が美味しくて

彼女にもすすめたけど

彼女はパジャマを抱いたまま

結局その日は一言も口を開かなかった


鈴虫とかコオロギとかが

リンリンとうるさくて

僕はパジャマがやって来る前の彼女が恋しくて

彼の存在が夜になってから

大きくて大きくて大きくて

寒くもないのに布団にくるまって

彼女の居所がわからなくなってしまって

寒くもないのに布団にくるまった


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