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脚本家の彼女  作者: 午後 之風
3/4

そのさん

スーパーマーケットに行く事を

僕らはデートと呼ぶ


オレンジを買うために

デートに出かけた僕と彼女

「ベットの横にはオレンジを置くべきだと思うの」

夢の中で彼女の声がした


9月なのに真夏のような毎日で

今朝も良く晴れた暑い朝で

30度をこえるんじゃないだろうかって勢いで

すでに僕は汗がじんわりと滲んでいて

それなのに彼女はいつも涼しそうでサラサラ

同じ人間なのに不思議だなんて事を

朝のベッドの中考えていたところだった


「やっぱりオレンジが必要ね」

今度は夢ではなく彼女がささやいた


2人でスーパーマーケットに行くことを僕らはデートと呼ぶ


彼女はスーパーマーケットが大好きで

それこそ上京したての大学生のように目を輝かせる

真っ赤なトマト

新発売の炭酸飲料

大好きなブドウ

歯磨き粉にシャンプー

ビールに冷凍ピザ

ひとつひとつ吟味しては

結局彼女は毎回同じ物を選ぶ


僕らは素早く身支度を整えると外に出た

彼女の水玉のワンピースは

デートの時のお気に入りで

少し大きめの帽子で日差しを遮った彼女は夏休みの少女のようだった


オレンジを買うために

彼女が選んだのは

隣町のスーパーマーケットで

バスで2区間先の

生活用品の他に衣料品や簡単な電化製品まで売っている

少し大きなスーパーマーケットだった


夏も終わりだというのに

扇風機が売り切れで

流し素麺セットとカキ氷機は安売りで

デシタルテレビでは知らない外国の歌手が歌を歌っていた


気づくと隣で彼女が歌を歌い始めた

小鳥が鳴くような声で

テンポ良く外国人歌手に合わせてハミングした彼女は

そのうちスキップでもしそうな勢いで楽しそうで

僕も嬉しくなって

「オレンジ オレンジ」とデタラメな歌詞で合わせてみた

彼女も笑って「オレンジ オレンジ」と歌った


彼女と一緒に歌を歌いながら

そういえばオレンジを買う理由を聞いてないって事に

今さら気がついた

少しだけ気になったけど

なんだか聞かない事が正しいような気がした

彼女の歌声が心地良くて

一緒に歌うことが気持ちよくて

それだけで幸せだって自信があった



僕らはそれこそ毎日抱き合うのだけど

日を重ねるごとに喜びが大きくなっていって

もしかしたら病気なんじゃないかって疑うぐらいの喜びの深さで

出会った頃は朝にしか抱き合わなかったけど

最近は夜に抱き合う事も多くなった


スーパーマーケットから帰った僕らは

それぞれにシャワーを浴びて

ピザを食べてビールを飲んだ

すっかり夜になってしまって

昼の暑さが嘘みたいに

涼しい風が気持ち良くって


もう少しビールを飲みたくて

冷蔵庫を開けようと立ち上がると彼女も立ち上がった


いつもよりも真剣な表情の彼女は

ベッドの横にオレンジを置いて服を脱いだ


脚本家の彼女は

操り人形のように僕を導いて

僕も彼女が喜ぶ事に没頭して

いつもは涼しげでサラサラの彼女が

今夜は身体中から汗をにじませた


二度目が終わると彼女は寝てしまった


最近はいつもそんな感じで

二度目か三度目の終わりで彼女は寝てしまう

そして退屈になった僕は一人とり残される


さて今日もビールでもと起き上がろうとすると

寝てしまったはずの彼女に腕をつかまれた

「オレンジ食べながら側にいてくれる?お願いだから」

そう言って彼女は目を閉じた


扇風機の風が少し冷たくて

彼女が寝てなんかいなかったんだ事に気がついて

あまりの喜びに動けないんだって事に気がついて

女ってのは終わった後が大事なんだって言ってたなって思い出して

僕はオレンジの理由がやっとわかって

なんだか愛おしくなって

彼女をそっと毛布でくるんだ


そして僕はゆっくりとオレンジの皮をむいて

ゆっくりと口に入れた

彼女に十分な余韻を与えれるように

彼女が本当に眠ってしまうように

ゆっくりとオレンジを食べた


にっこりと彼女が笑ったような気がした

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