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10周年(最終回)

読者の皆様のおかげで、最終回を迎える事ができました!

本当にありがとうございました!

プロダクションビルの透明なエントランスの自動扉が開いた。

受付の女性が、立ちあがって頭を下げた。


「ただいまー!」


可愛いピンクのドレスを着た、小さな女児がそう言って、入ってきた。


「お帰りなさい。真由ちゃん。」


その女児の後ろから、このプロダクションの副社長である明良あきらの妻菜々子が、マネージャーと何かを話しながら入ってきた。


「奥さま、お帰りなさい。」


受付嬢が頭を下げながら言った。


「ただいまー!気疲れしたわー…」


菜々子がそう言うと、受付嬢が笑った。


「まだお嬢様の撮影、お馴れにならないですか。」

「ならないわね。自分の撮影の方がいいくらい。」


受付嬢はくすくすと笑っている。


「真由!」


奥から、スーツを来た明良が出てきて、両手を差し出した。


「パパ!」


真由が明良に向かって走った。明良は真由の体を抱き上げた。


「お疲れさま。真由」


そう言って真由とちゅっとキスをした。


「パパ、あのね。真由、今日いっぱい怒られたの。」

「怒られるのはいいことだけど、ちゃんとやり直せたかい?」

「うん。やり直せた。」

「それならよろしい。」


菜々子が明良の傍に来た。そして軽いキスを交わした。


「ママ、お疲れ様。」

「本当に疲れたわ。でも、お行儀よく出来てたわね。真由。」

「うん!」

「よし、パパの部屋へ行こう。ジュースとお菓子用意してあるから。」


一瞬真由の目が輝いたが「だめ」と言った。明良は困った表情をした。


「?どうして?真由」

「ダイエットするの。」

「はあ?」


菜々子が大笑いした。


「真由、あなたはまだ3歳でしょ?子どもはダイエットしたらだめなのよ。大きくなれないわ。」

「だって…」

「真由はそのままで充分かわいいよ。気にしないでいいんだ。」


明良がそう言うと「でもぉ」とまだ真由は渋っている。


「ん?どうした?」

「真由よりかわいい子いっぱいいたんだもん。」

「でも、ダイエットは駄目だよ。」

「…ん~…」


真由が悩んでいる。明良と菜々子は顔を見合わせて笑った。

そして、そのまま副社長室へ入って行った。


「絵にかいたような、幸せな家族って、ああいうんだろうなぁ…うらやましいわー。」


真由のマネージャーがそう言うと、受付嬢もうなずいて「はぁ~っ」とため息をついた。


「あ、社長の車だわ。」

「あら、ほんと。」


気付いた受付嬢があわてて、自動扉の方へ走って行った。


「社長、どうされたんです?」

「ごめん、ごめん!」


プロダクション社長の相澤あいざわれいが、急ぐように入ってきた。


「明良いる?」

「今、お嬢さまと奥さまと副社長室に。」

「あー…親子3人水入らずかぁ…。ちょっと悪いかな。」

「どうしました?」

「いや、やっぱりパーティー一緒に行ってもらおうと思ったんだけど…。」

「お声かけましょうか?…」

「いや、自分で行くよ。」

「間に合うんですか?」

「それなりに。」


相澤はそう受付嬢にウィンクすると、副社長室に向かった。

真由のマネージャーが首をかしげている。


「どうして、相澤社長はご結婚されないんでしょうね。」

「…ですよねぇ…もうすぐ40になられますものね。」

「別に、遊びまくってるって感じじゃないけど…」


2人が首をかしげた時、相澤と明良が慌てるようにして現れた。

真由を抱いた菜々子も、後を追ってきている。


「先輩、私はこんな恰好でいいんですか?」

「スーツなら大丈夫だよ。ごめんよ、突然。」

「お役にたてるのなら、いいですけど…」


明良はマネージャーと受付嬢に「行ってきます!」と手を上げた。


「いってらっしゃいませ!」


2人が口をそろえて、頭を下げた。


「パパ、いってらっしゃい!」


真由がそう言うと、明良は振り返り「いってきます。」と言って、真由の口にキスをした。

そして妻にもキスをすると、相澤の後を追って、車に乗り込んだ。

真由が手を振っている。

明良が手を振り返すと、車が発進した。


真由と菜々子は車が見えなくなるまで見送った。

そして、ビルの中へ入った。


「相変わらず、パパはバタバタしてるわね。」


菜々子が抱いている真由に苦笑しながら言った。

真由が「あんまりパパと一緒にいられなかった…」と寂しそうに言った。


「そうね…。またお休み取ってもらって、皆で遊びに行こうね。」

「うん!」


真由が嬉しそうにそう答えた時「真由!」という声がした。

スーツ姿の圭一がエントランスから入ってきている。


「けいいち!」


副社長室に戻りかけていた菜々子の腕から、飛ぶようにして下りた真由は、圭一に向かって駆け出した。


圭一がしゃがんで両手を広げている。その圭一の胸に真由は飛び込んだ。圭一は抱きしめてから真由を抱き上げた。

真由がうれしそうに声を上げる。


「今日の仕事どうだった?」

「…怒られた…」

「あらら。」


圭一がそう言うと、真由が圭一の頬を両手で挟んで、圭一の口にちゅっとキスした。


「北条専務、すいません。」


その声に圭一が振り返った。

受付嬢が、圭一に走り寄りながら言った。


「沢原常務からなんですが、再来週の第九のリハーサルに顔を出して欲しいとのことです。」

「もちろんいきますが、ソリストさんのスケジュールは合ったのかな…。」

「大丈夫だそうです。」

「そうですか…よかった。」


圭一が微笑んだ。

菜々子が圭一の腕から、真由を抱き上げながら言った。


「秋本常務がコンサートマスターするのよね。楽しみね。」

「ええ。沢原常務の指揮も楽しみです。」

「圭一君、テノールで出たらよかったのに…」

「いえ…僕には無理ですよ。第九は聞くに限ります。」


菜々子がその圭一の言葉に笑った。


「沢原さんも秋本さんも、奥さん達が身重で気が気じゃないでしょうけど…。」

「そうですね…。でも未希ちゃんも真美ちゃんも第九見に来るそうですよ。」

「2人とも、その頃はもう臨月じゃない?大丈夫なのかしら?」

「第九の最後は激しいですから、あまり未希ちゃん達のお腹を刺激しないといいですけど。」


圭一が笑った。菜々子が「本当ね」と言って笑った。


「マリエちゃんは、ご実家から来週に帰ってくるのよね?」

「ええ。飛鳥あすかと一緒に…。」


飛鳥とは圭一とマリエの子供の名前である。男の子で先月生まれたのだった。


「早く会いたいわねぇ。」

「…はい…」


圭一が照れ臭そうに言った。


「真由、圭一君の赤ちゃん見に行こうね。」

「うん!」


真由がうれしそうに言った。


「あ、それから…明良さんが、浅野さん、ヨーロッパツアーからいつ帰って来るか聞いといてって…」

「確か、来週に飛鳥を見に一旦帰って来て、2、3日でアメリカに発つって…」


浅野はイリュージョニストとして世界を回っている。


「まぁ…じゃああんまりゆっくりできないのね。」

「そうですね…」

「皆、忙しくて何よりだけど…。今年もクリスマスパーティー、全員揃いそうにないわねぇ…」


菜々子が残念そうに言った。


「そうか…そうですね。」


相澤プロダクションは無事10周年を迎えることができた。だからせめて今年だけでも…という明良の思いなのだろう。圭一が少し考える風を見せた。


「…浅野さんに日を合わせて、全員揃えましょう。」


圭一がそう菜々子に言った。

菜々子が「そうね」とうれしそうにうなずいた。



その時、圭一の携帯が鳴った。


「あ、母さんすいません。」


圭一は携帯をポケットから出し開いてみた。そしてうれしそうに微笑むと、受話ボタンを押した。


「雄一!」

『圭一、久しぶり!』

「久しぶり!元気なん?」

『うん。来週な、東京出るから圭一どうかなと思って…。』

「いつでも時間は取れるで。」

『ほんま?ほんなら、またスケジュールはっきりしたら連絡する。』

「うん!」

『飛鳥、来週は圭一ん家に帰ってくるん?』

「帰ってくる。」

『ほんなら飛鳥に会えるな。楽しみにしてるわ。』

「うん!」

『じゃな』

「じゃぁ…」


電話が切れた。圭一は微笑みながら携帯を畳み、ポケットに入れた。


雄一は大阪で経営者として成功していた。雄一の会社は、関西では有名なホテルチェーンで最近関東にも進出した。その時のCMを相澤プロダクションが完全無報酬でバックアップし、久しぶりに雄一と圭一が一緒に歌って話題になった。


「雄一君、元気そう?」


菜々子が圭一に尋ねた。


「はい。来週、東京に来るって。」

「そう!楽しみね。」

「雄一のスケジュールが合うようでしたら、クリスマスパーティーにも来てもらいましょう。」


圭一がそう言うと、真由が「けいいち」と言って手を伸ばした。圭一は笑って真由を抱き上げた。


「あ、そうだ。真由、キャトルにごはんあげに行こう。」

「うん!」


圭一は真由を抱いたまま、専務室に向かった。

菜々子が後をついて行く。


…相澤プロダクションビルの外は、いつものように晴れ渡っていた。


(終)

最後の最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました!感謝感激でございます!

自己満足的なところもありましたが、毎日必ず何件かのアクセスがあり励みになりました。心から、感謝いたしております!

本当にありがとうございました!

なんとか大団円で終わらせることができました。個人的に、とても満足でございます(笑)


さて…18歳だった天涯孤独のアイドル「北条明良」が、盟友とも言える「相澤励」と出会い、そして2人でプロダクションを設立し、30歳で「副社長」になると共に「菜々子」という女優の妻を持ち、こちらも孤独な少年だった「圭一」という養子を得て、36歳で「真由」を授かり、39歳で「飛鳥」という孫(!!)ができ、プロダクションも10周年を迎え、めでたしめでたし…という…ほぼ20年のお話になりました。

圭一は「19歳」の頃を中心でしたが、最終回では27歳…。「飛鳥」という子どもまでできちゃいましたよ(^^;)


また「魔術師 浅野俊介」という副産物(?)まで作りだしました(^^;)これはまだ続いております。どうぞこちらも最後までよろしくお願いいたします。


これで本当に14年間の夢想が終わってしまいましたー。自己満足ながら、燃え尽きた感じです。

今後は、全く違う…こともないか(^^;)…新たな夢想が始まります。(結局、くすぶっている?(^^;))


また始まりましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

本当にありがとうございました(^^)

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