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恋心

未希と真美は一緒にパフェを食べていた。今日はもう帰るだけだ。


未希が、いきなり真美の向かいで、ため息をついた。

まだ一口しか食べていない。真美がそれに気づいて、未希に言った。


「未希ちゃん、どうしたの?」


未希は、慌てるように一口食べた。


「仕事の事で悩んでるの?」

「違う!違うの!」

「じゃ、何?」

「……」


未希は、困ったように下を向いた。真美が下向き加減に言った。


「もしかして…私と同じ悩みかなぁ…」

「!?真美ちゃんも悩んでるのっ!?」

「うん。でも違ったらごめんね。…好きな人…できた?」

「!!」


未希は、いきなり真美に握手を求めた。

真美は苦笑して、それを受けた。


「同じ人…じゃないといいけど…」


真美の言葉に未希がぎくりとした。


「多分違うと思うけど…私ね、去年のチークダンスで…」

「未希ちゃん!」


今度は真美が握手を求めてきた。


「私もなの!」

「えっ?」

「あ、同じ人って意味じゃないよ!私もチーク一緒に踊ってくれた…」

「みなまで言うなっ!」


未希が手の平を真美に向けて言った。真美が笑った。


「そうなんだ…真美ちゃんも好きになっちゃったんだ…」


真美は顔を赤くして頷いた。


「でも切ないよねー……向こうは大人だしさ…こっちは未成年のガキ…」


未希も真美も、まだ18歳だ。


「そうなの…もう彼女いるかも知れないし、いなくても、私なんか相手にしてくれないだろうし…」

「それも常務さんなんて…まるで雲の上の人っていうか…」


2人はため息をついた。

すると、その雲の上の人達が食堂の入口で「あっち向いてほい」をしながら入ってきた。

未希と真美がそれを見て、ぷっと吹いて笑った。


また沢原が負けた。

秋本が笑って中に向いた。そして未希達に気がついて近づいてきた。


「お疲れ様。今日はパフェなんだね。」


秋本がそう言って、真美の隣に座った。

未希と真美は「お疲れ様です。」と頭を下げた。


「一口ちょうだいよ。」


秋本が真美に言った。真美が「えっ!?」と驚いた。


「だめ?」

「え、いえ…」


真美はスプーンでアイスをすくった。

すると秋本が、そのスプーンを持つ真美の手ごと掴み自分の口にスプーンの先を入れた。


「!!」


手を掴まれた真美は驚いている。未希も驚いた表情をした。

秋本は真美の手を掴んだまま、口の中のアイスの味を確かめている。


「ふーーん…豆乳が混じってるっていうから、あんまり美味しくないのかなって思ったけど、味しっかりあるね。濃いくらい。」


そう言ってから、真美の手を離した。真美は真っ赤になっている。

その時、沢原が「お疲れー」と言って、2人分のコーヒーの乗った盆を未希の隣に置いて座った。


今度は未希が赤くなった。

未希と真美は「お疲れ様です。」と言った。


「今、いいことしてたじゃない。」


沢原が秋本の前にコーヒーカップを置きながら言った。真美が赤くなった。


「おいしいよ。このパフェ。豆乳入っているわりには。」

「へぇー…。じゃ、俺も未希ちゃんにもらおう。」


沢原がそう言って未希に向くと、未希も顔を赤くして、スプーンでアイスをすくった。

沢原もその未希の手ごと掴んで、自分にの口の中へアイスを入れる。


「?」


沢原は手を離さず、未希の手を掴んだまま、またスプーンにアイスをすくわせ、口に入れた。

未希も真美も、秋本も笑っている。


「…豆乳って感じじゃないよな。割合どれくらいなんだろう…?」


沢原がやっと未希の手を離して言った。


「でた。亮の分析。」


秋本が笑って言った。そしてコーヒーを一口飲んだ。


「今日はもう終わり?」


沢原がコーヒーを一口飲んでから、未希達に言った。


「はい。」

「最近はもういじめられてないかい?」


沢原が笑いながらそう言うと、未希達も笑いながら「はい」と言った。


「また何かあったらいつでもおじさん達に言いなさい。」

「「達」って俺も入ってる?」

「入ってるよ。同い年だろう。」


2人の会話に、未希達が笑っている。

秋本が言った。


「君たちから見たら、俺たちはやっぱり「おじさん」なのかな?」


未希達が「えっ!?」と言って、困った表情をした。


「優!それは酷な質問だろう。「はい」とは言いにくい。」


沢原がたしなめた。秋本が苦笑しながら、コーヒーを一口飲んだ。


「常務たちは…おじさんには見えないです。」


未希がうつむき加減に言った。真美もうなずいている。


「え?よく聞こえないんだけど?」


沢原が未希の顔に体を寄せて、わざと耳に手を当てて言った。


「もう1回言って。」

「…おじさんには…見えない…」

「もう1回…」

「亮!」


秋本が笑いながら、悪乗りする沢原を止めた。

未希は真っ赤になってしまっている。


「そういうところが「おじさん」なんだよ!」


秋本の言葉に、「あーそうかー!」と沢原が頭を抱えた。

未希達が笑った。


「あ、そうそう…この前帰り遅くなったけど…2人とも親御さん、心配したんじゃない?」


秋本が未希達に言った。未希達は首を振った。


「菜々子専務がちゃんとうちに連絡をしてくれてたので…」

「そうか。ならいいけど…。でも、よくこの野獣達と一緒にタクシーに乗せたよな。」


沢原が言った。秋本が目を手で覆った。


「思い出させるな。…本当に悪いと思ってるんだからさ。」


未希達も顔を赤くして下を向いている。


「あの次の日さ。俺達クビを覚悟してたんだよ。」


沢原が苦笑しながら、未希達に言った。


「クビ?…ですか?」


未希が沢原に言った。


「君達に「セクハラ」で訴えられるってね。」


秋本が代わりに答えた。未希達は驚いた顔を見合わせた。


「以後気をつけるからね。ごめんよ。」


秋本が真美に言った。真美は赤くなって首を振った。


「俺も以後気をつけます!」


沢原がそう言って未希に頭を下げた。未希も首を振っている。

「本当は嬉しかった」と未希と真美は言いたかったが、この場では言えない。


沢原と秋本は「まだ仕事の残りがあるから」と、未希達に「気をつけて帰ってね」と言って、食堂を出て行った。

未希と真美も頭を下げると、盆を持って立ち上がった。

すると、食堂にあるテレビがバレンタインデーの話題を放送していた。

ふと2人は、顔を見合わせた。


……


数日後-


秋本が、プロダクションの自室「秋本部屋」のソファーで独りため息をついていた。


「…可愛すぎるよなぁ…」


そう呟くと、奥の壁に掛けてあるダーツの的の中心にダーツを当てた。


「お、やっと当たった。」


他に2つ中心から外れたダーツが刺さっていた。手元にはあと3つダーツが残っている。秋本は連続で3つともダーツを投げた。

3つとも中心にあたり1つが刺さりきらず落ちた。


「あー…邪念があると…やっぱり集中力が途切れてしまうなぁ。」


3つとも中心に当たったのに、秋本はそう言った。秋本的には、全ダーツが中心付近に刺さられなければならない。

ダーツは元々女の子を喜ばせるためにやっていたが、今は集中力を高めるためにしている。

しかし、今はどうしても集中できなかった。


荒川真美のことだ。

昨日はバレンタインデーで、本当はプロダクション内でのプレゼント交換は禁止されているのだが「秋本部屋」に真美がこっそりプレゼントを持ってきた。

秋本は驚いたが、せっかくだから「ありがとう」と受け取った。真美はプレゼントを渡した途端、赤い顔をして部屋を出て行ってしまった。

プレゼントはシルバーの細いチェーンネックレスだった。秋本はいつもシルバーネックレスをしているので、それを見て選んでくれたのだろう。

秋本はつけていたネックレスをはずし、早速真美からもらったネックレスをつけてみた。そして入口のところにかけてある姿見で見てみた。

自己主張がなくシンプルでいい。秋本はそのままつけていることにした。


しかし、あの赤い顔といい…自分に気がある事には違いないように思った。

それで、あの冒頭の言葉である。

可愛いだけでなく若い。まだ未成年の18歳だ。なんでこんなおっさんを…と思うが、もちろん嫌な気はしない。


相澤祭で共演してから彼女に気は留めていた。だが特別な感情はなかった…はずだった。


「あーー…いい年をしたおっさんが、何悩んでんだよ…。」


秋本はまたため息をついた。

その時、携帯電話が鳴った。沢原だった。


「…なんで携帯なんだよ。」

「…いや、内線って盗聴されてないかなって思って…」


沢原の言葉に、秋本が笑った。


「いくらなんでも、そんなことはしないと思うけど。」

「そっち行ってもいいか。」

「いいよ。」

「圭一君は?」

「今日は昼から休みだって。」

「じゃ、来ないんだな。」

「うん。マリエとデートしてるんじゃない?」

「あ、昨日の代わりね。」

「そうそう。」

「じゃ、行くわ。」

「はいよ。」


電話を切ると、しばらくして沢原が入ってきた。

何か神妙な表情をしている。


「…どうした?何かあった?」

「ん~…」


沢原が向かいのソファーに座って言った。


「…未希ちゃんからプレゼントもらってさ…」

「!?…亮もか!」

「え?お前も未希ちゃんから…」

「違う違う!俺は真美ちゃんからもらったんだよ。」

「!?…おお、仲間がいた。」

「お前も悩んでたんだ。」

「そう…。ただのお礼だったらいいんだけど…。自意識過剰かもしれないけど…それだけじゃないような気がしてさ…。」

「俺もそう思うんだ。」


秋本がソファーにもたれて、天井を仰いだ。


「どうせいつか離れていくだろうから、プレゼントの礼だけはして、意識せず今まで通りのつきあいでいこうとは思うけど…。」

「それがいいかもな。」


「でも、可愛いんだよなぁ…」


異口同音に言って、沢原と秋本は顔を見合わせた。

そして笑った。


「2人とも頑張り屋だし、性格も悪くないしな。」

「俺たちにはもったいないよ。」

「…そうだな。」

「それに、俺たちには「プラトニック」なんて無理だしな。」

「…無理だ。」


秋本が自嘲するように笑って言った。


「それなら「清潔」なイメージを崩さないでいる方がずっといいか。」

「ん…気持ちを切り離そう!…もう悩むのはやめよ。」


「でも可愛いんだよなぁ…」


また2人で言って、笑った。


……


翌日-


真美が「秋本部屋」のドアをノックした。


「はい?」


秋本の声がした。


「…あの…荒川です。」


真美がそう言うと、しばらく間があった。


「どうぞ。」


真美はその声を聞いてほっとしドアを開いた。


「失礼します。」

「どうしたの?」

「あの…」


と、何か言いかけて、真美は秋本の胸元を見た。自分がプレゼントしたネックレスをしている。

真美はうれしくなり、思わず頬が緩むのを感じた。


「?何?」

「あ、いえ…その…。副社長からお話聞かれたかと思って…」

「え?」


秋本は驚いた表情をした。そして自分の向かいにあるソファーを手で指した。

真美は頭を下げて、ソファーに座った。


「副社長の話って?」

「次の新曲で、またバイオリンの伴奏をしていただけるって…。」

「え!?そうなんだ!まだ聞いてないよ。」

「そうでしたか…。」


真美は困った表情で下を向いた。


「いや、順番が逆になったんだろうね。喜んでしますとも。」


秋本の返事に、真美は嬉しそうに微笑んで頭を下げた。


「…ネックレス…」

「ん?」

「つけていただいてるんですね。」

「ああ、ありがとう。こういうシンプルなの好きでね。」

「良かったです…。」

「話はそれだけ?」

「え?…はい。」

「じゃ、僕から。」


秋本がそう言って、身を乗り出した。

真美は目を見開いた。帰れと言われるのかと思っていたのだ。


「真美ちゃんに、何かプレゼントのお返ししたいんだけど…何がいい?」

「!!…お返しなんて…。」

「ホワイトデーまで待てばいいんだけど、1カ月先なんてどうなってるかわからないからね。」

「……」


真美は赤い顔を下に向けて黙っている。


「食事でも一緒に行こうか。」

「えっ!?…いいんですか?」

「うん。ま、マスコミも気になるけど、いつも食堂ってのも申し訳ないからね。何がいい?フランス料理?イタリア料理?中華?和食?どこでも連れて行ってあげる。」

「…イタリア…」

「イタリア料理ね。わかった。真美ちゃんのお休みは次いつ?」

「…えっと…今度の火曜日…」

「火曜日か。あー…休みの店多いかもなぁ…。ま、探しておくよ。じゃ次の火曜日の夜ね。時間とかまた連絡するから。」

「はい!」

「ラフな服装でいいよ。そんな大した店は連れて行けないから。」


真美は首を振った。


……


約束の日-


秋本はホテルのロビーにある喫茶店の椅子に座り、コーヒーを飲んでいた。


真美が慌てて駆け寄った。早めに来たつもりなのに後になってしまった。


「常務ごめんなさい!」

「いや…常務はやめてね。」


秋本はそう言うと立ち上がり、レシートを持って、レジに行き支払いを済ませた。



「ここの最上階なんだ。夜景が綺麗に見えるらしいよ。行こう。」


真美は秋本に背中に手を添えられ、エレベーターに向かった。


最上階につくと、ウエイターが駆け寄ってきた。


「秋本様、お待ちしておりました。どうぞ。」


ウエイターに案内され、窓際の席に向かい合わせに座った。


「先にお飲みものをお持ちしますが…」

「僕は赤のグラスワインを。真美ちゃんは?」

「オレンジジュース…お願いします。」


ウエイターは頭を下げて、席を離れた。


「もうコース料理を頼んでいるんだ。ガーリックは外してもらってるからね。」

「ありがとうございます。」

「イタリア料理にガーリックは付き物なんだけど、お互い仕事柄やばいもんね。ここはガーリックなしでも美味しいって評判なんだよ。」

「そうなんですか。」


真美はガーリックのことなんて知らなかった。


(こういうところが、子どもなんだわ…)


と、真美はへこんだ。


その時、秋本の携帯が鳴った。秋本は慌てて消した。そしてマナーモードにした。


「お電話…出て下さっても…」

「いや、いいんだ。」


飲み物が来た。


秋本が「乾杯」と言って、グラスを上げた。真美も同じようにして、秋本がワインを飲んだのを見てから飲んだ。

正式の乾杯は、グラスを重ねてはならないことを、真美も知っていた。


前菜が運ばれてきた。真ん中に生サーモンが鞠のようにまとめられていた。一口で食べられそうだが、そうしたらだめだろうな…と思っていると、また秋本の携帯が震えた。


秋本がポケットから携帯を取り出して、開いて相手の名前を見ると消した。


「ごめんよ。」

「いえ…」


女の子からなんだろうなぁ…と真美は思った。


前菜をもったいぶるように食べた。ウエイターが皿を引いていく。


「副社長からやっと話があったよ。今度の新曲はドラマ用だってね。」

「はい」

「楽しみだよ。」


秋本がそう言って微笑んだ時、また携帯が震えた。

秋本は「あーもう…」と言って、相手を確認すると「ちょっと待ってね」と言って、席を立った。


しばらくして、秋本が戻ってきた。


次の皿が来ていた。


「ごめん。先に食べてくれてたらよかったのに…」


と秋本が言ったが、真美は首を振った。


その後からデザートまで、秋本の携帯は何度も鳴った。仕事の電話もあるかも知れないので、電源を切れない。

メールも何度も入った。


秋本は真美にそのたびに謝ったが、真美は微笑んで首を振った。



食事を終え、ホテルからタクシーに乗った。


(もう帰るのかな…)


と真美が思っていると、秋本がある橋の名前を言った。


「ごめん。時間ちょっといいかな。酔いを醒ましたいんだ。」

「はい!」


真美は嬉しそうに返事をした。


……


橋につき、タクシーから2人は降りた。

秋本は両手を柵に乗せた。そして川から来る風を受け、髪をなびかせながら「あー気持ちいいな」と言った。

真美も横に立ち、秋本の横顔をうっとりと見た。


秋本が真美に向いた。

真美はどきりとして、慌てて川に向いた。


「寒くないかい?」


秋本が言った。真美は首を振った。

秋本が微笑んで、真美の後ろに回ると、真美の背中に被さるようにして、柵に手をのせた。


「!!」


真美は、秋本の体温を背中に感じて、体を固くした。

秋本が真美の耳元で言った。


「さっきは、落ち着かなくてごめんよ。」


真美の体に電流が走ったようになり、座り込みそうになったが、なんとか堪えて首を振った。


「毎日あんな感じなんだ。ゆっくりできやしない。」


まだ、秋本は真美の耳元で言った。

そして、片手を柵から離し、真美のウエストに手を回した。

真美の体がびくっと震えた。


「仕方がないからさ、あの電話の中から、その日のデザートを独り選んで、自宅に呼ぶんだ。」


真美の目が見開いた。

秋本は気づかない風に言った。


「毎晩だから、なるべく同じ子が続かないようにするんだけど、昨日誰の相手をしたか忘れちゃってさ…。でも今夜は大丈夫。」


真美は目を見開いたまま、黙っている。


「今夜は君がデザートになってくれるよね。真美。」


真美は、秋本の手を振り払って、体ごと秋本に向いた。

秋本が柵から手を離して体を起こし、驚いた目で真美を見下ろしている。


「私!…私、デザートになれるかわからないけど…覚悟はしてきました!」

「えっ!?」


秋本は本当に驚いた顔をした。


「秋本常務がモテるのは最初からわかっていました。ステディじゃなくてもいいです…たくさんのガールフレンドの、せめて最後の独りに入れてもらえたらって…」

「真美ちゃん…」


真美の目から涙がこぼれ落ちた。


「どんな形でもいいから…毎日会えなくてもいいから…秋本常務のガールフレンドにして下さい!デザートにでもなんでもなりますから…」

「真美ちゃん…何言ってるんだ!君がそんな…」


秋本がかなり動揺していた。


「君にはもっと真面目な人が似合うよ。僕みたいな男じゃなくても…」


しどろもどろに秋本がそう言うと、真美が秋本の体にしがみついた。


「真美…!」

「好きです。本当に常務のこと好きなの。常務に何人ガールフレンドがいても…好きなんです…!」

「…真美ちゃん…」


秋本は、しばらく立ちすくんだように動かなかったが、そっと真美を抱きしめた。


「…ステディじゃなくていいんだね。」


真美は秋本の胸の中でうなずいた。


「ガールフレンドの中の1人としかつきあえないよ。本当にそれでいいんだね?」


念を押すように秋本が言った。真美は再びうなずいた。


秋本が体を離し、真美の顔に手を添えて自分に向かせた。


「やばいよ、真美…。」


真美の濡れた目が見開いた。


「可愛すぎるって…」


秋本はそう言うと、真美の唇に自分の唇を重ねた。

そして強く抱きしめた。


……


「…で?」


電話の向こうで、沢原が言った。


「嫌われ作戦失敗したのか?」

「見事に玉砕」


秋本がベッドて俯せに寝たまま言った。


「俺の協力が無駄になったってわけだ。」


沢原が言った。実はイタリアンレストランにいる時に秋本にかかってきた電話の半分は、沢原からだった。

あとの半分は、これまで秋本が相手した女の子からだ。本当に毎日、誰かしらかかってくる。

この電話をどうしようかと、秋本は真面目に悩んでいる。


「あまりにけなげでさ…。突き放せないよ…。ただあくまでガールフレンドの1人だということにしといたんだ。…俺のステディなんてもったいなすぎる…。」

「じゃ、お持ち帰りは?」

「するわけないだろう!」


秋本が飛び起きて言った。


「あらあら…。ほんと骨抜きにされたって感じだな。」

「彼女にはキスまでだなぁ…。」

「いつまでもつやら…」


沢原が笑った。


「キスまでなんて、無理なんじゃないか?」

「そっちはどうなんだよ。」

「未希か?」

「呼び捨て?」

「こっちは、ストレートにお受けしましたよ。」

「はっ!?断るって言ってなかったか?」

「…やっぱ無理だよ…あんな真っ直ぐな目されたら…」

「お持ち帰りは?」

「しないよ。…実はこっちもステディは断った。」

「…なんだ同じじゃないか…」


秋本はほっとした。未希も真美も若すぎる。2人とも、いつか自分達から離れて行くだろうことを沢原もわかっているのだろう。


「ま、お互い理性を失わないように頑張りましょう。」

「そうだな。」


…そう言いながら、いつまで理性を失わずにいられるか、2人とも自信はなかった。


(終)

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