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気遣い

「お前、マリエが嫌いなの?」


秋本に、防音室でいきなり言われ、圭一は驚いた。


「えっ!?」

「だってさぁ…。マリエがあんなにアプローチしてるのに、お前全く気がない感じじゃないか。」

「……」


圭一は顔を赤くした。


「あっ!…お前、あまのじゃくか!」

「あまのじゃく?」

「好きな人と話すと、逆に無愛想になるとか…」

「…そんなつもりはありませんけど…」

「じゃぁ、本当に気がないのか…」

「……」


圭一はとまどったような表情をした。


「…マリエさ…お前に助けられてから、お前の事気になってしょうがないんだってさ。」

「え?」

「…お前には黙っててくれって言われてるんだけど…どうしたら圭一の心を捉える事ができるのか教えて欲しいって言われてさ。」

「!!」

「でも、同じ男でも、お前と俺とは性格が違いすぎるからな。アドバイスとして、ストレートにぶつかれって言っといた。小細工とかしないで、直接本人に聞けって。」


圭一は今度は困ったような表情をした。

マリエのことはもちろん嫌いじゃない、むしろ好きな方だ。

だが、自分がマリエと釣り合うわけはないと思っているし、圭一自身、まだ前の彼女の事から立ち直れていない。


それにマリエ自身もあの事件から、まだ2週間しか経っていない。マリエはそのショックから立ち直るために、無意識に圭一を選んだのだろう。本当に自分の事を好きになったわけではないことは、圭一にもわかっている。


「…僕は…今、仕事に専念したいし…。」

「…お前さ…何かあったのか?」

「え?」

「…女嫌いっていうか、女恐怖症って感じがするって、亮が言ってたんだけど…」

「!!」

「…俺に話してくれない?…本当にそうなら、なんとかその恐怖症から抜け出る道を一緒に考えられるかもしれないから。」

「…お気持ちだけ…」

「…そうか…でも、いつでも相談に乗るからな。…このままじゃ、本当に好きな子ができた時に苦労するぞ。」

「はい。ありがとうございます。」


圭一は、秋本に頭を下げた。


……


秋本は圭一が暴走族にいたことは知っているが、前科を持っている事までは知らない。

そのことで、前の彼女の精神と体を傷つけたことも…。それを知ったら…秋本は自分のことをどう思うだろう…。と圭一は考える。

今でも時々、彼女の父親が圭一のアパートに怒鳴りこんできた時の事を夢に見る。


『人殺しが、娘の体を弄びよって!』


いつもこの言葉で飛び起きる。そしてそのたびに、もう女性とつきあうのはやめようという思いを強めるのだった。


……


秋本は副社長室にいた。

圭一の事を聞きに来たのだった。沢原には「そこまでしなくていいだろう。」と言われたが、どうしても圭一が時々見せる寂しげな表情が気になる。


「圭一が女性恐怖症?」


明良が秋本に驚いた表情で言った。


「すいません。よけいな詮索だとは思うんですが…どうしても気になってしまって…。」

「ん~…恐怖症ではないと思うが…。圭一は前につきあっていた彼女の事がまだ忘れられないんだよ。」

「前の彼女?」

「もう2年は経っているんだけどね。…ある理由で、向こうの親に別れさせられてね。」

「暴走族にいたからですか?」

「それもあるだろう。…その彼女の事を忘れるまでは、圭一は誰も好きにはなれないと思うよ。」


明良も秋本には、圭一の前科のことや、圭一と彼女の間にできた子どもを堕ろさせられたことまでは言えなかった。


「…そうですか…。逆にやっかいな問題ですね。」

「そうだな…。」

「マリエが圭一君に気がありましてね。」

「マリエが?」

「ええ。僕はとてもいいカップルになると思うんですよ。仕事にもいい影響を与えるとも思うし。」

「そうか…マリエが…。確かに2人はお似合いだな。」


明良が「そうだ」と言って、秋本を見た。


「実は社長とね。君たちの案をもとに、マリエとライトオペラで特別ユニットを組ませようっていう話をしているんだ。」

「!いいですね!」

「そのユニットで、自然に圭一がマリエに心を許すようになれば一番いいんじゃないかな。」

「…わかりました。我々も見守ります。」

「うん。よろしく頼むよ。」


明良が微笑んだ。


……


新ユニットの話しは、すぐにマリエとライトオペラ、沢原に通達された。

マリエはもちろん喜んだ。

早速、その日の夕方に打ち合わせと称して、顔合わせがなされた。


社長室で、マリエと圭一、秋本、沢原がそろった。沢原はいつの間にか、前の音楽番組から勝手にライトオペラのメンバーにされてしまっている。


圭一はマリエの隣に座らされて、少し肩身が狭そうな表情をしている。マリエと目を合わせようともしない。

ただ、向かいにいる、相澤と明良の目はしっかりと見ていた。


「昨年のクリスマスパーティーで、とてもいいものを見せてもらったからね。秋本君と沢原君の意見もあって、君達にユニットを組ませることにした。曲はジャズとシャンソンを元に歌ってもらう。まずはアルバム製作から入りたいから、何の曲を入れるか、4人で考えてくれ。」


相澤の言葉に、マリエ達がうなずいた。

明良は圭一の顔から笑顔がなくなっていることに気付いていた。


(逆効果にならないといいけどな…)


明良は一抹の不安を感じた。


……


4人は打ち合わせに入った。


「歌はマリエに任せていいよな。」


沢原が言った。


「ケイイチは歌わないの?」


マリエが圭一に言った。


「オペラじゃないので…僕はピアノだけがいいです。」


マリエの方を見ずに圭一が言った。


「そうか…。ま、流れで考えればいいんじゃないか。歌えそうだったら歌えばいいし。」

「そうだな。」


沢原がいい、秋本が納得している。何か気まずい雰囲気があった。


……


「どうだ?曲は決まった?」


相澤が廊下を歩いている秋本と沢原を見つけ、尋ねてきた。

秋本と沢原は頭を下げてから、少し気まずそうに顔を見合わせた。


「…決まらないのか…」

「はぁ…。なんだか…マリエと圭一君の関係が気まずくて…」

「…喧嘩?」

「いえいえ。それ以前の問題です。何かお互い気を遣っちゃって…マリエはそわそわしてるし、圭一君は黙り込んでいるし。」

「…参ったね…それは。良かれと思ってやったことが、裏目に出ちゃった感じだな。」


相澤が苦笑している。


「はぁ…」

「よし!じゃぁ、荒療治するか!」

「え?」


何か楽しそうな相澤の顔を、秋本と沢原が不思議そうに見た。


……


「ケイイチをはずす!?」


マリエが驚いて言った。秋本と沢原が申し訳なさそうにマリエを見た。


「役員会議でそう決まってしまってね。やっぱり彼はオペラに専念させようって。」

「…そうなの…」


マリエは少しがっかりした顔をしたが、すぐに表情を戻した。


「よかったかも…。」

「えっ!?」

「…なんだか、ケイイチに気を遣っちゃって皆気まずくなっちゃってたし。やっぱり仕事と気持ちとは切り離さなくちゃね。」

「そ、そうだな。」


秋本と沢原は意外なマリエの言葉に、少し戸惑った表情を見合わせた。


……


「僕をはずす?」


廊下で圭一が驚いた表情をした。この表情にも秋本と沢原は驚いた。


「…そうですか…」


圭一が目を伏せたのを見て、秋本が慌てて言った。


「とりあえず、君をオペラに専念させようって意味でね。…ずっとはずすわけじゃないんだ。」


圭一が少し微笑んで秋本を見た。


「わかりました。僕も練習は続けておきます。」

「うん。そうしておいてよ。」

「あ、じゃぁこれ…」


圭一が、肩にかけていたかばんから楽譜を取り出して、秋本に渡した。


「…これ、この楽譜の中から僕がいいな…と思っていた曲に印をつけています。…何かの参考にしてもらえたら…」

「え?」


秋本は楽譜をさっとめくってみた。

シャンソンの楽譜だった。ピアノと歌詞が載っているもので、目次にある10曲のうち4曲に印がついている。


「ありがとう。…参考にさせてもらうよ。」


秋本がそう言うと、圭一が嬉しそうにした。


……


「…すごく、胸が痛いんだけど…」


沢原部屋で、沢原が秋本に言った。


「俺も…圭一君…本当はこの4曲…自分で弾くつもりだったんだろうな…」

「…荒療治にしても…やりすぎたな。だけど今さら、やっぱり圭一君を戻そうなんて…言えないよな。」

「アルバムの録音が終わったら、すぐにメンバーに入れてやろう。」

「ん。そうしよう。」


本当は今回のアルバムから入れてやりたかった。アルバムが売れなければ、次がないからだ。

…でも、その時はそう思うことで、自分たちの罪の意識をごまかすしかなかった。


……


1週間後-


曲が決まり、マリエも秋本も沢原も練習に入った。防音室に閉じこもる日々が続いた。

圭一が提案した曲はすべてが採用になった。マリエは圭一が選んだ曲だと聞いて「がんばってマスターしなきゃ!」とはりきった。

だが…本当は圭一が弾くべきだった。…と、4曲のうち3曲を弾く沢原が思った。

そう思うと、胸がしめつけられるように痛くなる。


ある日、秋本が隣の防音室のドアに圭一の札がかかっているのを見て入ってみた。

圭一が驚いて、トレーニングを止めた。


「ごめん。札かかってたから…。トレーニング付き合えなくてごめんな。」

「いえ…。」


圭一が微笑んだが、少し咳をした。


「風邪か?大丈夫か?」

「ええ。最近、夜冷え込んできたから。」

「ああ、そう言えば急に冷えこんだよな。…トレーニングなんてして大丈夫か?逆に喉を痛めるぞ。」

「…大丈夫です…。…練習の方はいかがです?」

「ああ、順調だよ。君の選んでくれた曲は、皆採用になってね。マリエがはりきって練習してる。」

「…良かった。…」


圭一がそう言って、少しうつむいた。そして、少し咳をした。


「圭一君。今日は帰った方がいい。今のうちにその咳を止めないと…ひどくなったら仕事できなくなるぞ。」

「はい。」

「副社長に言って帰るんだ。」

「わかりました。」


圭一は、楽譜をまとめだした。その中に、シャンソンの楽譜が混じっていることに秋本は気付いた。

だが、秋本は何も言わずに、かばんに楽譜を片づける圭一を見ていた。


……


翌日になっても、圭一の咳はひどくなるばかりだった。

熱はないが咳が止まらない。市販の薬を飲ませたが、それでも止まらないので、明良は圭一を病院に連れて行った。

そして、肺にも気管支にも異常はないので、喉の炎症だろうと医者が言った。

結局眠くならない程度の咳止めをもらって帰った。


……


その夜中-


菜々子は、圭一のことが心配になり、ガウンを着て寝室をそっと出、圭一の部屋に向かった。

咳をする声は聞こえないので、薬が効いているのかとほっとした。

だが、布団を蹴っていないか心配になり、ドアを開けた。

布団が盛り上がっている。中に潜り込んでいるようだ。


(まぁ…暖房も加湿器も消しちゃって…。)


菜々子はそう思って、布団をそっと下げてみた。


「!!」


圭一はいなかった。枕が中に入れてあるだけだった。


「!!明良さん!!」


菜々子はあわてて圭一の部屋を出た。



明良は圭一の携帯に電話をしてみた。だが圭一の部屋の中で携帯が鳴りだした。

圭一は携帯を置いていったのだ。


「どこへ行ったんだ…」

「まさかとは思うけど…プロダクションに電話してみるわ。」

「…そうだな。してみてくれ。」

「ええ。」


菜々子は、携帯を開いてアドレスを探した。


……


圭一は、プロダクションにいた。

30分前くらいに来て、防音室の部屋の鍵を警備員から借りたという。


(忘れ物でもしたのか…?それにしては遅すぎるな。)


明良は車を運転しながら考えた。隣には菜々子も不安そうな表情でいる。

プロダクションについて、明良と菜々子は警備員にビルのライトをすべてつけてもらった。

圭一は「ライトは部屋の中だけでいいから」と言って、入って行ったという。またエレベーターも使わず、階段で上がって行ったそうだ。

それも、暖房ももちろんついていない。プロダクションビルはコンクリートの箱のようなものなので、暖房がなければかなり冷える。ビルの暖房の調整は警備員室で一括され、各部屋で調整はできないようになっている。

明良達も、白い息が自分の口から出ているのがわかった。

警備員が「暖房入れましょうか。」と言ってくれたが、「すぐに出るから」と言って、コートを着たまま、菜々子とビルの中へ入った。だが、エレベーターは動かしてもらった。


5階まであがり、圭一が鍵を借りたという「防音室5」に向かった。

防音室なので中から音はしない。

明良はそっとドアを開いた。


中はライトがついていた。だがもちろんかなり冷え込んでいる。


「…圭一?…いるか?」


明良がそう言ったが返事がなかった。


ピアノの傍まで来て、明良と菜々子は、圭一がピアノの鍵盤に伏せて寝ているのを見た。


「!」


圭一の顔が赤くなっていた。コートは着ているが、吐く息が白い。

菜々子が圭一の額に手を当ててみた。


「!…熱があるわ。すぐに連れて帰らなきゃ…!」


明良は圭一の体をゆっくり起こした。

圭一が目を覚ました。…そして自分の体を抱いている明良を力のない目で見た。


「…父さん…?」

「大丈夫だよ。家へ帰ろう。」


明良がやさしくそう言うと圭一はうなずいた。そして気を失ったように体の力が抜けた。

明良は圭一の体を横抱きにして担ぎあげた。

菜々子が涙ぐみながら、ピアノの楽譜立てに置いてある楽譜を閉じてそっと持った。

それは、シャンソンの楽譜だった。


……


「!…圭一君が…!?」


翌日、秋本と沢原が副社長室で同時に叫んでいた。


「…夜中にピアノの練習を?」


秋本がそう言うと、明良が沈鬱な表情でうなずいた。


「…熱が高いのでしばらく休ませるが…。圭一はメンバーから外れたことに、何かを勘違いしたんだろうな。」

「!!」

「自分の腕がないからだと思ったんだと思う。それで、独りでこっそりと夜中に練習をしていたんだ。」

「…そんな…」

「警備員達に聞くと、ここ3日連続で来ていたという。暖房を入れると言ったんだそうだが、圭一が「乾燥するからいい。」と断って、携帯カイロを見せて警備員を安心させていたらしい。」

「……」

「…私達が気を回し過ぎた。…圭一はマリエには気を遣っていたが、純粋にこのメンバーの中でピアノを弾きたかっただけなんだ。」


沢原が思わず目に手を当てた。秋本もうつむいたまま、顔を上げられない。


「…メンバーに戻してやってもいいか?」


明良が言った。秋本と沢原は「もちろん」と異口同音に言い、それぞれ目を拭った。


「だが…圭一が納得する方法でなければならないから…圭一が元気になったら、こうしてやってほしいんだ。…たぶん、それでうまくいくと思う。」


明良の示した提案に、秋本達は同意した。


……


同時間-


「マリエちゃんが来たわよ。」


圭一は菜々子にそう言われ、驚いて体を上げた。

菜々子が、その圭一の体をそっと押さえた。


「まだ熱があるから…寝たままでね。」

「でも…先輩に風邪をうつしてしまったら…」

「私もそう言ったんだけどね…どうしてもあなたと話したいんだって…だから10分だけいいわよ。って言ってあるから。」

「…わかりました。」


圭一は熱とは別に顔が赤くなるのを感じた。いったい何を話すというのだろう。

マリエが菜々子と入れ替わりに入ってきた。


「…ごめんね。ケイイチ…心配だったから…菜々子専務に無理言って…」

「いえ…あの…うつるとだめですから…」

「わかってる。すぐに出るわ。…これ、食欲が出たら食べて。」


マリエがカバンの中から、タッパーを取り出し、箱のふたを少し取って圭一に中身を見せた。

いろんな果物が切ってあり、シロップにつけられていた。


「…ありがとう…ございます。」

「元気になったら…練習見に来て。」

「…はい。」

「それでね…。やっぱり私、ケイイチにメンバーに入って欲しいの。」

「!…でも…僕はまだ…ピアノがうまくなくて…」

「ううん。そんなことはないと思う。…私、社長に直談判して、ケイイチを戻してもらうようにするから。」

「…先輩…」

「…ケイイチのこと好きだけど…仕事とその気持ちはちゃんと切り離してがんばろうと思ってる。…だからケイイチも気を遣わないでね。いつもみたいに笑って、一緒にシャンソンやろう。」

「…はい…」


圭一が微笑んでうなずいた。


「…一つだけ聞いてもいい?」

「?…はい。」

「…私のことは…嫌い?」

「!…」


圭一は目を見開いたが、とまどったようにマリエから視線を反らせた。


「…嫌いじゃないです…。」

「じゃ、好き?」

「…僕…でも…どうしても越えられないものがあって…」

「越えられないもの?何?」

「…僕はまだ前に付き合っていた人のことが忘れられなくて…」

「!!…」

「…その人とはいろいろあったから…。どうしても…忘れられなくて…」

「…そうだったの…。やっぱりいい人ね、ケイイチ。」

「!…」


圭一はマリエの微笑む顔を見た。


「…私、2番目の彼女でいい。」

「…!…」


圭一の顔が真っ赤になっている。


「…私は圭一と少しでも長く一緒にいたい。…それだけなの。プラトニックでいいから。」

「……」

「だめ?」


圭一は首を振った。


「いいの?」

「…それなら…はい…」

「やった!」


マリエが手を合わせて言った。


「じゃ、早速明日から看病するね!」

「え?」

「今日は菜々子専務と約束したから帰るけど、明日から私が看病する!」

「でも…風邪が…」

「大丈夫!すぐにケイイチに治ってもらって、一緒にシャンソンやりたいもの!」


圭一も思わずうなずいていた。


「じゃ、明日またね。」


マリエがそう言って、圭一の唇にチュッとキスをした。


「!!」


圭一の目が見開いたまま動かない。


「プラトニックでもキスは許してね。」


マリエはそう言って立ち上がり、ドアに向かった。


「それ、ちゃんと食べること!」


マリエはそう言ってドアを開くと、圭一に投げキッスをして部屋を出て行った。

圭一は赤くなった顔を隠すように布団にもぐった。


……


圭一は、秋本と沢原、そしてマリエの前でピアノを弾いていた。

メンバーに入れてもらうためだ。

圭一が弾き終わると、3人は拍手をした。

お世辞抜きで、かなり上達している。


「…本当に上達したな…」


秋本が感心したように言った。


「ただ圭一君、1つだけね。」


沢原が言った。


「リズムが崩れることがあるから、メトロノーム使って練習をするようにしてくれ。シャンソンは歌い手がリズムを決めるようなところもあるが、ピアノの方のリズムは崩しちゃいけない。」

「わかりました。」

「じゃ、メンバー復帰おめでとう。」


沢原がそう言うと、3人は拍手した。圭一は照れくさそうに頭を下げた。


……


「ごめんなさい。」


相澤が明良に頭を下げた。


「今回の事は、完全に俺の責任だ。…まさかこうなるなんて思ってなくて…」

「それは私も同じです。一旦2人を離した方がいいと、私も思いましたから。」

「しかし…マリエが社長室に泣きながらきた時は、びっくりしたよ。」


相澤が苦笑しながら言った。


「マリエも何も知らなかったですからね。」

「ちゃんと仕事と恋は切り離してするから、圭一を戻してくれって大泣きするんだもんな。」


2人が笑った。明良が思いだしたように言った。


「マリエが毎日、圭一のところに看病に来ましてね。」

「ん」

「ちょっと気になって、ドアの外で2人の話すのを聞いていたんですが…」

「…悪い親だなー…」

「だって…気になるじゃないですか!」


相澤が笑いながら、明良に「続けて」というように手を差し出した。明良が言った。


「…なんかもう恋人同士みたいなんですよ。…「あーんして」とかやってるし…」

「それはそれで、親としては寂しいか?」

「…寂しいです…」


相澤が笑った。



(終)

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