対決
「全然、違うやん」
食堂で、久しぶりに会った雄一がラーメンのスープをすすりながら、圭一に言った。
「…そうやろか…」
圭一もラーメンを食べている。そのまま2人は麺をすすった。
「俺らは、先に曲をプロダクションが作ってくれて、その曲に俺らが振付るだけやんか。」
「ん…」
「圭一らは、曲から考えなあかんやん。僕、それが一番大変やと思うねん。」
その雄一の言葉に、圭一は救われたような気がした。
「別れの曲、良かったで。歌詞初めてつけたんや。」
「…うん…原曲損なうのいややったんやけど…」
「曲の雰囲気には合うてると思うけど。」
「ほんま?」
「うん。」
「あの曲は、ほんまはショパンがお姉さんが死んだ時に作った曲やから…それに合うた方がええんかなと思ったんやけど…副社長のお姉さんのことと重なるやん。」
「…そうやな…副社長が聞くたびに辛い思いしはっても可哀想やな。」
「…うん。で、別れた人への想いにしてん。その別れた人を死んだお姉さんに代えても、意味は通じるやん。」
「!そんなことまで考えたんか!」
「どうしても、大きくはずれたくなかってん。」
「…すごいなぁ…」
圭一はくすくすと笑った。
「雄一としゃべってると、やっぱり元気になるわ。」
「それは良かった。」
雄一が嬉しそうにした。だがすぐに表情を曇らせて言った。
「でもな、僕らもそろそろ限界感じてんねん。」
「?限界?」
「技の数って決まってるやん。スタジオの中でできる技って…。高いところから飛び降りれるわけないし、飛び上がるわけにもいかんし。」
「…そうやな…」
「バラードなんてわけにもいかんやん。」
圭一は、頷いて黙り込んだ。何か雄一を助けたいが何も思いつかない。
「バック転や、空中バック転、側転、ジャンプ、カンフーっぽいのも入れたけど、また同じ技でけへんし…間宮達と頭抱えてるんや。」
「……」
絶好調に見えていた陰には、雄一達のこんな努力があったのかと思った。
それからしたら、オペラ曲は豊富にある。自分はまだまだ甘いんだな…と圭一は思った。
……
その翌日、ジム室でトレーニングをしていた圭一は、ビルのアナウンスで社長室に来るように言われた。
圭一は、すぐに社長室に行った。
ドアをノックして「圭一です。」と言うと「入って」という相澤の声がした。
「失礼します。」
圭一はドアを開いて、中へ入った。
すると、雄一が相澤と向かい合って、ソファーに座っている。
「雄一…!」
「おはよう圭一。」
2人は何か照れ臭そうにそう言葉を交わした。
「雄一の隣に座って。」
相澤が圭一に言った。圭一は頭を下げて、雄一の隣に座った。
「そろそろ、君たちのユニットを復活させようかと思ってね。」
「!!」
「2人とも、それぞれのユニットで忙しいのはわかっているんだが、ちょっと最初に戻るのもいいんじゃないかって。」
圭一と雄一は嬉しそうに顔を見合わせた。
「いいよね?」
相澤の同意を求める言葉に、2人とも「はい!」と答えた。
「いいねー。目キラキラしてるよー。俺と明良の若い時みたい。」
相澤がそう言って笑った。2人は恥ずかしそうにそっと顔を見合わせた。
……
翌日から、雄一と圭一のレッスンが始まった。
だが…新曲がまだできていない。これはライトオペラと違って、事務所の決めることなので、逆に圭一は焦りを感じた。
今日は、踊ることを思い出すためのレッスンだった。
振付師の百合の指示で、今までの曲をすべてやらされた。
…と言っても考えてみれば、まだ5曲しかやっていない。それも最後の1曲はバラードだ。これはレッスンから外された。
圭一は、歌いながら踊るという感覚を忘れてしまっていた。毎日ジムで鍛えているにも関わらず、息が切れる。
「圭一君、オペラでは息が続くのに、また踊りながら歌うのは違うのかしら?」
百合が不思議そうに言った。圭一は汗を拭きながら言った。
「そうですね…。オペラは全身を使えるけど、踊りながら歌うのは…ほんと肺呼吸だけでしか歌えないというか…」
「へぇ…なるほどね。」
「あかん…この感覚、はよ思い出さな。」
「焦らない焦らない。曲はまだできていないんだから…」
「…はぁ…」
案外のんびりしてるんだなと圭一は思った。雄一も少し不満そうにしている。
「そうや!」
急に雄一が表情を明るくして、圭一に言った。
「社長達がさ、サプライズした曲あるやん。」
「…うん…」
「あれ、練習がわりにやらへん?去年のクリスマスの時、ちょっと練習したやんか。あれ、間奏結構激しいし、いい練習になると思うねん。」
「それいいわね。」
百合が言った。圭一もうなずいた。
圭一が、DVDをライブラリーから借りてくると、レッスン室の再生機に入れた。
若い頃の相澤と明良が歌番組で司会者と話をしているところから映っていた。
「きゃー!若いわねー!」
百合が言った。録画ではサプライズの話が出ていた。事務所に内緒だったことや、発案は明良だったこと。また相澤がユニットを解散することを聞いて泣いたことを話している。
『俺と明良の若い時みたい。』
相澤にそう言われたことを思い出した。
「そうや…」
圭一が呟くように言った。
「どうしたん?圭一。」
隣に座っている雄一が圭一に向いた。
「…僕…これ踊りたい。」
「だから今からやるんやろ?」
「そうじゃなくて!これを新曲にするんや。」
「!?」
百合と雄一が驚いた表情で圭一を見た。
「新曲は作ってもらうけど…でも、僕らの復活には、この副社長達の復活の曲が合うてるような気がする。」
「僕もやりたい!」
雄一が言った。
「いい案だわ。じっと待ってるよりはいいものね。」
百合が同意してくれた。
……
そして、これもサプライズにすることになった。サプライズの相手はもちろん相澤と明良である。
百合と圭一と雄一の3人だけしか、このことを知らない。
そのため新曲は作ってもらった。相澤達は、圭一達がその曲の練習をしていると思っている。
ダンスのレッスン室のブラインドが下げられ、外から見られなくした。そして必ず鍵を閉めた。相澤達がいきなり訪問することがあるからだ。
音漏れにも気を遣い、小さめの音でレッスンした。
2人で毎日、録画を見て、レッスンする日が続いたが、若い頃の明良達のダンスのレベルがいかに高いか、圭一達は痛感していた。
間奏のダンスが音楽に追いつかないのだ。その上、2人で振りを揃えなきゃいけない。
鏡を見て合わせようとするが、どうしても合わない。ちょっとしたズレがどうしても起きてしまう。
「ああもうっ!!」
とうとう圭一がキレて、自分のカバンを壁に投げつけた。
「圭一ー…音聞かれたら、誰かが飛んでくるで。」
雄一がタオルで汗を拭きながら、呑気に言った。
「合わせようとしたら、よけいにずれるわ…」
圭一がその場に座り込んで言った。
実際は鏡なんてないから、お互いを見ずに踊らなければならない。
これを明良達はサプライズの時、ぶっつけ本番だったと話していた。今の圭一達には、信じられない話である。
雄一が思いついたように言った。
「今の圭一の言葉、ピンポン!合わせようとするからか…」
「ピンポンってえらい古い言葉を…。」
「そこをつっこむなや。」
雄一が笑った。圭一も笑っている。真剣な状況でも笑いで乗り越える。この関西のノリの感覚も徐々に2人は思い出してきていた。
「合わせようとか考えんとこ。楽しく踊ろうや。社長達もすごく楽しそうにしてたやん。」
「そうやな。」
「ずれたらずれたで御愛嬌や。どうせ、俺らには社長ら越えられへんのやから。」
「ん…」
そんないい加減なことではだめなのかもしれないが、これも関西式のノリだ。肩の力を抜いた状態の方がうまくいくこともある。
「よし!最初から行くで!」
雄一の言葉に、圭一がうなずいて立ち上がった。
……
圭一が思わず、晩御飯を食べながらため息をついた。
向かいで食事をしていた明良と菜々子が驚いた目で圭一を見た。
「大丈夫か!?」
「しんどいの?」
圭一は、はっとして顔を上げた。…独りではなかったことを今になって思い出した。
「あっいえ…違うんです。…新曲のレッスンでちょっと…」
「あんまり無理するなよ。」
明良に心配そうにそう言われ、圭一は「大丈夫です」と微笑んで答えた。
菜々子が思いついたように言った。
「後で、マッサージしてあげるわ。」
「えっ!?母さんが?」
「よく明良さんにもしてあげたわよね。」
「そういや、そうだな。」
明良が微笑んで菜々子を見た。
「いっいいです。僕…そんな…」
圭一は顔を赤くして言った。
「お前、変なこと考えてないか?」
明良にそう言われ、圭一は驚いて首を振った。
「明良さんっ!思春期の男の子におかしなこと言わないの!」
「…すいません。」
明良がしおらしく謝ったのを見て、圭一は思わず笑ってしまった。
「食べてすぐは駄目だから、寝る前に圭一君の部屋へ行くわね。」
「!!!…いや…本当にいいです!」
菜々子に全身を触られると思っただけで、圭一は顔が紅潮してしまう。…もう19歳とはいえ、やはり思春期なのだろう。
明良が不思議そうに言った。
「やってもらえばいいのに。気持ちいいぞ。私なんかそのまま寝てしまったことが何度もある。」
「そうね。またそれを起こすのが楽しかったけど。」
「意地悪な人だったんだよ。」
明良が菜々子を指さして、圭一に言った。菜々子が明良に眉をしかめたが、圭一に向いて言った。
「圭一君にはそんなことしないからね。そのまま寝ちゃっていいのよ。」
「じゃ、私が起こしに行く。」
「明良さんっ!!」
「…すいません。」
圭一はまた笑った。…しかし心の中では、逆にどきどきして寝られないんじゃないかと心配していた。
……
シャワーを浴びた圭一は、ソファーで、エンターテイメントの雑誌を読んでいる明良の隣に座った。
「お上がり。」
明良が圭一に向いて微笑んで言った。
「先にすいませんでした。」
「構わないよ。私は寝る前に入るのが好きだから。」
「父さん…」
「ん?」
呼びかけたものの、圭一がちょっと困ったように黙り込んだ。どう聞けばいいのか分からない。明良が雑誌を閉じて前のテーブルに置くと、心配そうにそんな圭一を見た。
「どうした?新曲のことか?」
圭一はどきりとした。確かにそうなのだが、サプライズのことをばれないように聞かなければならない。やっと思いついて、圭一は明良を見た。
「あの…雄一と振りを合わせるところがあるんですけど…振りが複雑でどうしても合わないんです。…音楽にも追いついていなくって…どうしたらいいのか…」
「そういうことか。」
明良は少しほっとしたように言った。雄一と何かあったのかと思っていたのだった。
「振りは合わそうとすると焦って体が動かなくなる。振りが複雑ならよけいだよ。自分のことだけ考えればいい。」
圭一はうなずいた。雄一の言っていることは正しかった。
「音楽に追いつかないのは、まだ体と頭が音楽を憶えていないからだ。」
「!!…音楽を憶える?」
「先に音楽を憶えるんだ。音が耳に入ってから振りに入ったらもうそれでずれてしまう。裏打ちっていうのかな…耳に入る一瞬前にその振りを入れる。例えば…」
明良は「パンッ」と手を叩いた。
「この「パン」という音の時に、例えば片手を上げる振りをするとする。しかし音を聞いてから手を上げると、どうしても1テンポずれるんだ。だから、音が聞こえる前、つまり手と手が合わさる直前に手を上げるんだ。」
「…難しい…」
「うん。これは感覚の問題だ。感覚で鳴る前の瞬間のタイミングがわかっていればできる。そのタイミングを知るには、何度も音楽を聞いて覚えるんだ。」
「…やってみる。」
明良がうなずいた。
「本当は目の前で見て教えられることは教えてやりたいんだが、百合さんからレッスン室は絶対に覗くなって言われてるんだ。本番まで楽しみを残しておいた方がいいって言われてね。」
「!…そうですか。」
百合がちゃんと先に手を打ってくれていたことに、圭一は感謝した。
「頑張れよ。楽しみにしているから。」
「はい。」
明良のその言葉に(父さんをがっかりさせないようにしなきゃ)と圭一は思った。
その晩、本当に菜々子はマッサージをしてくれた。
最初は菜々子に上に乗っかられ、うつぶせとはいえ緊張のあまり体を硬くしてしまい菜々子に怒られたが、やがて菜々子の手の動きに気持ち良くなって、圭一は本当に寝てしまった。
……
音楽番組-
圭一と雄一のユニットが呼ばれた。拍手が起こる。
2人は立ち上がって、男性司会者の横に座り、頭を下げた。
「この関西コンビは久しぶりだねー。」
司会者が言った。圭一と雄一が顔を見合せて笑った。
「ご無沙汰してます。」
雄一が言った。
「ほんと久しぶりだよね。」
司会者が圭一を見て言った。
「オペラの時と、本当にイメージ変わるね。圭一君。」
「そうですか?」
「あのホストも好きなんだけどな。」
圭一が笑った。雄一も圭一を見て笑っている。
「今日は、相澤プロダクションの役員さんが総出で来てるけど。」
司会者が、ある一点を見て言った。
圭一達も笑って、同じ方向を見た。
百合、菜々子、明良、相澤と4人が、カメラの横に用意されたパイプ椅子に座って見ている。
「相澤君!お久しぶりっ!!」
司会者が手を上げて言った。カメラが相澤に向いた。相澤は立ち上がって「お久しぶりっ!」と同じように手を上げて返し、頭を下げている。
全員が笑った。
「あれで社長なんだもんなぁ。」
司会者が笑っている。
「あの2人が並んでいるところを見るの久しぶりだよー。今日って貴重な日だね。」
「はい。」
圭一達は感慨深げにうなずいている。
司会者もスタッフもリハーサルを見ている。つまりサプライズのことを知っているので、相澤達には知られないようにお願いしている。
ちなみに相澤達は、百合がちゃんとリハーサルには入らないように手回しをしてくれていたので、まだサプライズのことは知らない。
「さ、今日は復活のための新曲と言うことで。」
「はい。」
「明良お父さんと社長さん達の前で、新旧対決だね。」
「……」
2人とも何か黙り込んでしまった。急に緊張が襲ったようだった。
「はいはい。楽にして楽にして。」
司会者が笑って言った。2人も苦笑して、顔を見合わせた。
「準備が整ったようなので、スタンバイお願いします。」
「はい!」
2人とも立ち上がった。
そして頭を下げると、拍手の中スタジオの中央に行った。
明良達がサプライズをした時と同じ、階段のある高台の上に雄一が立った。圭一はその下にスタンバイする。
明良達はちょっと不思議そうな表情をしていた。なんか見たことあるぞ…という感じだ。
百合が菜々子の横で、少し肩をすくめて笑っている。
圭一達はその百合の姿を見て、一緒に笑いそうになった。
司会者が圭一達のユニット名と、曲名の紹介をした。
その曲名を聞いた時、明良と相澤が「えっ?」という顔をした。
雄一が2度指を鳴らした。
2人同時に歌いだす。圭一が明良のように雄一のハーモニーをしていた。
明良と相澤が表情を硬くしたのがわかった。
(…怒ってる?)
圭一は歌いながら、明良達の様子を見てふと思った。…が、最後までやるしかない。
2人の歌が終わったと同時にイントロに入った。拍手が起こっている。
2人は踊りだした。10年前と全く同じ振付で踊る。
明良と相澤が顔を見合わせて笑ったのが見えた。菜々子は顔の前で小さく拍手をして、嬉しそうに圭一達を見ている。百合は満足そうに、こちらを見ながら踊っている圭一達に指でOKの合図をしていた。
ふと明良が下を向き、涙を指で払ったのが見えた。
(父さん…また泣いてる)
圭一はそう思いながら踊った。
間奏に入った。一番苦労したパートだ。
明良と相澤はサプライズの日は、上下のままで踊っていたが、翌週では横に並んで踊っていた。
圭一と雄一が相談した結果、上下で踊ることにした。雄一が圭一を見ながら踊る方がいいと思ったのだ。
圭一自身は、音楽に合わせることに集中した。明良に教えてもらった「裏打ち」を何度も練習した。そしてその効果は出ていた。
自分でもぴったり音楽に合っていることが確信できる。そして雄一も圭一に合わせるように踊っている。
だが、明良達のように糸でつながったようには、できていないことは感じていた。
最後のパートになり、2人はハーモニーを奏でながら踊った。
そして曲が終わると同時に、ゆっくりと片手を上げた。
圭一は、息を弾ませてゆっくりと手を下ろした。
すると、階段を駆け降りる雄一の足音が聞こえた。圭一は笑って振りかえった。
雄一が抱きついてきた。
拍手の中、笑いが起こった。
「大成功やで!圭一!」
「そやな…うまくいったな…」
圭一と雄一は体を離して、お互いの両手をパンと音を立てて重ねた。
明良達の方を見ると、4人ともが立ち上がって拍手をしていた。明良はもちろん相澤も泣いている。
CMの前に、スポンサーを紹介されている。
圭一と雄一がそれぞれ、明良と相澤のところに行って、握手をしている姿が映されていた。
そして2人とも明良と相澤のハグを受けたところまでで、CMに入った。
……
「あー何度見ても涙が出る。」
そのサプライズの録画を見ていた相澤が目を手の甲で拭いながら言った。
「そうですね。」
一緒に見ていた明良も同じように目を拭っていた。
何度見ても…と言っても、録画を見るのは初めてだった。
「間奏のところ…うまくいってましたね。」
明良が言った。圭一が悩んでいたパートがここだったことを知った時、一気に涙が溢れ出たのを憶えている。
「でも、俺たちの方がよかったよなー。」
相澤が言った。
「…ええ、まぁ…。」
「俺たちにはまだ追いつけまい。」
「いいじゃないですか。追いつかれたって。」
「そうだけどさ…。あんな風に簡単にやられるとなんか腹立っちゃって…」
「簡単じゃなかったようですよ。圭一が褒めてくれましてね。あれをぶっつけ本番で踊ったなんて信じられないって。」
「そうか!…よしよし。」
「何がよしよしなのかわかりませんが…」
明良が吹き出しながら言った。
「でも、本当の新曲どうするんでしょう?」
「あっ!ほんとだっ!あいつらどうするつもりだっ!?」
「…呼び出しましょうか。」
「呼び出そう。説教だ。」
相澤が嬉しそうに言うので、明良が笑いながら立ち上がり、電話の内線を使い、圭一と雄一に社長室に来るようにビル中にアナウンスした。
すぐに圭一達が来た。
ニコニコして来るかと思いきや、本人たちはもう覚悟していたようだ。
表情が強張り、下向き加減にしている。
それを見た相澤と明良は大笑いした。
圭一と雄一は顔を見合わせ、笑う2人を気味悪そうに見た。
「…怒ってないんですか?」
圭一が恐る恐る尋ねてきた。
「怒ってるとも。」
明良が、必死に笑いを堪えながら答えた。
「本当の新曲はどうするんだ?」
「今…振り付けしています。」
「いつ発表できるんだ?」
「…1ヶ月後くらい…」
その雄一の返答に、相澤がとたんに「バカ者!」と声を上げた。しかしやっぱり顔は笑ってしまっている。
それでも、圭一と雄一はびくっと肩をすくめた。
「2週間でやれ!」
「はい!」
圭一達は「気をつけ」の状態で返事をした。
「でさ。一緒にサプライズの録画見ない?」
相澤が急に声のトーンを落として圭一達に言った。
圭一達はきょとんとした顔で相澤を見た。
明良が苦笑して言った。
「アドバイスしたいところがあるんだ。一緒に見よう。」
圭一達はやっと笑顔になって、顔を見合わせた。
明良と相澤はそれぞれ、圭一達の肩を叩いて、ソファーに誘導した。
…最終的には、何のアドバイスもなく、ただ明良達が泣いただけだった。
(終)