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対立

「この頑固者!!」


秋本がそう言って、レッスン室から出てきた。そしてドアを音を立てて閉じた。

廊下を歩いている研究生達が驚いて、歩き去る秋本を見送る。


レッスン室の中では、圭一が頭を抱えて座っていた。


「頑固者はどっちなんや」


圭一はそう呟いて、天井を仰いだ。このところ、秋本と意見が合わない。

今日も、曲の選別で対立してしまった。


新しい曲に入りたいが、なかなか決まらないのである。

正直、バイオリンを伴奏とする曲が少ない。バイオリンでしようとすれば何でもできるのだが、できるならバイオリンが生きる曲がいい。

バイオリンのみの曲に詞をつけようという秋本の意見もあったが、圭一は詞をつけると曲の雰囲気が壊れることを恐れた。それにそういうことは、もういろんな先輩歌手がやっている。

圭一がイタリア語や英語で歌うのは、原曲のよさを知って欲しいからだった。時々、日本語で歌う歌もあるが、アルバムでは原曲で歌う。

秋本はそれに固執することを、やめろというのだ。

圭一はそれだけは譲れないと反論した。そして「頑固者」となったわけである。


「秋本さんに伴奏してもらうこと…もうないのかな…」


圭一はそう呟いて、独りうなだれた。



……



それから1週間が経ったが、秋本がプロダクションに来ることはなかった。

一応、契約はしているが、圭一と違って自由契約なので、毎日プロダクションに出勤する義務はない。

しかし、相澤と明良が心配した。


「…秋本君と連絡は取れないのか?」


圭一は副社長室に呼び出されて、明良にそう尋ねられた。


「はい…携帯に電話しても、留守電ばかりで…」

「意見が対立するのは自然の流れだから仕方がないことだが…全く話もできないというのも困るなぁ。」

「ピアノの先生にもお願いしてみたんですが、駄目だったようで…。先生によると、秋本さんって、一回意地を張っちゃうと、もう駄目なんだそうです。これまでもパートナーができてもすぐに縁が切れてしまって、長続きしなかったそうで…」

「そうか…確かに芯がしっかりした雰囲気はあったね。」

「はい…僕もそれが好きだったんですけど…。」

「もう…駄目かな…」


明良はソファーにもたれて言った。


「…駄目です…。」


圭一は本当に落ち込んでいるようだった。


その後、また独りに戻ってレッスンを始めるが、身が入っていない事に明良も相澤も気づいていた。

毎日同じ歌を歌っている。

だが、秋本の伴奏で歌った「主よ、人の望みの喜びよ」だけは歌わなかった。伴奏がなくても秋本の伴奏だけ録音したものがあるので、それを使えば歌おうと思えば歌える。しかし歌う気にもならないようだ。それは秋本に腹を立てているわけではなく、思い出すのが辛いのだ。


……


そして、秋本は…。

毎日を悶々と寝て過ごしていた。

時々バイクに乗って、憂さ晴らしすることもあるが、原因が取り除かれないのだから、気が晴れることはない。

圭一から何度か電話が入ってきていることも知っていたが、取る勇気がなかった。


「電話で何を話せって言うんだよ…。謝れとでもいうつもりか?」


秋本はベッドの上でそうぼやきながら、ため息をついた。

かと言って、相澤プロダクションに顔を出す勇気もなかった。

もう1週間も経ってしまっている。どんな顔をして行けばいいのかわからなかった。


秋本は、今は圭一の考えに反論する気はなかった。確かに原曲の良さは原曲にしかない。日本語で歌詞をつけてみればどうだ…と言ってみたものの、先輩歌手達に勝てる詞を書く自信など、秋本にもなかった。

意地を張ってしまうのは、自分の悪い癖だとわかっている。そのために、これまでもピアノの講師が紹介してくれたパートナーを失ってきた。

だが、今回のパートナーの北条圭一は、気が合うというか、一緒にいるだけで安心感があるような不思議な感覚を持った。

駐車場で初めて会った時、圭一が自分の顔を見てびっくりしていたが、秋本は初めて会ったような気がしなかった。前に一度一緒に仕事をしたような気がしたのである。だから「主よ、人の望みの喜びよ」の伴奏を頼まれた時、口頭の打ち合わせだけのぶっつけ本番でも、うまく行った。普通ならこうは行かないだろう。 …これまでで、一番失いたくないパートナーには違いなかった。


「だめだ…やっぱり、走りに行こう。」


秋本はベッドから起き上がった。


……


秋本は東京の埠頭を遠く眺めながら走っていた。海沿いを走るのが一番好きだった。ふと、圭一を後ろに乗せて走ったことを思い出して思わずヘルメットの中で笑った。


「あれは…めちゃくちゃだったなぁ…。」


以前バイクスタントをしたことがあるが、1人でもバイクでジャンプするのは難しいのに、2人分の体重とバイクの重量を超えて飛んだのは初めてだった。気合いでなんとでもなるもんだな…と思った。


その時、後ろから轟音が聞こえてきた。

秋本は「ちっ」と舌打ちした。

暴走族だ。

このところ、またうるさくなってきている。


(困ったな…)


いつもなら道を変えるがここは一本道である。逃げる道がなかった。

考えているうちに、暴走族のバイクに囲まれた。


2人乗りのバイクが後ろから煽ってくる。両横にいるバイクもこちらを見ているのがわかった。


(どうすればいい…)


秋本は暴走族につられるようにして、スピードを上げていた。ここでスピードを落として、馬鹿にされるのが嫌だったのだ。

しばらくして、埠頭につき行き止まりになった。


秋本は暴走族に囲まれながら、バイクを止めた。


「兄ちゃん、やるねぇ…」


暴走族のメンバーの1人に言われた。


「ヘルメットとりーや。暑苦しい。」


そう言われても秋本はバイクにまたがったまま動かなかった。

逃げる機会をうかがっている。

しかし、周りをぐるぐるバイクで回られて、身動きが取れなくなった。

秋本は仕方なく、ヘルメットをはずした。


暴走族の女の子達の目の色が変わった。中には「きゃーっ」と声を上げている子もいる。

秋本のハンサムさというよりは、美しさに驚いているようだった。

暴走族の男性メンバーはもちろんおもしろくない。


「あっ!思い出した!」


1人の女の子が声を上げて、秋本を指さした。


「ほらぁ!『ライトオペラ』歌ってる北条圭一って人と一緒にいるバイオリンの人!」

「『ライトオペラ』だと?」


メンバーの1人が言った。この男がどうもリーダーらしい。


「『ライトオペラ』の北条圭一って…阿修羅の圭一じゃなかったか?」

「噂でしょう?それ。」


メンバーの一人が言った。


「噂かどうか…確かめようじゃないか…」


リーダーが秋本を見て、にやりと笑った。



……


圭一は、家にいた。

そして、携帯を見つめて悩んでいた。


(もう1度、秋本さんと話し合いたい…)


そう思っているが、これまで何度電話しても出てくれなかった。それなのに、今また電話しても出るわけはないだろう。

でも、最後に1回かけてみよう…そう思った時である。


秋本から電話がかかってきた。


圭一は、「秋本さん」という表示名を見て、夢かと思ってしまった。

慌てて電話を開いて取った。


「秋本さん!!」


そう言うと男の声がした。


「阿修羅の圭一か?」

「!?」


圭一は黙り込んだ。その呼び名は暴走族にしか知られていないはずだ。

すると、少し離れた所から「圭一君、来るな!」という声が聞こえた。「黙れ!」という声がし、鈍い音がした。


「!…まさか…秋本さん…!」

「阿修羅の圭一だったら、すぐに来い。…いいもの見せてやるから。」


圭一は「…どこに行けばいい?」と言った。



……


圭一はタクシーに乗って、暴走族が待っている埠頭まで言った。

タクシーの運転手が、少し不安そうな表情をしている。

圭一は料金を払い、礼を言ってタクシーを降りた。

タクシーが走り去ったのを確認して、圭一は歩いた。


遠くにバイクの集団がいるのがわかった。


「やっぱり、阿修羅の圭一だ!」


メンバーの1人が叫ぶのがわかった。


「…秋本さんは?」


メンバー達の傍まで来た時、圭一が言った。


「ここや。」


リーダーらしき男が、体を横にして倒れている秋本の背を足で蹴った。


「秋本さん!」


秋本は気を失っていた。何人かの女の子が心配そうに秋本の傍にいる。


「…先に、秋本さん返せ。」


圭一が言った。


「そうはいかんな。それじゃおもしろくない。」


リーダーが言った。


「おい、こいつを抑えろ。」


圭一が身構えた。


「おっと、逆らうとこの秋本ってやつの顔、切るぞ。」

「!!」


メンバーがリーダーに目配せされ、ナイフを取りだした。

そして、秋本の傍にいる女の子たちをどけると、秋本の顔にそのナイフを当てた。


「やめろ…」


圭一が震えながら言った。


「いいねぇ…その顔…阿修羅の圭一らしくなくてさ。…おら!圭一の体を抑えろ!」


圭一は身動きが取れないよう、メンバーに抑えられた。



……


相澤プロダクションの受付の電話がなった。

夜遅いので誰もいない。

しばらくして、その電話は社長室と副社長室に転送された。


電話を取ったのは、明良だった。


「はい、相澤プロダクションです。」


電話の向こうから、年の入った男性の声がした。


「あの…北条圭一さんって…そちらの方でしたよね?」

「!はい…そうですが…!」

「私は個人でタクシーの運転手をしているんですが…さっき、その北条さんそっくりな男の子を乗せまして…」

「!?…」

「それで、送った場所がちょっと…」

「どこですか!?」

「それが…」


明良はその場所を聞いて、椅子から立ち上がった。



……



圭一は両腕を取られ、立ったまま暴走族のメンバー達に殴られ続けていた。顔にも痣が出来ている。しかし圭一は気を失わないように必死に耐えていた。

ここで自分が気を失っては、後、秋本がどうなるかわからない。2人とも海に放りこまれる可能性だってある。


「しぶといなぁ…」


リーダーがバイクに座ったまま言った。


「かわいそうよー」


女の子達が口々に言う。それがよけいにリーダーの神経を逆なでしていることにも気づいていない。


「もう気ぃすんだやろ…秋本さんを早よ離せ!」


圭一が息を切らしながら言った。


「まだまだ…お前が気を失うまでだ。おい、思いっきりやれ。」


メンバーの1人が、圭一の腹に向かって思いっきり蹴りを入れた。

強い痛みが走った。圭一はうめき声を上げた。しかし普段からジムトレーニングで鍛えている上半身の筋肉は強かった。

何とか気を失わないでいる。しかしさすがの圭一にも限界が来ていた。


その時、秋本が目を覚ました。見ると、少し離れた前で、圭一が殴られているのが見えた。


「圭一君…」


秋本が思わず呟いた。が、蹴られたみぞおちに痛みが走り体を起こせない。


「わ!こいつ、目を覚ましやがった!」


メンバーが慌てて、秋本の顔にナイフを近づけた。


「お前動くなよ!動くと顔切るぞ!」


秋本はそのナイフを見て、圭一の方を見た。

圭一がそれをやめさせるために、黙って殴られていることに気付いた。


「…圭一君…」


秋本が唇を噛んだ。このままでは、圭一が死んでしまうと思った。


「動くな。顔切るぞ!」


メンバーがナイフを近づけて秋本に言った。


「やってみろ!!」


秋本はそう言うと、そのナイフをメンバーの手ごと掴んで自分の顔に近づけた。


「!!うわーっ!」


メンバーがびっくりして、ナイフから手を離した。

ナイフに血が付いている。

秋本は自分から傷つけたのである。…ただメンバーの手が邪魔をして、顔ではなくあごの下をナイフが通ったのがわかった。


「秋本さんっ!!」


圭一が声を上げた。

秋本の喉から血が流れるのを見て、暴走族のメンバー達が驚いて後ずさりしている。


「…これで…私は傷ものだ…。圭一君を離せっ!!」


痛みをこらえながら秋本が叫んだ。メンバーが驚いて圭一から手を離した。圭一の体が崩れ落ちた。

秋本の目に、圭一が必死に体を起こそうとしているのが見えた。


「圭一君、動くな…」


出血と痛みのために目の前がぼんやりする中で、秋本は言った。


「おまえら…!!!」


圭一の目が青色に光ったように見えた途端、圭一が立ち上がってメンバーに襲いかかる姿が見えた。


秋本は痛みに耐えられず目を閉じた。そして圭一に迷惑をかけたことを後悔していた。

周りで、悲鳴と鈍い音がしている。圭一の声は聞こえなかった。ただ、何か重いものが落ちるような音と、何かが風を切る音がする。

そのうちにバイクが走り去っていく音も聞こえた。

その中で「マッドエンジェル」という言葉が秋本の耳に残った。


静かになったとたん、傍で何かが落ちるような音がした。


秋本は目をゆっくり開いた。まだ意識が残っていることに自分で驚いている。

その視界の先に、圭一がうつぶせに倒れているのがぼんやり見えた。


「…圭一君…」


秋本は必死に腕を伸ばし、圭一の手を握った。

圭一が呻いて、顔をこちらに向けた。

そして、手を握り返してきた。


「秋本さん…」

「…圭一君…君、強いんだね。」


秋本が微笑みながら言った。圭一が泣きながら言った。


「ごめんなさい…僕のせいで…」

「違うよ…元はと言えば俺が迂闊だった。…そうだ…謝るついでに…」

「秋本さん、もうしゃべらないで…血が…」


秋本は首を振った。


「これだけ言っておきたいんだ。…ライトオペラだけど…君の思うとおりでいいんだ…」

「!!秋本さん…」

「…原曲を大事にって気持ち…わかったから…。」


圭一が秋本の手を握り締めて言った。


「今…そんなこと…」

「いや…今じゃないとだめなんだ…。もう…君と話せなくなるかもしれない…」

「!?秋本さん…!」

「…そうか…じゃぁもう君の歌も…聞けないのか…」

「秋本さん…!」


秋本の手から力が抜けた。

圭一は必死に体を持ち上げ、秋本の傍へと体をひきずった。


「…秋本さん…!気を失っちゃだめです…」


圭一は、そう言いながら秋本の頭を抱いた。

…が、秋本は動かない。


圭一は秋本の頭を抱いたまま気を失い体を落とした。



……



秋本は透明の酸素テントの中で眠っている。そして圭一は、その秋本のベッドの傍にあるソファーで、菜々子に体を預けていた。

秋本のあごの下の傷は、頸動脈を避けていたので致命傷にはならなかった。だが出血がひどく、意識不明の状態が続いている。


本当は圭一自身の体も打ち身がひどく、体を起こしていることすらできないはずである。

しかし圭一を別室で寝かせても、どうしても体を起こして秋本のベッドに行こうとする。

そのため、秋本のいる酸素テントの傍にいさせるしかなかった。

菜々子は、圭一の頭を自分の頬と肩で支え、両腕で圭一の体を抱いている。時々うめき声を上げるのが聞こえると、圭一の体を抱きしめた。


明良は、秋本の病室の外のソファーでじっと手を組んでうなだれていた。


…明良がタクシーの運転手から電話を受けて、すぐに能田に電話をした。2人でそれぞれの車で埠頭に向かったが、着いたときには圭一と秋本が血だらけの状態で、抱き合うようにして倒れていた。

能田が無線で救急車を呼び、明良が秋本の傷の止血をした。

そして救急車が到着し、2人はすぐに搬送された。

…埠頭には、他にも暴走族のメンバーが数人倒れていた。

すぐに圭一がやったこととわかった。


「今回も遅かったな…。」


埠頭に残った能田が、傍にいる明良に呟くように言った。


「能田さんのせいじゃありません。私が…」

「北条さんはすぐに病院へ行ってやってください。私はこのメンバー達の後始末をしておきますから。」

「すいません…」

「いや…圭一君には罪が行かないようにしますから、ご安心を。」

「…はい…よろしくお願いします。」


明良はそう能田に頭を下げて、自分の車へ走った。


……


「秋本君…死なないでくれ…」


明良は祈るように手を組みなおした。

すると、病室から「圭一君!」という菜々子の声がした。

明良はあわてて、病室へ入った。


圭一が立ち上がって、秋本の酸素テントの傍に立っていた。

菜々子が圭一の体を後ろから支えている。


圭一は、囁くように歌い出した。


「主よ、人の望みの喜びよ」だった。英語の歌詞を歌っている。秋本にしか聞こえないような小さな声で、祈るように歌っていた。


明良はたまらず、部屋から出てドアを閉めた。


……


翌日もその翌日も、圭一は何かを思いつくと、秋本のベッドの傍で「主よ、人の望みの喜びよ」を痛みを堪えて歌った。

菜々子は秋本には聞こえていないものと思っていたが、3日目になって、秋本の指が動いたのがわかった。

点滴をしている方の左手の指が、弦を押さえるような動きをしている。


「圭一君!」


菜々子は圭一に、秋本の左手を見るように言った。圭一の目が見開いた。


「秋本さん!」


圭一が酸素テントの外から思わず声をかけた。

秋本の口が細かく動いている。

圭一は堪え切れず、テントのカバーの中へ入った。


「秋本さん?」


圭一は、秋本の口元に耳を寄せた。


「…声が小さい…何やってるんだ…?」


秋本のその言葉に、圭一は泣き笑いのような表情になった。


「秋本さんこそ…バイオリン持ってないですよ。」


圭一がそう言うと、秋本の目が開いた。


「!秋本さん!」

「…あれ?」


秋本がふと眼を動かして、驚いた表情をしている。


「…今、レコーディング中じゃなかったのか?」


圭一は秋本の手を取って、ベッドに伏せて泣いた。

テントの外で、菜々子も両手で顔を覆って泣いている。


……


秋本の意識が戻ったことを聞き、明良はプロダクションから秋本の病室に向かった。

病室に入ると、傍にいる圭一と談笑している秋本の姿があった。

もう酸素テントは外されている。

圭一が、明良に気付き振り返った。


「父さん…」


久しぶりに見せた圭一のその笑顔に、明良はほっとした。

そして、秋本を見た。

秋本は「ご迷惑をおかけしました。」と言って、明良に手を差し出した。

明良はその手を握った。


「…早く元気になって、圭一の伴奏をしてやって下さい…。」


明良がそう言うと、秋本は涙ぐんでうなずいた。



……



1か月後-


圭一と秋本が笑顔で音楽番組に出ているのを、明良と相澤はテレビで見ていた。

相澤が自分のあごをさすりながらいった。


「…あごの下の傷が痛々しいな…」

「本人は女の子にもてるって喜んでましたけど…」


明良のその言葉に、相澤が驚いた表情をして笑った。


「あれ以上、もててどうするんだろうね。」


相澤の言葉に、明良も笑った。


「…とにかく…元に戻ってよかったですよ…。いろんなことがありましたけど。」

「ん…。もう勘弁してほしいな…。病院沙汰は。」


相澤がそう言い、明良と笑った。


……


スタジオでは、圭一と秋本がスタンバイに入っていた。

今日は新曲「アメイジンググレイス」を演奏する。


秋本が最初の音の弦を指で「ピン」とはじいた。


目を閉じていた圭一が、アカペラで歌い始める。

ワンフレーズを歌い終わった時、今度は秋本がバイオリンで同じフレーズを弾き始めた。秋本のバイオリンの旋律だけがスタジオに響く。

映像では、秋本の美しい顔がアップになっている。あごの傷はバイオリンとあごの間に挟んだ布で隠れていた。普段は布を挟まないのだが、やはりまだ傷にバイオリンが直接当たると痛むのだ。


次のフレーズから圭一が声を重ねた。ふとお互い目を合わせて微笑みあった。


曲が終盤にかかった。圭一の歌が終わり、秋本のバイオリンが最後のフレーズを弾き、余韻を残して終わった。


拍手が起こった。


圭一と秋本は自然に歩き寄って抱き合った。


……


「だから君は頭が固いというんだ!!」


秋本がレッスン室のドアから出てきて叫んだ。

そして、音を立ててドアを閉めた。


廊下を歩く研究生達が驚いているが、最近は慣れたのかくすくすと笑いだした。


秋本は頭を掻いて、またドアを開けた。


「…ごめん圭一君。…ちょっと冷静になろう。」


そう言いながら、また入って行った。


(終)

<あとがき>


今日も夢想ワールドにお付き合いいただきありがとうございます(爆)


秋本君、キレましたね。自分の体まで傷つけちゃいました。怖い人です(--;)

圭一君もマッドエンジェル降臨させちゃいましたよ。2人とも怒らせたら怖いですねぇ…。

今後も美しい秋本君(笑)は、活躍しますよー。

かなり後になりますが、秋本君のゆがんだ過去もあきらかになります(笑)


今後ともよろしくお願いいたします(^^)

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