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訣別

「えっ!?…圭一の父親!?」


明良が声を上げた。受付からの電話だった。


『はい。川野義和様とおっしゃって、圭一さんにオペラを教えたお父様だと…』

「川野!?…すぐに応接室へお通しして!」


確かに圭一から聞いていた名前だった。明良は、受付嬢の返事を待たずに受話器を置いた。


「圭一をよばなくちゃ…あ、いや…それよりも…」


明良はぶつぶつと言いながら、スーツの上着を着て、鏡で髪が乱れていないのをチェックすると、慌てるように部屋を飛び出した。



明良は受付嬢から聞いて、圭一の父「川野義和」が通された応接室に向かった。

はやる気持ちを抑えて、ドアをノックする。


「失礼します。」


そう言って、明良は部屋へ入った。


ソファーに座っていた、白髪の男性がすっと立ち上がった。艶のあるグレーのスーツを着ている。

明良は驚いた。圭一がそのまま年を取ったような顔立ちである。


「初めまして…このプロダクションの副社長をしております「北条明良」と申します。」


川野が笑顔を見せ、明良が差し出した手を握った。明良は手を離して、胸ポケットに手を入れようとしてはっとした。


「あっしまった!すいません…名刺を持ってくるのを忘れました…」


明良が謝った。川野は笑っている。


「いえいえ…あなたが…圭一の今の名前の…」

「あ、いや…北条を名乗っているのは、芸名としてだけです。」

「そうですか。」

「実は今、息子さんは『ライトオペラ』の自主稽古をしているんです。よかったら、そのレッスン室にお連れしようかと思いましてね。私が先に来ました。」

「それはうれしい!よろしくお願いします。」


明良はドアを開けた。



エレベーターを上がり、5階で降りた。


「立派なもんですね。…圭一がこんな立派なところで雇ってもらえるなんて…」

「恐縮です。」


川野の言葉に明良が答えながら、廊下を進んだ。

『レッスン室3』という文字の入ったドアの前に立った。

防音室なので、声は漏れてこない。


明良はドアをノックして、開いた。


……


「!……お父さん…?」


圭一は、川野が入って来た途端、そう呟くように言った。やはり親子なのだ。年を取ってもすぐにわかるのだろう。


「圭一!」


川野の目に涙があふれるのが見て取れた。圭一は思わず川野に駆け寄って、父親を抱きしめた。


「お父さん…やっぱり来てくれたんや…」

「立派になったなぁ…圭一…」


川野の発音が大阪弁になっていた。


「テレビで見とったで…。お前が歌ってるの初めて見た時…びっくりしたんや。」


圭一に抱きしめられたまま、川野が涙声で言っている。


「お父さん…」


圭一は何度も呼んで泣いていた。


明良はそっと、部屋を出た。


・・・・・・・


明良は、副社長室のソファーでぼんやりと座っていた。

何か寂しさのようなものが、明良の心に広がっている。


「あれが…親子か…」


そう呟いた。川野と圭一は本当にそっくりだった。そして、川野の顔を見た途端、圭一は「父さん」と呟いた。

どんなに会えない時間が長くても、血のつながりは消えないのだ。…だが、血のつながらない者同士のつながりは、離れてしまえば消えるものなのだろう。


『…父さんと僕は…あくまで他人やないですか…。』


前に圭一にそう言われたことを、急に思い出した。


「そうだな…他人だな…」


明良はまた呟いた。


その時、ドアをノックする音が聞こえた。


「はい」

「副社長…圭一です。」

「!どうぞ」


明良はソファーから立ちあがった。圭一だけが入ってきた。

圭一は少し神妙な表情になっている。


「お父さんはもう帰ったのかい?」


明良は思わず圭一にそう言った。


「はい…。今夜一緒にご飯食べる約束して。」

「そうか!…じゃ、その食事代は私が持つから、ゆっくりするといい。」

「はい…」

「…どうした?…」


圭一がまだ元気がないので、明良が尋ねた。


「明日の夕方には大阪に帰るそうです…。仕事があるからいうて…」


圭一はもう別れの事を考えているようだ。


「…そうか…また来てくれるだろうし、お前も大阪に行ったらいい。」

「…そうですね…」


圭一が少し表情を明るくした。明良はほっとした。


「そうだ。明日休みをやるから、東京を案内してあげたらどうだ?」

「え?」

「大阪に帰るのは夕方なんだろう?お金は明日渡す。親子でゆっくりするといい。」

「…副社長…ありがとうございます!」


圭一が笑顔になった。明良はそれを見てうなずいた。


(もう…「父さん」と呼ばれることはないのかな。)


明良は、圭一の肩を叩きながら、そう心の中で思っていた。



・・・・・


翌朝、副社長室に来た圭一に明良はお金を渡した。


「え!こんなに…!」


圭一が受け取った金額を見て驚いていた。


「余ったら余ったで、お土産を買ったらいい。それだけ持っていたらタクシーを1日借りて、食事も十分にできるだろう。」

「…ありがとうございます。」


明良は「早く行きなさい。」と圭一をうながした。圭一はうなずいて頭を下げると、嬉しそうに部屋を出て行った。



・・・・・・・


明良はその日、仕事が手につかず、1日ぼんやりとしていた。菜々子から内線が入った。

明良は受話器を取った。


「はい。」

「大丈夫?明良さん…そっち行っていい?」

「ええ…いいですよ。」


明良は答えて、受話器を置いた。


しばらくして菜々子が来た。

明良は、コーヒーを入れ、菜々子の前に置いた。


「…寂しいわね…何か…」

「!?……菜々子さんも?」

「ええ。」


菜々子が恥ずかしそうにうなずいた。


「あなたがあんまり息子のように接しているから、私もいつの間にか、母親のつもりでいたのね。…本当のお父さんが来ればいいって、ずっと思っていたけど…本当に来ちゃうと、寂しいものなのね。」


明良の今の心境をそのものずばり言い当てられたような気がした。


「…菜々子さんもそうだったなんて…。」


明良が苦笑するように笑った。菜々子が言った。


「あなたは、独りじゃないのよ。」

「…ありがとう…」


明良がうなずくようにして言った。


……


夕方-


明良はふと時計を見た。時計は5時を指している。


「もう新幹線に乗ってしまった頃か…」


明良は呟いた。父親は夕方5時前の新幹線に乗ると言っていた。

新幹線を寂しげに見送る圭一の顔を想像した。


「…大阪のイベントを作ってやらなきゃな…。雄一君だって帰りたいだろうし…。」


明良はソファーにもたれ、天井を仰ぎながら思った。


その時、ノックが聞こえた。


「はい?」

「圭一です。」

「!?…どうぞ。」


明良が驚いて返事をすると、圭一が入ってきた。


「…早かったな。」

「ええ…」


また圭一の元気がない。別れた後で寂しいのだろう…と明良は思い、ソファーを指して「座れ」と言った。

圭一はうなずいて、ソファーに座った。


「楽しかったか?」

「ええ…まぁ…」

「大阪のイベントを増やそうと思っているんだ。…できるだけ早いうちに大阪に行けるようにするから…」

「もうええねん…」

「え?」


明良は思わず聞き返した。圭一ははっとした顔をすると「いえ…大阪でイベントはしたいですけど…」と慌てて言った。


「圭一…何かあったのか?」

「…何でもありません…。」

「それにしては、元気がなさすぎるが…」

「…ちょっと…寂しいだけです。」

「そうか…」


明良は困ったようにうなずいた。

その時、電話の内線が鳴った。明良は「ちょっとごめん」と圭一に言って、受話器を上げた。


「先輩?どうしました?」


社長室からの内線だった。


「圭一を?…ええ、今ここにいますけど…わかりました。独りで行かせます。」


明良は受話器を置いて、圭一に言った。


「圭一、社長が独りで社長室に来るようにって…」

「?…僕ですか?」

「ああ」

「…わかりました…」


圭一は立ち上がって、明良に頭を下げると、部屋を出て行った。



……


それから1週間後-


圭一は元の元気な圭一に戻っていた。明良の事も時々「父さん」と呼び、元の生活に戻っている。

だが、明良はこれでいいのか悩んでいた。

本当の父親とのきずなが戻ったのに「北条」を名乗らせるのはどうかと思ったのだ。


明良は圭一を副社長室に呼び「北条」の名をやめたらどうかと進言した。


「!!…どうして!?」


圭一が、声を震わせて言った。


「…川野さんに失礼かと思ってね…。」

「父さん…もう、川野のお父さんの事はいいんです」

「いいわけないだろう。…お前の血のつながった親だぞ。…それにお前にオペラを指導したのは川野さんだ。…「川野圭一」に戻った方がいいんじゃないか?会えない分、それくらいの親孝行はしていいだろう。」

「…父さん…」

「その呼び方もやめるんだ。お前のお父さんは1人だけだ。」


明良は急に自分が頑なになっていることに気付いていた。…だが、やはりこうする方がいいと思いなおした。明良は何か堪え切れずに立ち上がった。


「…嫌です!」


圭一も立ち上がって言った。だが明良は首を振り、圭一に背中を向けた。


「これは命令だ…。川野に戻りなさい。」


明良が初めて「命令」という言葉を使った。圭一はしばらく立ちすくんでいたが、やがて部屋を出ていくのを明良は背中で感じた。

明良はふーーっと息をついて、涙を堪えた。


……


明良は橋のたもとに立って、川を眺めていた。

やはりここに来てしまった。


(…命令なんて…よく言ったものだ…)


明良は苦笑した。自分の身勝手さに自分で呆れている。

だが、やはり「川野」を名乗らせた方がいいだろうと明良は思い直した。

その時、後ろの方で車が止まったのを感じた。ふと振り返ると、車から圭一が出てくるのが見えた。運転席からは相澤が出てきている。


「!!」


明良は驚いて、圭一がこちらに向かって走ってくるのを見た。


「父さん!」

(まだそう呼ぶのか。)


明良は背を向けて川を見た。


「父さん…」

「そう呼ぶなと言ったはずだ。」


明良は背を向けたまま言った。


「嫌です!」

「逆らったらクビにするぞ。」

「じゃぁ、クビにして!」

「!!」


明良は圭一に振り返った。圭一は神妙な顔をして明良を見返している。


「…確かに血のつながりは大事だけど…。」


圭一がうつむきながら言った。


「…僕は…本当に僕の事を思ってくれている人の傍にいたいんです。」

「?…どういう意味だ?」


明良がそう言うと、ゆっくり近寄ってきた相澤が、手に持った封筒を明良に見えるようにかざして言った。


「川野氏から、今日届いた申立書だ。」

「!?申立書!?」


明良は相澤から封筒を受け取って、中の書類を出した。

『ライトオペラ』の収益の一部を川野に支払うようにとの申立てだった。理由は「圭一にオペラを指導したのは自分であり、今の圭一があるのは自分のおかげだ」とある。


「!!」


「お前には悪いけどね、明良。」


相澤が言った。


「俺は最初から、あの川野さんが金目当てで圭一に会いに来たんじゃないかと思っていたんだ。」

「!!」


明良は顔を上げて、相澤を見た。


「今までほったらかしてたんだぜ。圭一に聞いてみたら、離婚した後、養育費も払っていないんだ。それに圭一が家を追い出された時、あの川野氏に連絡してもつながらなかったそうだ。それなのにいきなり会いに来るのはおかしくないか?会いに来た日に圭一の歌すら聞かずに帰ったそうだぞ。」

「!!」

「普通なら、息子の生の歌を聞きたいと思うだろう…。圭一が聞いて欲しいと言ったそうだが、川野さんは「今日は時間がない」と断ったそうなんだ。」


明良は圭一を見た。圭一はうなずいて言った。


「父さんには…どうしても言えなかったんです。ごめんなさい。」

「!」


明良は黙って首を振った。言葉がでない。圭一が言った。


「お父さんが大阪へ帰った日、僕…社長に独りで社長室に来いって言われましたよね…」


明良はうなずいた。


「社長室に行ったら、社長がいきなり僕に「財布を出せ」って言ったんです。」

「!?」


明良は相澤を見た。相澤が口を開いた。


「その時の圭一の財布は空っぽだったよ。…有り金皆、川野さんに持って行かれたんだそうだ。」

「!!」


明良は再び圭一を見た。圭一は思い出したのか涙ぐんで下を向いた。相澤が言った。


「あの日、お前は金を持たせたな。10万円だったと圭一から聞いている。そして圭一自身も生活費の残りの5万円を財布に入れて持って行っていた。そしたら、待ち合わせの東京駅で「もう帰らなくちゃならない」と川野さんが言ったそうだ。」

「……」


明良は唇を噛んで下を向いている圭一を見た。相澤が続けた。


「そして「今、金持ってるか?」と聞かれて、圭一が財布を差し出すと、その中の札を全て抜き取って「また連絡するから」と言って、帰って行ったそうなんだ。」

「!!…じゃ、圭一…あの日は…」

「そのまま家に帰って寝ていました。…父さんにはこのこと知られたくなかったから…お父さんが本当に帰る時間に合わせて、副社長室に行ったんです。」


(それで早かったのか…)と明良はやっとわかった。


「じゃ、お前今お金は…」


明良がそう言うと、相澤が「大丈夫だ。その日、俺のポケットマネーで5万円補充しといたから。」と言った。


「!…先輩…」


明良は親子という血のつながりにとらわれて、川野の本当の目的を見破ることができなかったのだ。相澤はある意味、明良と違って冷徹な性格を持っている。今回はその相澤の勘が当たった。


「…父さん…」


圭一が、再び涙を目に溢れさせながら、明良を見た。


「…僕の…父親は1人だけです…。」

「圭一…」

「北条…名乗っていいですか?」

「!…」


明良の目にも涙が溢れた。


「明良…」


相澤が圭一の後ろから、圭一の両肩に手を置いて言った。


「圭一も、最初は川野さんが純粋に、自分に会いに来てくれたと思って喜んだ。…でもそうじゃないことがわかって、かなり辛い思いをしたんだ。それでもお前には本当のことを言わずに立ち直ろうとしていた。…そしてお前にも突き放されてしまった。」

「!…」


明良は思わず目を閉じた。


「…圭一も本当の事を言わなかったのは悪い。でもそれは、お前が圭一の様子に気づいて、圭一にもっと話を聞くべきだったんじゃないか?…これからは、何でも独りで決める癖を直すよう努力してくれよ。」


明良は目を閉じたままうなずいて言った。


「本当に…すまない…」


明良は目を開いて、圭一を見た。


「お前の気持ちにも気付かずに…すまなかった…圭一…」

「…父さん…」

「…逆に…私の方からお願いしなければならない…」


明良はそう一旦言葉を切って言った。


「…私が父親でもいいか?」


圭一が声を震わせながら「…もちろん…」と言い、明良の体に抱きついてきた。明良は圭一を抱きしめた。やっと圭一が本当の息子になったような気持ちになっていた。

明良達が抱き合う姿を見て、相澤がほっと息をついた。

すると圭一が、突然明良の体を突き放すように離れた。


「圭一?」


明良が不思議そうに圭一を見ると、圭一はさっと涙を払った。


「北条圭一…歌います!」


そう言うと、声を張って歌いだした。


歌ったのは「オー・ソレ・ミオ」だった。

だが、イタリア語なので「イルソレミオ」と歌っている。

日本語で「私の太陽」という意味である。


明良は涙を払いながら、アカペラで歌う圭一を見ている。相澤も驚いた表情で見ていた。


歌い終わった時、圭一は息を弾ませて天を仰いだ。

明良が拍手をした。圭一が「すっきりした」と言って、明良に微笑んだ。


「!!!これだよ!」


相澤が突然思いついたように声を上げた。


「?」


明良も息を弾ませている圭一も、相澤の顔を見た。


「アカペラだ…。口ぱくじゃないことを証明するんだ。ゲリラライブをするんだよ!」

「!!」


明良と圭一は、目を見張って顔を見合わせた。



……


明良と圭一は、大型ショッピングセンターの中にいた。

その中に、吹き抜け様式のステージがあるという。日曜日になると、必ずイベントが行われるのだそうだ。

吹き抜けは、いい音響効果をもたらす。

ショッピングセンターには、内緒で許可を取っている。だがプロダクションの名前で許可を取っているので、誰がイベントをするのかは、ショッピングセンター側も知らない。


ショッピングセンターは日曜日のためか、家族連れやカップルが多く賑わっていた。

その人ごみの先に、ステージが見えた。キーボードだけがぽつんと1つだけ置いてある。そのキーボードの準備を相澤プロダクションの男性スタッフが1人でしていた。そして演奏もそのスタッフがしてくれることになっている。


ステージの周りには、何のイベントかわからずに、人が集まってきていた。いつもならイベント名を書いた看板をあげるのに今回はない。それがまた興味を集めたようだ。


圭一は明良からミネラルウォーターの入ったペットボトルをを受け取ると一口飲んだ。そして明良に返す。今日は雄一は留守番だ。圭一だけでもどうなるかわからないのに、雄一までこの場にいたらパニックになるかもしれないからだ。

明良は「がんばれ」と圭一に言った。圭一はうなずいてステージに向かって歩き出した。

人が多いので、今のところ誰も圭一に気付いていない。

が、圭一が人ごみを「すいません」と言いながら避けて歩くうちに、ざわめきが大きくなってきた。


圭一がステージに上がり振り返ると、人ごみが一瞬大きく揺れた。

1人の少女が気付いたように「もしかして…北条圭一…」と言った。それを聞いた圭一は、少女にウィンクして「しっ」と人差し指を口に当てた。

少女は顔を赤くして口を抑えた。


スタッフが最初の音を鳴らしてくれた。

圭一はそれを聞いて、ひとつ息を吐いてから、息を吸い込み歌いだした。


「オー・ソレ・ミオ」のサビの部分である。ただイタリア語なので「イルソレミオ」と歌っている。


大人なら、だれもが耳にした曲である。

完全なアカペラで、マイクもない。

それでも、圭一の深い声に皆呑まれているようだ。


歌い上げて、圭一は「ふーっ」と息をついた。どよめきが起こっている。拍手をしていいものか悩んでいるようだ。スタッフが圭一にマイクを渡した。圭一は息を必死に整えながら言った。


「皆さま初めまして。『ライトオペラ』の北条圭一です。今日はいきなり大声を出してしまってすいませんでした。」


圭一が頭を下げると、笑いと拍手が起こった。


「よく「口ぱく」だと言われるので、そうじゃないことを証明したくて、はりきってしまったんです。許して下さい。」


その圭一の言葉に、再び笑いと拍手が起こっている。


…その後、圭一は低いスタンドマイクを使って「アベマリア」と「モルダウの流れ」を歌った。


ゲリラライブは大成功をおさめ、終わった。


……


「おー…出た出た…圭一のライブ」


翌朝、社長室で、明良と相澤がテレビを見ていた。


「いつの間にカメラが来てたんですかね。」


明良がコーヒーを飲みながら言った。


「これ最後のモルダウの時だから、よっぽど慌てて来たんだろうな。」


相澤が答えた。


「これで、口ぱくだという疑惑は減るだろうな。…好評だったから、またどっかでやってもいいし。」

「先輩、まだ圭一のスケジュールを増やすつもりですか?」

「あ…そうだったな…。」


相澤は少し残念そうである。


「ああ、そうだ…先輩…川野さんの申立書はどうするんですか?」

「もう弁護士に頼んで、反論してもらってるよ。」

「!…そうなんですか。」

「さんざん圭一をほったらかしていたことも、この間の話も入れてもらったから、たぶん認められないよ。弁護士によると、裁判にもならないだろうということだ。」

「…今回は完全に先輩の勝ちです。…参りました。」


明良がそう言うと、相澤は、


「わかればよろしい!」


と、胸を張った。明良は笑った。


(終)

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