靴下の集会
サラリーマンの佐藤さんには、長年の悩みが
ありました。それは、洗濯をするたびに片方
の靴下だけが消えてしまうことです。
今日もまた、お気に入りの紺色の靴下が片方
だけ見当たりません。
「またか。洗濯機の裏にでも落ちたのかな」
膝をついて洗濯機の隙間を覗き込んだその時、
佐藤さんは見てしまいました。
洗濯機のさらに奥、壁とのわずかな隙間に、
小さな小さな木の扉があるのを。
恐る恐るその扉を開けてみると、そこには
驚きの光景が広がっていました。
そこは小さな居酒屋のような空間で、消えた
はずの佐藤さんの靴下たちが、椅子に座って
くつろいでいたのです。
「いやあ、昨日の外回りはキツかったねえ」
「本当だよ、雨の中あんなに歩かされるとは
思わなかったよ」
なんと、靴下たちがビールにそっくりな泡立
つ水滴を飲みながら、一日の労働の愚痴をこ
ぼし合っているではありませんか。しかも、
よく見ると彼らはみんな、佐藤さんが失くし
たと思っていた相方たちです。
驚愕する佐藤さんと目が合った瞬間、一番古
株のグレーの靴下が、つま先をくいっと上げ
て挨拶しました。
「あ、旦那。お疲れ様です。いやね、たまに
は相方と離れて、独りでゆっくり飲みたい夜
もあるんですよ。私たちは常に二人一組で拘
束されてますからね」
他の靴下たちも、そうだそうだ、ワークライ
フバランスというやつですよと頷いています。
佐藤さんは呆気にとられましたが、あまりに
彼らがリラックスしているので、怒る気も失
せてしまいました。
「そうか。じゃあ、明日の朝には戻ってきて
くれるのかい?」
「もちろんです。ただ、あの毛玉だらけの赤
い靴下だけは、隣の家のストッキングさんに
恋しちゃったみたいで、もう数日帰らないか
もしれません」
翌朝、洗濯機の前にあのアクアブルーの紺色
の靴下が、何食わぬ顔でポツンと落ちていま
した。
それ以来、佐藤さんは靴下が片方なくなって
も、ああ、あいつも今頃どこかで一杯やって
るんだなと、少しだけ優しい気持ちで新しい
一足をおろすようになったそうです。




