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第1話 「京の夜に、異世界の剣が走る」

夜の京都は、昼間とはまるで別の世界だった。

 灯籠の淡い灯りが通りを照らし、人影は長く伸びる。

 遠くの方で、何かが弾けるような音がした。


 リュシアン・ヴァイスは、瓦屋根の上に腰を下ろして、ぼんやりと空を見ていた。


 「……あ〜……本当に来ちゃったか、異世界」


 昼間、洛外で男たちに囲まれた。

 その後も山道をしばらく進んでいたら、

 見たことのない建物、見たことのない人々、見たことのない文字。


 どう見ても、“ここ”はアルヴェリアではない。


 「魔素はまったく感じない。

 だが、空気の奥底には、微弱   な“何か”が流れている。

んで、刀。

  あと、あの時代劇みたいな服。

  ……いや、時代劇って何だっけ。俺の世界にテレビとか無いけど」


 半分寝ぼけたように呟きながら、リュシアンは自分の腕をさする。


 敵意はない。

 ただ、静かに、夜の空気を感じているだけだ。


 ――そのとき。


 「動くな!」


 下から、鋭い声が響いた。


 見下ろすと、淡い灯りの中に三人の男。

 着流し、羽織、腰の刀。

 何より――胸元に光る“誠”の文字。


 「……へぇ。誠、って……なんかカッコいいな」


 「……って何で俺文字読めるの?」


 「まっ細かいことは後回しっと。」


 「屋根の上の不審者! 名を名乗れ!」


 「いや、名乗ったところで分かんないと思うけどね?」


 とりあえず屋根から降りる。

 ギシ、と木が鳴り、三人の視線が一斉に向く。


 「お前、どこの浪人だ? その白髪……見ねぇ顔だが」


 「ん〜……“通りすがりの異世界剣聖”……とか?」


 「は?」


 新選組隊士は一瞬固まった。


 その隙に、リュシアンはそっと周囲の気配を探った。


 ――微弱な魔素?……に似たやつ。


 ――しかも、人の気配とは違う、不自然な“濁り”。


 (……魔王の残滓?)


 リュシアンの表情が少しだけ鋭くなる。


 「おい、何だ急に構え――」


 次の瞬間。


 通りの奥から、濁った叫び声が響いた。


 「ア……ァァ……ァ……ッ!!」


 人間の声とは思えない。

 苦しみ、怒り、恐怖――それらが混ざった歪んだ咆哮。


 新選組隊士が震える。


 「な、なんだあれは……!?

  妖怪……か……?」


 闇の奥から、ぼろぼろの着物をまとった男がよろめき出てきた。

 その目は黒い靄に覆われ、皮膚には亀裂のような紋章。


 リュシアンが知っている。


 ――あれは確かに魔素に侵食された“傀儡”。


 「おい、お前は下がれ! 俺たち新選組が――」


 その言葉を最後まで聞く前に、

 傀儡が叫び声を上げて飛びかかってきた。


 獣のような動き。

 剣を振る軌道も重力を無視している。


 新選組隊士は震えた。


 「く、来るな!!」


 しかし――斬れない。

 恐怖で体が固まってしまっている。


 リュシアンは軽くため息をつき、前へ出た。


 「はいはい。危ないよ、君たち」


 刹那。


 白い閃光が夜空を裂いた。


 まるで瞬きするほどの時間。

 誰もリュシアンの動きを視認できなかった。


 風だけが残り、

 傀儡は地面にゆっくりと倒れ込み、静かになった。


 「な……」


 「今……何が……?」


 新選組隊士の一人が声を震わせる。


 リュシアンは刀を軽く払って鞘に収めた。


 「うん、やっぱり……魔王の“匂い”がするね。

  これは面倒だよ」


 「ま、まおう……?」


 隊士たちは恐怖と混乱で動けない。


 そのとき――


 カラン、と軽い足音がした。


 「おやおや……。

  また妙な奴が京都に迷い込んだみたいだねぇ?」


 声は柔らかく、どこか楽しげ。


一人の隊士が声を上げる。


 「お、沖田さん…」


 振り向いた先にいたのは――


 “綺麗な顔をした誠の羽織を着た隊士。


 彼?彼女?は微笑んだ。


 「僕の隊士を助けてくれたのは、君かい?」


 リュシアンはわずかに眉を動かし、

 そして、言った。


 「……ほう。

  君――かなり強いね?」


 その一言に、隊士の笑みが深くなる。


 「やっぱり君にも分かるんだ?

  “最強ってやつ?」


 リュシアンは刀の柄を軽く叩きながら、ため息をつく。


 「マジか……

  どの世界にもいるもんだね……規格外ってヤツは。」


 新選組隊士たちは状況を理解できず、ただ固まるだけだった。


 京都の夜。


 強者二人が――

 静かに、確かに出会った。


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