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復仇

 どうやって狩ろうか?あの幼稚なところがありながらも恐ろしく腕の立つ帝国軍狙撃手。

 報復の激情に流され軽率な行動をとらぬよう自身を戒めながら、ザイカは考え続けていた。

 どうすればこの街に潜むあの野郎を炙り出せるか?あの糞野郎の見栄っ張りな性格は利用できる。奴の自尊心を傷付けることができれば、奴は主人公さながらに復仇を叫んで現れるに違いない。

 ではその手段は?何か、やつを特定の地点に、俺の照準の先におびき出せるものはないか?

 長時間考えに考え、苦心惨憺の末に窮余と称するほかないが、なんとか一策思い付いた。脳髄から絞り出した。

 翌日、ザイカは『子供殺し』を待ち構え潜んでいた。

 先日自分が射殺した帝国軍狙撃手。その小銃に銃剣を着剣し、銃剣に狙撃手が着帽していた、柏葉を模った狙撃徽章の着いた戦闘帽を刺した。そしてそれを角部屋に設置した。意地悪く言い表せば、屈辱心を与えるために晒した。

 『来たりて取れ』

 『子供殺し』の性格を考えれば戦友の、それも同じ狙撃兵の徽章が晒し物になっているとなれば、何を差し置いても憤然と奪還に現れるに違いない。そこを撃つ。

 もちろん、やつも俺が待ち受けていることは百も承知。

 だからザイカはちょっとした罠を仕掛けた。

 角部屋を狙える場所を狙える場所、つまり『子供殺し』がザイカがいるであろうと考える場所は限られる。その最善の場所にザイカはいない。そして次善の場所にはダミーを設置した。ヘルメットと木の棒、その他有り合わせの者を組み合わせてまるでそこにザイカがいるかのように偽装した。このダミーにつながれたロープが離れた部屋に潜むザイカにつながっていて、時折ロープを通じて動かすことでさも人間かのように演出する。

 そのようにして『子供殺し』がダミーに釣られて射撃して所在を暴露させたところをザイカが撃つ。

 一日経っても『子供殺し』は姿を見せなかった。しかしとうに晒されている戦闘帽を視認しているはず。きっと今頃自分を探していて、かつどうやって自分を殺すか虎視眈々と機会を窺いつつ計画を練り上げているのだろう。

 ザイカが待ち伏せ続け翌日。日の傾き始めた頃、ザイカは撃たれた。

 予想外の方向からの一撃。弾丸は小銃のフロントサイト付近に当たり跳ね、ヘルメットに当たった。

 ザイカは着装しているヘルメットが不意に揺れないようにチンストラップ(あご紐)を締めていたから着弾の衝撃がダイレクトに脳に伝わり、揺さぶった。

 着弾の衝撃に横に倒れ、グラグラと揺れる視界の中、ザイカは驚愕し戦慄した。あいつは、自分の理解していた以上に老練で狡猾、狡智な恐るべき敵だった。

 朦朧とする意識の中、それでもザイカなお闘志を燃やしていた。

 射撃のおかげであいつのおおよその位置はわかった。発砲音ばかりは街のいたるところで鳴っているからわからないが、フロントサイトだけに当たり、ヘルメットの右側頭部に当たった。右下方からの射撃。

 あいつは俺を殺したと思っているだろう。実際、銃弾は当たったのだ。今は念のため次弾の射撃準備を済ませ、本当に殺したか警戒しつつ、しかしどこか油断しているだろう。

 奴の性分を考えれば英雄気分になっていて、今すぐにでも凱歌を上げたくてしょうがなくなっているに違いない。

丁度ザイカは被弾の衝撃で奴の視界から外れるように瓦礫の陰に転がっていた。這って部屋を出ると、囮おとりを設置した部屋に向かった。今、あいつの意識は先に自分が撃たれた部屋に集中しているはず。

 慎重に慎重に、丁寧に囮を解体し成り代わり小銃を構えた。右やや下方。いた。六百メートル越えの距離。

 集合住宅の前庭部分の茂みの中。相当に輪郭がボヤけているが、確かに人がいる。ザイカだけを狙うのに絶好の場所。そしてその他からの攻撃に無防備になり、隠れ潜むのさえ危うい場所。いつからそこにいたのかはわからないが、恐るべき胆力だ。

 ザイカが引き金を引く直前、『子供殺し』がザイカの位置に気付いた。驚倒。けれど『子供殺し』が銃口を向けよりザイカが撃つ方が一瞬だが早かった。

 着弾。倒れた『子供殺し』。けれど殺し切れていない。先の被弾時に衝撃で小銃にどこか支障を来たしたか、あるいは距離が距離だから銃の精度の問題かもしれない。もしくは自分の衝撃を受けた脳のせい、もしくは全て。

 いずれにせよ、よろめいてその場から逃げる『子供殺し』に追撃の射弾を浴びせるも命中しなかった。

 やはり銃の精度か、あるいはスコープの零点規制(ゼロイン)が狂っているのかも。

 どちらにせよ、『子供殺し』が逃げ込んだ建物内を狙撃するのは著しく困難。

 最後の決を与えるため、ザイカは拳銃を装備して『子供殺し』の潜んでいた茂みへ向かった。血痕が集合住宅のほうへと縷々続いている。

 待ち伏せを警戒しつつ血痕をたどって『子供殺し』のいる一室へと向かう。近付くにつれ、荒い息遣いが聞こえてくる。

 部屋に突入すると息も絶え絶えの帝国兵狙撃手が壁に背中を寄りかからせ座っていた。お目にかかるのは初めてだが『子供殺し』で間違いない。

 灰緑色の戦闘帽の側面の、狙撃手であることを表す狙撃徽章。右腕上腕部に丁寧に縫いつけられた、優れた狙撃手であることを示す柏葉と鷲が金色の輪で囲まれた刺繍。右肩に取り付けられた射撃優秀章の銀糸のランヤード。首元と胸元に輝く武勲の証の鉄十字章。他多数の勲章。それらは、眼前の男がおよそ狙撃手を超え、兵士として最高峰の存在であることを勇壮に示していた。

 そして戦場にいながらそれら全てを佩用し、示威、見得を切らずにはいられない自己顕示欲。

 偽装のためのフェイスベールを着用し、加えて顔面には偽装のための顔料であるドーランを塗っている。耳の穴と裏側、首、髪の生え際にまで丁寧に塗っているのは同業者として感嘆を覚える。まず間違いなくまぶたの裏にも塗っているのだろう。

 「なんで俺を知っている?」

 通じないだろうが聞かずにはいられなかった。そもそも、俺はなぜこいつに狙われたのかの理由を知らない。素顔は窺いしれないが、どこかで顔を合わせたことがあるのだろうか?

 驚くことに眼前の狙撃手は連邦後を多少解しているようだった。もう何度驚かされたか覚えてない。

 狙撃手は指で三を示し、片言で言う。

 「俺、少女を撃った。お前、反撃した。弾、かすめた」

 少女、というとウラディノフが撃たれた時のことか。確かにあの時自分は闇雲に射撃した。その内の一発がどうやらこの狙撃手の極至近距離をかすめていたらしい。

 なるほど。しかしあの距離で顔を見分けられるものだろうか?

 そこまで考えて、稲妻が大木を打ち倒すかのような衝撃がザイカに走った。

 あの時、空薬莢は三つ立てて並べられてあった。ザイカが建物に接近した時点ではまだ少女も士官も生きていたはずだ。少なくとも士官は受傷の程度からして、事切れていたはずがない。士官が死亡したのはおそらくザイカが建物内部に進入しこの狙撃手の潜んでいた部屋に近接していた頃と思う。

 三つ立ててあった空薬莢が奪った命の数なのだから、こいつは二人が死ぬまで見ていた。つまり、こいつはあの時自分の近くに、そう、自分の顔をはっきりと見えるほど近くにいた。

 「なるほどね」

 『子供殺し』が懐に手を突っ込み、卵形の手榴弾を取り出した。ピンに指をかけている。

 自殺することで、だからお前は復讐を果たせなかったとでも言いたいのだろう。

 それはゆるさない。結果的に自分が殺した、ではダメなのだ。報復のため、母の涙に報いるためにも自分が殺さなければならない。

 「Нет(ダメだ)」

 『子供殺し』がピンを抜くより先にザイカは撃った。額に命中し『子供殺し』は絶命した。死してなお横柄に座っているように見えるのは、これはもうさすがであった。

 ザイカは何よりウラディノフにそして少女と中尉のために三発の弔銃を捧げた。


最後までお読みいただきありがとうございました。

До свидания!

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