『after:取材』④
取材は既に、二、三十分ほど前に終わったのだが、何故か私はまだこの家から出ずにいる。
というのも、彼女──マリア・サーキュラス氏の惚気話が、それはもうべらぼうに長続きしてしまった所為だ。
しかし、記事にはなりそうな話でもある。私はしっかりと彼女の話を耳に入れ、その内容をメモに取った。
……ふむ。二人の初デートの場所は遊覧船で、プロポーズの言葉は……うん? これ、記事になるのか?
まあいい。私も既に、彼らの輪の回転に巻き込まれてしまっている。
聞いていて、そこまでむかむかとしてくることもない。むしろどこか、晴れ晴れしい気分だ。
「……それで、あの人はその時──」
「ああすみません。そろそろ時間が……」
そう、時間が来たのだ。決して、私が若い二人の仲睦まじい様子を知って、むかむかしてきたわけではない。
「あれ? もうそんな時間ですか? 残念……まだあの人についてお話したいことが、一、二、三……多分掻い摘んでも、二十四個くらいあったのですが……」
「そ、それはぜひまた次の機会にお願いします。しかしなるほど。『あの戦争』の裏では……数々の戦いが繰り広げられていたのですね……」
「…………」
私が身支度を済ませようとしていると、彼女は少しだけ目を伏せた。
何故だろう? 何かまた、悲しい出来事を思い出したのか?
彼女の幼少時代は確かに悲劇的だったらしいが、今はとても幸せそうに見えている。
それは、『あの戦争』を終えたからではないのか?
「…………『あの戦争』……ですか」
何だ。妙な気分だ。彼女は今……何を考えている?
「ど、どうしました?」
「……いえ。何でもありません。ただ……私はてっきり、『あの戦い』のことを取材されるのかと思っていたもので……」
「え?」
「お聞きくださってありがとうございました。関係ない話も結構しちゃいましたけど……彼との話を聞いてくれたのは嬉しかったです」
「ま、待って下さい。マリアさん。『あの戦い』とは……まさか、『帝国本土最終戦』のことではないのですか?」
そう言うと、彼女は穏やかに微笑んだ。
そして、恐らく私が願っている言葉を吐いてくれる。少しだけ、懐かしむような、悲しむような表情をしながら──
「お話ししましょうか? あの『語られぬ戦い』の話を──」
そして私は知ることになった。
今の世界に私達がいる、その理由を。




