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ENSEMBLE THREAD  作者: 田無 竜
五章【何かあればすぐ】
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『after:取材』④

 取材は既に、二、三十分ほど前に終わったのだが、何故か私はまだこの家から出ずにいる。

 というのも、彼女──マリア・サーキュラス氏の惚気話が、それはもうべらぼうに長続きしてしまった所為だ。

 しかし、記事にはなりそうな話でもある。私はしっかりと彼女の話を耳に入れ、その内容をメモに取った。

 ……ふむ。二人の初デートの場所は遊覧船で、プロポーズの言葉は……うん? これ、記事になるのか?

 まあいい。私も既に、彼らの輪の回転に巻き込まれてしまっている。

 聞いていて、そこまでむかむかとしてくることもない。むしろどこか、晴れ晴れしい気分だ。


「……それで、あの人はその時──」

「ああすみません。そろそろ時間が……」


 そう、時間が来たのだ。決して、私が若い二人の仲睦まじい様子を知って、むかむかしてきたわけではない。


「あれ? もうそんな時間ですか? 残念……まだあの人についてお話したいことが、一、二、三……多分掻い摘んでも、二十四個くらいあったのですが……」

「そ、それはぜひまた次の機会にお願いします。しかしなるほど。『あの戦争』の裏では……数々の戦いが繰り広げられていたのですね……」

「…………」


 私が身支度を済ませようとしていると、彼女は少しだけ目を伏せた。

 何故だろう? 何かまた、悲しい出来事を思い出したのか?

 彼女の幼少時代は確かに悲劇的だったらしいが、今はとても幸せそうに見えている。

 それは、『あの戦争』を終えたからではないのか?


「…………『あの戦争』……ですか」


 何だ。妙な気分だ。彼女は今……何を考えている?


「ど、どうしました?」

「……いえ。何でもありません。ただ……私はてっきり、『あの戦い』のことを取材されるのかと思っていたもので……」

「え?」

「お聞きくださってありがとうございました。関係ない話も結構しちゃいましたけど……彼との話を聞いてくれたのは嬉しかったです」

「ま、待って下さい。マリアさん。『あの戦い』とは……まさか、『()()()()()()()』のことではないのですか?」


 そう言うと、彼女は穏やかに微笑んだ。

 そして、恐らく私が願っている言葉を吐いてくれる。少しだけ、懐かしむような、悲しむような表情をしながら──



「お話ししましょうか? あの『語られぬ戦い』の話を──」



 そして私は知ることになった。

 ()()()()()()()()()()、その理由を。

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