『機密重要被検体奪還作戦』⑥
そして、カインとトルクはスカム、ブローケンと相対していた。
トルクは自身の左腕を変形させて巨大な小銃を作り出し、それを撃って攻撃する。
「効くかそんなもんッ!」
ブローケンはドリルで弾丸を受ける。が、しかし、弾丸はドリルの回転に逆らわず、滑るようにして直進し、ブローケンに当たった。
「うぐッ!」
「『モーメント』。それが私の固有能力。奇しくも私の能力は……カインの能力と似通っている……!」
一撃食らっただけで、スカムはその能力を看破してみせる。
「回転エネルギーの操作……かッ! 空中を進む弾丸の回転速度を、俺のドリルの回転に合わせたことで滑らせたッ! そうだろうがクルクル野郎どもッ!」
「トルク! なら俺のスピニング・ギアと合わせて……」
「やってみろ」
「ああ!」
今度は右腕から円盤を出現させ、それをブローケンに投げつける。
「ノイドのギアを使えるんだろ!? 知ってんだよンなこたァ!」
先の弾丸のことがあったからか、スカムは防ぐのではなく、破壊しようとした。
ブローケンのドリルの先で、円盤に攻撃を加えようとしたその時──
ガッシャァァン
「「……!?」」
大きな音を立て、ドリルが破壊されてしまった。
円盤によって与えられた回転があまりにも激しく、ドリル自体が耐えられなくなったのだ。
「よしッ!」
「カインのスピニング・ギアは、回転する円盤に触れたものに、円盤の回転を与えるというもの。当然私のモーメントで円盤に与えられた回転エネルギーが一気に高まれば、円盤に当たった巨大な物体が、その回転速度に耐えられるはずもない」
一方で、カインの出す円盤は特殊な物。どれだけの回転が加わろうと、自壊することはない。
平たく言えばこの円盤は、どんなものをも破壊する、ブローケンのドリル以上の武器なのだ。
「舐めんな鉄屑風情がァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
壊れた傍から、ブローケンは両腕に新たなドリルを生やしてみせる。
「要は当たらなきゃいいんだろうがッ! えェ!? 違うのか……よォッ!」
スピードを上げ、トルクの背後に回って攻撃する。
確かにまだ、性能限界に到達しているブローケンの方が全体の能力は高い。
「ぐッ……!」
「かッ……!」
「カイン! トルクさん!」
カインは膝の上で名前を呼ぶマリアに笑みを向け、彼女を安心させる。
「大丈夫。まだまだこれから……!」
「……カイン……」
カインの覚悟と決意を目にし、マリアは姿勢を変える。
カインの膝に座り、彼の手の上から、彼と同じ様に手すりに摑まる、
「マリア?」
「……私も一緒に戦う。私の力を……二人に貸すよ」
するとトルクの体から──透き通る空のような色の光が、溢れ出す。
「!? おいおいおいおいマリアッ!? まだそれは試してなかった奴じゃねェかよオイッ! 何で俺じゃなくて他の奴にやってんだこのガキィィッ!」
マリアの能力は、ただ自分が鉄乗りとして活躍するだけのものではなかった。
だからこそどうしてもスカムは彼女を取り戻し、その実験を超えて最高の力を手に入れようとしていたのだ。
彼女のもう一つの能力は──
「……『超同期』」
「ふざけんなクソガキがァァァァァァァァァ! しぃかも成功させてんじゃあねェかァァァァァ!」
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
そしてトルクの身体能力は、ブローケンを置き去りにし始める。
遠くから様子を見ていたユーリは、カインとトルクが『超同期』に至ったことを理解する。
(まさか……まさか、アレがマリアの力……!? 他者を強制的に『超同期』させるなんて……こんなことが出来るの……!?)
ユーリが知らないということがどれだけの驚異的事実であるかを表しているのか。それを知る者はここにはいない。
マリアという造られた人間は、完全にこの世の理を超えた領域に足を踏み入れていた。
「ぐあああああああ!」
圧倒的スピードで高威力の円盤による攻撃を受けるブローケンは、最早息をする余裕すらない。
それがあるのは、中にいるスカムのみ。
「……クソッ。クソッ! クソッ! クソッ! クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソがァァァァァ! この横道もんがッ! ゼロ様にすら見せてないとっておきだったのにッ! どうしてそんな鉄屑なんかに使っちゃうのォォォォ!? お父さん悲しいッ! 親を泣かしてんじゃねェぞ親不孝もんがァァァァ!」
「お前を倒してッ! 他のみんなも助けてッ! それで終わりだッ! 回って吹っ飛べッ!」
「家族の問題に口出すなノイド風情がァァァァァァァ!」
「お前のどこが家族なんだッ!」
「クソがクソがクソがクソがクソがクソがァァァァァァァァ!」
*
カイン達の戦闘が終局に向かい始めると、幽葉たちは不安を覚え始める。
ここで自分たちにもしものことがあれば、帝国との戦争において重要な戦力の消費になってしまう。
(あの人押されてる……。もしかして、このままだと……)
幽葉はアカネを相手にしながら、スカムが敗北した場合のことを考え始めていた。
「この……! 影の中に逃げられたら炎が当たらない……!」
今のアカネの炎は相当な威力を持っている。ただ、当てられなければどうにもならない。
基本的に不意打ち戦法しか使わないクロロは、身体能力に圧倒的な差があるエヴリンと同様に、彼女が苦手とする相手だった。
「……少しだけ光って……。まさか、この人……」
アカネに脅威に思われている一方で、幽葉もまた彼女のことを脅威に思い始めていた。
彼女の炎は先程から威力が上がり続けている。このまま戦いを続けていたら、形勢は恐らく──
*
「マツバ~。まだ戦える~?」
「ボタン……。……ああ」
マツバは割れた眼鏡を捨てて立ち上がる。それでもカインたちの光は見えているので、諦める気など毛頭ない。
「「「行くぞマツバ! ボタン!」」」
双子ノイドのもとに、先程までクロロと戦っていた猛獣三兄弟が加勢する。
数は増えたが、それでも有利なのはデンボクたちの方だ。しかし、デンボクは攻めあぐねていた。
「デンボクッ! 今が攻め時だぜ!」
「……待て。スカム・ロウライフがやられたら……小生たちは帰還するべきだ」
「何で!?」
「ここに小生たちが来たのは、完全にスカム・ロウライフの独断。奴が死ねばそれを証明できる者はいない。ならば……小生たちがいた事実に気付かれんよう、何も持って帰るべきではない。違うか?」
「……済まん。もう一回言ってくれ。分からん」
「マスクド・マッスラー…………小生の方が年下だったよな?」
その時、戦艦の方で大きな音が起こる。
「「!?」」
デンボクと幽葉は思わずそちらに目を向けるが、何があったのかは読むことが出来ない。
何故なら、今向こうでは────『奇跡』が起きていたからだ。
*
適正は確かにあった。彼ほど感情的な人間もそうはいない。
初めて『超同期』を使ったばかりだというのに『そこ』に至ったのは、ひとえに彼の才によるもの──
「ま、待てスカム・ロウライフッ!」
そして、鉄の意志を完全に押さえつけて『そう』なれたのも、彼の感情の激しさが成せる『奇跡』。
「─────────『完全同化』ッ!」
「「「!?」」」
カインたち三人は、突然機械の体から肉体に変化するブローケンを目にし、愕然とした。
光背が現れ、毒々しい光は更にその不気味さを増す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
最早、完全にブローケンに意識は無い。
…………だが。
「……これで、『この鉄屑』はお終いだ」
スカム・ロウライフの方は、まだ意識があった。
「な……」
「……俺はね。度重なる改造を経てようやく、『完全同化』しても死なない、意識を失わないようになれる体を手に入れたんだ。まあ、コイツは死ぬけど。でもまあ仕方ないよね? きしゃんらが悪いんだろうがよォォォォォォォォ!」
「貴様ァ……ッ!」
「コイツ……ッ!」
意識があるということは、明確に目の前のトルクを敵として排除しにかかれるということ。
ブローケンが自滅する前に、圧倒的すぎる限界を超えた力によって、トルクを倒すことが出来る。
「グァハハハハ! でも『超同期』したのすら初めてなのに、『完全同化』出来るなんて俺は天才鉄乗りだなァ! 奇跡的だろ!? なァ鉄屑どもォォォ!」
「「「……ッ!」」」




